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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第03話06 いざ、闇闘技場へ
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闇闘技場概要
開門17時、試合開始18時。
参加者は登録者、出場者共に
17時半には闘技場に来ていること。
入り口は別紙地図参照。
持ち物、登録料金貨5枚。
武器持ち込み不可。己の肉体のみで戦うこと。
マジックアイテム、アクセサリー装備不可。
到着し次第身体検査敢行
(肛門、膣、口腔内も調査するので留意されたし)。
また、試合中身につけている事が発覚次第、
不正とみなし失格、敗退扱いとする。
参加人数、一戦につき10名。
「自分」以外の全員が死亡、
ないし戦意喪失、降参宣言確認で勝利とみなす。
ただし戦闘開始直後の降参宣言は認めない。
それが行われた場合はペナルティとして
闘技場運営側からギロチン刑が処される。
最低限の戦う意志の表示として、
他の出場者になんらかの暴力行為を行った後のみ宣言を認める。
勝者には登録者、参加者合わせて
金貨7枚を報酬として支給。
敗者には登録者にのみ登録感謝料金貨7枚を支給。
いずれも後日、事前登録した銀行口座に振り込む
(引き落とし権利書たる小切手は
試合終了後その場で登録者に授与)
(振り込み日数は原則翌日。場合によっては遅くなる)。
登録者は全参加者に賭ける事が可能
(自分が登録した参加者含む)。
勝者は翌日からの勝ち抜き戦に出場する権利が与えられる。
5回(5日連続)勝利で殿堂入りとなり、
以後出場権利を失う
(各勝利報酬は金貨7枚、登録者参加者に支給で固定)。
殿堂入りした参加者には報酬として金貨50枚を支給。
(…なるほど、殿堂入りすると
他に何もしなくても金貨73枚がもらえるのか。すげーーーな)
グリルパルツァー亭二階、レストラン部分。
サイモンは遅い朝食として出された目玉焼きと干し肉の戻した物、
野菜スープに炙った白パン(小麦のパン)のプレートセットを食べていた。
『…詳しいことわかった?』
「あー…」
向かいのビッグケットが同じ食事を取りながら尋ねてくる。
うーん、目下必要なとこだけ教えておこう。
『集マルノガ昼過ギ5時半まで。
必ズ相手ヲ殺ス必要ハナイ。
降参シタ奴ハ殺サナクテイイ。「えーと…」
着イタラズルガナイカ体ヲ調ベル。
…エット、股関ノ、前ノ穴モ後ロノ穴モ調ベル。
…大丈夫?ヤメトク??』
『はぁ~?ふーん…わかった…』
ビッグケットは最後の内容を聞いてさすがに大仰に驚いたが、
苦い顔で了承した。
さすがに、さすがに嫌だよな。でも…
『多分調ベルトカ言ッテメチャクチャ体触ラレルゾ。
下手シタラ…
ウーン、オ前ガ少シデモ嫌ナラ普通ニ出ルノヤメルヨ』
『いや、いい。大丈夫。ちんこ突っ込まれない限り耐える』
『大丈夫カ………』
『耐える』
不安だ…下手したらマジでやられそう…怖い…。
そん時こいつには反撃するだけの力があるけど、
暴れた上で無理やり出たら“作戦”がうまく行かないかもしれないぞ…?
うーん…
『いい、いつかは通る道だ。任せろ相棒』
不安そうなサイモンに、
ビッグケットは健気にも力強い笑みを浮かべてみせる。
それが逆に辛い。
でも、そこまで覚悟を決めている“相棒”に
待ったをかけるのも野暮ってもんだ。
『ワカッタ。ヤロウ。頑張レ』
『オッケー』
これで大体は伝えた。
サイモンが詳細要項をまとめた紙を机に伏せる。
『アト、一回勝ッタラ次ノ日カラ4日、
全部デ5日参加スル事ガ出来ル。
全部勝ッタラ「デンドウイリ」デ、モウ出ラレナイ。
ソウナッタラ合計金貨73枚モラエル』
『へぇ~』
『オレタチハ初日ノ賭け金デメチャクチャ勝ツ予定ダケド、
オ前ガソノ気ナラ全部勝ツノモイイナ』
『あーー、うん、そうだな。
一回出てみないとわからないけどな』
……………あのビッグケットが尻込みしている。
やっぱさっきの身体検査が怖いんだな。
『マ、詳シクハオ前ニ任セル。
トニカク今日勝ッテアト“ぽい”デモイイ』
放棄とかトンズラにあたるケットシー語が出てこない。伝われ。
『…わかった。大丈夫、今日は絶対勝つ。任せろ』
『アア』
それを聞いて、あとは黙々と食事を食べた。
集合時間まであと一時間半。
『どうした、サイモン』
「うーーーーーん……」
オーク夫妻とディーナ、男店員。
散々世話になったグリルパルツァー亭を笑顔で見送られて、
街に出ることしばし。
サイモンとビッグケットはとある大きな建物の前にいた。
『この建物は?』
『“ぎんこう”…ナンダケド……』
『何だそれ?』
『……オレノ、本当ノ全財産ガ入ッテル』
『はぁ』
マジでヤバイ時にしか手をつけないと決めていた「虎の子」。
…引き出そうか。
これを掛け金に加えれば配当金がぐんと増える。
でも、もし万が一ビッグケットが命を落とせばマジモンの無一文になる。
サイモンは大きく息を吸い、吐き出す。
長く長く吐き出す。
心臓がバクバクと高鳴る。
(…信じろ。信じろ。
俺を一生の相棒と呼んでくれたこの子の実力を)
彼はこれを全額引き出す気でここまで来た。
しかし、心の最後の迷いが断ち切れない。
いや、いや!いや!!信じろ!
ビッグケットは絶対に全員ぶっ殺す!!大丈夫だ!!
『ビッグケット、オレノ手ヲ握ッテ』
『ああ』
熱い肌が、指が、サイモンの白く痩せた手を握りしめる。
『…絶対大丈夫ッテ、言ッテ』
ビッグケットは一瞬不思議そうな顔でサイモンを見た。
しかしすぐに唇の端を持ち上げる。
『…絶対大丈夫。私はお前を置いて死んだりしない。
絶対今日勝ち残る。約束する』
『………アア。アリガトウ。
チョットココデ待ッテテ』
手をゆるりと離す。
ビッグケットを置いてサイモン一人、銀行に向かう。
「俺は男だ、ギャンブル一つ出来なくてどうする!!!」
どのみちビッグケットに出会わなければ近く飢えて死ぬ身だった自分だ。
ここで人生丸々賭けたって損なんかない!
俺の全財産、ビッグケットに賭けてやる!!!
「ありがとうございました」
銀行から出てきた彼の手には、新たな革袋と金属の音。
笑顔で歩いてくる姿にビッグケットも笑顔を向ける。
集合時間まであと45分。
『…………どきどきスル………』
『なんでお前が。私は検査しか怖くないぞ』
『ソウダロウケド』
そして、ついに。
裏通りの奥にある隠し通路を抜けて、この大螺旋階段にやってきた。
事前に打ち合わせも済ませた。
とにかく寸前までストールを羽織って下向いて、
殺されてしまう悲劇の女獣人を演じること。
試合開始からは好き勝手暴れていいこと。
事前検査で耐えられなかったら…まぁその時は出たとこ勝負だ。
以上。
今は響く靴音、近づく最下層に緊張が高まる。
『ヤバイ、心臓ガクチカラ出ソウ』
『大丈夫、もし出たら私が拾って食べてやる』
『何ソレ獣人ジョーク?』
『そんな感じ』
そして、祈りも虚しく、いや現実は残酷で。
昨日来た扉の前に辿り着いた。
昨日もいた受付が静かに佇んでいる。
「いらっしゃいませ。出場ですね」
「ああ、よろしく頼むぜ」
足も腕も震えそうになるのを内心叱咤する。
大丈夫、大丈夫、大丈夫…!
『頑張レ』
『任せろ』
小さく最後の言葉を交わして、開けられた扉をくぐる。
昨日圧倒された、客が入るのであろう大扉ではない。
少し奥まった所に隠れるようにある小さな扉。
開けると低い低い軋む音が響く。
くぐった扉の向こうは蝋燭の灯りだけが点々と点っている。
「ほら行け。検査は向こうだ」
例によって演技でビッグケットをどつきながら進む。
どこに他の出場者や主催側の人間がいるかわからない。
細心の注意を払わなくては。
「…!部屋がある」
やがて開けた場所に辿り着いた。
開門17時、試合開始18時。
参加者は登録者、出場者共に
17時半には闘技場に来ていること。
入り口は別紙地図参照。
持ち物、登録料金貨5枚。
武器持ち込み不可。己の肉体のみで戦うこと。
マジックアイテム、アクセサリー装備不可。
到着し次第身体検査敢行
(肛門、膣、口腔内も調査するので留意されたし)。
また、試合中身につけている事が発覚次第、
不正とみなし失格、敗退扱いとする。
参加人数、一戦につき10名。
「自分」以外の全員が死亡、
ないし戦意喪失、降参宣言確認で勝利とみなす。
ただし戦闘開始直後の降参宣言は認めない。
それが行われた場合はペナルティとして
闘技場運営側からギロチン刑が処される。
最低限の戦う意志の表示として、
他の出場者になんらかの暴力行為を行った後のみ宣言を認める。
勝者には登録者、参加者合わせて
金貨7枚を報酬として支給。
敗者には登録者にのみ登録感謝料金貨7枚を支給。
いずれも後日、事前登録した銀行口座に振り込む
(引き落とし権利書たる小切手は
試合終了後その場で登録者に授与)
(振り込み日数は原則翌日。場合によっては遅くなる)。
登録者は全参加者に賭ける事が可能
(自分が登録した参加者含む)。
勝者は翌日からの勝ち抜き戦に出場する権利が与えられる。
5回(5日連続)勝利で殿堂入りとなり、
以後出場権利を失う
(各勝利報酬は金貨7枚、登録者参加者に支給で固定)。
殿堂入りした参加者には報酬として金貨50枚を支給。
(…なるほど、殿堂入りすると
他に何もしなくても金貨73枚がもらえるのか。すげーーーな)
グリルパルツァー亭二階、レストラン部分。
サイモンは遅い朝食として出された目玉焼きと干し肉の戻した物、
野菜スープに炙った白パン(小麦のパン)のプレートセットを食べていた。
『…詳しいことわかった?』
「あー…」
向かいのビッグケットが同じ食事を取りながら尋ねてくる。
うーん、目下必要なとこだけ教えておこう。
『集マルノガ昼過ギ5時半まで。
必ズ相手ヲ殺ス必要ハナイ。
降参シタ奴ハ殺サナクテイイ。「えーと…」
着イタラズルガナイカ体ヲ調ベル。
…エット、股関ノ、前ノ穴モ後ロノ穴モ調ベル。
…大丈夫?ヤメトク??』
『はぁ~?ふーん…わかった…』
ビッグケットは最後の内容を聞いてさすがに大仰に驚いたが、
苦い顔で了承した。
さすがに、さすがに嫌だよな。でも…
『多分調ベルトカ言ッテメチャクチャ体触ラレルゾ。
下手シタラ…
ウーン、オ前ガ少シデモ嫌ナラ普通ニ出ルノヤメルヨ』
『いや、いい。大丈夫。ちんこ突っ込まれない限り耐える』
『大丈夫カ………』
『耐える』
不安だ…下手したらマジでやられそう…怖い…。
そん時こいつには反撃するだけの力があるけど、
暴れた上で無理やり出たら“作戦”がうまく行かないかもしれないぞ…?
うーん…
『いい、いつかは通る道だ。任せろ相棒』
不安そうなサイモンに、
ビッグケットは健気にも力強い笑みを浮かべてみせる。
それが逆に辛い。
でも、そこまで覚悟を決めている“相棒”に
待ったをかけるのも野暮ってもんだ。
『ワカッタ。ヤロウ。頑張レ』
『オッケー』
これで大体は伝えた。
サイモンが詳細要項をまとめた紙を机に伏せる。
『アト、一回勝ッタラ次ノ日カラ4日、
全部デ5日参加スル事ガ出来ル。
全部勝ッタラ「デンドウイリ」デ、モウ出ラレナイ。
ソウナッタラ合計金貨73枚モラエル』
『へぇ~』
『オレタチハ初日ノ賭け金デメチャクチャ勝ツ予定ダケド、
オ前ガソノ気ナラ全部勝ツノモイイナ』
『あーー、うん、そうだな。
一回出てみないとわからないけどな』
……………あのビッグケットが尻込みしている。
やっぱさっきの身体検査が怖いんだな。
『マ、詳シクハオ前ニ任セル。
トニカク今日勝ッテアト“ぽい”デモイイ』
放棄とかトンズラにあたるケットシー語が出てこない。伝われ。
『…わかった。大丈夫、今日は絶対勝つ。任せろ』
『アア』
それを聞いて、あとは黙々と食事を食べた。
集合時間まであと一時間半。
『どうした、サイモン』
「うーーーーーん……」
オーク夫妻とディーナ、男店員。
散々世話になったグリルパルツァー亭を笑顔で見送られて、
街に出ることしばし。
サイモンとビッグケットはとある大きな建物の前にいた。
『この建物は?』
『“ぎんこう”…ナンダケド……』
『何だそれ?』
『……オレノ、本当ノ全財産ガ入ッテル』
『はぁ』
マジでヤバイ時にしか手をつけないと決めていた「虎の子」。
…引き出そうか。
これを掛け金に加えれば配当金がぐんと増える。
でも、もし万が一ビッグケットが命を落とせばマジモンの無一文になる。
サイモンは大きく息を吸い、吐き出す。
長く長く吐き出す。
心臓がバクバクと高鳴る。
(…信じろ。信じろ。
俺を一生の相棒と呼んでくれたこの子の実力を)
彼はこれを全額引き出す気でここまで来た。
しかし、心の最後の迷いが断ち切れない。
いや、いや!いや!!信じろ!
ビッグケットは絶対に全員ぶっ殺す!!大丈夫だ!!
『ビッグケット、オレノ手ヲ握ッテ』
『ああ』
熱い肌が、指が、サイモンの白く痩せた手を握りしめる。
『…絶対大丈夫ッテ、言ッテ』
ビッグケットは一瞬不思議そうな顔でサイモンを見た。
しかしすぐに唇の端を持ち上げる。
『…絶対大丈夫。私はお前を置いて死んだりしない。
絶対今日勝ち残る。約束する』
『………アア。アリガトウ。
チョットココデ待ッテテ』
手をゆるりと離す。
ビッグケットを置いてサイモン一人、銀行に向かう。
「俺は男だ、ギャンブル一つ出来なくてどうする!!!」
どのみちビッグケットに出会わなければ近く飢えて死ぬ身だった自分だ。
ここで人生丸々賭けたって損なんかない!
俺の全財産、ビッグケットに賭けてやる!!!
「ありがとうございました」
銀行から出てきた彼の手には、新たな革袋と金属の音。
笑顔で歩いてくる姿にビッグケットも笑顔を向ける。
集合時間まであと45分。
『…………どきどきスル………』
『なんでお前が。私は検査しか怖くないぞ』
『ソウダロウケド』
そして、ついに。
裏通りの奥にある隠し通路を抜けて、この大螺旋階段にやってきた。
事前に打ち合わせも済ませた。
とにかく寸前までストールを羽織って下向いて、
殺されてしまう悲劇の女獣人を演じること。
試合開始からは好き勝手暴れていいこと。
事前検査で耐えられなかったら…まぁその時は出たとこ勝負だ。
以上。
今は響く靴音、近づく最下層に緊張が高まる。
『ヤバイ、心臓ガクチカラ出ソウ』
『大丈夫、もし出たら私が拾って食べてやる』
『何ソレ獣人ジョーク?』
『そんな感じ』
そして、祈りも虚しく、いや現実は残酷で。
昨日来た扉の前に辿り着いた。
昨日もいた受付が静かに佇んでいる。
「いらっしゃいませ。出場ですね」
「ああ、よろしく頼むぜ」
足も腕も震えそうになるのを内心叱咤する。
大丈夫、大丈夫、大丈夫…!
『頑張レ』
『任せろ』
小さく最後の言葉を交わして、開けられた扉をくぐる。
昨日圧倒された、客が入るのであろう大扉ではない。
少し奥まった所に隠れるようにある小さな扉。
開けると低い低い軋む音が響く。
くぐった扉の向こうは蝋燭の灯りだけが点々と点っている。
「ほら行け。検査は向こうだ」
例によって演技でビッグケットをどつきながら進む。
どこに他の出場者や主催側の人間がいるかわからない。
細心の注意を払わなくては。
「…!部屋がある」
やがて開けた場所に辿り着いた。
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