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Ⅲ 西部
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翔・・・主人公、十六歳
彩音・・主人公の妹、十四歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
ケビン・・・カルナの旅で一緒だった少年、男の娘
ニコル・・・黒竜将軍
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、黒竜騎士団会計騎士隊騎士
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ジリウス国・・・ジレノミラ王国の西側の隣国
ナルス・・・ジリウス国の宰相
ストロノス大河・・・ジレノミラ王国東部を流れる大河
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
クスク山地帯・・・・ジレノミラ王国西部とジリウス国との間の国境山地
ーーーーー
(カケル)
大断層以南の、ジトロノス大河の西側からジリウス国との国境であるクスク山地帯までの広大な区域が西部マナ原と呼ばれ、高地に匹敵する広い面積がある区域である。
北部が西部上マナ原、南部が西部下マナ原と呼ばれている。
蛇行を繰り返すジトロノス大河は雨期には度々増水し後背地を越えて周囲の町に被害を及ぼすため、川沿いに町が発展することを阻害し、また西部上マナ原の西域は大断層から噴き出る硫黄分の多い熱水により、生物が全く育たない毒ガスが満ちた大湿地帯で覆われており、この湿地の下流域も含めて人が住むには適さない地域が多かった。
さらにジリウス国との境にあるクスク山地帯は標高の比較的低い山と深い谷が連なった区域で一山、一谷の支配権を巡って昔からジリウス国と争って来た。
山地帯には山蟻も多く住み、ここも人が住むには適していない。
紛争地帯を背後に抱えた貧しい広大な地域、黒竜騎士団が守り、黒竜将軍が大半を治める西部マナ原とはそんな地域である。
両替商達を貧民街の店に集めてから二月が経過した。
両替商達への説得は成功で、全両替商がナルスとの縁を切り、しかも赤竜騎士団や青竜騎士団の情報も提供してくれたので、早めに災いの芽を摘み取ることが出来た。
秘密裏に将軍達が集められ、密やかに穏便な処分の依頼が伝えられた。
黒竜将軍達はジリウス国の本格的な攻勢に備えて西部に戻り、俺は西部に赴任するための準備を進めている。
まずは王子の剣の稽古。
剣道の竹刀と防具を模した道具を作り、実際に打ち合うことで退屈な型稽古から王子を解放してやった。
そして最初は冷ややかな目で俺達の稽古を眺めていた白竜騎士団の剣の師範達も、王子の上達振りに驚いて防具での稽古を自分達の訓練に取り入れ始めたので、俺の不在の間も王子の稽古が滞ることが無くなった。
そして宝物の申請手続き。
これはギルドにお願いして若手の担い手を何人か手配して貰い、定型文に記入して行く方法を覚えさせて文書作りが可能なレベルまでは育成した。
勿論実際の現物確認は難しいので、爺ちゃん婆ちゃん連中に補佐役として随行して貰い目を養わせている。
それでも溜まっていた申請は少しずつ片付いており一先ず順調だ。
彩音の仕事も王室からの研修生を何人か受け入れることになり、国からの補助金の支給で治療院の財政状況も改善し、勤務形態にも余裕が出来始めた。
無駄な薬やむしろ有害な薬の処方を彩音に指摘され、王室として改善策を検討した結果らしい。
このため、彩音も俺と同行できる様になってしまい、マーニャ達との楽しい一時を楽しみにしていた俺にとっては少々誤算だった。
光平亭にはメルと一緒に良く飲みに行っている。
ケビンとの関係はまだ続いており、俺が西部へ行くと聞いて悲しんでいた。
だから、彩音が夜勤の夜に、明け方まで目一杯、足腰が立たなくなるまで付き合ってあげた。
ただ一つだけ気になることがある、彩音もそうなのだが、失神した直後にいきなり目を開けて俺を凝視することがあるのだ。
特にケビンの場合その頻度が高く、俺にとっては休ませる必要が無くなるので好都合なのだが、なんだか別人格が現れた様で少々気になっている。
最初ケビンは逃げだそうとしたし、そんな時は感じ方の感覚が若干変化するような気もしている。
部屋はそのまま継続して借りておくことにした。
そして関係者への挨拶を済ませた後、メルとファラとで小さな宴を開いてしばしの別れを惜しんだ。
「カケル、西部で戦争が起きそうなのか」
「ええ、私も八百屋の叔母ちゃんから聞いたよ」
「うん、私も患者さんから聞いた。お兄ちゃん、危ないのかな」
俺も噂が広がっているのは知っている。
「ナルスが意図的に流している噂だろうな」
「えっ、嘘なのお兄ちゃん」
「嘘じゃ無いよ、確かに可能性は高い、だから信憑性を持つんだよ。奴の目的は西部への荷の移動を滞らせることだよ、でも戦争にはさせないよ」
ニコルさんに手紙を出して幾つか準備を初めて貰っている。
ナルスは手強い、兵站の拠点となる町の整備を数年前から整えているのだ。
それに比べこちら側のクスク山地帯は毒ガスの発生する大湿地帯を水源とする飲み水に適さない川が流れているため、拠点となる町を整備出来ないでいるのだ。
今戦争を始められたら、こちらは山蟻の住む山の中を、長距離兵站を輸送しなければならない。
たぶんこの業務だけで消耗してしまう。
そして翌日、不安を抱えながらも、西部に向かって俺達は出発した。
俺の荷の中には、西部マナ原の地図が一杯入っている。
もう直ぐこの国に雨季が訪れる。
彩音・・主人公の妹、十四歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
ケビン・・・カルナの旅で一緒だった少年、男の娘
ニコル・・・黒竜将軍
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、黒竜騎士団会計騎士隊騎士
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ジリウス国・・・ジレノミラ王国の西側の隣国
ナルス・・・ジリウス国の宰相
ストロノス大河・・・ジレノミラ王国東部を流れる大河
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
クスク山地帯・・・・ジレノミラ王国西部とジリウス国との間の国境山地
ーーーーー
(カケル)
大断層以南の、ジトロノス大河の西側からジリウス国との国境であるクスク山地帯までの広大な区域が西部マナ原と呼ばれ、高地に匹敵する広い面積がある区域である。
北部が西部上マナ原、南部が西部下マナ原と呼ばれている。
蛇行を繰り返すジトロノス大河は雨期には度々増水し後背地を越えて周囲の町に被害を及ぼすため、川沿いに町が発展することを阻害し、また西部上マナ原の西域は大断層から噴き出る硫黄分の多い熱水により、生物が全く育たない毒ガスが満ちた大湿地帯で覆われており、この湿地の下流域も含めて人が住むには適さない地域が多かった。
さらにジリウス国との境にあるクスク山地帯は標高の比較的低い山と深い谷が連なった区域で一山、一谷の支配権を巡って昔からジリウス国と争って来た。
山地帯には山蟻も多く住み、ここも人が住むには適していない。
紛争地帯を背後に抱えた貧しい広大な地域、黒竜騎士団が守り、黒竜将軍が大半を治める西部マナ原とはそんな地域である。
両替商達を貧民街の店に集めてから二月が経過した。
両替商達への説得は成功で、全両替商がナルスとの縁を切り、しかも赤竜騎士団や青竜騎士団の情報も提供してくれたので、早めに災いの芽を摘み取ることが出来た。
秘密裏に将軍達が集められ、密やかに穏便な処分の依頼が伝えられた。
黒竜将軍達はジリウス国の本格的な攻勢に備えて西部に戻り、俺は西部に赴任するための準備を進めている。
まずは王子の剣の稽古。
剣道の竹刀と防具を模した道具を作り、実際に打ち合うことで退屈な型稽古から王子を解放してやった。
そして最初は冷ややかな目で俺達の稽古を眺めていた白竜騎士団の剣の師範達も、王子の上達振りに驚いて防具での稽古を自分達の訓練に取り入れ始めたので、俺の不在の間も王子の稽古が滞ることが無くなった。
そして宝物の申請手続き。
これはギルドにお願いして若手の担い手を何人か手配して貰い、定型文に記入して行く方法を覚えさせて文書作りが可能なレベルまでは育成した。
勿論実際の現物確認は難しいので、爺ちゃん婆ちゃん連中に補佐役として随行して貰い目を養わせている。
それでも溜まっていた申請は少しずつ片付いており一先ず順調だ。
彩音の仕事も王室からの研修生を何人か受け入れることになり、国からの補助金の支給で治療院の財政状況も改善し、勤務形態にも余裕が出来始めた。
無駄な薬やむしろ有害な薬の処方を彩音に指摘され、王室として改善策を検討した結果らしい。
このため、彩音も俺と同行できる様になってしまい、マーニャ達との楽しい一時を楽しみにしていた俺にとっては少々誤算だった。
光平亭にはメルと一緒に良く飲みに行っている。
ケビンとの関係はまだ続いており、俺が西部へ行くと聞いて悲しんでいた。
だから、彩音が夜勤の夜に、明け方まで目一杯、足腰が立たなくなるまで付き合ってあげた。
ただ一つだけ気になることがある、彩音もそうなのだが、失神した直後にいきなり目を開けて俺を凝視することがあるのだ。
特にケビンの場合その頻度が高く、俺にとっては休ませる必要が無くなるので好都合なのだが、なんだか別人格が現れた様で少々気になっている。
最初ケビンは逃げだそうとしたし、そんな時は感じ方の感覚が若干変化するような気もしている。
部屋はそのまま継続して借りておくことにした。
そして関係者への挨拶を済ませた後、メルとファラとで小さな宴を開いてしばしの別れを惜しんだ。
「カケル、西部で戦争が起きそうなのか」
「ええ、私も八百屋の叔母ちゃんから聞いたよ」
「うん、私も患者さんから聞いた。お兄ちゃん、危ないのかな」
俺も噂が広がっているのは知っている。
「ナルスが意図的に流している噂だろうな」
「えっ、嘘なのお兄ちゃん」
「嘘じゃ無いよ、確かに可能性は高い、だから信憑性を持つんだよ。奴の目的は西部への荷の移動を滞らせることだよ、でも戦争にはさせないよ」
ニコルさんに手紙を出して幾つか準備を初めて貰っている。
ナルスは手強い、兵站の拠点となる町の整備を数年前から整えているのだ。
それに比べこちら側のクスク山地帯は毒ガスの発生する大湿地帯を水源とする飲み水に適さない川が流れているため、拠点となる町を整備出来ないでいるのだ。
今戦争を始められたら、こちらは山蟻の住む山の中を、長距離兵站を輸送しなければならない。
たぶんこの業務だけで消耗してしまう。
そして翌日、不安を抱えながらも、西部に向かって俺達は出発した。
俺の荷の中には、西部マナ原の地図が一杯入っている。
もう直ぐこの国に雨季が訪れる。
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