上 下
24 / 29

第23話 グツグツの煮込みました

しおりを挟む
「いままでどこに雲隠れしてたんですか?」
「雲隠れしたつもりはないのですが・・・親の後を継いで居酒屋をやってます。・・・それにしても変わりませんね。髪はロングのままですね。」
「ええ、彼女がこの髪を好いてますから手入れ程度で長さは変わらずですね。」
「そうですか。仲睦まじい事ですね。」

右麟が料理を運びながら軽く話す。右麟は私が麒麟組から少し離れる前に幹部に上がった人で、その前は私の部下のような存在だった。
今は互いに幹部なので気軽に話せる。

「なぁ尾麟、うちの台所使って良いから何か一品作れよ。・・・まったく、うちの秘書は有能すぎてお前の店に行くことが出来なかったんだ。」
「そうですか。ですが私の料理は一般家庭用の物しか作れませんが・・・」
「構わん構わん。尾麟が作る物なら間違いないだろうからな。」
「・・・期待しないで下さいね。では食材はあるのですか?」
「あぁ、その為に適当に買い出しを頼んだから沢山入ってるぞ。」
「・・・適当に、ですか」

あっ尻尾が左右に揺れだした・・・なんだか嫌な予感がしたが、とりあえず台所へ行くことにする。すると小虎くんがソファーから立ち上がり「僕も手伝います」と言ってついてきた。・・・居づらかったんだろうね。




付き人に案内された場所は、どこもかしこも綺麗で使われてないようだった。一応確認したら「私がお茶を沸かす位です」と予想通りの返事がきた。
そして冷蔵庫を開けると食材がぎっしり詰まっていた。奥に何があるかわからない程ぎゅうぎゅうに詰められてたので、小虎くんと付き人に手伝ってもらい冷蔵庫から食材を全て出した。

そして調味料を確認すると消費期限は切れてないが新品ばかり並べられてた。

「・・・誰が買ったんですか?あっ、いや聞かなくてもわかりました・・・はぁ、なんと勿体ない事を・・・」

耳と尻尾が項垂れる。先ほど料理を持ってきた2人が買ったのだろうと結論付けた。付き人の顔を見ると目を伏せて項垂れてるように見えた。まぁ、中頭郡さんも少し悪いよね。「適当に買ってこい」なんて言われれば何を買っていいかわからず、結果、気になる物を爆買いしたという事になったのだろう・・・

「小虎くん、今日は何が食べたいですか?ここにある食材であれば何でも作れますよ。あっでも手早く作れる物にしてください。」
「なっ何でも良いのですか?」
「一応料理は得意ですので難しい物ではなければ作れますよ。」
「でっではーーー」








グツグツグツ・・・






只今煮込み中。小虎くんがオーダーしたのは『肉じゃが』。簡単で尚且つ大量に作れるので有難いオーダーだった。

「本当はもっと煮込むと美味しくなるのですが今日は仕方がないですね。小虎くん、味見してみますか?」
「是非!」

小皿にじゃがいも一欠片爪楊枝に刺して汁を入れ、それを小虎くんに手渡す。そして口にした瞬間パァっと顔が明るくなった。

「美味しいです!ほりんさんの料理は凄いですね!」
「そんな・・・たかが肉じゃがですよ。でも有難うございます。」
「お世辞ではないです。・・・失礼な事を言いますが、母より美味しいです。」

それを聞いて苦笑いする。元組長の奥さんなんだから・・・そんな事言ったら殺されそう・・・
ふと視線を感じ後ろを振り向くと付き人が味見したそうにチラチラ見てきていた。それを見て口許が緩んでしまい尻尾がまた揺れてしまった。
小皿に同じ物を入れ差し出すと恐縮しながら味見してくれた。もちろん太鼓判もらいました。

「では小虎くん、長の器に盛り付けるので持って行ってください。」
「えっ!?僕がですか?」
「そうです。頼めますか?」
「・・・わかりました。ご招待していただきましたので、これくらいはやらねばなりませんね。」
「長は温厚な方ですから大丈夫ですよ。」

手が離せなかったので尻尾を動かし小虎くんの肩をトントンと叩いたら顔が緩み尻尾に軽く抱き付いてきた。そして覚悟を決めた様に力強く頷いた。

案の定、長は小虎くんを偉い偉いと誉めていた。それから緊張が解れたのか他愛ない話に入ってきて夕食は盛り上がった。
もちろん小虎くんはずっと私に引っ付いたままでした。

はじめ誰もが肉じゃがを知らず「何だこれ?」と疑心暗鬼していたが、一口食べれば皆が同じ反応をしてお代わりをしてくれた。うん、作った甲斐があった。とくに長が鍋の3分の1食べていて気に入ってくれたみたいだ。
・・・てか、普段何を食べているのだろうか?肉じゃがを知らないとか・・・私の店に来たらきっと初めて尽くしなんじゃないだろうか。






夜10時になり小虎くんが目を擦り始めたのでお開きにする。

「なぁ小虎、今日泊まってくか?」
「えっ?」

突然の申し出に小虎くんは固まり、その他の人たちは長を凝視する。

「なぁ、尾麟も泊まーーー」
「結構です。さぁ、武寅さんが心配してるはずです。帰りましょう。」
「えっあっはい。」

長が言いたい事を遮り小虎くんの手を握って玄関の方まで行く。
するとすかさず長が私の腕を掴もうとした。だが反射的に尻尾でペシッと叩き拒否する。それでも諦めず私を追いかけてきたが付き人に論され諦めてくれた。付き人さん有難う‼


それから小虎くんを西園寺組の屋敷へと帰し、我が家へと帰った。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...