神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅱ 第二学年

31 湖上の能舞台

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弁天様は慣れた足取りで玄関を上がり、社の回廊へ向かった、回廊に出ると目の前の景色が急に変わり、水平線まで延びる湖が広がったいた。
その湖の中を真っ直ぐ長い渡り廊下が伸びており、湖上に設けられた無人の能舞台に繋がっていた。

怪訝の思いながらも、その長い渡り廊下をのこのこと付いて行くと、弁天様が能舞台に一歩踏み入れた途端姿が掻き消えた、成程、僕にも付いて来いとの意思表示なのだろう、僕も身体を精神体に変えて後に従った。

牛の群の中に子猫が紛れ込んだらこんな気分なのだろう、舞台の上には巨大な気配が無数に満ちていた。

”小器用なものじゃ”
”まあ、最初の試験は合格かの”
”ふん”
”これは鬼の力じゃろうが”
”人なぞ殺してしまえ”

色々な存在の色々な意識が僕の中に流れ込んでくる、その圧力に押しつぶされそうだ。
ん?稲荷様だろうか、魅力的な尻尾の気配が有る、ん?竜の尻尾だ、これは龍神さまだろうか、神様だけあって素晴らしい尻尾だ、ちょっと触ってみても良いだろうか。

”こら”
”萎縮すると思っておったが余裕じゃな”
”ほんに、九尾が怖がっていた訳じゃ、見境が無い、場をわきまえよ”
”ほっ、ほっ、ほっ、次の試しに移って良いかの”
”布袋、貴様等人に甘すぎるぞ”
”そうよ時間の無駄だ、滅してしまえ”

好意の意識と嫌悪の意識が入り乱れている。

”そう言うな、ほれ。、俺の後に付いて来い”

毘沙門様の周囲を威圧する意識が広がって、その意識が別空間に渡って行った、僕も言われたとおりその後を追かける。

”よう来た”

そこには大きいのに何も無く、遠い場所なのに近くに居て、過ぎた時間なのに未来から話掛けて来る全てが混沌とした恐ろしげな存在が待っていた。

”何を驚いておる、我は何時も側におるじゃろうが”

時神様だ、他の神達も一目置いているようで、恐れの念が伝わって来る。
皮相や情報空間で空間概念が消滅した世界に慣れている筈の僕が、その感覚とは次元の違う空間の曖昧さに戸惑ってしまった。

”儂は構わんぞ、面白そうだ”
”試さんのか”
”守り人から聞いておる”
”なんじゃ、知っておるのか、茶番か。竜、狐、お前等も知っておったのか、無駄な事をさせおって”
”疫、厄、我らが言うても聞かぬ癖に”
”これこれ、ここで争うな、世界が揺れる。儂はどちらにも味方せん、見届けるだけじゃ。勿論面白そうな方が好きじゃがな。それにな、疫、厄よ。無理に鬼を引き入れるな、時間の繕いが大変じゃ、有るべき流れに従え”
”ふん、余計な口出しは不要じゃ、それがぬしの役処だろうが。不愉快じゃ、儂等去るぞ”

疫神や厄神達の気配と一緒に僕に向けられた嫌悪も消えた。

”一昨年までは奴らの意見に賛同する神が多かった、守り人共に空間を支えさせておっても所詮先送りに過ぎなからな。人に自ら歪みを正す力を与えたのに話が違うだろうと。じゃがお前が時を手繰って空間を渡る力を見せ始めてから意見を変える神が多くなってな、このままでも人社会に精神的な発展が望めるのではないかとな。疫や厄のプランじゃと鬼が育つまで収穫が望めんからのー”

要するに僕達の存亡は、神達にとって如何に単位面積当たりの収穫量を増やすかという議論にしか過ぎないようだ。
空間の歪みは連作障害、空間に存在を詰め込み過ぎて無理をさせ過ぎてるんじゃないだろうか。
何だか、神様を少し間引いた方が根本解決になりそうな気がする。

”こりゃ、滅多な事を考えるんじゃない”
”ごめんなさい”
”用は済んだ、帰って良いぞ。道は判るな”
”はい、たぶん”

気が付いたら、チョコの箱を手に持って立っていた。

「わー、それ旨そうだ。妾に食べさせろ」
「駄目だ、これは危険物だから僕のお腹の中で処分する」

口の中に放り込む、何かが身体の中にジワリと広がり、身体が一瞬熱くなった。
ん?外に空間の綻びが出来始めた、鬼が渡って来るのだろうか。
ん?今までは感じられなかったが、綻びの向こう側に疫神と厄神の気配がする、両神が鬼を異界から招き入れている主犯らしい。
こちらの空間から違う空間へとトンネルの様な気配が伸びて行く、そのトンネルを伝って鬼の気配が近づいて来る。
神々の掌の上で踊らされている様で面白く無いが、寮生を集めて罠を張らなければ。

鬼も僕同様に踊らされている被害者なのかも知れない、でも気の毒だが今は消えて貰う。
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