負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第11話05 温もり

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 勢いに任せて掴まれた手。
 押し付けられた膨らみ。

 それは確かに柔らかくて、
 いつか手中に収められたら、なんて
 文字通り夢にまで見たけど。

 それに喜ぶ感性は今の彼になかった。

 パンッ!

 浅い平手打ちを彼女の右頬に、
 触れられたくないと言っていた場所に放つ。
 瞬間、多少の理性を取り戻したようだ。
 ビッグケットがバッと顔を押さえる。

『……触ッテゴメン。手ヲ上ゲテゴメン。
 デモ、1ツ言ワセテ』

 悔しいような燃える瞳を
 こちらに向けるビッグケットに対して。

『男ヲ馬鹿ニスルナ。
 ソコマデ言ワレテほいほい手ヲ出ス奴ハイナイヨ』

『……っ、グッ……』

 ビッグケットが静かに拳を握りしめた。
 それまで勢いでなんとかしようとしていた目論見が、
 ことごとく破れた。
 だがそれで終わらせる気はない。
 彼女の不安をないがしろにするなんてとんでもない。

『約束スル。破ッタラ俺ヲ殺シテイイ。
 大丈夫……』

 サイモンはビッグケットを見つめ、
 薄く笑った。
 そして、
 彼女をゆっくり。
 強く抱きしめた。

 この気持ちが伝わって欲しい。
 心臓の鼓動まで届いて欲しい。
 ……お前は一人じゃない。

『オ前ガ嫌ダッテ言ウマデ、俺タチハズット一緒ダ。
 ダカラ心配スルナ。
 俺ハオ前ヲ置イテ遠クニ行ッタリシナイヨ』

『…………、本当か?絶対か?』

 サイモンの腕の中で猫が小さくつぶやいている。
 そのくぐもった声。
 揺れる猫耳に、頬をすり寄せる。

『信ジラレナイナラ今俺ヲ殺セヨ。
 裏切ラレル前ニ……
 ソシタラセイセイスルダロ』

『本末転倒だよそれじゃ』

『ダッタラ俺ヲ信ジロ。イイナ』

『………………。
 わかった』

 ビッグケットはこれで満足したのか、
 もぞもぞ身じろぎした。
 両手を離す。
 恐る恐るその顔を覗き込むと、
 ビッグケットは不満げに唇を曲げていた。
 ……なんだよ、まだなんか不満があんのか?

『エ、何』
『一応言っとくけどな』
『ハイ?』

『どうせ初めてするなら、
 お前がいいってのは嘘じゃないからな』

『勘弁シテ下サイ』

 あれ勢いで言ったんじゃねーのかよ。
 やめて爆弾投下するの。
 じわじわ頬が熱くなる。

『だってお前以上にいい奴で獣人に理解があって
 公平で紳士的な奴いる?そうそう会えないだろ』

『イヤイルカモシレナイゾ?
 ヤ、俺以上クライイクラデモイルッテ。
 大丈夫。オ前ハソウイウノト付キ合エヨ』

『……いるといいけどな』

 はぁ、とこれみよがしにため息をつかれる。
 ……何これ、本気のアタックだったのに
 響いてねーなーっていうアレなんです?

 いや違う、こいつ絶対血迷ってる。
 このまま流されて手出したら
 将来絶対後悔する奴だ。

『……一応先輩トシテ言ッテオクケドナ。
 マイッカ程度ノ相手トスルせっくすホド
 虚シイ物ハナイゾ。
 チャント好キナ奴トスル方ガ
 断然気持チイイシ満タサレルカラ。
 覚エトケ』

『……サイモンには、そういう相手がいたのか?
 違いがわかるのか??』

 ぐ。黒猫から当然の疑問が飛んでくる。
 いやハッタリじゃないよ。
 実体験に基づく心からの本音だよ。

 でも、ぐぅっ……。

『昔。昔イタノ。
 デモ捨テラレタ。
 ソレ以降ノソウイウノハ
 ヤッパ違ッタナァッテ思ッテサ!』

『へぇ~』

 いい加減日がしっかり登ってきた。
 目の前のステンドグラスがきらきらして眩しい。
 他に人が居ないとはいえ、
 俺たちはこんなとこで何を話してるんだ。
 しかしビッグケットが話を終わらせてくれない。

『じゃあ、モモとのセックスは虚しかったのか?』
『エッ何ソレ、アレ?ドコカラ聞イタ?』

『普通に本人から。
 言ったろ、
 お前が酔い潰れてる間に昔の話を聞いたって』
『ハァ?!
 アイツ全部話したノカ!?』

『全部っていうか……まぁ、まぁ??』
『ヤダー!!
 コレ以上聞キタクナイ!!怖イ!!!』

 思わず耳を塞ぐ。
 さっき後悔してるって思い出したばかりなのに!
 古傷を抉ったあげくトドメを刺すのはやめてくれ!!

 だが、ビッグケットはそんなサイモンの様子を
 しっかり見据えた上で口を開いた。
 静かに、真っ直ぐ。

『……モモ、前も言ったけど。
 お前とのこと、すごくいい思い出として語ってたぞ。
 ごめんって言ってもらったのは、
 あんなに優しくされたのは、生まれて初めてだったって』 

『……!』

 思わず目を見開く。
 ああ、そうか。そう、か……。
 ここ2年ほどの胸のつかえがやっと取れた気がした。

 モモは、それまで過酷な環境に身を置きすぎて、
 あれを侮辱と受け取らなかったのか。
 素直に初めて優しくされたと受け止めている。
 ……それはそれで胸が痛いけど。

 いつか彼女の精神がもっと幸福に近づいたら、
 今度こそ最低野郎と吐き捨てられそうで怖いけど。
 ……今はまだ、セーフなんだな。

『……ソウカ、ワカッタ。アリガト』

 あれっ、俺たちなんの話してたんだっけ?

『アノ、ソノ、トリアエズ。
 別ニモモトノアレガ虚シカッタワケジャナクテ。
 ダッテ当時マダ別レテナカッタシ』

『彼女と?
 え、心から好きなパートナーがいるのに
 他の女を抱いたのか?』

『アーーーーッ最低デスオレハ!!!
 ネェモウコノ話ヤメナイ?!
 オレノ女遍歴ナンカ聞イテ何ガ楽シインダ!?』

『え、私は楽しいけど……』

『馬鹿!!!!モウ帰ルゾ!!!』

 好奇心丸出し、
 かつ下世話な微笑みを浮かべるビッグケットの顔を見て、
 突然我に返る。
 そういや懺悔も終わったし、
 誓いも新たに出来たしここにいる意味はない!

 大体礼拝堂でエロトークとか、どんだけ不埒なんだ。
 そろそろ神様キレるぞ。
 帰り突然雨雲が広がって
 神鳴りに当たってもおかしくないっつの。
 退散!

『ホラ、モウ馬鹿ナ事言ッテナイデ帰ルゾ!
 朝飯ハ何ヲ食ウンダ!?』

『えーとえーと、
 じゃあパン繋がりでサンドイッチかなぁ~!』

『ハイジャア買イニ行コウ!
 マダ朝ニナッタバッカダシ、ユックリ散歩デモシテサ!』

『わ~最高~~~~♥』

 煩悩には食欲をぶつける。
 さっき学んだことを早速実践した。
 食欲の比重が大きいビッグケットは即話に乗った。
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