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5 迷宮
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「憧れの迷宮じゃ、童の足を引っ張ったら中に捨てていくぞ、ゴル」
アムが#燥__はしゃ__#いでいる、ふん縛って犬やネズミの供物にしたいが我慢だ。
俺達は西入りの広場に到着した、西出の広場と同じ広さで同じ様に転送石が中央 に置いてあるが、こちらの転送石の表面は虹色に輝く靄の様な感じになっている。
広場の周囲の店は、武器屋、防具屋、薬屋、道具屋等の迷宮に入る為の装備を商う店が多い。
広場に店を広げている露店も弁当や携帯食、お守り等同じく迷宮に入る冒険者目当ての店が多かった。
防具屋で基本的な最低限の装備を購入する。
道に迷った場合の最低限の非常食、寝具も必須だ。
講習は六時から八時までの二時間だった。
今の時間が九時、普通の冒険者達は夜の開ける五時には潜り始める。
だから、この時間ならば大きな群は優秀なパーティーが狩り尽くしている筈なので、魔獣の少ない比較的安全な時間帯の筈だ。
だがこれは、俺達初心者には最適な時間だが、普通の冒険者にとっては実入りの少ない不人気な時間帯になる。
なので、がら空きの広場を想像していたのだが、意外な事に転送石が前が混んでおり、人集めの声が飛び交っていた。
講習を受けた連中が俺達同様に挑戦しに来たのだろうか。
転送石を潜るとランダムな場所に飛ばされるのは先ほどの講習で聞いている。
安全な時間帯であっても残っていた群の中に飛ばされる可能性はある。
単独で潜って五匹のネズミと遭遇すれば、そこで人生が終わる。
ゆえに迷宮の中で死にたくなければ、複数で行動することが大原則となる。
仲間がいない者達、殆どがそうなのだが、は転送石前で仲間を集めることが必要になる。
パーティーの基本構成は攻撃役が五人、治療役が一人、地図担当が一人と荷物持ち一人の組み合わせが標準形だ。
狭い空間での動きの早い小さな相手が標的なので、飛び道具は危なくて使えない。
また魔道具を使った攻撃魔法も、得られる魔石と消費する魔石のバランスが釣り合わないことから低層では使われなかった。
「荷物持ち一人と攻撃役一人で頼む」
「了解した。でもそんな小さな子で荷物持ちが勤まるのか」
「いや、俺が荷物持ちで此奴が攻撃役で頼む」
「攻撃力の有る荷物持ちは大歓迎だが・・・、まっ良いだろう。今日は特別だ」
最初なのでアムは荷物持ちに回そうと考えた。
「童が侍従の役回りなど出来るか、不名誉極まりない。前線での戦士役以外はやらん」
と曰って譲らないのだ。
俺は此奴に危険な役割は遣らせたくない。
俺の命が惜しいからだ。
仕方がない、危ないと思ったら此奴を背負子に突っ込んで俺が前衛に回ることにした。
八人が手を繋いで転送石を潜る。
頭上から風が吹き下ろして、風に溶け込むように降下する感覚があった。
足裏に床を感じたら山刀を腰から引き抜く。
地図担当を護るように攻撃役が四方に立って警戒する。
「赤三十二、黄色四十六、青十二。真っ直ぐ」
地図担当が辞書の様な地図を捲って指示を出す。
周囲の迷路の形から該当するパターンのページを検索し、現在位置の危険度と危険度の低い方向を指示するのだ。
現在位置の地形パターンに該当する場所は、危険地区に三十二カ所、注意地区に四十六カ所、安全地区に十二カ所有り、真っ直ぐ進むパターンが最も危険性が少ないとの指示だ。
この地図役の検索速度の優劣がパーティーの生還率に大きく影響するそうだ。
五メートル幅の通路を攻撃役が横一線に盾を構えてカタツムリの様に前進を始める。
その後ろ、二メート程の距離を取って地図役と治療役が付いて行き、荷物持ちが最後尾を歩く。
戦闘場所として選ぶ場所の基本は部屋と通路の境、二メートル四方の開口部だ。
三人が盾で開口部からの魔獣の進入を防ぎ、二人が脇や間を抜けてきた奴を仕留めるのが基本、最も安全な戦い方だ。
次善の戦闘場所が通路、攻撃役が横一線に並び背後に回られない様にする。
数パーティーが合流できれば、むしろ通路の方が戦い易いのだが、単独パーティーでは一カ所破られれば背後に回られて苦戦する。
そして部屋の中での戦闘が最悪、地図役、治療役、荷物持ちを守るように円陣を組むのだが、密集して戦うので非常に動き難い。
なので少人数のパーティーでは極力部屋の中へ入らないようにする。
アムにも軽い木の盾を持たせてあるが、横一線となった攻撃役の中では一際小さい。
此奴の性格では、列を乱して突出しそうなので腰縄も真剣に考えた。
だが、犬歯を剥いて威嚇されてしまったので諦めた。
地図役は歩きながらも地図を調べて行く。
「赤六、黄色九、青無し、左」
可能性の有る場所は一桁に絞られた来た、その瞬間右脇の治療役から悲鳴が上がった。
「来た、横」
後ろ右脇の部屋からネズミが湧いて出て来た。
二十匹程度だから多くはない。
だが攻撃役は間に合わない、攻撃の邪魔にならないように互いに前後の距離を取っているのだが、これが災いした。
治療役を背後に押しやりながら俺が前面に立つ。
治療役に飛付こうとするネズミを叩き落として蹴り上げる。
後は夢中で、飛付いて来るネズミを片っ端から叩き落とし続けた。
少し遅れて攻撃役の一人、最初に人を集めていた奴が俺の脇に立った。
捌く数が半分に減って余裕が出来る、狙いが正確になり、三匹に一匹は頭をかち割って一発で倒す。
一発で倒せなかったネズミは臑当てを囓りに来るので蹴り飛ばす。
攻撃役が揃い始める。
何故か皆、俺の前に出ないで横に並んでいる。
力量は最初の奴以外は少々お粗末だった。
それに比べれば、アムの方がましだった。
前に出ようするのを背中で妨害して、弱ったネズミを適当に背後のアムに流して様子を見たのだ。
地図役と治療役も加わって、そのネズミを仲良く袋叩きにしている。
地図役と治療役も力量不足の攻撃役に比べれば上だった。
徐々に数が減って行き、最後の一匹は俺一人で頭を叩き割った。
すべて倒してから落ちている魔石を回収する、全部で二十三匹分だった。
「ありがとう、怪我は無かった?」
地図役が俺に声を掛けて来た。
アムより少し上くらいの若い女性だ。
「ああ、大丈夫だ。気付くのが早くて良かった。坊主のお手柄だ」
「あんちゃん、俺、女だからな」
「あ、すまん」
ヘッドギアを被っているので解らなかったが、男の餓鬼と思っていた治療役も女だった。
「兄ちゃん、反応悪いぞ。この親父さんが居なかったら姉ちゃんと俺、危なかったぞ」
「ミーすまん。ありがとう、俺はタウラス、こいつがミラナスでこいつがハルナス。双子だ」
「ゴルです、こいつはアムです」
「脇に居ながら俺も出遅れた、すまん。俺はムラトでこいつがサカト、こいつがキキだ」
「よろしく」
最初の三人は兄妹、残りの三人は友人のパーティーの様だ、急いで潜ったので名前を確認していなかった。
最初の三人は経験者、残りの三人は初心者という感じだった。
「ハル、あまり離れるな」
ハルナスさんが俺たちから少し離れて、ネズミが出て来た右脇の部屋を熱心に覗き込んでいる。
「兄さん、ごめんなさい。でも場所の特定が終わったわ。ここよ」
ハルナスさんは戻って来ると地図を広げて指さした。
赤く塗られた区域と黄色に塗られた区域の境目だった。
「最悪じゃないけど危険な区域よ。慎重に進みましょ、左よ」
その後十数匹程度の小さな群の鼠や犬と八回程遭遇し、無事黄色の区域を抜けて青の区域に到達した。
青の区域とは、通路と部屋との間に扉が多く存在する区域で、扉に遮られて群が大きくならないので安全な区域だ。
中の魔獣を倒した後であれば、扉を閉めておけば安全にくつろげる。
休憩して弁当を食うことになった。
すでに何組かのパーティーが休憩している区画で荷を降ろした。
「よう、タウ。雛の案内当番ご苦労様。ずいぶん遅い昼飯みたいだが、様子はどうだ」
そんなパーティーの一人がタウラスさんに話しかけて来た、知り合いなのだろう。
思った通り、タウラスさん達は初心者の引率役だった様だ。
「よう、テルース。今日は百三十七匹倒してやっとここに辿り着いたよ」
「え!、百三十七匹。あの時間入ってか?そりゃ大漁だな。運が良かった・・・、いや悪かったのか」
「ああ、最初赤の区域に降りちまったからな。他のパーティーにも会えないしさ。ひやひやだったよ。ベテランが一人混じってたんで助かった」
「何処に降りたんだよ」
「ハル、地図いいか」
「はい、兄さん」
ハルナスがバックから地図を出してタウラスさんに渡す。
「ここなんだよ」
タウラスさんが地図を広げて示す。
「えー!、ここか。リン、ちょっといいか」
「なあにテル」
地図役なのだろう、ハルナスさんと同じ様な格好の女性がやってきた。
茶色い髪をポニーテールした優しい知的な顔の少し年上の女性だ。
「タウ達がここに降りたんだってよ」
「えー!、ここに降りる確率って凄く低いんだよ」
「リンは転送石の転送先の研究をしているんだ」
「ええ、転送直後に襲われて亡くなる人って、もの凄く多いでしょ、だから死亡率減らせないかと思って研究してるのよ。西入りから降りたんでしょ」
「ああ、俺たちのホームだからな」
「それなら地図の左の区域に降りる確率が九割の筈なのよね。でっ、右の区域に降りる確率が九分九厘、この空白地帯の上と下って、何故か知らないけど降りる確率がもの凄く低くて一厘くらいなのよね。何か変わった事しなかった」
「変わった事か・・・。このメンバーの組み合わせが初めてだった事くらいかな」
「人が転送石に影響を及ぼせる筈無いでしょ。潜った時間とか後で詳しく教えてね」
「じゃ、地上でな」
「ええ、地上でね」
宿が作って呉れた弁当は葉野菜と肉をパンで挟んだハンバーガーだった。
野菜スープも付けてくれた。
スープに一センチ角の軽石の魔道具を入れる。
石が発熱してスープを暖めてくれるのだ。
冷却の軽石も売っている、俺は風呂上がりに冷えた果汁を飲む時に使っている。
慣れると魔道具は便利なので手放せなくなる。
その日は安全な区域を伝って出口に移動。
出口は二十メートル四方の大きな部屋で、壁の一面が虹色の転送壁になっていた。
その転送壁を潜ると、今度は舞い上がる風に乗った感じだった。
西出の広場でその日の戦果を山分けして解散。
二人分の魔石を神殿が経営する交換所で換金すると銀貨三十九枚を渡された。
村での職人の手間賃が銀貨四枚だった、職人の手間賃の五倍だ、村で若い連中がケロニサロンについて羨望混じりで話していた訳が少し解った気がする。
アムは胸を張って買い食いしている、此奴なりに多少気を使っていた様だ。
アムが#燥__はしゃ__#いでいる、ふん縛って犬やネズミの供物にしたいが我慢だ。
俺達は西入りの広場に到着した、西出の広場と同じ広さで同じ様に転送石が中央 に置いてあるが、こちらの転送石の表面は虹色に輝く靄の様な感じになっている。
広場の周囲の店は、武器屋、防具屋、薬屋、道具屋等の迷宮に入る為の装備を商う店が多い。
広場に店を広げている露店も弁当や携帯食、お守り等同じく迷宮に入る冒険者目当ての店が多かった。
防具屋で基本的な最低限の装備を購入する。
道に迷った場合の最低限の非常食、寝具も必須だ。
講習は六時から八時までの二時間だった。
今の時間が九時、普通の冒険者達は夜の開ける五時には潜り始める。
だから、この時間ならば大きな群は優秀なパーティーが狩り尽くしている筈なので、魔獣の少ない比較的安全な時間帯の筈だ。
だがこれは、俺達初心者には最適な時間だが、普通の冒険者にとっては実入りの少ない不人気な時間帯になる。
なので、がら空きの広場を想像していたのだが、意外な事に転送石が前が混んでおり、人集めの声が飛び交っていた。
講習を受けた連中が俺達同様に挑戦しに来たのだろうか。
転送石を潜るとランダムな場所に飛ばされるのは先ほどの講習で聞いている。
安全な時間帯であっても残っていた群の中に飛ばされる可能性はある。
単独で潜って五匹のネズミと遭遇すれば、そこで人生が終わる。
ゆえに迷宮の中で死にたくなければ、複数で行動することが大原則となる。
仲間がいない者達、殆どがそうなのだが、は転送石前で仲間を集めることが必要になる。
パーティーの基本構成は攻撃役が五人、治療役が一人、地図担当が一人と荷物持ち一人の組み合わせが標準形だ。
狭い空間での動きの早い小さな相手が標的なので、飛び道具は危なくて使えない。
また魔道具を使った攻撃魔法も、得られる魔石と消費する魔石のバランスが釣り合わないことから低層では使われなかった。
「荷物持ち一人と攻撃役一人で頼む」
「了解した。でもそんな小さな子で荷物持ちが勤まるのか」
「いや、俺が荷物持ちで此奴が攻撃役で頼む」
「攻撃力の有る荷物持ちは大歓迎だが・・・、まっ良いだろう。今日は特別だ」
最初なのでアムは荷物持ちに回そうと考えた。
「童が侍従の役回りなど出来るか、不名誉極まりない。前線での戦士役以外はやらん」
と曰って譲らないのだ。
俺は此奴に危険な役割は遣らせたくない。
俺の命が惜しいからだ。
仕方がない、危ないと思ったら此奴を背負子に突っ込んで俺が前衛に回ることにした。
八人が手を繋いで転送石を潜る。
頭上から風が吹き下ろして、風に溶け込むように降下する感覚があった。
足裏に床を感じたら山刀を腰から引き抜く。
地図担当を護るように攻撃役が四方に立って警戒する。
「赤三十二、黄色四十六、青十二。真っ直ぐ」
地図担当が辞書の様な地図を捲って指示を出す。
周囲の迷路の形から該当するパターンのページを検索し、現在位置の危険度と危険度の低い方向を指示するのだ。
現在位置の地形パターンに該当する場所は、危険地区に三十二カ所、注意地区に四十六カ所、安全地区に十二カ所有り、真っ直ぐ進むパターンが最も危険性が少ないとの指示だ。
この地図役の検索速度の優劣がパーティーの生還率に大きく影響するそうだ。
五メートル幅の通路を攻撃役が横一線に盾を構えてカタツムリの様に前進を始める。
その後ろ、二メート程の距離を取って地図役と治療役が付いて行き、荷物持ちが最後尾を歩く。
戦闘場所として選ぶ場所の基本は部屋と通路の境、二メートル四方の開口部だ。
三人が盾で開口部からの魔獣の進入を防ぎ、二人が脇や間を抜けてきた奴を仕留めるのが基本、最も安全な戦い方だ。
次善の戦闘場所が通路、攻撃役が横一線に並び背後に回られない様にする。
数パーティーが合流できれば、むしろ通路の方が戦い易いのだが、単独パーティーでは一カ所破られれば背後に回られて苦戦する。
そして部屋の中での戦闘が最悪、地図役、治療役、荷物持ちを守るように円陣を組むのだが、密集して戦うので非常に動き難い。
なので少人数のパーティーでは極力部屋の中へ入らないようにする。
アムにも軽い木の盾を持たせてあるが、横一線となった攻撃役の中では一際小さい。
此奴の性格では、列を乱して突出しそうなので腰縄も真剣に考えた。
だが、犬歯を剥いて威嚇されてしまったので諦めた。
地図役は歩きながらも地図を調べて行く。
「赤六、黄色九、青無し、左」
可能性の有る場所は一桁に絞られた来た、その瞬間右脇の治療役から悲鳴が上がった。
「来た、横」
後ろ右脇の部屋からネズミが湧いて出て来た。
二十匹程度だから多くはない。
だが攻撃役は間に合わない、攻撃の邪魔にならないように互いに前後の距離を取っているのだが、これが災いした。
治療役を背後に押しやりながら俺が前面に立つ。
治療役に飛付こうとするネズミを叩き落として蹴り上げる。
後は夢中で、飛付いて来るネズミを片っ端から叩き落とし続けた。
少し遅れて攻撃役の一人、最初に人を集めていた奴が俺の脇に立った。
捌く数が半分に減って余裕が出来る、狙いが正確になり、三匹に一匹は頭をかち割って一発で倒す。
一発で倒せなかったネズミは臑当てを囓りに来るので蹴り飛ばす。
攻撃役が揃い始める。
何故か皆、俺の前に出ないで横に並んでいる。
力量は最初の奴以外は少々お粗末だった。
それに比べれば、アムの方がましだった。
前に出ようするのを背中で妨害して、弱ったネズミを適当に背後のアムに流して様子を見たのだ。
地図役と治療役も加わって、そのネズミを仲良く袋叩きにしている。
地図役と治療役も力量不足の攻撃役に比べれば上だった。
徐々に数が減って行き、最後の一匹は俺一人で頭を叩き割った。
すべて倒してから落ちている魔石を回収する、全部で二十三匹分だった。
「ありがとう、怪我は無かった?」
地図役が俺に声を掛けて来た。
アムより少し上くらいの若い女性だ。
「ああ、大丈夫だ。気付くのが早くて良かった。坊主のお手柄だ」
「あんちゃん、俺、女だからな」
「あ、すまん」
ヘッドギアを被っているので解らなかったが、男の餓鬼と思っていた治療役も女だった。
「兄ちゃん、反応悪いぞ。この親父さんが居なかったら姉ちゃんと俺、危なかったぞ」
「ミーすまん。ありがとう、俺はタウラス、こいつがミラナスでこいつがハルナス。双子だ」
「ゴルです、こいつはアムです」
「脇に居ながら俺も出遅れた、すまん。俺はムラトでこいつがサカト、こいつがキキだ」
「よろしく」
最初の三人は兄妹、残りの三人は友人のパーティーの様だ、急いで潜ったので名前を確認していなかった。
最初の三人は経験者、残りの三人は初心者という感じだった。
「ハル、あまり離れるな」
ハルナスさんが俺たちから少し離れて、ネズミが出て来た右脇の部屋を熱心に覗き込んでいる。
「兄さん、ごめんなさい。でも場所の特定が終わったわ。ここよ」
ハルナスさんは戻って来ると地図を広げて指さした。
赤く塗られた区域と黄色に塗られた区域の境目だった。
「最悪じゃないけど危険な区域よ。慎重に進みましょ、左よ」
その後十数匹程度の小さな群の鼠や犬と八回程遭遇し、無事黄色の区域を抜けて青の区域に到達した。
青の区域とは、通路と部屋との間に扉が多く存在する区域で、扉に遮られて群が大きくならないので安全な区域だ。
中の魔獣を倒した後であれば、扉を閉めておけば安全にくつろげる。
休憩して弁当を食うことになった。
すでに何組かのパーティーが休憩している区画で荷を降ろした。
「よう、タウ。雛の案内当番ご苦労様。ずいぶん遅い昼飯みたいだが、様子はどうだ」
そんなパーティーの一人がタウラスさんに話しかけて来た、知り合いなのだろう。
思った通り、タウラスさん達は初心者の引率役だった様だ。
「よう、テルース。今日は百三十七匹倒してやっとここに辿り着いたよ」
「え!、百三十七匹。あの時間入ってか?そりゃ大漁だな。運が良かった・・・、いや悪かったのか」
「ああ、最初赤の区域に降りちまったからな。他のパーティーにも会えないしさ。ひやひやだったよ。ベテランが一人混じってたんで助かった」
「何処に降りたんだよ」
「ハル、地図いいか」
「はい、兄さん」
ハルナスがバックから地図を出してタウラスさんに渡す。
「ここなんだよ」
タウラスさんが地図を広げて示す。
「えー!、ここか。リン、ちょっといいか」
「なあにテル」
地図役なのだろう、ハルナスさんと同じ様な格好の女性がやってきた。
茶色い髪をポニーテールした優しい知的な顔の少し年上の女性だ。
「タウ達がここに降りたんだってよ」
「えー!、ここに降りる確率って凄く低いんだよ」
「リンは転送石の転送先の研究をしているんだ」
「ええ、転送直後に襲われて亡くなる人って、もの凄く多いでしょ、だから死亡率減らせないかと思って研究してるのよ。西入りから降りたんでしょ」
「ああ、俺たちのホームだからな」
「それなら地図の左の区域に降りる確率が九割の筈なのよね。でっ、右の区域に降りる確率が九分九厘、この空白地帯の上と下って、何故か知らないけど降りる確率がもの凄く低くて一厘くらいなのよね。何か変わった事しなかった」
「変わった事か・・・。このメンバーの組み合わせが初めてだった事くらいかな」
「人が転送石に影響を及ぼせる筈無いでしょ。潜った時間とか後で詳しく教えてね」
「じゃ、地上でな」
「ええ、地上でね」
宿が作って呉れた弁当は葉野菜と肉をパンで挟んだハンバーガーだった。
野菜スープも付けてくれた。
スープに一センチ角の軽石の魔道具を入れる。
石が発熱してスープを暖めてくれるのだ。
冷却の軽石も売っている、俺は風呂上がりに冷えた果汁を飲む時に使っている。
慣れると魔道具は便利なので手放せなくなる。
その日は安全な区域を伝って出口に移動。
出口は二十メートル四方の大きな部屋で、壁の一面が虹色の転送壁になっていた。
その転送壁を潜ると、今度は舞い上がる風に乗った感じだった。
西出の広場でその日の戦果を山分けして解散。
二人分の魔石を神殿が経営する交換所で換金すると銀貨三十九枚を渡された。
村での職人の手間賃が銀貨四枚だった、職人の手間賃の五倍だ、村で若い連中がケロニサロンについて羨望混じりで話していた訳が少し解った気がする。
アムは胸を張って買い食いしている、此奴なりに多少気を使っていた様だ。
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