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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第03話03 厨房にて
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「…ナンダイコリャ」
「大変申し訳ありません」
こそこそホールを抜けて店員のエリアまでたどり着くと、
噂のオーク店主が待ち受けていた。
おかみさんより更にどしんと大柄な体。
片目が刀傷で潰れている。
昔冒険者だったとかなんだろうか。
「アナタ、昼間ノ猫チャンガ荷物取リニ来タッテ。
デモコンナ有様デショ?
オ湯アゲテイイワヨネ?」
「アア、イイケドヨ。コリャア…」
「大変申し訳ありませんッ…」
ビッグケットが無邪気にストールを下ろそうとするので、
ガッと頭を押さえつける。
布の下で猫耳が窮屈そうに蠢いているが、
ここはまだ一般客からも見える場所だ。
あんなヤバイ姿を晒すわけにはいかない。
「あの、昼間の件といい重ね重ねすみません。
厚かましいお願いだとは思うんですが…」
「アア、オ湯ヲ貸スクライ大丈夫。デモ昼間の話ハ…」
「俺たち、明日!
メチャクチャ金持ちになる予定なんです!!
だからあの、昼間の代金はまた後で払いにきます!!」
店主が嫌味ではないんだろうが、ため息をつく。
「デ、今飯ヲ食イタイッテ?
ソノ金ハドコカラ捻リ出シタンダ」
「あの、知り合いの古物商に
こいつの持ってたケットシーの通貨を買い取ってもらって。
ちゃんと金貨25枚になりました。
だから一食分くらい余裕で払えるはずです」
「ホウ、ソウナノカ!」
店員サイドが全員揃って口を丸くする。
「ンデ、明日金持チニナル予定ッテノハ?」
「ああ、こいつが闇闘技場に出るんです。
もうガッポガポですよ~!!」
指で「丸」を作り笑顔で語るサイモン。
そこで一瞬、サイモンとビッグケット以外全員の空気が凍った気がした。
あ、あれ?
「あの、その、こいつは殺され用じゃないですよ!?
普通に勝ち上がるんですよ!!?」
「「「ワァ、ナンダァ~~」」」
「「「エッ!?」」」
瞬間的に和んだ空気がまた張り詰める。
会話がわからないので明後日の方を向いているビッグケット本人を尻目に、
サイモンが熱弁する。
「こいつ、びっくりするくらい強いんです。
実はこの血も、カツアゲしてきた相手を返り討ちにした血で…」
「アラソウナノネ!?」
「ちょっと脅かして帰ってもらおうと思ったら、まさか、こんな量浴びちゃって…」
「あちゃ~、そうだったのかぁ~」
女性陣がそれぞれ感嘆する。
…良かった、これで誤解は解けたはずだ。
それを見て店主もうんうんと頷く。
「ナルホドナ…
ッテ、ディーナ!イツマデ油売ッテヤガル!ホールニ戻レ!」
「あっはーい!おかみさん、詳しくはまた後で教えてね!」
「ハイハイ、仕事シテラッシャイ」
ここでサテュロス…ディーナが離席する。
そうか、エプロンつけてるしあの子はホール担当なんだな。
サテュロスの年とかよくわかんないけど、見た目はサイモンより下に見える。
そのディーナが颯爽とホールに向かい、残された二人におかみが手招きする。
「ジャア、猫チャンハコッチニ来テ。
オ湯アゲル。途中デ荷物モ返スワ」
『ビッグケット、ゴメン、長々話シテテ。
奥サンガオ湯ヤルカラ来イッテ。荷物モクレル』
『はーい』
所在なげに壁にもたれて
尻尾をぷらぷらさせてたビッグケットがこちらを向き、
ぴょこんと向き直る。
サイモンは気持ち声を落としておかみに話しかけた。
「すいません、こいつ共通語がわからなくて。
俺一緒に行けないですよね。
何かあったら身振り手振りでお願いします」
「アラソウ、ゴ丁寧ニアリガトウ」
それを聞いたおかみが優しく笑う。
「アナタ優シイノネ。イイ男」
「えっ!?はい、ありがとうございます?」
「ウフフ」
そして二人は奥に消えた。
さて、その間にメニューでも見ておくかな。
サイモンは店主に声をかけ、先に席に座ることにした。
「あのすみません、メニューください」
「大変申し訳ありません」
こそこそホールを抜けて店員のエリアまでたどり着くと、
噂のオーク店主が待ち受けていた。
おかみさんより更にどしんと大柄な体。
片目が刀傷で潰れている。
昔冒険者だったとかなんだろうか。
「アナタ、昼間ノ猫チャンガ荷物取リニ来タッテ。
デモコンナ有様デショ?
オ湯アゲテイイワヨネ?」
「アア、イイケドヨ。コリャア…」
「大変申し訳ありませんッ…」
ビッグケットが無邪気にストールを下ろそうとするので、
ガッと頭を押さえつける。
布の下で猫耳が窮屈そうに蠢いているが、
ここはまだ一般客からも見える場所だ。
あんなヤバイ姿を晒すわけにはいかない。
「あの、昼間の件といい重ね重ねすみません。
厚かましいお願いだとは思うんですが…」
「アア、オ湯ヲ貸スクライ大丈夫。デモ昼間の話ハ…」
「俺たち、明日!
メチャクチャ金持ちになる予定なんです!!
だからあの、昼間の代金はまた後で払いにきます!!」
店主が嫌味ではないんだろうが、ため息をつく。
「デ、今飯ヲ食イタイッテ?
ソノ金ハドコカラ捻リ出シタンダ」
「あの、知り合いの古物商に
こいつの持ってたケットシーの通貨を買い取ってもらって。
ちゃんと金貨25枚になりました。
だから一食分くらい余裕で払えるはずです」
「ホウ、ソウナノカ!」
店員サイドが全員揃って口を丸くする。
「ンデ、明日金持チニナル予定ッテノハ?」
「ああ、こいつが闇闘技場に出るんです。
もうガッポガポですよ~!!」
指で「丸」を作り笑顔で語るサイモン。
そこで一瞬、サイモンとビッグケット以外全員の空気が凍った気がした。
あ、あれ?
「あの、その、こいつは殺され用じゃないですよ!?
普通に勝ち上がるんですよ!!?」
「「「ワァ、ナンダァ~~」」」
「「「エッ!?」」」
瞬間的に和んだ空気がまた張り詰める。
会話がわからないので明後日の方を向いているビッグケット本人を尻目に、
サイモンが熱弁する。
「こいつ、びっくりするくらい強いんです。
実はこの血も、カツアゲしてきた相手を返り討ちにした血で…」
「アラソウナノネ!?」
「ちょっと脅かして帰ってもらおうと思ったら、まさか、こんな量浴びちゃって…」
「あちゃ~、そうだったのかぁ~」
女性陣がそれぞれ感嘆する。
…良かった、これで誤解は解けたはずだ。
それを見て店主もうんうんと頷く。
「ナルホドナ…
ッテ、ディーナ!イツマデ油売ッテヤガル!ホールニ戻レ!」
「あっはーい!おかみさん、詳しくはまた後で教えてね!」
「ハイハイ、仕事シテラッシャイ」
ここでサテュロス…ディーナが離席する。
そうか、エプロンつけてるしあの子はホール担当なんだな。
サテュロスの年とかよくわかんないけど、見た目はサイモンより下に見える。
そのディーナが颯爽とホールに向かい、残された二人におかみが手招きする。
「ジャア、猫チャンハコッチニ来テ。
オ湯アゲル。途中デ荷物モ返スワ」
『ビッグケット、ゴメン、長々話シテテ。
奥サンガオ湯ヤルカラ来イッテ。荷物モクレル』
『はーい』
所在なげに壁にもたれて
尻尾をぷらぷらさせてたビッグケットがこちらを向き、
ぴょこんと向き直る。
サイモンは気持ち声を落としておかみに話しかけた。
「すいません、こいつ共通語がわからなくて。
俺一緒に行けないですよね。
何かあったら身振り手振りでお願いします」
「アラソウ、ゴ丁寧ニアリガトウ」
それを聞いたおかみが優しく笑う。
「アナタ優シイノネ。イイ男」
「えっ!?はい、ありがとうございます?」
「ウフフ」
そして二人は奥に消えた。
さて、その間にメニューでも見ておくかな。
サイモンは店主に声をかけ、先に席に座ることにした。
「あのすみません、メニューください」
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