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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第01話04 邂逅
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「めし…………」
道端に座り込み、腹の虫と静かに対話する。
朝シチューをたっぷり食べたのだから、
せめて今日はもう少し静かにしていてくれないと困る。
だが、まぁ、場所が悪かった。
(めっちゃいい匂いする…………!!!!)
何やら上部の開け放った窓から肉の焼けるい~い匂いがする。
ここはなんだっけ?
えーと、あ、
確かオークが店主をやってるグリルパルツァー亭だったような。
野蛮で知能が低いと有名なオークが飲食店やってるなんて驚きだよな。
繁盛してるみたいだし、さぞや出来た店主なんだろう。
考え込んでいると、頭上から肉の匂いが止めどなく降ってくる。
なんなら焼けるジュージューという音まで聞こえてきそうだ。
(確かこの店の名物はステーキだったな…すげーいい肉の…。
あー、いっぺんでいいから食べてみたい。
分厚い肉…噛みごたえのある肉!!って感じのめちゃくちゃ美味い肉…)
世は大航海時代。
高級品ながらようやく胡椒という存在が世に出回り始めた頃だ。
これまで畜肉など、すぐ腐り管理なんてしようがない困りものだった。
が、胡椒があれば美味しく長く保存出来る。
畜産に関わっていたり、牛や鶏や羊を自宅で飼ったりしなくても、
庶民が気軽に肉料理を食べられる時代がもうすぐそこまで来てるのだ。
(はぁ…肉…食いてぇ…)
俺もいつか金持ちになってたらふく肉を食う。
よし決めた。絶対達成する。絶対だ。
肉の焼けるいい匂いを嗅いで、これからの抱負を新たにする。
さーて腹は減ったが元気は出たぞ。
未来のステーキ待ってろよ…。
サイモンがよっこらせと立ち上がると。
みしっ
「??」
何やら頭上から鈍い音がした。すると突然、
「くぉらああああ!!!!
ふざけんなこの泥棒猫!!!!!」
先程のグリルパルツァー亭からドスの効いた怒声が降ってくる。
「!!???」
驚いたのもつかの間、次の瞬間
ガシャン!!!!!!メキメキバキ!!!
「うわ危なッ!!??」
頭上の窓が弾けた。パラパラとガラスが降り注ぐ。そして
ドズン!!!
サイモンの頭上、少し上にある看板に何かが落ち、
バキバキバキ!!!
その看板と「何か」も地面に落ちた。
一瞬の出来事。
サイモンは必死に自分を守ろうと、
ファイティングポーズに似た防御の姿勢をとるので精一杯だった。
な、なんだこの騒ぎは???
「✕✕✕✕✕!!!✕✕✕✕!!!!!」
何かが何かを叫んでいる。
目の前の、今落ちてきた何か。それは…
(えっ、スカート履いてない??!)
まず真っ先に目に入ってきたのは、血色の良い桃がかった白肌。
一見細いがほどよく筋肉のついた、メリハリある長い脚。太もも。
えっ、太もも!???
つるりとしたその脚を見て、咄嗟にこれは若い女なんだと思った。
次に、あまりに脚が剥き出しだからスカートを履いていないのかと思った。
違う。
「✕✕✕✕✕✕✕!!!!✕✕!!✕✕✕✕!!!」
それは、獣人の女だった。
肩くらいまで伸ばされたぼさぼさの黒い髪。
顔の向かって左半分が前髪で覆われてわからない。
もう半分にはギラギラと光る金の目がついている。
猫の耳。長い黒い尻尾。
そして、両腕を出した身体のラインが露わになる衣服と、
あまりにも短いズボン。
(わぁあああああ
こいつ脚が剥き出しだああああああー!!!!!!)
この時代、谷間を放り出す女はいても脚を丸々出す女はいない。
とはいえサイモンとて女を知らないわけでもない。
だが、あまりに大っぴらに出されたその長い脚を見て、
サイモンは思わず思いっきり赤面してしまった。
「わ、わぁ、すみません…!」
するとその猫獣人女は、何やらわめきながら
手に持った袋を突き出してきた。
えっと、何?そもそもこの言語はなんだ?
共通語ではない。
ドワーフ語やハーフリング語、ましてやエルフ語とかでもない。
その辺ならサイモンにも軽々訳すことが出来る。
違う、もっとマイナーな種族の言語だ。
(あっ…!)
「✕✕✕✕✕バアチャンガ✕✕✕✕!!金✕✕✕!!!✕✕✕!!!」
(これ、ケットシー語だ…!!)
ケットシー。男女共に100センチにも満たない猫の獣人の名前。
見た目は二足歩行の猫だが非常に知能が高く、
稀に商人や医療関係という職で人の国に出てくることがある。
「…おい兄ちゃん!そいつ捕まえててくれ!!食い逃げしやがったんだ、コンチクショウ!」
そうこうしていると、路地に人がやってきた。
怒り心頭といった表情の飲食店従業員
(白い服を着てるから多分そうだろう)。
…えーと、食い逃げ?こいつが?
それで窓をぶち破って上から降ってきた???
「コレ!バアチャンガ!✕✕✕金!!!」
猫女は何度も同じ言葉を叫んでいる。
どうやら、袋の中に彼女にとっての金が入っているらしい。
「あの、なんか、この人お金持ってるみたいですよ…?」
「ハァ~?!
なんかそれ見せられたけど、
金貨でも銀貨でもねーのが入ってたよ!!」
従業員に言われて猫女から袋をもらう。
フンスフンスと鼻息荒い彼女だが、…ああ。
中身はたくさんの綺麗な貝殻だった。
「こんなんでうちの飯が食えるかよ?!
どうしてくれんだよ兄ちゃん、アアン??!」
「え、えっと…っ」
「子供の玩具渡されても困るんだよォ!!」
怒鳴り散らす剣幕に押されて肩がすくむ。
猫女はサイモンのことをすっかり味方だと思ったのか、
彼の後ろにサッ!と隠れてしまった。
道端に座り込み、腹の虫と静かに対話する。
朝シチューをたっぷり食べたのだから、
せめて今日はもう少し静かにしていてくれないと困る。
だが、まぁ、場所が悪かった。
(めっちゃいい匂いする…………!!!!)
何やら上部の開け放った窓から肉の焼けるい~い匂いがする。
ここはなんだっけ?
えーと、あ、
確かオークが店主をやってるグリルパルツァー亭だったような。
野蛮で知能が低いと有名なオークが飲食店やってるなんて驚きだよな。
繁盛してるみたいだし、さぞや出来た店主なんだろう。
考え込んでいると、頭上から肉の匂いが止めどなく降ってくる。
なんなら焼けるジュージューという音まで聞こえてきそうだ。
(確かこの店の名物はステーキだったな…すげーいい肉の…。
あー、いっぺんでいいから食べてみたい。
分厚い肉…噛みごたえのある肉!!って感じのめちゃくちゃ美味い肉…)
世は大航海時代。
高級品ながらようやく胡椒という存在が世に出回り始めた頃だ。
これまで畜肉など、すぐ腐り管理なんてしようがない困りものだった。
が、胡椒があれば美味しく長く保存出来る。
畜産に関わっていたり、牛や鶏や羊を自宅で飼ったりしなくても、
庶民が気軽に肉料理を食べられる時代がもうすぐそこまで来てるのだ。
(はぁ…肉…食いてぇ…)
俺もいつか金持ちになってたらふく肉を食う。
よし決めた。絶対達成する。絶対だ。
肉の焼けるいい匂いを嗅いで、これからの抱負を新たにする。
さーて腹は減ったが元気は出たぞ。
未来のステーキ待ってろよ…。
サイモンがよっこらせと立ち上がると。
みしっ
「??」
何やら頭上から鈍い音がした。すると突然、
「くぉらああああ!!!!
ふざけんなこの泥棒猫!!!!!」
先程のグリルパルツァー亭からドスの効いた怒声が降ってくる。
「!!???」
驚いたのもつかの間、次の瞬間
ガシャン!!!!!!メキメキバキ!!!
「うわ危なッ!!??」
頭上の窓が弾けた。パラパラとガラスが降り注ぐ。そして
ドズン!!!
サイモンの頭上、少し上にある看板に何かが落ち、
バキバキバキ!!!
その看板と「何か」も地面に落ちた。
一瞬の出来事。
サイモンは必死に自分を守ろうと、
ファイティングポーズに似た防御の姿勢をとるので精一杯だった。
な、なんだこの騒ぎは???
「✕✕✕✕✕!!!✕✕✕✕!!!!!」
何かが何かを叫んでいる。
目の前の、今落ちてきた何か。それは…
(えっ、スカート履いてない??!)
まず真っ先に目に入ってきたのは、血色の良い桃がかった白肌。
一見細いがほどよく筋肉のついた、メリハリある長い脚。太もも。
えっ、太もも!???
つるりとしたその脚を見て、咄嗟にこれは若い女なんだと思った。
次に、あまりに脚が剥き出しだからスカートを履いていないのかと思った。
違う。
「✕✕✕✕✕✕✕!!!!✕✕!!✕✕✕✕!!!」
それは、獣人の女だった。
肩くらいまで伸ばされたぼさぼさの黒い髪。
顔の向かって左半分が前髪で覆われてわからない。
もう半分にはギラギラと光る金の目がついている。
猫の耳。長い黒い尻尾。
そして、両腕を出した身体のラインが露わになる衣服と、
あまりにも短いズボン。
(わぁあああああ
こいつ脚が剥き出しだああああああー!!!!!!)
この時代、谷間を放り出す女はいても脚を丸々出す女はいない。
とはいえサイモンとて女を知らないわけでもない。
だが、あまりに大っぴらに出されたその長い脚を見て、
サイモンは思わず思いっきり赤面してしまった。
「わ、わぁ、すみません…!」
するとその猫獣人女は、何やらわめきながら
手に持った袋を突き出してきた。
えっと、何?そもそもこの言語はなんだ?
共通語ではない。
ドワーフ語やハーフリング語、ましてやエルフ語とかでもない。
その辺ならサイモンにも軽々訳すことが出来る。
違う、もっとマイナーな種族の言語だ。
(あっ…!)
「✕✕✕✕✕バアチャンガ✕✕✕✕!!金✕✕✕!!!✕✕✕!!!」
(これ、ケットシー語だ…!!)
ケットシー。男女共に100センチにも満たない猫の獣人の名前。
見た目は二足歩行の猫だが非常に知能が高く、
稀に商人や医療関係という職で人の国に出てくることがある。
「…おい兄ちゃん!そいつ捕まえててくれ!!食い逃げしやがったんだ、コンチクショウ!」
そうこうしていると、路地に人がやってきた。
怒り心頭といった表情の飲食店従業員
(白い服を着てるから多分そうだろう)。
…えーと、食い逃げ?こいつが?
それで窓をぶち破って上から降ってきた???
「コレ!バアチャンガ!✕✕✕金!!!」
猫女は何度も同じ言葉を叫んでいる。
どうやら、袋の中に彼女にとっての金が入っているらしい。
「あの、なんか、この人お金持ってるみたいですよ…?」
「ハァ~?!
なんかそれ見せられたけど、
金貨でも銀貨でもねーのが入ってたよ!!」
従業員に言われて猫女から袋をもらう。
フンスフンスと鼻息荒い彼女だが、…ああ。
中身はたくさんの綺麗な貝殻だった。
「こんなんでうちの飯が食えるかよ?!
どうしてくれんだよ兄ちゃん、アアン??!」
「え、えっと…っ」
「子供の玩具渡されても困るんだよォ!!」
怒鳴り散らす剣幕に押されて肩がすくむ。
猫女はサイモンのことをすっかり味方だと思ったのか、
彼の後ろにサッ!と隠れてしまった。
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