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Ⅰ 第一学年
8 授業開始
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「おう、クラス委員。昨日どんな夢見たんだ、教えてくれよ」
「ああ、あの先こう怖そうだけどよ、案外口先だけなんじゃないかと思ってっさ」
「あのね、土門君。先生に聞かれたら酷い目みるよ。先生は幻術の強力な使い手で、去年先生が担任だった寮の先輩達は凄く怖かったって言ってたよ。怖くて一週間位良く眠れないとか。でっ、どうだったの、雷夢君」
教室に入ったら、先に来ていた生徒達に囲まれた。
先生の言っていた怖い夢に興味があるらしい。
「急に夢ん中が真っ暗になってさ、その暗闇の中を悲しげな白い霧の顔が消えたり現れたりするんだよ」
「・・・、普通じゃねーか。おっ、俺は怖くないぞ」
「それで逃げようと思ったら、地面から白い手が一杯生えて来て纏わり付いて来てな」
「うん、ちょっと気持ち悪いわね」
「いや、俺は平気だぞ」
「足掻いてたら目の前に小さな白い服着た女の子が手を伸ばしてたんだ」
「それで」
「その子に手を伸ばしたら、行き成り頭から皮が裂けて血と肉片を纏った骸骨に変わったんだ」
「きゃー、いやー」
「うっ・・、いや、俺は平気だ。それくらい大丈夫だぞ」
「思わず悲鳴を上げそうになってさ、そしたら急に地面が裂けてさ、周りの光景を全部飲み込んだんだ」
「・・・・・・?」
「そんで、地の底から絞殺されそうになってる様な先生の物凄い泣き叫ぶ声が聞こえて来たんだよ」
「うっ・・・・・・・。なんかそれって、リアルに物凄く恐ろしい話じゃないのか」
「ああ、先生の叫び声が耳に着いて良く眠れなかった」
たぶん先生は僕の夢と一緒に乱道さんの夢の中にも入ったんだと思う。
朝の祈祷の時間に、念のため乱道さんに確認したら、寝るときは護符を外していたそうだ。
たぶんそうだと思った、乱道さんを起こそうと部屋に入った先輩が、悲鳴を上げていたのだ。
たぶん先生もこれで良い勉強をしたと思う。
祈祷?うん、朝の祈祷があるのだ、ここじゃ毎朝朝日に祈って国家安泰と五穀豊穣を祈るのだ。
陰陽師の義務だそうで、夜明け前に叩き起こされて無理矢理外に引っ張り出されるのだから良い迷惑だ。
始業のチャイムが鳴った、十分程のホームルームが有って、担任から連絡事項が知らされる。
年輩の先生が教室の前扉を開けて首を覗かせた。
「夢野先生は体調が優れないから休むとの連絡が有った。クラス委員、プリントを渡すから取りに来い」
乱動さんを除くクラス全員が黙りこくった。
「ねえ皆、どうしたの」
午前中は普通の授業が続いた、普通がこんなに嬉しい事だとは知らなかった。
午後からは普通じゃない専門教育の授業だが、まだ履修計画を提出していないので、一週間位は各授業を見学すれば良い筈だ。
月金が主要術式の日で、火木が従属術式の日、水曜日は両方の授業から選択する。
授業と言っても教室で座って聞く授業とは異なり、大学の研究室が行う講座に混じって専門的な勉強をするのだ。
人数の多い講座は大きな講堂で行うことになるし、人を取らない講座や人気のない講座は、講師とのマンツーマンの実習を兼ねた講義になる。
まず恭平おじさんの研究室に顔を出すことにした。
人気講座の様で、研究室の前に大勢の生徒達が並んでいた、先頭で穴の開いた木箱から籤を引かせているから、抽選なのだろうか。
おじさんは雷子物理工学科の広域情報システム研究室に属している。
ふと見ると恭平おじさんが研究室の入り口で僕を手招きしている、僕の後ろにも長い列が出来ていたので躊躇したが、仕方が無いので列を外れた、うん、並び直しかも知れない。
「おう雷人、良く来たな。おまえは適正検査の必要が無いからこっちに入れ」
「えっ、これって籤引きじゃないの」
「違うぞ、あの箱で適正を計ってるんだ。最近うちの講座の履修生を優先的に採用する一流企業が増えてな、それを聞いた連中が大学生も含めて殺到してるんだ、だからこうでもしないと捌き切れないんだよ。まっ、お前は別だ。こっちでコーヒーでも飲んで行け」
研究室の奥に通され、資料やら透明なアクリル箱に入った基盤やらが山積みになった中の応接セットでコーヒーを振舞われた。
脇に毛布が積まれているから寝泊りしてるんだろう、横で冷蔵庫ぐらいの大きさのコンピューターが唸りを上げている。
「おじさん、僕も適正検査受けないとフェアーじゃないんじゃないかな」
「お前は格ゲーで俺と良い勝負してるから大丈夫だ」
その時、綺麗な女の子が二人乱入してきた。
「恭平、なんで私が失格なのよ。ふざけるんじゃないわよ」
「お姉ちゃん、諦めなよ。見苦しいわよ」
良く似ている、双子なのだろうか、制服姿で僕と同色のネクタイだから同じ一年生なのだろう。
「あー!」
一人が撲を指差して叫んだ後抱き付いて来た、僕の胸に顔をすりすりしている。
「あー、なんで此奴がここに居るのよ」
これは、もう一人の反応だ、何故か撲を知っているらしい。
「あのー、君達は」
「あー、雷君酷い。恋人のこと忘れたの」
あっ、思い出した、面影が残っている、摩耶ちゃんと雷子ちゃんだ。
「ああ、あの先こう怖そうだけどよ、案外口先だけなんじゃないかと思ってっさ」
「あのね、土門君。先生に聞かれたら酷い目みるよ。先生は幻術の強力な使い手で、去年先生が担任だった寮の先輩達は凄く怖かったって言ってたよ。怖くて一週間位良く眠れないとか。でっ、どうだったの、雷夢君」
教室に入ったら、先に来ていた生徒達に囲まれた。
先生の言っていた怖い夢に興味があるらしい。
「急に夢ん中が真っ暗になってさ、その暗闇の中を悲しげな白い霧の顔が消えたり現れたりするんだよ」
「・・・、普通じゃねーか。おっ、俺は怖くないぞ」
「それで逃げようと思ったら、地面から白い手が一杯生えて来て纏わり付いて来てな」
「うん、ちょっと気持ち悪いわね」
「いや、俺は平気だぞ」
「足掻いてたら目の前に小さな白い服着た女の子が手を伸ばしてたんだ」
「それで」
「その子に手を伸ばしたら、行き成り頭から皮が裂けて血と肉片を纏った骸骨に変わったんだ」
「きゃー、いやー」
「うっ・・、いや、俺は平気だ。それくらい大丈夫だぞ」
「思わず悲鳴を上げそうになってさ、そしたら急に地面が裂けてさ、周りの光景を全部飲み込んだんだ」
「・・・・・・?」
「そんで、地の底から絞殺されそうになってる様な先生の物凄い泣き叫ぶ声が聞こえて来たんだよ」
「うっ・・・・・・・。なんかそれって、リアルに物凄く恐ろしい話じゃないのか」
「ああ、先生の叫び声が耳に着いて良く眠れなかった」
たぶん先生は僕の夢と一緒に乱道さんの夢の中にも入ったんだと思う。
朝の祈祷の時間に、念のため乱道さんに確認したら、寝るときは護符を外していたそうだ。
たぶんそうだと思った、乱道さんを起こそうと部屋に入った先輩が、悲鳴を上げていたのだ。
たぶん先生もこれで良い勉強をしたと思う。
祈祷?うん、朝の祈祷があるのだ、ここじゃ毎朝朝日に祈って国家安泰と五穀豊穣を祈るのだ。
陰陽師の義務だそうで、夜明け前に叩き起こされて無理矢理外に引っ張り出されるのだから良い迷惑だ。
始業のチャイムが鳴った、十分程のホームルームが有って、担任から連絡事項が知らされる。
年輩の先生が教室の前扉を開けて首を覗かせた。
「夢野先生は体調が優れないから休むとの連絡が有った。クラス委員、プリントを渡すから取りに来い」
乱動さんを除くクラス全員が黙りこくった。
「ねえ皆、どうしたの」
午前中は普通の授業が続いた、普通がこんなに嬉しい事だとは知らなかった。
午後からは普通じゃない専門教育の授業だが、まだ履修計画を提出していないので、一週間位は各授業を見学すれば良い筈だ。
月金が主要術式の日で、火木が従属術式の日、水曜日は両方の授業から選択する。
授業と言っても教室で座って聞く授業とは異なり、大学の研究室が行う講座に混じって専門的な勉強をするのだ。
人数の多い講座は大きな講堂で行うことになるし、人を取らない講座や人気のない講座は、講師とのマンツーマンの実習を兼ねた講義になる。
まず恭平おじさんの研究室に顔を出すことにした。
人気講座の様で、研究室の前に大勢の生徒達が並んでいた、先頭で穴の開いた木箱から籤を引かせているから、抽選なのだろうか。
おじさんは雷子物理工学科の広域情報システム研究室に属している。
ふと見ると恭平おじさんが研究室の入り口で僕を手招きしている、僕の後ろにも長い列が出来ていたので躊躇したが、仕方が無いので列を外れた、うん、並び直しかも知れない。
「おう雷人、良く来たな。おまえは適正検査の必要が無いからこっちに入れ」
「えっ、これって籤引きじゃないの」
「違うぞ、あの箱で適正を計ってるんだ。最近うちの講座の履修生を優先的に採用する一流企業が増えてな、それを聞いた連中が大学生も含めて殺到してるんだ、だからこうでもしないと捌き切れないんだよ。まっ、お前は別だ。こっちでコーヒーでも飲んで行け」
研究室の奥に通され、資料やら透明なアクリル箱に入った基盤やらが山積みになった中の応接セットでコーヒーを振舞われた。
脇に毛布が積まれているから寝泊りしてるんだろう、横で冷蔵庫ぐらいの大きさのコンピューターが唸りを上げている。
「おじさん、僕も適正検査受けないとフェアーじゃないんじゃないかな」
「お前は格ゲーで俺と良い勝負してるから大丈夫だ」
その時、綺麗な女の子が二人乱入してきた。
「恭平、なんで私が失格なのよ。ふざけるんじゃないわよ」
「お姉ちゃん、諦めなよ。見苦しいわよ」
良く似ている、双子なのだろうか、制服姿で僕と同色のネクタイだから同じ一年生なのだろう。
「あー!」
一人が撲を指差して叫んだ後抱き付いて来た、僕の胸に顔をすりすりしている。
「あー、なんで此奴がここに居るのよ」
これは、もう一人の反応だ、何故か撲を知っているらしい。
「あのー、君達は」
「あー、雷君酷い。恋人のこと忘れたの」
あっ、思い出した、面影が残っている、摩耶ちゃんと雷子ちゃんだ。
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