105 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第14話06 ブラッディローズ
しおりを挟む
「「今、こっちの友人が
彼女について知りたがっているんだ。
カトリーヌってなんか
失踪した令嬢じゃなかった?
僕、百年以上前に絵画で見た気がするんだ」」
ーああ、多分それで間違いないと思うぞ。
薔薇を家紋に戴いた
名家ギヴァルシュ家のご令嬢……
カトリーヌ。
清廉なエルフでありながら
残虐な殺しを好み、
血を浴びることを喜びとした……
そしてある日
さらなる殺戮を求めて失踪した……
押しも押されもせぬ極悪ダークエルフだー
(ダークエルフ……!
そんなこったろうとは思ったけど、
ドンピシャじゃねぇか!!)
目を丸くするサイモン。
ジルベールがその肩を叩く。
「「で、その友人がシャングリラの闇闘技場、
賭博場で彼女を見たんだって。
似顔絵を描いてくれたんだけど、
一応見てくれないか?」」
そこまで話すと、
ジルベールはサイモンに目配せして
先程の似顔絵を手に取った。
連絡鏡に映るよう軽く持ち上げる。
「「こんな顔だっけ。
僕、細かい顔立ちまで覚えてなくて」」
ーああ……!
間違いない、あまりに可憐で美しいその姿!
数多のエルフが騙され、
文字通り血祭りに上げられたという……
そうか、あいつ人間の国に……。
……くそ、面汚しが……!ー
カミーユは口惜しそうに歯噛みし、
それきり黙ってしまった。
エルフは矜持を重んじる。
同族が他の国に行って犯罪を犯す、
あるいはその片棒を担ぐなどとんでもない!
と思っているのだろう。
しかし……あのカトリーヌがダークエルフ、
そして元ご令嬢だったとは。
……てことは、やっぱり。
やっぱり、闘技場の魔法使いは……
(実況係の女性たちで決まりだ……!)
もちろん、
机上の空論を積み重ねた結果にすぎない。
けれど、一つ確信を得た。
あそこに座っている女性たちは
一般人ないし身分の低い人物ではない。
二番目の実況アビゲイルにしたって、
アヴァロンの女王ヴィクトリアと同じ、
赤みがかった金髪。
今王族や金持ちの間で、
人間の中で最も美しいと
もてはやされている髪色だ。
たまたまそう生まれついた?
それはあり得る。
だが、一般人以下の中から
「偶然その色に生まれた」女性を探すより、
「意図的に流行最先端を目指し、実行出来る」
財力を持つ貴族の令嬢を探す方が早い。
端的に言ってあれは恐らく染めたもので、
アビゲイルも金持ちの家の娘だ。
エルフに人間。
どちらも魔法の才能に長けた人種。
そして2日スパンで実況が交代した。
つまり今日も変わる可能性がある。
そこで魔法の一切使えなさそうな人種が来たら
推理はパァだが、
もし今日も魔法の得意な人種で
高貴そうな女性が来たら……
それは魔法使いである可能性が高い!
そもそもエルフの時点で
平均的に魔法が使えるはずだけど……
仮に魔法が使えるとして、
なんで人間に手を貸すんだって
疑問が残る。
他種族とただ話すのも禁じるような国だからな。
あんな容姿じゃ冒険者の線も薄い。
じゃあ何か強制的に従わされている?
……ない。
それより倫理を踏み外した
ダークエルフと考えるのが自然だ。
そして、それは証明された。
殺しが好きな残虐なエルフ。
なら喜んで運営に関わり、
魔法だって使うだろう。
(ここまで来たら、
今日の実況が魔法使いっぽかったら
急襲のち判定勝ちを狙う案を決行して……
駄目そうなら逃げ出す案を考えておいて……
うーん、最後は
その場その場で考えないとだな……
事前に準備出来るものは……)
この間数秒。
連絡鏡の横、
サイモンが必死に頭をフル回転している隣で。
ジルベールは沈黙を破り、
カミーユに話しかけた。
要件は済んだ。
もう話すことなど……ない。
「「そうか、……じゃあ。
それを聞きたかっただけだから、
もうさよならだ。
今日は話してくれてありがとう。
百年ぶりに君に会えて嬉しかったよ」」
別れの挨拶を紡ぐジルベールに、カミーユは。
ーまっ、待て!
ジルベール、今度……
一度でいい、こっちに帰ってこい!
追放がなんだ、
来てくれさえすれば必ず私が迎えに行く!ー
「「何言ってるんだ、
僕はもう国境を超えられない。
検問で引っかかってしまうよ」」
ーどうせもうダークエルフなんだろう、
密入国しろ!
みんな寂しがっているぞ……
ジェラールだって……ー
「「嘘だよ、
ジェラールが僕に会いたがってるわけない。
勝手に置いてかれて苦労してるだろう、
きっと僕を恨んでる…」」
ー馬鹿者!
そんなことを言うな、兄弟だろう!?
今でも家のことを手伝いながら
たまに口に出すんだ、
兄さんはどこかで元気にやっているだろうかって……!ー
会話はそこで途切れた。
ジェラール……ジルベールには弟がいるのか。
貴族の家に置いてきた弟。
兄が追放されてなお、
今でもその身を案じている……。
サイモンが思わずジルベールの顔を伺うと、
ジルベールは、泣いていた。
今度こそ涙を溢して、ぽろぽろ泣いていた。
「「あいつ…………はは。
そうか、今でも僕のことをそんなふうに……。
まいったな。ちょっとだけ……
帰りたくなっちゃったじゃないか……」」
ーもちろん、リリアーヌもヴィオレーヌも……
妹たちだって会いたがってたぞ。
エルフの道に外れる!なんて怒ってるのは
お前の両親やら年寄りだけだ。
若い連中は複雑な気持ちの奴もいるけど、
概ねお前のことを気にかけていた。
会いに来るくらいバチは当たらないと思うぞー
「「へへ……そうか、そうか。
でも密入国なんて大掛かりなこと、
僕には出来ないよ。
連れてってくれる人もいないしな」」
鼻を赤くして笑うジルベールに。
動く影があった。
まさかの……
「「イコウカ」」
黒猫。ビッグケットだ。
ずっと黙っていると思ったら、
まともに会話を聞いていたのか。
そういや少しエルフ語わかるって言ってたな。
会話の内容をわかってなお、
なんとかエルフ語を駆使して。
「「イコウ、イツカ。
ワタシタチト、イッショニ」」
彼女について知りたがっているんだ。
カトリーヌってなんか
失踪した令嬢じゃなかった?
僕、百年以上前に絵画で見た気がするんだ」」
ーああ、多分それで間違いないと思うぞ。
薔薇を家紋に戴いた
名家ギヴァルシュ家のご令嬢……
カトリーヌ。
清廉なエルフでありながら
残虐な殺しを好み、
血を浴びることを喜びとした……
そしてある日
さらなる殺戮を求めて失踪した……
押しも押されもせぬ極悪ダークエルフだー
(ダークエルフ……!
そんなこったろうとは思ったけど、
ドンピシャじゃねぇか!!)
目を丸くするサイモン。
ジルベールがその肩を叩く。
「「で、その友人がシャングリラの闇闘技場、
賭博場で彼女を見たんだって。
似顔絵を描いてくれたんだけど、
一応見てくれないか?」」
そこまで話すと、
ジルベールはサイモンに目配せして
先程の似顔絵を手に取った。
連絡鏡に映るよう軽く持ち上げる。
「「こんな顔だっけ。
僕、細かい顔立ちまで覚えてなくて」」
ーああ……!
間違いない、あまりに可憐で美しいその姿!
数多のエルフが騙され、
文字通り血祭りに上げられたという……
そうか、あいつ人間の国に……。
……くそ、面汚しが……!ー
カミーユは口惜しそうに歯噛みし、
それきり黙ってしまった。
エルフは矜持を重んじる。
同族が他の国に行って犯罪を犯す、
あるいはその片棒を担ぐなどとんでもない!
と思っているのだろう。
しかし……あのカトリーヌがダークエルフ、
そして元ご令嬢だったとは。
……てことは、やっぱり。
やっぱり、闘技場の魔法使いは……
(実況係の女性たちで決まりだ……!)
もちろん、
机上の空論を積み重ねた結果にすぎない。
けれど、一つ確信を得た。
あそこに座っている女性たちは
一般人ないし身分の低い人物ではない。
二番目の実況アビゲイルにしたって、
アヴァロンの女王ヴィクトリアと同じ、
赤みがかった金髪。
今王族や金持ちの間で、
人間の中で最も美しいと
もてはやされている髪色だ。
たまたまそう生まれついた?
それはあり得る。
だが、一般人以下の中から
「偶然その色に生まれた」女性を探すより、
「意図的に流行最先端を目指し、実行出来る」
財力を持つ貴族の令嬢を探す方が早い。
端的に言ってあれは恐らく染めたもので、
アビゲイルも金持ちの家の娘だ。
エルフに人間。
どちらも魔法の才能に長けた人種。
そして2日スパンで実況が交代した。
つまり今日も変わる可能性がある。
そこで魔法の一切使えなさそうな人種が来たら
推理はパァだが、
もし今日も魔法の得意な人種で
高貴そうな女性が来たら……
それは魔法使いである可能性が高い!
そもそもエルフの時点で
平均的に魔法が使えるはずだけど……
仮に魔法が使えるとして、
なんで人間に手を貸すんだって
疑問が残る。
他種族とただ話すのも禁じるような国だからな。
あんな容姿じゃ冒険者の線も薄い。
じゃあ何か強制的に従わされている?
……ない。
それより倫理を踏み外した
ダークエルフと考えるのが自然だ。
そして、それは証明された。
殺しが好きな残虐なエルフ。
なら喜んで運営に関わり、
魔法だって使うだろう。
(ここまで来たら、
今日の実況が魔法使いっぽかったら
急襲のち判定勝ちを狙う案を決行して……
駄目そうなら逃げ出す案を考えておいて……
うーん、最後は
その場その場で考えないとだな……
事前に準備出来るものは……)
この間数秒。
連絡鏡の横、
サイモンが必死に頭をフル回転している隣で。
ジルベールは沈黙を破り、
カミーユに話しかけた。
要件は済んだ。
もう話すことなど……ない。
「「そうか、……じゃあ。
それを聞きたかっただけだから、
もうさよならだ。
今日は話してくれてありがとう。
百年ぶりに君に会えて嬉しかったよ」」
別れの挨拶を紡ぐジルベールに、カミーユは。
ーまっ、待て!
ジルベール、今度……
一度でいい、こっちに帰ってこい!
追放がなんだ、
来てくれさえすれば必ず私が迎えに行く!ー
「「何言ってるんだ、
僕はもう国境を超えられない。
検問で引っかかってしまうよ」」
ーどうせもうダークエルフなんだろう、
密入国しろ!
みんな寂しがっているぞ……
ジェラールだって……ー
「「嘘だよ、
ジェラールが僕に会いたがってるわけない。
勝手に置いてかれて苦労してるだろう、
きっと僕を恨んでる…」」
ー馬鹿者!
そんなことを言うな、兄弟だろう!?
今でも家のことを手伝いながら
たまに口に出すんだ、
兄さんはどこかで元気にやっているだろうかって……!ー
会話はそこで途切れた。
ジェラール……ジルベールには弟がいるのか。
貴族の家に置いてきた弟。
兄が追放されてなお、
今でもその身を案じている……。
サイモンが思わずジルベールの顔を伺うと、
ジルベールは、泣いていた。
今度こそ涙を溢して、ぽろぽろ泣いていた。
「「あいつ…………はは。
そうか、今でも僕のことをそんなふうに……。
まいったな。ちょっとだけ……
帰りたくなっちゃったじゃないか……」」
ーもちろん、リリアーヌもヴィオレーヌも……
妹たちだって会いたがってたぞ。
エルフの道に外れる!なんて怒ってるのは
お前の両親やら年寄りだけだ。
若い連中は複雑な気持ちの奴もいるけど、
概ねお前のことを気にかけていた。
会いに来るくらいバチは当たらないと思うぞー
「「へへ……そうか、そうか。
でも密入国なんて大掛かりなこと、
僕には出来ないよ。
連れてってくれる人もいないしな」」
鼻を赤くして笑うジルベールに。
動く影があった。
まさかの……
「「イコウカ」」
黒猫。ビッグケットだ。
ずっと黙っていると思ったら、
まともに会話を聞いていたのか。
そういや少しエルフ語わかるって言ってたな。
会話の内容をわかってなお、
なんとかエルフ語を駆使して。
「「イコウ、イツカ。
ワタシタチト、イッショニ」」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる