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Ⅲ 王都フルムル

1 兄妹王都に向かう1

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数日前に俺達がこの町に入って来る時に通った門が北門である。
裏門とも呼ばれ、門前の広場に隣国への辻馬車の駅が設置されて南門と比べると人の出入りの少なく、門前の小さな広場に食堂と道具屋が数軒並んでいる程度の寂れた場所だった。

その積りで北門を行ってみたら、小さな門前広場に篝火が煌々と焚かれ、多くの守備兵が広場でひしめき合っている荷車の交通整理に追われていた。
広場に至る通りや広場の外周には露店が立ち並んでお祭りの様な雰囲気である。

普段は出入りする人が殆どいない筈なのだが、殆どの商人が国軍によるノーラ街道の沼の生き物の排除を待ち切れず、アカクルカ街道を使っての輸送を選択したのでこの騒ぎになったらしい。

だが、アカクルカ街道で王都に向かうと、途中クスク山脈の南端の峠越えをしなければならない。
峠自体は高度も低くなだらかなのだが、巨木が生い茂るクスク大森林地帯の中にあり、視界の利かない中で野獣や魔獣と遭遇する確率が物凄く高くなる、だからこのルートは危険なので普段使われないし、峠道は難所とも呼ばれていた。

そのリスクを冒してまで多くの商人がこのルートを選択しているのは、国軍の派遣を当てにして待つ事の方が、よほどリスクが高いとの判断らしい。
馬を届けてくれたギルドの職員さんの話によると、町の評議会としてもノーラ街道の自主的な警備を国へ請願しているそうなのだが、町の警備兵を町外に派遣する行為は国への反逆と見なすとして拒まれているそうだ。
門番が疲れ切った顔で、ギルド札を形式的に確認している。

各荷車の警備は厳重だ、なるべく荷車隊の規模を大きくした上に、ノーラ街道の荷車に比べて二から三倍の護衛を配置している。
護衛役の冒険者達もアーマーを整え、緊張した顔付で装備を点検している。

それに比べれば俺達は身軽だ、ギルドの職員さんから受け取った馬に殆ど空身で跨っている。
必要な荷物は全てマジックボックスに放り込んであるから当然なのだが、周囲の物々しさに比べると浮いている。

馬はポニー程度の大きさしかないが、それでも全く経験の無い俺達にとっては不安だった、ジョージもマリアも馬には1,2回しか乗った事が無い。
不安一杯で馬に跨ってみたら、嬉しい事に跨った途端に乗馬のスキルを獲得した。
急いでポイントを割り振ってスキルをアクティブにしてみたら、必要な動作を馬へ指示できるようになっていた。

ギルド札を示して門を出る、入町記録は漢字で書いてあったので直ぐに解った。
日付を見るとこの門を入ったのは数日前なのだが、もっと以前の出来事のような気がしてしまう。

街道に出ると、暫く右手に街道とアカクルカ荒野を隔てる木杭が並んでいたが、道が森林地帯の上り坂に変わると見えなくなった。

街道の幅が狭くなり、荷車一台分が辛うじて通れる幅に変わって来る。
前を行く商隊の隊列を追い抜く事も出来ないので、前後を商隊に挟まれて、マリアと並んでのんびり馬を進める事になる。

最初は商隊の護衛への便乗と勘違いされ、前の荷車隊の後衛と後ろの荷車隊の前衛から邪険に扱われたのだが、闇ギルドの札を見せて、一キロ先の樹上に潜むゴブリンの集団を警告したら文句を言わなくなった。
伝令が一番先頭の商隊に走り警告する、気配を探っていたら先頭の護衛が数人森に入り木の上に登って樹上を飛ぶように移動して行く。
ゴブリンの潜む樹上の背後に回ると、ゴブリンの気配が次々に木から落ちて消えて行った。
物凄く手際が良い、何か特殊な技能集団の様だ。

「兄ちゃん凄いね、先頭の人達木の上飛んでたよ」
「ああ、二十匹居たゴブリンを三人で瞬殺だったな」
「ひっ、あんたら見えるのか」
「いや、気配で何となく解るだけだ」
「あいつ等山の民だ、あんた等と違って完全な黒髪、黒目だから高地の連中だろう」

暫く進むと伝令が戻って来た。

「先頭の荷主があんたらを雇いたいと言っている。報酬は一日で金貨一枚、戦闘行為毎に難易度に応じて別途報酬を追加で飯も付くそうだ。報酬は俺達の五倍だ、悪い話じゃ無いと思うぞ」
「荷は何か判るか」
「立派な馬車が混じっていたから要人の護衛だろう」
「ありがとう、話を聞いてみるよ」

その男に銀貨二枚を渡して先頭に馬を走らせる、報酬よりもむしろその高地の集団に興味がある。

先頭に出向くと立派な馬車の中に通された、中央に設置された椅子に座る雇い主を護る様に、黒装束で背中に刀を背負っている、そう、忍者みたいな人達が立っていた。
覆面はしておらず、近所のおじさんやお姉さん、お兄さん風の顔が並んでいた、うん、何か懐かしい。
雇い主は銀髪に紫色の目の美男子で、完全に貴族フェイスの人だった。

「私はミランダ公爵家のミハエルだ、友人を両親に紹介しようと連れて来たのだが今回の事態に遭遇してね。友人の両親に黙って連れてきたから急いでるんだ。宜しく頼むよ、あはははは。じゃっ、後はウィルに聞いてくれ」
「執事のウイリアムと申します」
「ジョーです、それと・・妻のマリです」
「早速ですがお二人は察知能力に優れているとお聞きしました。失礼ですがどの程度離れた気配ならお判りになるのですか」
「妻も私も千ノト(千メートル)ほど先の生き物の気配なら判ります」
「それは凄い。ヤマダ、お前の配下で最も優れた者でどの位だ」

ウイリアムさんが後ろに立っている忍者さんの方を振り向き、最年長の人物に問いかける。
引き締まった顔の白髪混りの角刈りの人で、職人さんみたいな感じの人だ。

「里に戻れば二百チト先の気配が探れる者もおりますが、今連れて来ている者では百チトが最高です」
「なら、この人達を雇うのに依存は無いな」
「・・・はい、ございません」
「失礼、この者達は公爵家の影の護衛を代々務めている隼衆の者達です。町中での仕事なら察知能力に不足は無いのですが森林地帯では不安を感じていたところなのです。ヤマダ、お二人と連携方法を打ち合わせて下さい」
「承知しました」

「気配を察知したら俺に教えるだけで良い」

先頭で馬を並べてヤマダさんと話している。

「距離と場所が解れば後は我々が対処する」
「馬車が魔物に襲われたら、どう対処する」
「護衛は我々の仕事だ、邪魔になるからお前達は逃げても良い。我々はお前達の護衛じゃないからお前達を護る義務は無い、その積りで自分の身は自分で護ってくれ」
「承知した」
「おじさん、私達強いから大丈夫よ、泥船に乗った積りでいて」
「マリア、泥船じゃなく大船だろ」
「・・・・・・、そうか期待している」
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