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繰り返す。そして新たな環境。
しおりを挟む「伊集院じゃないか。…ああ、五十嵐に呼ばれたんだね。」
「五十嵐のお祝いだからね。…それに福代さんにも会えると思ってね。」
「そうか。…仕事の方は順調?」
「単調な作業だからね。分量を間違えなければ簡単だよ。」
伊集院は大学卒業後、街の薬局で働いている。薬の処方せんの受け渡しなどをしているらしい。
「先生は相変わらず綺麗だねぇ~」
「それは女性に言ってあげてくれるかな。こんな平凡顔の奴を綺麗だなんて言うやつは伊集院と五十嵐くらいだよ。」
「あはは~…そんな事を言って五十嵐が福代さんと別れて女性と結婚するなんてね~?…大丈夫?」
「ん?…別れてもう一年経ってるんだ。未練なんて全くないよ。だからこうして祝福してるんじゃないか。」
「お~意外と男らしい発言!福代さん尊敬するー!」
相変わらずのテンションだ。俺と伊集院と1つ差で伊集院は24だ。立派な大人なんだからそのテンション落ち着かせたらどうだろうか。そう指摘したら「いやぁ、俺は俺なんで。」と言われた。うん、まぁ長年染み付いた性格は直らないものだからね。他人に指摘されて直るようなもんじゃないからね。
それから二次会が始まり少し五十嵐と嫁さんと話をしてお開きになった。かなり時間が経っており終電を確認しながら時間を確かめてると不意に腕を捕まれ歩きを止める事となった。
「福代さん…」
「ああ伊集院、どうした?」
「あの、この後空いてますか?」
「ん?…いや、終電が間に合うようだから帰ろうと思ってるんだが」
「そ、そっかぁ…あ、連絡先教えてもらってもいい?大学の時は五十嵐に駄目だって言われてたから知らないんだ。」
「ああ、いいよ。伊集院とはそんな遠くに住んでるわけではないんだから、今度ご飯でも食べに行こうか。」
「!いいの?あの、今恋人とかは?」
「残念、フリーだ。」
「そっか!…わかった、近いうちに連絡するー!今日はお疲れー!」
俺がフリーで喜ぶなんて失礼な奴だな…まぁ久々に会ったのにあまり話せなかったからな。今度ご飯食べる時にでもたくさん話そうか。
だが、この展開は予想外だったぞ?何故俺は今押し倒されてるんだ?
「福代さん…再会して気持ちが抑えられなくなっちゃった。…今フリーなら俺と付き合って?」
「え?…い、いや、その前にどいっ───んっ!」
五十嵐の結婚式から数日後に伊集院から連絡をもらい互いの休みに合わせて会うことになった。そこで伊集院が浴びるほどお酒が飲みたいとの事で宅飲みになった。
料理も出来るし俺のアパートに呼んだら喜んで来てくれた。…なんだ?五十嵐が番犬なら伊集院は忠犬か?
それからテレビを見ながら夕食を食べ、大学の時の話をしながら酒とツマミを食べながら話してると…あまり強くなかったのか伊集院は早々ダウンして眠ってしまった。俺はザルのようでどんだけ飲んでもほろ酔い程度でガンガン飲める。
晩餐してる時「こんなつまんない人生~ありえなーいよー!」なんて愚痴ってたので今の生活はあまり充実はしていないらしい。
仕方なく肩に伊集院の腕を抱えベッドまで運んだ。…運んだまでは良かった。その後、押し倒されて上に覆い被さってきたのだ。あ、これヤバい感じじゃね?
「ん…福代さん…与一さん…」
「ひっ!?な、どこ触ってんのっ!?」
「与一さん…抱かせて。与一さん…好きなんです。与一さん…付き合って…」
上着の中に手を入れられ胸の飾りを弄ってきた。抵抗しようにも…非力な俺は相手の胸を押し退けてもびくともしない。…近いうちにジムにでも行こうかな?
…と、くだらない事を考えてたら呆気なく襲われました。…こいつ泥酔してても立つんだな。あ、またくだらない事を考えてしまった。
そして次の日。
「ごめん福代さん…」
「あーうん、いいよ。二度目だしね。俺、ジムにでも通おうかと思う。」
「は、ジム?」
未だに現実逃避していた俺はポロっと思った事を口に出してしまった。非力だからジム行って鍛えようかなと思ってと説明したら爆笑された。…おい、今まで謝罪してなかったか?本当に申し訳なく思ってるのかこいつは…
「与一さんはそのままでいいよ。ごめん、昨日は本当に俺が悪かったです。」
「…いいよ。じゃあ支度して帰ってくれる?」
「え!あ、あのね、まだ話したい事が…」
「俺、まだ眠いんだけど。そしてこの後汚れたシーツを洗わなきゃならないしね?」
「うっ…シーツは俺が洗う。体調悪かったら俺が看病みるから何でも言って!だから俺の話を聞いてほしい!」
「…はぁ、俺も甘いなぁ…わかったよ。じゃあ俺はもう少し眠るから、その間シーツをお願いね。台所の物とか好きにしていいから。」
「!わかった!任せといて~!」
うん、相変わらずのお調子者だな。…話って…あの話?付き合ってとか?うーん…伊集院は顔良し収入良し性格良しの優良物件な気がするんだけどなぁ…恋人いないのか?
昼過ぎまで寝て起きたら何故かお粥が用意されていた。…俺、病人じゃないんだけどな。
「与一さんの部屋、整理整頓されてて綺麗だね。やっぱ綺麗な人は身の回りも綺麗なんだね~。」
「…なにそれ?」
「はい、とりあえず食べて~。あーん…」
「……はぁ。…パクっ。うん、美味しいよ。」
「熱くない?もっと食べて。」
「…自分で食べれるよ。」
伊集院は世話したがり屋らしい。…はぁ、まぁまだ体が怠いから好きにさせようか。
それからキチンとシーツを洗い干されていたのでお礼を言った。…そしたら幻覚だろうが伊集院に耳と尻尾が見えた気がする。うん、ほんと忠犬。
それから話をした。やはり告白された。お試しでもいいからデートしたり今日みたいに家に遊びに来たい、もちろん手は出さない、同意があればあわよくば…とは言ってたが、ほんと伊集院は素直だな。
俺も今はフリーだから、お試しという事で付き合う事になった。
それから週一程度で夕食を食べたり、互いに休みの時は遠出をしてデートをした。…うん、学生の恋人みたい。今の所、清いお付き合いをしています。…うん、伊集院は見た目や喋り方を裏切る程ほんと真面目だよね。
そんな清いお付き合いをして早3ヶ月…伊集院にまた告白をされ俺は告白を受けた。そーしたらやることは一つ。伊集院が住んでるアパートに連れていかれ襲われました。いや、合意だから「襲われた」は違うかな。でも行動事態はほんと襲われた感じです。だって玄関で致しましたから。若いってスバラシイねー…うぅぅ。
玄関から風呂場へ移動して一回、それからベッドへ連れていかれまた襲われた。正しく狼くんだね。羊、いや無害な忠犬の皮を被った狼でしたね伊集院くん。あーこれでジム行き確定かな。体力、絶対持たないー!
「ジムー?まだ言ってるの?大丈夫!ジムなんて行く必要ないよ。だって…俺の相手してれば自ずと体力付くから!」
ジム行くって言ったら爽やか笑顔でこう言われた。…あー左様ですか。なんか、とんでもない奴に捕まったなぁ~…
それは有言実行され、週に三回、伊集院に身体を開かれ容赦なく攻められました。お陰で体力?は付いたかもしれない。…でも、何故だろう?なんか周りの生徒の目が怪しいんですが?中には頬を赤らめる奴もいたり、いなかったり?
それを伊集院に話したら…なんでもエッチする時に使う部分に筋肉が付いたからだという。つまり下腹部から腰辺りがスラッとしていてエロい。という事らしい?…なにそれ?
医学で基本は実験をしてるようなもんだから白衣を着ているんだが…周りはよく俺を観察しているなぁ。腰の辺りなんて白衣で見えないだろうに…
「うぅ~俺のせいで与一さんがエロくなっていくのは大歓迎なんだけど…モテモテになるのは戴けないなぁ…」
「…?確かに周りにジロジロ見られたりして注目されてる気はするけど別に告白とか襲われたりはしてないぞ?大丈夫だろう。」
「ん~無自覚!なんか心配だなぁ~…あ、じゃあ今度指輪買いに行こう!ペアリング!」
「へ?ぺ、ペアリング!?」
何を言い出すんだこいつはっ!?ペアリングって…まるで…
「嫌?」
「い、嫌じゃない、けど…」
「俺はずっと与一さ、いや与一と一緒にいるつもりなんだけど。指輪はその第一歩かな。そのあと同棲して、できれば海外で同姓結婚ができる所に行って愛を誓いたいんだけど。」
「ぇ…あ…う…」
言葉が出てこない。凄く嬉しい、嬉しすぎてか声がでない。でも俺が顔真っ赤にしてオロオロしてる姿をみて気持ちが伝わった事がわかったのかフワッと柔らかく微笑んで抱き締めてくれた。あ、涙でそう…
「泣くほど嬉しい?ね、ね?」
「うぅ…年上を泣かすんじゃないよ…」
「あはは~!ベッド以外で与一が泣く姿を初めて見たよ。やっぱり綺麗だよ与一は。」
「うぅぅぅ~」
これ以上俺を泣かせないでほしい。
俺は招き猫、アゲ穴で幸せは相手にしか受けない事だと思ってたけど…やっと俺にも幸せが巡ってきたようだ。
そして夜は凄く盛り上がりました。うん、腰が痛いが幸せです。
…けど、
「ごめん…」
「うん…わかった。…幸せに、ね。」
やはり俺には幸せは訪れてこないようだ。
指輪は結局貰えず、伊集院は新店舗の責任者を任され忙しくなり毎日会っていたのが週一になり、半月に一度になり、月一になり…そして今、別れを告げられた。
理由は…お偉いさんに進められたお見合いに無理矢理出席させられ相手に気に入られ即結婚となってしまったらしい。
伊集院は断ったのだが脅され反論できず、されるがままに話が進んでしまったらしい。
…それは俺にも影響があった。その相手の親が伊集院の近辺を調べたらしく俺の所まで嗅ぎ付けられ金を渡され縁を切るように言われたのだ。…もちろんその金は受け取らなかったよ。
ああ…やはり男同士は厳しいらしい。伊集院は元はノンケだから相手と少しずつ絆を深めれば良い夫婦になれるだろう。やはり俺は招き猫で幸せの最終地点まで辿り着けばもう用無しなのだろう…自分で言って悲しくなるが現実がそう言っている。
泣きながら俺に謝ってくる伊集院を慰めて互いに笑顔で別れた。…うん、今回は流石に辛いな。ずっと一緒にいれると夢見ていたから尚更…あんな、期待するような事を言われなければここまで傷つかずにすんだものの…はぁ、暫く誰とも付き合いたくないな。
もういっそのこと、この身体を商売にしようかな。占い?のような「貴方に幸を授けます」的な…なんか胡散臭いなコレ。
やめやめ!あまりのショックで正常な思考が回らない。なんか今、自殺しそうな思考をしていたよ自分。危ない…流石に辛い別れをしても自殺はない。天寿を全うしたいよ俺。
まぁ唯一は指輪を貰わず同棲する前に別れた事が救いだったかな。完全に未来図を想像してた時に別れを告げられていたら俺はもう立ち直れなかったかもしれない。今はまだ「仕方ない」で諦められる。…未練は別物。気持ちの整理はついても心はまだ受け入れてくれない。時間が必要だな。
それから誰とも深い付き合いをせず独身を貫いた。
変わった事がいろいろとある。
まず仕事場。助手を止め新薬開発している会社へと入り知識をフル活用して会社に貢献していた。なかなか遣り甲斐があって俺はアウトドアよりインドアが性に合ってたようで今の仕事はかなり楽しい。
そしてもう1つ、ゲイバーへ通うようになった。多少お洒落をして初めて行ったら…凄く誘われた。え?俺、こんなにモテたの?
ゲイバーで色々と話を聞いた。初めて行った所は当たりだったらしく、出会い目的だけじゃなくただ仲間と普段できない男同士の悩みや相談を聞きながら楽しくお酒を飲む人が多い所だった。
「福ちゃん、なんて危ない子なのかしら!ここにきて正解よ!他の所へ1人で行ってたら呆気なくペロリと食べられてたわよ?」
と、バーのオーナーさんが話してくれた。殆ど常連さんしかいなかったので皆親しく話しかけて来てくれた。そんな襲われる覚悟はなく、ただ好奇心で寄っただけと話したら怒られた。凄く優しい人だった。
ただ、出会いも多少期待して来たと話したら一気に囲まれた。「誰が好み」だとか「ゆっくりと激しいのとどちらが好き」だとか「将来も考えられるのか」だとか質問攻めにあった。こ、これ…どうしたらいいの?
戸惑ってたらオーナーの怒声が響き解放された。うん、鶴の一声。さすがオーナー。
「じゃあ福ちゃんの相手に求めている事は何?」
「…後腐れない人。それと、口が固い人。俺は今、恋人は求めてないんです。でも性欲は人並みにあるし、1人だと、その…」
「うん、ネコちゃんは物足りないのよね1人だと。」
「うっ…」
決定的な事を避けて返事してくれるオーナー。この人、見た目30後半位の若さなのにこの業界に凄く慣れてるような感じがする。…まぁ生半可な気持ちでオーナーなんてなれないよな。うん、オーナーさんは信頼できる人みたいだね。
「うーん…後腐れない口の硬いタチね…うん、1人紹介できる奴がいるわよ?」
「え…」
「吾妻くーん!ご指名よ。」
「「「あずまぁー!?」」」
オーナーが誰かの名前を呼んだら周りが絶叫した。え、そんな皆が驚くような人を俺に紹介するの?
俺が驚いていると隣の席に一人の男性が座ってきた。…ん?この人が吾妻さんかな?
それから常連さんたちがわらわらと集まってきた。
「話し声は聞こえてたし、相手してもいいかとは思ったが…こんな華奢な身体で俺の相手なんかできるのか?」
「そ、そうだよオーナー!流石に吾妻じゃ福ちゃん壊れちゃうんじゃ…」
「あら?皆の目は節穴なの?福ちゃん、服の上からでも分かるくらい身体はしっかりしてるわよぉ~?」
「えっ!?あ、福ちゃんって…経験者?」
「っ…!」
何経験者って!?ちょっと待て、皆から見て俺はどう見えるんだ?確かに好奇心でこの店に入ったが…経験はあるし何人か恋人もいたし…あ、もしかして
「オーナー…俺は何歳に見える?」
「んー?…多く見積もって23?福ちゃん、18って言っても驚かないわよ?」
「えー20歳でしょ!法律でお酒が飲める年齢ー。」
「…俺、もうすぐ28…」
「「「は?」」」
え、オーナーも!?俺逆サバ読んでないからね?実年齢。19✕✕年生まれだから。良い年してますからね!?
「サギだわ…多分、福ちゃん化粧したら化けるわよ。」
「こんな童顔で年上ぇー!?ほんとサギだよ福ちゃーん!」
皆がギャーギャー騒ぎだした。え、年齢ってそんなに大事?
ふと隣に座ってた吾妻と呼ばれた人が近づいて腕を掴まれた。
「騒がしいから端に移動するぞ。…それとも今すぐやりてぇか?」
「い、いえ…移動します。」
まだ混乱してる人たちを他所に端の席に移動し二人で席につく。
…うん、間近でじっと見たけど…見た目凄くイケメン。なんでこんな人がゲイバーにいるんだろうか?
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