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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第09話13 新居
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『ほらサイモン、魔法の絨毯敷いたから。
指示出して』
細心の注意を払いながら
ビッグケットがサイモンの頬を叩く。
起き上がるのも辛いサイモンだが、
そうも言ってられない。
なんとか上体だけ起こして返事を返す。
『大丈夫、チョット待ッテ』
「…それじゃ、お世話になりました…。
エウカリスにもよろしく、
またここに会いに来るからって伝えて」
「はいはい。
サイモン君、また楽しいお酒飲みに来てね。
みんなで待ってるから」
「来ないと呪ってやるからまた来てね」
「なんだそりゃ。
絶対また来るから安心しろよ。
…それじゃ、ママ、モモ、ありがとう。またな。
浮いて、真っ直ぐ飛んで。ゆっくりな」
その言葉を最後に、獣人バーボンドが遠くなる。
今何時だろう。
時計を見ると深夜2時だ。
随分ボンドで過ごしてしまった。
『ヤバ…ジルベール寝テルダロウナァ』
『いいんじゃないか?
いつでもいいって言ったのはあいつなんだろ』
『アーウン…ソウダトイイケド…』
話しながら吐き気がこみ上げる。
うう、今は身体がセンシティブな状態だ。
もっと速度落とさないとキツイぞこれ。
「魔法の絨毯、もうちょいゆっくり…」
サイモンが小声で囁くと、それに応じて絨毯が速度を落とす。
その瞬間、彼が何を注文したか悟ったビッグケットが
眉を吊り上げた。
『はぁ?!どんだけとろとろ進むんだよぉ、
勘弁してくれ!』
そう言われましても、人間には限界てものがありまして。
急ぎたいのは俺も山々なんですけどね????
『…やっと着いたぞ!』
『ヤット…着イタナ……』
それは酒場を後にしてからだいぶ経ったあとのこと。
真夜中にジルベールの店を尋ねると、
寝ぼけ眼ながらちゃんと荷物を引き渡してくれた。
ビッグケットたちが買った物はもちろん、
地味にサイモンの荷物も
借金返済の途中でジルベールの店に置いてきた。
それらまとめて引き取り、いざ新居へ。
荷物はなんとか魔法の絨毯に全て乗せられた。
そして急ぎたいビッグケットと
極力急ぎたくないサイモンで一悶着あったものの、
ようやく。
サイモン曰く住所通りの物件に辿り着いた。
全体の印象を述べるなら、小振りな城のような外観。
あるいは貴族の大屋敷。
とにかくでかいそれは圧巻の存在感で、
それまで全く金持ちと言えない暮らしをしてきた
二人を圧倒するのに
充分な威圧感だった。
『…これの最上階だって?入れるんだよな?』
『ソウイヤココ、最新ノ防犯しすてむガドウノッテ言ッテタナ。
コンナ時間ニ入レナカッタラマジデウケルゾ』
『勘弁してくれよマジで』
玄関は両開きの立派な扉。
開いてくれさえすれば、
魔法の絨毯でそのまま入れるのだが…
これ、どうするんだ?
渡された鍵が入りそうな何かもない。
とりあえず今の二人には見つけられない。
まさか…詰んだ???
二人が内心真っ青になっていると、中から微かに音がした。
…人の気配がする。
耳を済ましていると、唐突に扉が開いた。
「サイモン・オルコット様ですか。
私たちはここの警備員です。お待ちしていました」
『…開いた…』
「すいません、めちゃくちゃ待たせちゃいましたよね…
本当にすみません…」
重い音を伴い、開かれる扉。
その中に居たのは屈強なワーウルフの男性、
そして傍らにローブを纏った小柄な人間の女性。
これはつまり、肉体労働担当と魔法担当ってことか?
唖然とする二人を見て、
軍服地味た服を着たワーウルフが口角を上げる。
「いえ、私達は元々交代しながら24時間外の様子を見ているので。
お二人のためだけにわざわざ待っていたわけじゃありませんよ。
お気になさらず」
「あ、そうなんだ…良かった…」
「では、早速ですがお二人の情報をスキャンさせていただきますね。
少々お時間いただきますが、この建物に情報を登録します。
今しばらくお待ち下さい」
「へぇーーー、すご…」
先程のサイモンの予想はほぼ当たりのようだ。
女性が両手をサイモンにかざすと、
ぼわ。
と空中に魔法陣が現れ、彼の頭から爪先までを通り抜ける。
何の感覚もない。
酔いで立ち上がれない故サイモンは座ったままだが、
特に注意されることもない。
これでスキャンとやらが終わるらしい。
体格とか、なんらかの身体の情報を取り込んでいるのだろうか。
それでここの住人とそれ以外を分けようという事か。すごい。
「こちらの方も失礼します」
続いてビッグケット。
同じように頭から爪先まで魔法陣を通過させる。
最初何事か理解出来ていなかったビッグケットは
一瞬だけ怯えたが、
魔法陣が触れた瞬間、
特に害のない物だと判断したようで大人しくなった。
「…はい、ありがとうございました。
これでお二人の情報が登録されました。
以降は手でパネルをタッチしていただきますと
各所の仕掛けが作動しますので、ご利用ください。
なお、居室の鍵もこれで開きます。
不動産屋から渡された鍵は
不慮の事態が起きた時のためのスペアとなりますので、
大切に保管なさって下さい」
「…タッチパネル。すごっ」
「では、私どもはこれで。失礼いたします」
さっき「少々お時間いただきます」と言われたが、
本当にほんのちょっとの時間だった。
これで終わり。
警備員二人は会釈をしてすぐに帰ってしまった。
会話の内容がわからないビッグケットだけが
事態を飲み込めず、訝しげにしている。
『…あの二人、もう帰るのか?なんだって?』
『アノ女ノ人ガ多分魔法使イデ、
サッキ魔法陣ヲ使ッテ俺達二人ノ情報ヲコノ建物ニ登録シタ。
コレカラハナンカ板ミタイノヲ触ルト色々動クカラ
使ッテクレッテ』
『ほえええ、すごーーー!!!』
指示出して』
細心の注意を払いながら
ビッグケットがサイモンの頬を叩く。
起き上がるのも辛いサイモンだが、
そうも言ってられない。
なんとか上体だけ起こして返事を返す。
『大丈夫、チョット待ッテ』
「…それじゃ、お世話になりました…。
エウカリスにもよろしく、
またここに会いに来るからって伝えて」
「はいはい。
サイモン君、また楽しいお酒飲みに来てね。
みんなで待ってるから」
「来ないと呪ってやるからまた来てね」
「なんだそりゃ。
絶対また来るから安心しろよ。
…それじゃ、ママ、モモ、ありがとう。またな。
浮いて、真っ直ぐ飛んで。ゆっくりな」
その言葉を最後に、獣人バーボンドが遠くなる。
今何時だろう。
時計を見ると深夜2時だ。
随分ボンドで過ごしてしまった。
『ヤバ…ジルベール寝テルダロウナァ』
『いいんじゃないか?
いつでもいいって言ったのはあいつなんだろ』
『アーウン…ソウダトイイケド…』
話しながら吐き気がこみ上げる。
うう、今は身体がセンシティブな状態だ。
もっと速度落とさないとキツイぞこれ。
「魔法の絨毯、もうちょいゆっくり…」
サイモンが小声で囁くと、それに応じて絨毯が速度を落とす。
その瞬間、彼が何を注文したか悟ったビッグケットが
眉を吊り上げた。
『はぁ?!どんだけとろとろ進むんだよぉ、
勘弁してくれ!』
そう言われましても、人間には限界てものがありまして。
急ぎたいのは俺も山々なんですけどね????
『…やっと着いたぞ!』
『ヤット…着イタナ……』
それは酒場を後にしてからだいぶ経ったあとのこと。
真夜中にジルベールの店を尋ねると、
寝ぼけ眼ながらちゃんと荷物を引き渡してくれた。
ビッグケットたちが買った物はもちろん、
地味にサイモンの荷物も
借金返済の途中でジルベールの店に置いてきた。
それらまとめて引き取り、いざ新居へ。
荷物はなんとか魔法の絨毯に全て乗せられた。
そして急ぎたいビッグケットと
極力急ぎたくないサイモンで一悶着あったものの、
ようやく。
サイモン曰く住所通りの物件に辿り着いた。
全体の印象を述べるなら、小振りな城のような外観。
あるいは貴族の大屋敷。
とにかくでかいそれは圧巻の存在感で、
それまで全く金持ちと言えない暮らしをしてきた
二人を圧倒するのに
充分な威圧感だった。
『…これの最上階だって?入れるんだよな?』
『ソウイヤココ、最新ノ防犯しすてむガドウノッテ言ッテタナ。
コンナ時間ニ入レナカッタラマジデウケルゾ』
『勘弁してくれよマジで』
玄関は両開きの立派な扉。
開いてくれさえすれば、
魔法の絨毯でそのまま入れるのだが…
これ、どうするんだ?
渡された鍵が入りそうな何かもない。
とりあえず今の二人には見つけられない。
まさか…詰んだ???
二人が内心真っ青になっていると、中から微かに音がした。
…人の気配がする。
耳を済ましていると、唐突に扉が開いた。
「サイモン・オルコット様ですか。
私たちはここの警備員です。お待ちしていました」
『…開いた…』
「すいません、めちゃくちゃ待たせちゃいましたよね…
本当にすみません…」
重い音を伴い、開かれる扉。
その中に居たのは屈強なワーウルフの男性、
そして傍らにローブを纏った小柄な人間の女性。
これはつまり、肉体労働担当と魔法担当ってことか?
唖然とする二人を見て、
軍服地味た服を着たワーウルフが口角を上げる。
「いえ、私達は元々交代しながら24時間外の様子を見ているので。
お二人のためだけにわざわざ待っていたわけじゃありませんよ。
お気になさらず」
「あ、そうなんだ…良かった…」
「では、早速ですがお二人の情報をスキャンさせていただきますね。
少々お時間いただきますが、この建物に情報を登録します。
今しばらくお待ち下さい」
「へぇーーー、すご…」
先程のサイモンの予想はほぼ当たりのようだ。
女性が両手をサイモンにかざすと、
ぼわ。
と空中に魔法陣が現れ、彼の頭から爪先までを通り抜ける。
何の感覚もない。
酔いで立ち上がれない故サイモンは座ったままだが、
特に注意されることもない。
これでスキャンとやらが終わるらしい。
体格とか、なんらかの身体の情報を取り込んでいるのだろうか。
それでここの住人とそれ以外を分けようという事か。すごい。
「こちらの方も失礼します」
続いてビッグケット。
同じように頭から爪先まで魔法陣を通過させる。
最初何事か理解出来ていなかったビッグケットは
一瞬だけ怯えたが、
魔法陣が触れた瞬間、
特に害のない物だと判断したようで大人しくなった。
「…はい、ありがとうございました。
これでお二人の情報が登録されました。
以降は手でパネルをタッチしていただきますと
各所の仕掛けが作動しますので、ご利用ください。
なお、居室の鍵もこれで開きます。
不動産屋から渡された鍵は
不慮の事態が起きた時のためのスペアとなりますので、
大切に保管なさって下さい」
「…タッチパネル。すごっ」
「では、私どもはこれで。失礼いたします」
さっき「少々お時間いただきます」と言われたが、
本当にほんのちょっとの時間だった。
これで終わり。
警備員二人は会釈をしてすぐに帰ってしまった。
会話の内容がわからないビッグケットだけが
事態を飲み込めず、訝しげにしている。
『…あの二人、もう帰るのか?なんだって?』
『アノ女ノ人ガ多分魔法使イデ、
サッキ魔法陣ヲ使ッテ俺達二人ノ情報ヲコノ建物ニ登録シタ。
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