負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第03話08 屈辱と決意

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(ウワーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!)

 検査官が下卑た笑みを浮かべている。
 そしておもむろに手招きし、仕草で股を開くよう指示し、

(アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!)

 つぷり。
 サイモンの苦悩も虚しく、酷くあっさり、
 すっと、嘘みたいに。
 ノーリアクションで(恐らく)膣に指を入れてしまった。
 その瞬間、ビッグケットが小さく肩を震わせたのは
 決して怯えた演技なんかじゃない。
 本気の拒絶。そして屈辱に耐える姿だ。

(ヤダァ…!!!!あいつ殺したい!!!!
 俺が鈍器で殴り飛ばしたい…!!!!!)

 下手なことを言うわけにも、庇うわけにもいかない。
 ハラハラして手を震わせながら見守るしかない。
 いち、に、さん…何秒経っただろうか。
 やがて検査官は、にやにやしながら指を引き抜いた。

「へへ、なんにも入ってなかったな。
 でも処女か。いい締まりだった。死んじまうのが惜しい」

 汚い言葉を口にしながら、抜いた指を嫌らしい目で見ている。
 もう耐えられない。

『ヤメロ!!!!!!!!!!』

 ケットシー語で叫んだのは、
 サイモンの最後の理性が仕事をしたからだった。
 それを聞いたビッグケットが伏せた黒い耳を小刻みに震わせる。

『…大丈夫…っまだ大丈夫…!』

 俯き震え、耐えるその姿が痛々しい。
 くそっ絶対勝てよビッグケット…!
 それじゃないと報われないよ…!

「次はケツだ」

 双方気持ちの整理がつかないうちに、さらに検査官が畳み掛ける。
 手招き。いやらしくビッグケットの尻に指を当てる。
 そして、

(ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!)

 またも無慈悲に指が入れられてしまった。
 しかも今度は、体内をまさぐってる動きまでハッキリわかる。
 にやにや笑いを崩さない検査官。

(嫌ーーーー嫌ーーーー嫌アアアアアアアアアア!!!!!!)

 サイモンは見ているだけなのに、
 まるで自分がされているような気持ちになって心臓が早鐘を打った。
 冷や汗が出てくる。
 あまりにもおぞましくて本気で吐きそうだ。
 耐えられない…!

「…ッ!!」

 そこで指が引き抜かれた。
 検査官はにんまりと笑みを浮かべてみせる。

「はいご苦労さん。
 なーーーんにも入ってなかったよ。
 偉かったな」

 それはダブルミーニングなんだろうか。
 ともかく、震えるビッグケットの頭を無遠慮にポンポン叩いた。
 そこでビッグケットが動く。バッと顔を上げ、

「………ッ…」

「なんだ?」


『殺してやる…!!!!』


 ドスの効いた、地を這うような威嚇。
 決して表情は見えなかったが、
 さぞや肝の小さい奴ならひと目見て死ぬような
 恐ろしい顔をしていたんだろう。
 検査官もサッと顔を取り繕った。

「ハハ…その恨みは試合で晴らしてくんな。
 俺は上から頼まれた仕事をしただけさ」

 その後、はい口の中見せて。
 ハイもういいぞ、なんて杜撰な口腔内のチェックを終えて。
 サイモンは思わずビッグケットに駆け寄った。
 身体は見れない。でもせめて、気持ちだけでも。

『モウ着テイイッテ』
『マジでぶっ殺す…ッ』
『ソノ怒リハ試合ニブツケテクレッテ言ッテタゾ』
『ハァ!?』

 弾かれたようにサイモンを見たビッグケットの目は、
 間違いなく夜叉の目をしていた。
 怒りからだろうか、
 血走って少し赤くなっている白目に、
 興奮で開いたり閉じたりする瞳孔があまりに恐ろしかった。

『殺ソウ。ミンナ殺ソウ』
『ああ、全員粉々にぶち抜いてやる』
『大丈夫』

 そっぽを向き、すっかり他人事を装う検査官に密かに中指を立てつつ、
 ビッグケットが服を着るのを手伝う。
 終わり次第、どっと疲れた気分でよろめきながら控え部屋に戻った。
 だが戻ったら戻ったらで、品性下劣な質問が飛んでくる。

「お嬢ちゃん、指入れられた?」
「きもちよかった?」
「濡レタカ?」
「お前、処女か…?」

 ハラハラしながら見守っていると、
 ストールを被って俯いたビッグケットがぼそりとつぶやく。

『………全員ぶっ殺す』

「「「……………」」」

「この子なんて??」

 バカ正直に聞かれたので、ついうっかりそのまんま言ってしまった。

「全員殺すって」

 その瞬間、全員が爆発するようなバカ笑いを奏でた。

「殺すか!そうか!そりゃ気持ちの上ではな!!」
「辛かったかー、そうかー、
 じゃあおじさんたち君みたいなかわいい子になら
 殺されてもいいかなーーー??」

「「「「ギャーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!」」」」

(でもこれ、本気なんだよなぁ…。
 こいつらもう少ししたら全員死ぬんだろうな…うん…)

 生暖かい気持ちになるサイモン。そこで。

「検査が全員終了した。そろそろ出番だ。
 登録者は登録料を出してくれ。
 あと賭ける奴は誰に何エルス賭けるか申告と払込みを」

 奥から新たな男が現れた。
 服は使用人然としている。受付の仲間のようだ。
 仮にこいつを案内人と呼ぼう。
 案内人のアナウンスを聞いて、サイモンが一番に袋を出した。

「はい、これが登録料。こっちは賭け金。
 賭ける対象は…これこいつらの前言わなきゃダメ?」
「別に要らないと思うが、伏せたいなら俺に耳打ちしてくれ」
「わかった。…俺が賭ける対象は

(ビッグケットだ)」

 瞬間、案内人の目が見開かれる。
 なんだって?そう小さく言った気もした。

「ほいじゃ、登録と処理よろしくなー。
 俺たちはどこ行きゃいいんだ?」

 手をひらひら振って歩き出すと、背後から案内人の声が飛んでくる。

「あ、ああ…このまま奥に進んでくれ。
 詳しくはあとで言うが、この先分かれ道がある。
 片方はステージに繋がっている。出場者の最後の控室だ。
 もう片方は登録者…オーナー用観覧席になっている」
「わかった。あんがとよ」

 影のように着いてくる、ストールを羽織ったビッグケット。
 そして他の参加者、登録者たちも案内人と金のやり取りをした後、
 それにぞろぞろ続く。

 簡素な扉を開けてくぐると、
 また洞窟のような長い道があり、
 その向こうに微かな光。
 明るい場所へ繋がっていることが見て取れた。 

(これが最後)

 一歩一歩歩きながら。屈辱に塗れるのもこれまでだ。

(次あいつに会う時は)

 靴音が響く。全員を血の海に沈めたあと。


『…ぞくぞくスル…!』


 歩いて歩いて、言われた通り分かれ道が現れる。
 全員が立ち止まり、
 先頭にいるビッグケットとサイモンが分かれるのを皆が待った。

「これが分かれ道。こちらが出場者、こちらがオーナーの歩く道だ」

 案内人が二手を指し示す。
 サイモンがビッグケットを見やると、
 猫は真っ黒なストールの下微かに唇を揺らした。

『サイモン、最後に聞かせてくれ』
『…ナンダ?』
『“死ね”って、共通語ではなんて言うんだ』

「死ね。」

「…シネ。」『わかった、ありがとう』

『…ジャアナ』
『ああ』
 そして二人は別れた。また会えることを固く信じて。



「…かましてやれ…!」


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