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Ⅲ 西部

5 ケクル沖海戦

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翔・・・主人公、十六歳
彩音・・主人公の妹、十四歳
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、黒竜騎士団会計騎士隊騎士
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ジリウス国・・・ジレノミラ王国の西側の隣国
ナルス・・・ジリウス国の宰相
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
クスク山地帯・・・・ジレノミラ王国西部とジリウス国との間の国境山地
ケクル・・・クスク山地帯の南端ににある港町

ーーーーー
(ジリウス国宰相付秘書官コスモラス)

ナルス様が眉を曇らせていらっしゃる。
最近ケクルから送られて来る密偵の報告書をお読みになる時は同じ様な表情をなさっている。
ナルス様にこんな表情をさせるなんて許せない、密偵は戻って来たら死刑だ。

黒竜将軍が東部下マナ原の指揮者を呼び寄せたと聞いた時には、ナルス様に逆らう馬鹿者と秘書官一同で笑っていた。
ケクルの上流で曲芸を披露したと聞いた時には皆で涙を流して大笑いをした。
ナルス様も静かに微笑まれていた。

だが上流に水が溜まり、山に潜ませていた奇襲隊の撤退が余儀なくされ、奴らが船で移動し始めると、我々にも奴の意図が解り始める。
さすがにナルス様も悔しそうな顔をなされた、これは物凄く珍しいことだ。

クスク山地帯の上流で大雨が降ったとの情報を得たので、港の閉鎖で黒竜騎士団が食糧を減らしたタイミングに海軍で攻勢を掛け、効率的に騎士団を壊滅させるプランを調整した。
ところがいつまで経っても港が閉鎖されない。
不思議に思い密偵に調査させたら、雨はすべて上流で湖となって溜まっていると言うのだ。
ナルス様は最早もはや呆れていた。

そして今日の報告では、黒竜騎士団の財政状況まで好転してしまったと言うのだ。
信じられなかった、奴が呼ばれてから僅か二月足らずだ。
黒竜騎士団を財政的に追い詰める為に、我々は二年以上の歳月を要したのに。
ナルス様は厳しい顔をなされている。

「ナルス様、海軍への要請は中止されますか」
「いや、作戦は決行しておくれ。多少時間が掛かるけど、奴も騎士団の弱点は理解していないだろう。それに理解していたとしても向こうの海軍力では対処方法が無いからね」
「はい、了解いたしました。至急海軍に伝えます」

ーーーーー
(ジリウス国海軍大将ユーノロタス)

ナルスから指令によりケクル沖の封鎖を開始した。
退屈な任務なのだが仕方が無い。
部下には港に出入りする船からの略奪は自由と伝えてある。

中央大陸の奴隷業者には連絡してある、今回の任務が終了したら海上で引き渡す積りだ。
北大陸も奴隷禁止協定なんてさっさと廃棄すべきと思うのだがまあ仕方が無い。
ナルスから十歳くらいの玩具が居たら欲しいと言われている、男でも女でも良いと言われているので、たぶん両方行ける口なのだろう。

港から馬鹿な商船が一匹出てきた、大きな船なので守備兵もそれなりに配備されているだろう、久々の戦闘が楽しめそうだ。
船首に若い黒髪の男が立っている、その男が両腕を広げた途端、我軍の主帆が一斉に燃え上がった。
化け物だ、海上で船を燃やされたら皆殺しだ。

「取舵、逃げるぞ」

ーーーーー
(カケル)

やれやれ逃げ出してくれて助かった、海に落ちた水兵を拾い集めるのが大変なので、船は燃やしたくなかったのだ。

マーニャと一緒に商船ギルドで年間物資輸送スケジュールを調整していたら、突然、ジリウス国海軍来襲の報が入ったのだ。
対処方法は考えて有ったので、停泊中の商船を借りて沖に出たのだ。
船室でマーニャに抜いて貰い、火の能力を拡大させたのだ。

思っていた通り、全ての軍船の船腹で灯を点していた。
外装を幾ら蟲の殻で覆っていても、内側から燃やされれば一溜りも無い筈だ。
敵の大将が頭の回転の速い人で助かった。

「船長、奴らの様子を見たいんで少しの間、ここで停泊して下さい」
「了解いたしました」

船室に向かった、マーニャと続きを始めよう。
船室に戻ると、マーニャは裸で御茶を飲んでいた、一回気を失わせたのでまだ寝ていると思っていた。

「ぬし、何故こ奴には挿入せんのじゃ」

えっ!マーニャだがマーニャじゃない。

「お前は誰だ」
「つれない言葉じゃのう、何度も逢瀬を重ねておるのに」

彩音の時にも、そしてケビンの時にも気を失わせた後に突然違和感を感じたのは、此奴が乗り移っていた所為と考えて間違い無いだろう。
まだ感覚は鋭いままだ、船室のランプから炎の感覚を伸ばす、うっ!此奴は。

「お前はあの呪いの」
「そうじゃ、あの欠片に封じられていた魂じゃ」
「あれは箱に封じた筈だぞ」
「酷い話じゃの、可憐な乙女を魔物扱いしおって。ぬしの持っていた水晶から伸びた糸に縋って何とか少しづつ逃げ出せたわい」

まあ邪気は無いし、彩音達が気を失っている間の代役にはなるから良しとするか。

「我が名はペペロノリス、ペペと呼んで欲しい」
「了解だ」
「じゃが驚いたぞ、現世で意識を持った途端尻に突っ込まれておるんじゃからの、妾は巫女じゃったからこの手の経験は初めてなのにいきなり尻とはのー」
「何か良く解らんがすまん」
「素直でよろしい、じゃが何でこやつには挿入せんのじゃ」
「俺は契約の女神様制約を受けてるんだ」
「それなら大丈夫じゃ、妾は契約の女神の巫女じゃったから、暴走した信徒に苛められて死んだ私の願いなら聞いて貰える」
「本当か」
「ああ、本当だ。それに妾も気持ち良い方が良い、挿入された時のほうが全然気持ち良いからの」

これはなんか物凄くラッキーな話だ。

「じゃっ、頼む」
「了解した」
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