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6 衝突
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「貴様等怠惰だぞ、先ほどからまるで前に立たぬではないか。その安物の装備が惜しいという浅ましい了見じゃなかろうな」
「小煩い餓鬼だ。俺達はいざという時の為に力を貯めてるのよ」
「ほう、ありがたくて涙が出るわ。その案山子に毛が生えた程度の技量でいざの時の為に力を貯めるか。案山子なら逃げ出す足は無いが、貴様等には全力で逃げ出す足が有るからの。力を貯めた足で全力で逃げ出すか。逃げないだけ案山子の方がましじゃのー」
「何だと、てめー」
俺はひっそりと目立たぬように隠れ住む積もりで此処に来た。
五年も此処で市井に埋もれれば、奴らの監視の目が緩むと考えていたのだ。
頃合いを見計らってアムを海外にでも亡命させる事も可能だと考えていた。
勿論この性もない呪いを解除させてだ、そーすれば俺も安心して森の生活に戻れる。
だが、積もりはあくまで積もりに終わった。
そう、俺の連れの疫病神は想像以上に勤勉だったのだ。
此奴は矢鱈と目立った。
最初の一月は多少大人しくしていたが、慣れるに従って周囲と衝突するようになったのだ。
誤算と言おうか、人の食い物を剣で強請ろうとする姫様が冒険者に混じって平穏に過ごせると考えた俺が単に馬鹿だった。
全て此奴が悪い訳じゃない、むしろ正しいかもしれない。
だが人間関係は難しいのだ。
悪い奴、狡い奴は必ず居る、むしろこのスキルが無ければ冒険者家業は続かないとも言える。
だから多少の事は互いに我慢するし、やりすぎた場合は互いの輪から弾き出されるだけだ。
だがこの線引きは当然人によって異なる。
迷宮内で行動を共にしたベテラン冒険者が楽をしようと初心者パーティーを時々前線に立たせる。
もちろんまともなパーティーでは危険区域ではこんな事はしない、悪評が立つからだ。
だが時々相手の足下を見て、初心者を盾代わりにする連中もいる。
毎回ではないので、迷宮内で誘われても拒否する等の抗議の意志を示すことも難しく、相手も狡猾なので極力迷宮内でのトラブルは避けてしまう。
ところが我が相棒は面と向かって迷宮内で罵倒するのだ、堂々と。
相手も自分たちに否が有るのは解っている、が、面子がある。
餓鬼に罵倒されて引く訳には行かないのだ。
アムは口が達者だ、罵倒の専門教育を受けたのかと思うくらいだ。
口論相手、主に上昇志向の無いベテラン冒険者達なのだが、直ぐに旗色が悪くなる。
口で勝てないと悟った場合、通常自分達に有利な方法、要するに腕力で会話しようとする。
この考え方には俺も賛同できる。
餓鬼に言い聞かせるのは俺も拳が一番と考えている。
婆さんに止められていなければ、俺だってアムの説得に使いたい。
俺は婆さんが言っていた”こんな小さな女の子を殴るなんて人間失格だよ”は大袈裟だと思っていた。
なので最初にアムが俺の後ろに隠れた時、場の雰囲気を和らげようと冗談の積もりで言ってみた。
「おまえら、こんな小さな女の子を殴ろうなんて人間失格だぞ」
周りから笑いが起きると思っていた。
だが巻き起こったは賛同の怒号だった。
「そうだ、お前等男として恥ずかしく無いのか」
「お前等大人だろ、暴力に訴えるなんて卑怯だぞ」
「あんた達は卑劣なウジ虫よ。地獄に堕ちなさい」
「卑怯者、だから男なんて嫌なのよ」
婆さんの助言が正しかった事に少々驚いた。
そして相手は振り上げた拳の行き場を求めて俺に殴り掛かって来た。
相手にしてみれば小さな女の餓鬼を殴るのは、興奮しながらもさすがに躊躇して腕が縮んでいたのだろう、だが、厳つい男が相手になれば遠慮無く生き生きと殴り掛かって来た。
なので仕方なく俺も拳での会話を始めざるを得なかった。
そして俺は結果的に相手の説得に成功する、うん、とことん話し合い十二分に納得行くまで言い聞かせた、拳で。
一層で燻っているベテラン冒険者にはこんな連中が多い。
当然衝突は頻繁に起こり、アムの盾に使われる俺も含めて”子連れ狂犬”という有り難くない呼び名を頂戴して有名になってしまう。
此奴は俺の子供じゃない。
二十歳の俺にこんな大きな餓鬼がいてたまるか。
降り懸かる火の粉を払っただけなのに甚だ不本意である。
しかもアムの攻撃の標的はベテラン冒険者だけに留まらなかった。
アムは貴族達にも喧嘩を売った。
迷宮神を信仰する家系の貴族は信仰の明かしとして子弟に迷宮を探索させる。
だから家来を引き連れた貴族と迷宮内で遭遇することがあるのだ。
貴族であってもリスクを減らす為に他の冒険者と行動を共にするは同じ。
少し違うのは、此奴等戦闘を仕切ろうとするのだ。
アムは最初から場を仕切りたくてうずうずしている。
だが初心者の立場を鑑みろと毎回俺がグリグリで説得している。
だから貴族のお坊ちゃま連中が仕切ろうとした瞬間的に頭のポットが沸騰してしまうのだ。
貴族用語でのお上品な罵詈雑言の応酬が始まって、貴族本人よりも忠実な家来達が先に切れてしまう。
そして俺が拳で家来達の説得を試みることになるのだ。
この性悪ベテラン冒険者と貴族の子弟は嫌われながらも迷宮内での影響は大きい。
二大勢力と言っても過言ではない。
そんな二大勢力と平気で衝突を繰り返す無謀な冒険者。
俺達はそんな有名な存在になってしまった。
「ねえ、ゴル。こっち来て」
二月も毎日迷宮に潜っていれば、金もそれなりに貯る。
俺達は運が良い様で、毎回多くの獲物と遭遇している。
そこで二人の装備を買い換えることにしたのだ。
最初に買ったのが木の安物の装備なのでそろそろ齧られて薄くなっている。
アムが興奮気味に子供用の鎧コーナーで俺を呼んでいる。
鎧コーナーと言っても、子供の祭祀用に使う祝品が多く、実用性に乏しい物が殆どだ。
店の親父がいい加減で、子供の稽古用の防具も含めて一把一絡げで積み上げている。
今アムが着ているのも、ここの山から引っ張り出した竹製の地味な初心者用防具だ。
指さす先を見ると子供用の白い鎧、赤や青、黄やオレンジ、緑や紫の細いラインが風に棚引く羽衣の用に描かれている。
フルアーマー分揃っており、盾と一緒に並べられている。
盾には風の妖精のレリーフが浮き彫りにされており、脇の山の崩れ具合がアムの拾い集めた努力を物語っている。
値段は全部で金貨五枚、ガラクタにしては少々高い。
腕組みする俺にアムが耳打ちする。
”これな、ナスノ諸島の風の神殿で妖精に奉納する鎧なんだ。ニナリウムと魔石との合金で魔力を通せば物凄く堅くなる。ここの店主は知らんようだが最低でも金貨五百枚以上の価値がある品物だ。買い得だぞ”
この囁きに心が動いてしまった。
俺も装備を更新した。
見た目は只の布の服だがアムのお薦めだった。
銀貨八枚だったので、まあ、普通の値段だ。
”これな、水晶蛾の繭で作った魔法服だぞ。魔力を込めるとほれ、繊維が黒くなって強度が増すんじゃ。魔力は吸われるが自己修復機能も付いておる。買い得だ”
まあ多分違うと思う、貴族の宝物庫じゃあるまし伝説級の服が転がっている筈がない。
値段も普通だったし、着心地も良かったので買っておいた。
結局奮発したのは金貨一枚で買い求めた細鎖で織り上げたブーツくらいだった。
「まあ、アムちゃん可愛いわ、髪も染めたの。似合うわよ、妖精さんみたいよ」
「うん、とてもゴルと親子には見えない」
「お前等な、俺とアムは親子じゃないし、これは此奴の地毛だ」
ハルとミーだ、最近タウラスさんと組むことが多い。
俺は荷物持ちでも攻撃役でもこなせるし、ハルとミーの姉妹は貴重な地図役と治療役なので相性が良いのだ。
それにアムが迷宮内で喧嘩を始めるので、他のパーティーから多少避けられているとの事情も有る。
「え!、ゴルさん人攫いだったの。アムちゃん貴族の人よね、こっちにいらっしゃい匿ってあげるから」
「お前等なー」
「ははははは、ハルさんありがとう御座います。此奴は私の護衛みたいな奴ですから大丈夫です」
「あのなー、お前。誰が護衛なんだ」
「アム、神殿に訴え出れば此奴を捕まえて処罰して貰えるから本当の事言っても大丈夫だぞ、此奴は絶対に山賊だ」
「ほら二人ともいい加減にしてやれ、腕の歯形見ればどちらが尻に敷かれているか判るだろう」
「あ、そうか。さすが兄さん」
「うん、納得した」
あのなー、お前等。
「ほう、金属糸を織り上げてあるのか。模様も表面に描いたんじゃなくて糸自体を染めてから計算して織っている。ずいぶん手間が掛かってるぞ」
「わー、さすが兄さん、見て解るんだ」
「兄ちゃん、俺もこれ欲しい」
相変わらず仲の良い兄妹だ。
今日も安全地帯に着いてから昼飯にする。
俺達は相変わらず確率の低い場所降りるので順調に稼げている。
たぶんアムが何らかの要因になっている気がする。
「アムちゃん髪染めてたんだ」
「ゴルが目立たない方が良いって言うんで染めてたんです」
「私達もね銀髪なの。兄さんが目立ちたくないって言うから染めてるんだけど面倒臭いのよね」
「うん、俺は兄ちゃんに関係ないって言ってんだけど、貴族と思われると仲間が出来ないって言ってさ」
「貴族なんですか」
「大昔ね、でも今は殆どお百姓さんよ」
「うん、兄ちゃんなんか野良仕事得意だぞ」
「アムちゃんは?」
「逃げて来ちゃったんです、身内の争いが有って」
「へー、じゃ、ゴルさんは本当にお付きの護衛なの」
「うーん、難しいですね。護衛のような、道連れのような、拾い物のような」
「へー、大きな拾い物。何処で拾った」
「森の中」
「ねえ、ミー。私達も染めるの止めちゃおか」
「良いと思う。余計な手間が無くなる」
「うん、じゃ、帰ったら染料落とそう」
「小煩い餓鬼だ。俺達はいざという時の為に力を貯めてるのよ」
「ほう、ありがたくて涙が出るわ。その案山子に毛が生えた程度の技量でいざの時の為に力を貯めるか。案山子なら逃げ出す足は無いが、貴様等には全力で逃げ出す足が有るからの。力を貯めた足で全力で逃げ出すか。逃げないだけ案山子の方がましじゃのー」
「何だと、てめー」
俺はひっそりと目立たぬように隠れ住む積もりで此処に来た。
五年も此処で市井に埋もれれば、奴らの監視の目が緩むと考えていたのだ。
頃合いを見計らってアムを海外にでも亡命させる事も可能だと考えていた。
勿論この性もない呪いを解除させてだ、そーすれば俺も安心して森の生活に戻れる。
だが、積もりはあくまで積もりに終わった。
そう、俺の連れの疫病神は想像以上に勤勉だったのだ。
此奴は矢鱈と目立った。
最初の一月は多少大人しくしていたが、慣れるに従って周囲と衝突するようになったのだ。
誤算と言おうか、人の食い物を剣で強請ろうとする姫様が冒険者に混じって平穏に過ごせると考えた俺が単に馬鹿だった。
全て此奴が悪い訳じゃない、むしろ正しいかもしれない。
だが人間関係は難しいのだ。
悪い奴、狡い奴は必ず居る、むしろこのスキルが無ければ冒険者家業は続かないとも言える。
だから多少の事は互いに我慢するし、やりすぎた場合は互いの輪から弾き出されるだけだ。
だがこの線引きは当然人によって異なる。
迷宮内で行動を共にしたベテラン冒険者が楽をしようと初心者パーティーを時々前線に立たせる。
もちろんまともなパーティーでは危険区域ではこんな事はしない、悪評が立つからだ。
だが時々相手の足下を見て、初心者を盾代わりにする連中もいる。
毎回ではないので、迷宮内で誘われても拒否する等の抗議の意志を示すことも難しく、相手も狡猾なので極力迷宮内でのトラブルは避けてしまう。
ところが我が相棒は面と向かって迷宮内で罵倒するのだ、堂々と。
相手も自分たちに否が有るのは解っている、が、面子がある。
餓鬼に罵倒されて引く訳には行かないのだ。
アムは口が達者だ、罵倒の専門教育を受けたのかと思うくらいだ。
口論相手、主に上昇志向の無いベテラン冒険者達なのだが、直ぐに旗色が悪くなる。
口で勝てないと悟った場合、通常自分達に有利な方法、要するに腕力で会話しようとする。
この考え方には俺も賛同できる。
餓鬼に言い聞かせるのは俺も拳が一番と考えている。
婆さんに止められていなければ、俺だってアムの説得に使いたい。
俺は婆さんが言っていた”こんな小さな女の子を殴るなんて人間失格だよ”は大袈裟だと思っていた。
なので最初にアムが俺の後ろに隠れた時、場の雰囲気を和らげようと冗談の積もりで言ってみた。
「おまえら、こんな小さな女の子を殴ろうなんて人間失格だぞ」
周りから笑いが起きると思っていた。
だが巻き起こったは賛同の怒号だった。
「そうだ、お前等男として恥ずかしく無いのか」
「お前等大人だろ、暴力に訴えるなんて卑怯だぞ」
「あんた達は卑劣なウジ虫よ。地獄に堕ちなさい」
「卑怯者、だから男なんて嫌なのよ」
婆さんの助言が正しかった事に少々驚いた。
そして相手は振り上げた拳の行き場を求めて俺に殴り掛かって来た。
相手にしてみれば小さな女の餓鬼を殴るのは、興奮しながらもさすがに躊躇して腕が縮んでいたのだろう、だが、厳つい男が相手になれば遠慮無く生き生きと殴り掛かって来た。
なので仕方なく俺も拳での会話を始めざるを得なかった。
そして俺は結果的に相手の説得に成功する、うん、とことん話し合い十二分に納得行くまで言い聞かせた、拳で。
一層で燻っているベテラン冒険者にはこんな連中が多い。
当然衝突は頻繁に起こり、アムの盾に使われる俺も含めて”子連れ狂犬”という有り難くない呼び名を頂戴して有名になってしまう。
此奴は俺の子供じゃない。
二十歳の俺にこんな大きな餓鬼がいてたまるか。
降り懸かる火の粉を払っただけなのに甚だ不本意である。
しかもアムの攻撃の標的はベテラン冒険者だけに留まらなかった。
アムは貴族達にも喧嘩を売った。
迷宮神を信仰する家系の貴族は信仰の明かしとして子弟に迷宮を探索させる。
だから家来を引き連れた貴族と迷宮内で遭遇することがあるのだ。
貴族であってもリスクを減らす為に他の冒険者と行動を共にするは同じ。
少し違うのは、此奴等戦闘を仕切ろうとするのだ。
アムは最初から場を仕切りたくてうずうずしている。
だが初心者の立場を鑑みろと毎回俺がグリグリで説得している。
だから貴族のお坊ちゃま連中が仕切ろうとした瞬間的に頭のポットが沸騰してしまうのだ。
貴族用語でのお上品な罵詈雑言の応酬が始まって、貴族本人よりも忠実な家来達が先に切れてしまう。
そして俺が拳で家来達の説得を試みることになるのだ。
この性悪ベテラン冒険者と貴族の子弟は嫌われながらも迷宮内での影響は大きい。
二大勢力と言っても過言ではない。
そんな二大勢力と平気で衝突を繰り返す無謀な冒険者。
俺達はそんな有名な存在になってしまった。
「ねえ、ゴル。こっち来て」
二月も毎日迷宮に潜っていれば、金もそれなりに貯る。
俺達は運が良い様で、毎回多くの獲物と遭遇している。
そこで二人の装備を買い換えることにしたのだ。
最初に買ったのが木の安物の装備なのでそろそろ齧られて薄くなっている。
アムが興奮気味に子供用の鎧コーナーで俺を呼んでいる。
鎧コーナーと言っても、子供の祭祀用に使う祝品が多く、実用性に乏しい物が殆どだ。
店の親父がいい加減で、子供の稽古用の防具も含めて一把一絡げで積み上げている。
今アムが着ているのも、ここの山から引っ張り出した竹製の地味な初心者用防具だ。
指さす先を見ると子供用の白い鎧、赤や青、黄やオレンジ、緑や紫の細いラインが風に棚引く羽衣の用に描かれている。
フルアーマー分揃っており、盾と一緒に並べられている。
盾には風の妖精のレリーフが浮き彫りにされており、脇の山の崩れ具合がアムの拾い集めた努力を物語っている。
値段は全部で金貨五枚、ガラクタにしては少々高い。
腕組みする俺にアムが耳打ちする。
”これな、ナスノ諸島の風の神殿で妖精に奉納する鎧なんだ。ニナリウムと魔石との合金で魔力を通せば物凄く堅くなる。ここの店主は知らんようだが最低でも金貨五百枚以上の価値がある品物だ。買い得だぞ”
この囁きに心が動いてしまった。
俺も装備を更新した。
見た目は只の布の服だがアムのお薦めだった。
銀貨八枚だったので、まあ、普通の値段だ。
”これな、水晶蛾の繭で作った魔法服だぞ。魔力を込めるとほれ、繊維が黒くなって強度が増すんじゃ。魔力は吸われるが自己修復機能も付いておる。買い得だ”
まあ多分違うと思う、貴族の宝物庫じゃあるまし伝説級の服が転がっている筈がない。
値段も普通だったし、着心地も良かったので買っておいた。
結局奮発したのは金貨一枚で買い求めた細鎖で織り上げたブーツくらいだった。
「まあ、アムちゃん可愛いわ、髪も染めたの。似合うわよ、妖精さんみたいよ」
「うん、とてもゴルと親子には見えない」
「お前等な、俺とアムは親子じゃないし、これは此奴の地毛だ」
ハルとミーだ、最近タウラスさんと組むことが多い。
俺は荷物持ちでも攻撃役でもこなせるし、ハルとミーの姉妹は貴重な地図役と治療役なので相性が良いのだ。
それにアムが迷宮内で喧嘩を始めるので、他のパーティーから多少避けられているとの事情も有る。
「え!、ゴルさん人攫いだったの。アムちゃん貴族の人よね、こっちにいらっしゃい匿ってあげるから」
「お前等なー」
「ははははは、ハルさんありがとう御座います。此奴は私の護衛みたいな奴ですから大丈夫です」
「あのなー、お前。誰が護衛なんだ」
「アム、神殿に訴え出れば此奴を捕まえて処罰して貰えるから本当の事言っても大丈夫だぞ、此奴は絶対に山賊だ」
「ほら二人ともいい加減にしてやれ、腕の歯形見ればどちらが尻に敷かれているか判るだろう」
「あ、そうか。さすが兄さん」
「うん、納得した」
あのなー、お前等。
「ほう、金属糸を織り上げてあるのか。模様も表面に描いたんじゃなくて糸自体を染めてから計算して織っている。ずいぶん手間が掛かってるぞ」
「わー、さすが兄さん、見て解るんだ」
「兄ちゃん、俺もこれ欲しい」
相変わらず仲の良い兄妹だ。
今日も安全地帯に着いてから昼飯にする。
俺達は相変わらず確率の低い場所降りるので順調に稼げている。
たぶんアムが何らかの要因になっている気がする。
「アムちゃん髪染めてたんだ」
「ゴルが目立たない方が良いって言うんで染めてたんです」
「私達もね銀髪なの。兄さんが目立ちたくないって言うから染めてるんだけど面倒臭いのよね」
「うん、俺は兄ちゃんに関係ないって言ってんだけど、貴族と思われると仲間が出来ないって言ってさ」
「貴族なんですか」
「大昔ね、でも今は殆どお百姓さんよ」
「うん、兄ちゃんなんか野良仕事得意だぞ」
「アムちゃんは?」
「逃げて来ちゃったんです、身内の争いが有って」
「へー、じゃ、ゴルさんは本当にお付きの護衛なの」
「うーん、難しいですね。護衛のような、道連れのような、拾い物のような」
「へー、大きな拾い物。何処で拾った」
「森の中」
「ねえ、ミー。私達も染めるの止めちゃおか」
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