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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第04話03 絶叫
しおりを挟む鬼のように強い、恐ろしい女が近づいてくる。
トロルのボボは慌てて膝をつき、上半身を床に投げ出した。
絶対服従土下座の姿勢。
「サッキフザケタ、ホントゴメン!
許シテ…命ダケワッ」
グシャン。
ビッグケットが高く振り上げた足。
その裏側がボボの後頭部にクリーンヒットした。
紙で出来た細工のように踏み抜いて穴を開ける。
血の壺である頭蓋骨はまたしてもビュービュー赤い液体を吹き出した。
「お、おまっ…トロルの頭蓋骨をこんな…ッ」
真隣でその惨劇を見届けたチョトツモーシンが
奥歯をガチガチ鳴らす。
ビッグケットは冷たい目でそれを見やり、
『お前も』「シネ」
ボボから引き抜いた脚を無造作に振り抜く。
真隣でへたり込んでいたチョトツモーシン。
丁度正座に近い姿勢だった彼の頭を蹴りで粉々にカチ割る。
パカンッッッ!!
『いい音。』
破裂に近かったので、一層甲高い音が響いた。
さてあとは…
(二人…)
もう早残り二人。
ガルーダのアイキャンフライと浮浪者のドントクライ。
まずはトロそうな方から。
「ヒェッ、た、たすけてくれ…!!」
腰が抜けて立てない年寄りを、
床からなんとか動こうともがく明らかに弱い生き物を、
助走をつけて軽やかに走りよって蹴り飛ばす。
丁度腹の辺りだったのか。
細い人体は真っ二つに裂けて飛び散った。
まるで祝い事のテープみたいに臓物と血が四方に散らばる。そして…
「ウワウワウワ、勘弁シテクレヨ…!!」
それまでの一部始終を空中から見守っていたアイキャンフライ。
まさかあの女、ジャンプ一回で数メートル飛んだりしないよな…。
地面の上、走り寄ってくるビッグケットを眺めていると…
「来タ!!!」
ホップ、
ステップ、
ジャンプ。
軽やかな足取りで助走をつけ、片手を振りかぶる。
身体全体を弓のようにしならせて…
「ギャアアアアアアア!!!!!」
届いた。
数メートル以上離れてるアイキャンフライの足首をがっちり掴む。
「シネ!シネ!シネ!!!」
[さよなら世界!!!!]
ドンッ!!!
身体のしなりを利用して、体全体で足首を掴んで地面に投げる。
床に叩きつけられたアイキャンフライは全身破裂で真っ赤に染まった。
『…終わり!』
すとんとしゃがむように着地。
ビッグケットは余裕の笑みを浮かべて立ち上がった。
ピンと立った尻尾の先が揺れる。
無傷の完勝。
他人の血にまみれた猫がたった一人、
闘技場のステージに立っている。
〈…な、な、な…!
なんということでしょう!!
不肖わたくしめ、こんな凄まじい一戦を見たことがありません!
ビッグケット選手!ケットシー混血女性ビッグケット選手!!
勝利です!!
圧巻の強さを見せつけて、あっという間の勝利です!!〉
……………
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?????
歓声ではない、割れんばかりの大絶叫が闘技場全体を包み込んで揺らした。
なぜなら大穴も大穴、ベット人数たった二人のダークホースが、
実況も唖然として仕事を放棄する速さで全員ぶちのめしたのだ。
結果に納得する人間など、
確信犯で挑んだ本人たち二人以外にいるわけがなかった。
「嘘だろ!!バルバトスが負けるなんて!」
「いや、女が勝つ事がありえない!」
「しかも遊んでるみたいに余裕たっぷりな勝ち方…ッ」
「アリエナイ!アリエナイ!!アリエナイ!!!」
「どうすんだよッ、返せよ俺の金!!!」
「アアアアア全財産スッたああああああああ
ヤベエエエエエエエエ」
最初の大絶叫が一段落しても、第二波第三波の山が来る。
そもそも今日はバルバトスの殿堂入りをかけた、
安牌の試合のはずだった。
取り分は少なくとも、とりあえず賭けておけば
ちょっとは勝てるんじゃないか。
そういう雑な試合になるはずだった。
よって、今回は大金を賭けて増やそうという人間が多かった。
なお、かけられる金額が増えるごとに運営側から独自の掛け算を施され、
返還金が増える仕組みになっている。
誰もがバルバトスの、
せめて対抗馬のムーン・チャイルドの勝利を信じていた。
なのに。
「か、勝った………ッ」
この会場内、客の中では唯一であろう
ビッグケットの勝利を確信していた人間。
サイモンが唇を震わせる。
いつまでも会場に響く怒号は、
たった二人以外の人間が賭けに負けた状況を反映している。
もう1人の酔狂なギャンブラーもひっくり返っているだろうか。
半分とはいえ、完全に人生が変わる額だ。
億。億の資産。億の個人財産。
そんなことがあっていいのか…??
そこにポンポン、と響く拡声器の音。
実況のエルフがマイクを叩いている。
〈…ええと、改めて確認します!
本日の勝者はケットシーの混血女性、ビッグケット選手!
ベット人数2人!
総返還額13億エルス!
ベットした方に配られる返還額はっ、
6億、5千万エルスになります…!!
おめでとうございます!!!!!〉
ウオオオオオオオオオオ!!!!!!
会場を揺らす絶叫。
これは当然おめでとうの意ではなく、
ふざけんなというブーイングの意味だ。
4万人越えの観客。
そのほとんどがあげているだろう声が、
サイモンの鼓膜をビリビリ震わせる。
「6億っ、5千万エルス…!!!」
改めて告げられた額。
これが、彼とビッグケット二人の物になる。
山分けもおこがましいくらいビッグケットの手柄だが、
彼女一人ではここまで漕ぎ着けられなかったのも事実。
間違いなく二人で掴み取った栄光だ。
「ろくおくごせんまんえるす…!ヒャはッ、ハハッ、」
つい最近まで飯もロクに食えなかった俺が、
行き倒れそうになってた俺が、
ろくおくごせんまんえるすの持ち主になる!
「ハハッ、は、ハハハ、キャは、はーーーっ…
ハハハ!あはは、キャハハ!!!
ギャーハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
自分でも聞いたことのない声が喉から出て、膝から崩れ落ちた。
汗が止めどなく吹き出して手がブルブル震えた。
嘘だろ、いや、嘘じゃない。
嘘じゃない、嘘じゃない!!!!!
俺が6億5千万エルスの持ち主!
人生!大逆転してやった!!!!!!!!
「…おいそこの!」
ガクガク震えていると、周りのオッサンたちが
訝しんで声をかけてきた。
…いや、違う。彼らはわかっている。
サイモンがビッグケットをここに送り込んだオーナーで、
この恐るべき大博打に勝った片方は確実にこの男だと。
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