負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

文字の大きさ
上 下
3 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第01話03 兎獣人のモモ

しおりを挟む
「あら~、サイモンさん!お仕事探しに来たの??」
「そー。なんかない?モモ」
「そぉね~」

 カーリーな長い髪が美しく艶めいている。
 頭に白く長い耳。
 前からでは見えないが、尻にも短いがふわふわとした尾。
 赤く大きな瞳がサイモンの姿を映し瞬く。
 大きく谷間の開いたミニ丈のドレスを着た目の前の女性は、
 兎の獣人アルミラージの混血だ。

 本来獣人と言えば、頭から爪先、骨格に至るまで
 ほとんど動物のそれなのだが、
 アルミラージのモモはそれらと大分異なった。
 獣毛のない滑らかな肌、人の身体に人の頭、人の顔が乗っている。
 有り体に言って、「ケモミミと尻尾」がついている以外は
 ほぼ人間ノーマンの女性の見た目だった。

 人間との混血が進めばこういう見た目の獣人もいなくはないが、
 こうも美しく完成した個体はそうはいない。
 モモは夜の街の売れっ子看板娘だ。

 開店前の午前の酒場。
 裏路地の石畳を進んだ先、奥まった場所にあるその店の前。
 モモは掃き掃除をしていた。日が暮れれば忙しくなる。
 雑用を済ませるならこの時間というわけだ。

「うーん、少し前に取れかけた看板直してもらっちゃったしな」
「うんうん」
「あとなんだっけ?買い出しとかって頼んでいいのかな?」
「いや、それはさすがに店の男連中に頼んだら…?」
「えー、せっかく気を利かせて用事をひねり出してあげてるのに…」
「……そりゃどうも………」

 サイモンは今、万屋よろずやを名乗って仕事を探している。
 結局はあらゆる他人の雑用係だが…
 頭脳が取り柄の彼にも、何かしらはさせてもらえると思ったのだ。
 ところがどっこい、荒事NG頭脳労働中心、と掲げると
 なんの仕事も来なかった。
 それもそうだ。世はモンスターと戦が蔓延る16世紀末。
 ガリガリひょろひょろの男に回ってくる高額労働など存在しなかった。

「うーーーーん………あっ!
 そういやそこの角の精肉店が間違えて羊肉たくさん買っちゃったから、
 売り子を探してるって言ってたよ。どうかな?」
「ああ、いいかも」
「サイモンさん力仕事いける?」
「…………いや、多分無理」

 せっかく舞い込みそうだったそれなりの仕事。
 真剣に考えると即無理そうで、項垂れるサイモンを見てモモがからからと笑った。

「…おい…!」
「アーハハハ!いやーー、ホンット男っぽいことなんにも出来ない人だね~!」
「うるせぇ、人には得意不得意があるんです。
 あと、男っぽいことなんにも出来ないと言ったな?
 昔お前を『買ってやった』恩を忘れたとは言わせないんだけど??」

「あっはいはい、その節はどーもで~す」
「軽い!軽いな!?」
「ふふふwww」

 モモは2年前、この街にふらっとやってきた流れ者だった。
 まぁ亜人獣人はほとんどがそういうタイプだが…
 当時、職も何もない彼女と偶然出会い、
 「一晩分の仕事」を頼んで少しの金銭を恵んだのは、
 誰であろう成人したての頃のサイモンだった。

 彼は彼でこの街に来て少し経ったくらいの時期だったので、
 どうにもほっとけなかったというのが本当のところだが。
 彼女とはそれ以来の縁だ。

「やー、でも力仕事NGとなるとやっぱ何もないよ?
 うち従業員は可愛い女の子か腕っぷしの強い男しかダメだし…」
「別に飲み屋で働きたいわけじゃない…」
「あらそう?じゃあ今日はお仕事ないみたい。ごめんね」

 モモが申し訳無さそうに眉尻を下げる。

「いや、いい。また来る」

 別に期待してたわけじゃないし、お前が悪いわけでもない。
 サイモンはそう言って薄く笑った。
 モモが手を振るので、こちらも振り返す。
 さて、ではあとはどこへ行こう。



「うーん、悪いね、今日は特にないかな」
「そうね~…また今度お願いしようかしら」
「そっか、兄ちゃんゴミの仕分けするかい?」
「じゃあこの本片付けてもらえるかしら」



 本当に、本当に雑用しかしていない。
 顔馴染みの所をぐるり一周して、
 一応「金を払う」と言われた仕事は全部やってきた。
 それでも当然小鳥の涙ほどしか稼げない。
 いやまぁ、無一文で腹を空かせるよりはいいんだけど。

「はぁ…歩き回ってなんか疲れた…」

 思わず独り言が漏れる。
 これでパン一斤とクズ野菜くらいなら買えるだろうか。
 パン一斤…何日食いつなげるだろう…。
 いや、半斤とチーズと野菜にした方が腹持ちと健康にいいだろうか…。
 しばし飯について思案していると、ついつい腹の虫もぐうと鳴いた。

(あー、そろそろ昼か…?)

 頭上を見上げると、太陽がだいぶ真上に近い場所にあった。
 煤けた石造りの建物たち、その隙間から現在の時刻を推測する。
 いい加減一旦休憩した方が良さそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美咲の初体験

廣瀬純一
ファンタジー
男女の体が入れ替わってしまった美咲と拓也のお話です。

処理中です...