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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第05話06 隣人のボブ
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二人と別れ、ドラゴンライダーに頼んで帰宅。
ドラゴン代を払って帰ってもらって、まずは着替え。
ようやく清潔な服を着られる。
比較的マトモな服を再び選び、袖を通し、さて掃除。
もう大概要らないので、とにかくまとめて運んで
家の前に出してしまう。
ばたばたとホコリにまみれながら次々中の物を運び出していると、
隣人が訝しげに覗き込んできた。
「おい、朝っぱらからうるせぇな。なんの騒ぎだ」
半分下着のようなヨレヨレの服を着たオッサン。
彼の名は確かボブだ。
物乞い同然のことばかりして、昼間は大概酒を飲んで寝ている。
そうか、動き回って起こしてしまったんだな。
大体今朝じゃねぇし。
「すみません、あの、俺このアパート出るんで。全部捨てるんです」
「はぁ?ここを出る?つーか全部捨てる??一体どうしちまったんだ」
「一昨日すげーーいい仕事見つけちゃったんですよ。
だからもうこんな安アパート出ます。
次の物件で全部新しいのに変えるんで、
俺の私物はほとんど要りません」
「なんだってーーー?!」
言いながら、よいしょ。とまた荷物を運び出す。
ボブは口をあんぐり開けてそれを見つめていた。
そこでサイモン、はたと思いつく。
そっとボブに近づき、片手をあげて小さな声で話しかけた。
「…あの、他の人に言わないならちょっとだけおすそわけしますよ、仕事」
「マジか!?なんだそれ!!」
「俺の引っ越し手伝ってください。
荷物のほとんどを捨てて、掃除するだけなんですけど」
するとボブは大仰に肩をすくめてみせた。
はは、と小馬鹿にしたような笑いを漏らす。
「へぇ~、坊やのサイモンが俺をこき使おうってのかい。
一体いくらだ?銅貨1枚程度じゃ動かねぇぜ」
銅貨。
少し前まではこれを集めるためにあくせく働いていた。
そうだ、自分にもそういう時代があった。
サイモンはおかしくなって笑ってしまう。
「えー、どうしよっかな~、3枚にしよっかなーーー」
「へぇ3枚?」
「5枚にしよっかなーー?」
「おう5枚!」
明らかに相手の目の色が変わる。
そうだ、俺たちは銅貨5枚もあれば数日の食い扶持が確保できた。
でも…今となってはみみっちい。みみっちいな。
「はい、では金貨一枚差し上げます!
頑張って働いてください!」
そこでもったいぶっていた金額を告げる。
それを聞いたボブは、
ヒュッ…
息を飲んだ後、白目を剥いて倒れかけた。
「わーーー?!頭打ちますよ!!」
サイモンが慌ててそれを捕まえる。
ボブは動転しすぎて声にならない声を上げた。
「きっ、金貨…!?
サイモンが金貨を俺に払うだと!!!!????」
「しーーー!!!要らないならいいんですけど!!」
「いやもらう!くれ!いやくださいお願いします!!」
途端にボブが床に這いつくばる。
18歳のサイモンの、倍はあろうかという年の男なのにこれだ。
お金の力とは恐ろしい…。
サイモンはひそかに生唾を飲んだ。すると、
「で、でも金貨って!一体どこで何をどうしたんだ!?」
頭を上げたボブが泡を吹きながら聞いてきた。
まぁそれはここの隣人として当然の疑問だろう。
せっかくだから、牽制の意味も込めて話しておくとするか。
サイモンはまたしても声を潜めて口を開く。
「えー、これ誰にもナイショですよ~」
「ああ!」
「実は、一昨日ある獣人と知り合いまして」
「ほう」
「たまたま困ってたそいつを助けたら、
そいつメチャクチャ強くて。
軽く振りかぶっただけの片手で大樽をぶち壊すし、
石灯籠だって真っ二つに出来るって言うんです」
「へぇ…」
「だからそいつと組んで、闇闘技場に行ってきました。
手続きして出てもらって、
そいつに賭けたらあっという間に全員血の海。
圧勝で賭けも馬鹿勝ちでした。終わり」
「マジか…」
「マジです」
そう、性別は伏せておく。
これでこの男の脳裏には、さぞや筋骨隆々で恐ろしい
男獣人の姿が浮かんでいるだろう。
「今そいつには買い物に行ってもらってます。
で、今日中に新しい物件探してそこでそいつと住めたらなって。
これからはそいつとモンスター討伐クエストとか
お尋ね者ハントで暮らしていきます」
「……へぇ……」
さもなんでもないこと、と言いたげに今後の展望を語るサイモン。
これから彼とビッグケットはずっと一緒だ。
彼に何かあればすぐ気づくはず。
だから今サイモンがそれなりの金貨を持っているからといって、
アブク銭欲しさに彼を殺すと
彼女(ボブの中ではムキムキ男)の報復が待っている。
(嬉しそうに尻尾振ってるうちはまだいい。
でもそのうち、今ぽんと金貨出せるってことは
もっとたくさん持ってるって気づくはずだ。
…こっちが金持ってるからってトチ狂うなよオッサン…)
ここはノーマンエリア最外部。
ここの民度の低さはお察しだ。
金貨一枚で目の色を変えるほど金に餓えてる住人たち。
その一人であるボブ。
なんとか遠回しな警告でビビってくれるといいのだけど。
ちらりとボブを見ると、警告は効いたようだ。
やや顔を引きつらせた彼が薄い笑いを浮かべている。
「その獣人君、強いんだぁ?」
「軽い蹴り一発でアプカルルの首ふっ飛ばしてました」
「うわー…」
「もう人形相手みたいに、トロルもワーウルフも
殿堂入り王手のムキムキ人間も
真っ二つにしてたので、正直俺もちょっと引きました」
「ちょっと引いたで済んだオメーがスゲェよ」
はははは。
片方は朗らかに、片方は乾いた笑いを浮かべる。
ひとしきり笑うと、ボブはよし。と頷いた。
「無駄話すんませんボス。何からやりますか」
下手なことは考えるな。
目の前の仕事だけこなせ。
ボブの脳内にしっかり下僕の心得が出来たようなので、
サイモンは安心して次の言葉をかけた。
「じゃあうちの家財一式外に出して、ゴミ捨て場に運んでもらえますか」
「アイサー!」
ドラゴン代を払って帰ってもらって、まずは着替え。
ようやく清潔な服を着られる。
比較的マトモな服を再び選び、袖を通し、さて掃除。
もう大概要らないので、とにかくまとめて運んで
家の前に出してしまう。
ばたばたとホコリにまみれながら次々中の物を運び出していると、
隣人が訝しげに覗き込んできた。
「おい、朝っぱらからうるせぇな。なんの騒ぎだ」
半分下着のようなヨレヨレの服を着たオッサン。
彼の名は確かボブだ。
物乞い同然のことばかりして、昼間は大概酒を飲んで寝ている。
そうか、動き回って起こしてしまったんだな。
大体今朝じゃねぇし。
「すみません、あの、俺このアパート出るんで。全部捨てるんです」
「はぁ?ここを出る?つーか全部捨てる??一体どうしちまったんだ」
「一昨日すげーーいい仕事見つけちゃったんですよ。
だからもうこんな安アパート出ます。
次の物件で全部新しいのに変えるんで、
俺の私物はほとんど要りません」
「なんだってーーー?!」
言いながら、よいしょ。とまた荷物を運び出す。
ボブは口をあんぐり開けてそれを見つめていた。
そこでサイモン、はたと思いつく。
そっとボブに近づき、片手をあげて小さな声で話しかけた。
「…あの、他の人に言わないならちょっとだけおすそわけしますよ、仕事」
「マジか!?なんだそれ!!」
「俺の引っ越し手伝ってください。
荷物のほとんどを捨てて、掃除するだけなんですけど」
するとボブは大仰に肩をすくめてみせた。
はは、と小馬鹿にしたような笑いを漏らす。
「へぇ~、坊やのサイモンが俺をこき使おうってのかい。
一体いくらだ?銅貨1枚程度じゃ動かねぇぜ」
銅貨。
少し前まではこれを集めるためにあくせく働いていた。
そうだ、自分にもそういう時代があった。
サイモンはおかしくなって笑ってしまう。
「えー、どうしよっかな~、3枚にしよっかなーーー」
「へぇ3枚?」
「5枚にしよっかなーー?」
「おう5枚!」
明らかに相手の目の色が変わる。
そうだ、俺たちは銅貨5枚もあれば数日の食い扶持が確保できた。
でも…今となってはみみっちい。みみっちいな。
「はい、では金貨一枚差し上げます!
頑張って働いてください!」
そこでもったいぶっていた金額を告げる。
それを聞いたボブは、
ヒュッ…
息を飲んだ後、白目を剥いて倒れかけた。
「わーーー?!頭打ちますよ!!」
サイモンが慌ててそれを捕まえる。
ボブは動転しすぎて声にならない声を上げた。
「きっ、金貨…!?
サイモンが金貨を俺に払うだと!!!!????」
「しーーー!!!要らないならいいんですけど!!」
「いやもらう!くれ!いやくださいお願いします!!」
途端にボブが床に這いつくばる。
18歳のサイモンの、倍はあろうかという年の男なのにこれだ。
お金の力とは恐ろしい…。
サイモンはひそかに生唾を飲んだ。すると、
「で、でも金貨って!一体どこで何をどうしたんだ!?」
頭を上げたボブが泡を吹きながら聞いてきた。
まぁそれはここの隣人として当然の疑問だろう。
せっかくだから、牽制の意味も込めて話しておくとするか。
サイモンはまたしても声を潜めて口を開く。
「えー、これ誰にもナイショですよ~」
「ああ!」
「実は、一昨日ある獣人と知り合いまして」
「ほう」
「たまたま困ってたそいつを助けたら、
そいつメチャクチャ強くて。
軽く振りかぶっただけの片手で大樽をぶち壊すし、
石灯籠だって真っ二つに出来るって言うんです」
「へぇ…」
「だからそいつと組んで、闇闘技場に行ってきました。
手続きして出てもらって、
そいつに賭けたらあっという間に全員血の海。
圧勝で賭けも馬鹿勝ちでした。終わり」
「マジか…」
「マジです」
そう、性別は伏せておく。
これでこの男の脳裏には、さぞや筋骨隆々で恐ろしい
男獣人の姿が浮かんでいるだろう。
「今そいつには買い物に行ってもらってます。
で、今日中に新しい物件探してそこでそいつと住めたらなって。
これからはそいつとモンスター討伐クエストとか
お尋ね者ハントで暮らしていきます」
「……へぇ……」
さもなんでもないこと、と言いたげに今後の展望を語るサイモン。
これから彼とビッグケットはずっと一緒だ。
彼に何かあればすぐ気づくはず。
だから今サイモンがそれなりの金貨を持っているからといって、
アブク銭欲しさに彼を殺すと
彼女(ボブの中ではムキムキ男)の報復が待っている。
(嬉しそうに尻尾振ってるうちはまだいい。
でもそのうち、今ぽんと金貨出せるってことは
もっとたくさん持ってるって気づくはずだ。
…こっちが金持ってるからってトチ狂うなよオッサン…)
ここはノーマンエリア最外部。
ここの民度の低さはお察しだ。
金貨一枚で目の色を変えるほど金に餓えてる住人たち。
その一人であるボブ。
なんとか遠回しな警告でビビってくれるといいのだけど。
ちらりとボブを見ると、警告は効いたようだ。
やや顔を引きつらせた彼が薄い笑いを浮かべている。
「その獣人君、強いんだぁ?」
「軽い蹴り一発でアプカルルの首ふっ飛ばしてました」
「うわー…」
「もう人形相手みたいに、トロルもワーウルフも
殿堂入り王手のムキムキ人間も
真っ二つにしてたので、正直俺もちょっと引きました」
「ちょっと引いたで済んだオメーがスゲェよ」
はははは。
片方は朗らかに、片方は乾いた笑いを浮かべる。
ひとしきり笑うと、ボブはよし。と頷いた。
「無駄話すんませんボス。何からやりますか」
下手なことは考えるな。
目の前の仕事だけこなせ。
ボブの脳内にしっかり下僕の心得が出来たようなので、
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