負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

文字の大きさ
上 下
135 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第18話08 嫉妬

しおりを挟む
『はぁ、サイモンの職業ジョブねぇ』

 呆れ顔の黒猫が尻尾を振る。
 隣にはジルベールの姿。

『そもそも
 冒険者やりたいって言ってるのは
 知ってた?』

『あー、漠然と?
 闘技場始める前、
 私が戦うの得意って知った時から
 モンスター退治とかいいねって
 言ってたし。

 ついでに、ケットシー皇国や
 私の親父のところに
 行けたらいいなって
 話してた』

『え、お父さん、の所!』

『ああ、サイモンは
 いいって言ってくれたよ』

『へぇ~、そう、なんだ……
 どうせ僕が止めても行くんでしょ。
 頑張って。応援してるから』

『ああ、ありがとな』

 それまでとは逆に
 エリックとジュリアナを待たせ、
 しばしジルベールとビッグケットの
 会話が続く。

 暗く蝋燭の炎が揺らめく地下闘技場、
 に続く大階段の底。
 随分話し込んでいるが、
 話題はまだまだ尽きない。

『そういやサイモン君、
 誰も泣かせない
 争いのない世界を作りたいんだって!
 ビッグケットちゃん、
 この理想についていけそう?』

『ふーん。
 ま、お人好しのサイモンの
 言うことだ。
 そういうこと言い出しても
 おかしくはないな。
 わかった、ついていこう』

『だって!!
 良かったねぇサイモン君』

『ウン…………アリガトナ………………』

 一瞬話が途切れた隙間。
 ジルベールはにやにや笑みを浮かべながら
 サイモンの「夢」を
 ビッグケットに伝えた。

 ……くそ、あいつ絶対
 「無理無理!
 こいつ子供みたいな事言っててウケる~!」
 とか思ってるに違いない。

 対するビッグケットは、
 お人好しのサイモン。
 と一刀両断したものの、
 あっさりこころざしを共にすると
 約束してくれた。
 さすが一生の相棒を自認する女だ。

『……で、本題の彼の職業ジョブについてだけど。
 僕たちは色々オススメの前衛アタッカー
 後衛サポーターがあって。

 ビッグケットちゃん本人は
 どういうのが理想?
 これからサイモン君と、
 どんな関係でいたい?』

 途中、ふ、と振られた話題。
 他人同士の会話なのに、
 自分の名前が出てくると
 なんだか気恥かしい。

 ましてや、どういう関係でいたい…………って
 ちょっとえっちだな。
 いや、そう連想する俺が
 おかしいのかもしれないけど。

 真剣な話をしている
 ジルベールとビッグケットをよそに、
 あらぬ事を考えてしまったサイモンは
 慌てて首を振る。

 ……関係。
 俺とビッグケットの、
 冒険者としての関係だ。

『うーん、理想…………
 特にないかな。
 私はやりたいことをやるだけだし。

 その時サイモンがどこにいても、
 まぁ前だろうが隣だろうが後ろだろうが、
 どこにいても。

 私はずっと
 サイモンと一緒にいられれば
 それで満足だ。
 場所を選ぶのは
 あいつ本人に任せる』

「………………」
「……………………」

 柔らかな笑み。
 黒髪と猫耳を揺らして
 笑ったビッグケットは、
 まるで女神のように清らかで美しかった。
 それを見たジルベールは、

「はぁあああああああ…………。」

 何故だろう、
 片手で顔を覆って
 長くため息をついた。

「…………いいねええ、
 君たちのその信頼感は
 どこから来るの???

 いや、理由は一応聞いたけど。
 女神かよ。羨ましい。
 生まれて初めて
 女性関係で他人が羨ましい」

「…………300オーバーのお前が言うと
 重いな…………」

 これは、嫉妬されてるんだろうか。
 居心地が悪い。
 普段大概のことを
 笑って済ませるジルベールの、
 ちらりと見える本気の苛立ちが
 ちょっと怖い。

 サイモンは薄く笑みを浮かべたまま
 固まった。

 そもそも、
 なんでそんなに信頼関係があるのかと
 問われても。

 サイモン自身、
 腕を落とされても構わない!
 とか言うのを、
 本当に実行されるとは思わなかった。

 ましてや、
 腕二本捩じ切られても
 耐えて待つその忍耐力。
 信じられない。

「………いや、ホント、すごいよなぁ?
 俺だってそこまで出来るか自信ないのに……
 ビッグケットは実行しちゃったもんな…………
 すごいな………………」

「サイモン君、ホント、
 マジでマジで大切にしろよ。
 次泣かせたら本気で承知しないからな」

「いや、まだ泣かせてません。
 あっいや……」

「うるさいこんなにいい子を苦しめるな!
 大体あんな穴だらけの作戦だったから、
 いや最後の詰めが甘いから
 ビッグケットちゃんは──!!」

「もうやめましょう、ジルベールさん。
 終わったことを責めるのは」

 そこで割って入ったのはジュリアナだ。
 共に180センチ程度、
 長身二人が睨み合う空間の真ん中に
 身体を挟み込み、
 両腕を突っ張る。

 ジルベールはまだ何か言いたそうだったが、
 渋々口をつぐむ。
 キャラがキャラなら、
 舌打ちの一つでも飛んできそうな
 苦ーい表情だ。

「……さて、大体の話は終わったみたいですけど。
 ビッグケットさん、
 さっきなんて言ったんです?」

「…………二人はこれから冒険者になるけど、
 理想の関係はある?
 色んな前衛アタッカー後衛サポーターがあるけど、
 どうなって欲しい?って聞いたら、

 サイモンとずっと一緒にいられるなら、
 彼の場所なんてどこでもいい。
 隣でも前でも後ろでも、だって!
 はーーぁ、羨ましい」

「ジルベールさん、お言葉ですが、
 男の嫉妬はみっともないのです。
 お二人はこれから新たに冒険者となり、
 羽ばたいてゆきます…………
 私達がそれを応援できなくてどうします。

 なんです、あなたも冒険者になりますか?
 着いてきますか?」

 ジュリアナの静かな声に、
 ビッグケット以外全員がハッとする。
 …………それ、アリなのか??
 一瞬アリかもしれない、
 と3人が思ったところで。

「いや、無理。」

 ジルベール本人は断固否定した。
 澄み切った綺麗な目を
 全員に向けている。

「だって危ない事したくないもん。
 死にたくないし。痛いのヤだし。
 僕、エルフの冒険者の知り合い
 それなりにいるけど、
 みんなよくやるよなーーって思ってる。
 だから無理」

「………………そうですか………………」

 エルフというのは、
 基本思慮深く冷静沈着。
 愚かな蛮勇は振り回さないと聞いている。
 しかし、ジルベールはとりわけそういうのを
 嫌がるタイプのようだ。

 おや、仲間が増えるのかと
 一瞬期待したサイモンも、
 そして話を振ったジュリアナも
 肩透かしをくらって
 唖然としてしまった。

「…………まぁ、こればっかりは
 本人の自由ですから
 仕方ないですね」

 こほんと咳払いひとつ。
 そしてジュリアナは改めて、
 傍らのサイモンとビッグケットを見た。 

「じゃあお二人共、
 これから頑張ってください。
 正直私は研究がメインで、
 冒険者は副業なんですが…………
 何かあればお供します。
 声かけて下さい」

「あれ、そうなんだ。
 冒険者は副業?」

「はい。調教師テイマーをやっているのは、
 亜空間における魔力生成生物が
 いかなる変換を辿るのか、
 という研究の一環です。

 ざくっというと、
 魔法で生命体を作って
 それが亜空間の中でどれだけ生きていけるかの
 研究をしています。

 これによって、
 魔法で変身に使うパーツを作って
 必要があれば取り出す、
 ってことは出来るのかを
 試してるんです」

「へぇーーっ、面白い!
 頑張ってな。
 じゃあなんかあれば声かけるよ」

「はい」

 そこまで話すと、
 向かいのエリックが手を上げる。

「はい、はい、じゃあオレも!
 今解散したら王都の仲間のとこに帰るけど、
 オレたちもなんかあったら呼んでくれよ!

 聖職者クレリック見習いの回復師ヒーラー
 武闘家ファイター戦士ウォーリアー
 加護師バッファーのオレの四人で組んで
 色々やってる。

 みんなC級以上だから、
 パーティーとしては
 なかなかのレベルだと思うぞ!」

 そこで、はたと唐突に言葉を区切る。
 顎に手をあて…………

「そういやサイモンさん、
 いつから活動開始しようとかある?」

 エリックが尋ねてきた。
 その表情はやたらに楽しそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R-18】敗北した勇者、メス堕ち調教後の一日

巫羅
ファンタジー
魔王軍に敗北した勇者がメス堕ち調教され、奉仕奴隷となった後の一日の話 本編全4話 終了後不定期にパーティーメンバーの話とかも書きたいところです。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

処理中です...