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Ⅲ 西部
6 兵士食
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翔・・・主人公、十六歳
彩音・・主人公の妹、十四歳
ニコル・・・黒竜将軍
マイラ・・・黒竜騎士団会計騎士隊騎士長
フェアナ・・・黒竜騎士団会計騎士隊上級騎士
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、黒竜騎士団会計騎士隊騎士
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ジリウス国・・・ジレノミラ王国の西側の隣国
ナルス・・・ジリウス国の宰相
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
クスク山地帯・・・・ジレノミラ王国西部とジリウス国との間の国境山地
ケクル・・・クスク山地帯の南端ににある港町
ーーーーー
(カケル)
「カケル、凄く痛かったぞ」
「すまん、マーニャ」
勿論”なに”の話ではない。
「何でたったの一日船を借りただけなのに、二タトも掛かるんだ」
俺の活動費は黒竜騎士団から出して貰っている、勿論無制限ということは無く、予算が決まっている。
その会計担当者がマーニャで俺に睨みを利かせている。
緊急事態だったので、直接俺が交渉して借り上げたのだが、この費用の所為で俺の活動費がピンチなのだ。
「船員が百人も居るんだから仕方ないだろ」
「一人への支払いが一ツトとしても全員で一タトが妥当だろ」
「あのなマーニャ、船員への支払いだけじゃなくて会社の運営経費も必要なんだぞ。御用聞きや会計の職員の給料、事務所の賃料だって必要だろ。船の損料が請求に含まれてないから良心的だと思うぞ」
「だけどな、カケル、もうお前の活動費の予算越えちゃったぞ。もっと金銭感覚をシッカリ持ってくれよ」
黒竜騎士団の財政立て直しの功労者が俺なのに、何か腹が立つ。
「大丈夫だよ、商船ギルドと商人ギルドが礼をするって言ってたから」
「全然大丈夫じゃないだろ、礼金は寄付金扱いだから別会計だぞ。お前の活動費が増える訳じゃないんだぞ。よし、今日からカケルの食糧費はカットな。兵舎の食堂で兵士食を食ってくれ」
「待ってくれ、彩音が怒り捲るぞ」
「大丈夫だ、ちんちくりんの飯代は治療所の予算から出てる」
ーーーーー
(ジリウス国宰相付秘書官コスモラス)
報告書を読んでナルス様が青ざめていらっしゃる。
こんなナルス様は初めて見た。
北大陸最強を誇る海軍が、初日で逃げ帰って来たのだから当然かもしれない。
海軍大将は我々の調査不足を激しく糾弾し、再度の出動要請は拒否する旨を宣告して来た。
今回は敵の指揮者の慈悲で生きて帰れたが、本来であれば確実に全滅していたと言うのが大将の見立てだ。
改めて指揮者の情報を調べ返してみたら、蟻討伐で火魔法を駆使していた、これは明らかに我々の手落ちだ。
「ナルス様、申し訳ありませんでした。私共が至らぬばっかりにご迷惑をおかけしました」
「いいえ、これは私も彼の能力を見誤っていましたから同罪です。でもこれで彼の能力の大きさが把握できました。しかし邪魔ですね彼は、うむ、死んで貰いましょう。コスモ、今誰の手が空いています」
「蜂と蜘蛛と蟻が戻っております」
「それなら蜘蛛を送って下さい。彼には少々気持ちに甘い所が有る様ですから最適です、懐に入れば仕損じないでしょう」
「はい、それでは至急手配いたします」
ーーーーー
(カケル)
兵士食、グリーンピースに似た豆に粟野の様な穀物を混ぜた煮物の上に、塩漬け肉とほうれん草の様な葉菜を乗せた丼飯で、栄養バランスは取れている様なのだが美味く無い。
しかも困った事に毎日同じ物だし、兵士が交代で作ってるから火加減が足りない時も有るのだ。
「今日の当番は火加減が上手いな」
「ええ、昨日は酷かったですからね」
俺が兵舎で兵士食を食っていると知って、ニコルさんも付き合ってくれている。
だったら、将軍の食事に俺を呼んでくれれば良いと思うのだが、そこには気が付かないらしい。
大隊長以下小隊長まで全員が、将軍と一緒に兵士食を自主的に食う羽目になったらしく、団の幹部が毎回兵舎の食堂で雁首を並べて飯を食っている。
マイラさんとフェアナさんは特別に無理やり招待されたらしく、涙目で兵士食を飲み込んでいる。
可哀そうに、周囲の兵士達は緊張してるし、食事当番の兵士達は毎回緊張で膝が震えている。
敵海軍が攻めて来たのが八月上旬、そこから俺の今月の活動費が尽きており、今日で十日以上兵士食を食っている。
今月がまだ半月以上残っていることはこの場の全員が認識している。
「カケル、すまんが山蟻討伐を頼まれてくれんか。キクルとククルとケクルの町の商人ギルドと冒険者ギルドからの連名の要望が有ってな」
キクルとククルは堰止めた場所の上に出来た新しい町の名前だ、最上流の湖畔にはカクルと呼ばれる町まで成立しかかっている。
クスク山地帯の通行量が増えて、これを狙う山蟻が増えた事は聞いていた。
「ええ、慣れてますから大丈夫ですよ。準備に一週間程時間を下さい」
「うむ、じゃっ頼む」
「将軍、提案があります」
「何だ、アミゴ小隊長」
「カケル殿の壮行会を催したいと思います。宜しいでしょうか」
「ああ構わん、良い考えだ」
「それでは日程が合わない者が大勢居ると思いますので、明日より順次予定を組んで複数回開催したいと思います」
「うむ、頼む」
大隊長達は何か納得した様に頷いてるし、中隊長達は顔を見合わせて喜んでいる。
「あの、将軍」
「なんだカケル」
「すいません、今思い出したんですが、俺は今月活動費が無かったんです」
「マイラ」
「はっ、将軍。マーニャを説得しますので問題ありません」
うん、良かった、そして幹部全員が毎回揃った壮行会が一週間続いた。
彩音・・主人公の妹、十四歳
ニコル・・・黒竜将軍
マイラ・・・黒竜騎士団会計騎士隊騎士長
フェアナ・・・黒竜騎士団会計騎士隊上級騎士
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、黒竜騎士団会計騎士隊騎士
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ジリウス国・・・ジレノミラ王国の西側の隣国
ナルス・・・ジリウス国の宰相
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
クスク山地帯・・・・ジレノミラ王国西部とジリウス国との間の国境山地
ケクル・・・クスク山地帯の南端ににある港町
ーーーーー
(カケル)
「カケル、凄く痛かったぞ」
「すまん、マーニャ」
勿論”なに”の話ではない。
「何でたったの一日船を借りただけなのに、二タトも掛かるんだ」
俺の活動費は黒竜騎士団から出して貰っている、勿論無制限ということは無く、予算が決まっている。
その会計担当者がマーニャで俺に睨みを利かせている。
緊急事態だったので、直接俺が交渉して借り上げたのだが、この費用の所為で俺の活動費がピンチなのだ。
「船員が百人も居るんだから仕方ないだろ」
「一人への支払いが一ツトとしても全員で一タトが妥当だろ」
「あのなマーニャ、船員への支払いだけじゃなくて会社の運営経費も必要なんだぞ。御用聞きや会計の職員の給料、事務所の賃料だって必要だろ。船の損料が請求に含まれてないから良心的だと思うぞ」
「だけどな、カケル、もうお前の活動費の予算越えちゃったぞ。もっと金銭感覚をシッカリ持ってくれよ」
黒竜騎士団の財政立て直しの功労者が俺なのに、何か腹が立つ。
「大丈夫だよ、商船ギルドと商人ギルドが礼をするって言ってたから」
「全然大丈夫じゃないだろ、礼金は寄付金扱いだから別会計だぞ。お前の活動費が増える訳じゃないんだぞ。よし、今日からカケルの食糧費はカットな。兵舎の食堂で兵士食を食ってくれ」
「待ってくれ、彩音が怒り捲るぞ」
「大丈夫だ、ちんちくりんの飯代は治療所の予算から出てる」
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(ジリウス国宰相付秘書官コスモラス)
報告書を読んでナルス様が青ざめていらっしゃる。
こんなナルス様は初めて見た。
北大陸最強を誇る海軍が、初日で逃げ帰って来たのだから当然かもしれない。
海軍大将は我々の調査不足を激しく糾弾し、再度の出動要請は拒否する旨を宣告して来た。
今回は敵の指揮者の慈悲で生きて帰れたが、本来であれば確実に全滅していたと言うのが大将の見立てだ。
改めて指揮者の情報を調べ返してみたら、蟻討伐で火魔法を駆使していた、これは明らかに我々の手落ちだ。
「ナルス様、申し訳ありませんでした。私共が至らぬばっかりにご迷惑をおかけしました」
「いいえ、これは私も彼の能力を見誤っていましたから同罪です。でもこれで彼の能力の大きさが把握できました。しかし邪魔ですね彼は、うむ、死んで貰いましょう。コスモ、今誰の手が空いています」
「蜂と蜘蛛と蟻が戻っております」
「それなら蜘蛛を送って下さい。彼には少々気持ちに甘い所が有る様ですから最適です、懐に入れば仕損じないでしょう」
「はい、それでは至急手配いたします」
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(カケル)
兵士食、グリーンピースに似た豆に粟野の様な穀物を混ぜた煮物の上に、塩漬け肉とほうれん草の様な葉菜を乗せた丼飯で、栄養バランスは取れている様なのだが美味く無い。
しかも困った事に毎日同じ物だし、兵士が交代で作ってるから火加減が足りない時も有るのだ。
「今日の当番は火加減が上手いな」
「ええ、昨日は酷かったですからね」
俺が兵舎で兵士食を食っていると知って、ニコルさんも付き合ってくれている。
だったら、将軍の食事に俺を呼んでくれれば良いと思うのだが、そこには気が付かないらしい。
大隊長以下小隊長まで全員が、将軍と一緒に兵士食を自主的に食う羽目になったらしく、団の幹部が毎回兵舎の食堂で雁首を並べて飯を食っている。
マイラさんとフェアナさんは特別に無理やり招待されたらしく、涙目で兵士食を飲み込んでいる。
可哀そうに、周囲の兵士達は緊張してるし、食事当番の兵士達は毎回緊張で膝が震えている。
敵海軍が攻めて来たのが八月上旬、そこから俺の今月の活動費が尽きており、今日で十日以上兵士食を食っている。
今月がまだ半月以上残っていることはこの場の全員が認識している。
「カケル、すまんが山蟻討伐を頼まれてくれんか。キクルとククルとケクルの町の商人ギルドと冒険者ギルドからの連名の要望が有ってな」
キクルとククルは堰止めた場所の上に出来た新しい町の名前だ、最上流の湖畔にはカクルと呼ばれる町まで成立しかかっている。
クスク山地帯の通行量が増えて、これを狙う山蟻が増えた事は聞いていた。
「ええ、慣れてますから大丈夫ですよ。準備に一週間程時間を下さい」
「うむ、じゃっ頼む」
「将軍、提案があります」
「何だ、アミゴ小隊長」
「カケル殿の壮行会を催したいと思います。宜しいでしょうか」
「ああ構わん、良い考えだ」
「それでは日程が合わない者が大勢居ると思いますので、明日より順次予定を組んで複数回開催したいと思います」
「うむ、頼む」
大隊長達は何か納得した様に頷いてるし、中隊長達は顔を見合わせて喜んでいる。
「あの、将軍」
「なんだカケル」
「すいません、今思い出したんですが、俺は今月活動費が無かったんです」
「マイラ」
「はっ、将軍。マーニャを説得しますので問題ありません」
うん、良かった、そして幹部全員が毎回揃った壮行会が一週間続いた。
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