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Ⅱ 王都にて

42 王城にて3

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳

ファネル・・・元公爵の御婆ちゃん、翔の骨董仲間でこの国の実力者
セーラ(セフィラネリア)・・・正王妃、ファネルさんの娘
ウル(ウイリアム)・・・この国の第一王子
ナンノ・・・国軍の騎士団大隊長

ーーーーー
(カケル)

遺物の鑑定では何度かお目に掛かっているが、現実のアクティブな呪いを扱うのは初めての経験だ。
手順を誤ると呪いが解呪者へ一気に降り掛かるので、絡み合っている呪いの糸を丹念に調べ、一本づつ丁寧に確認して手順を考える。

寝台は、膝高の頑丈な木製ベット本体のフレームの四隅に四本の螺鈿細工を施された丸い柱を立て、柱の上部に透かし彫りが施された梁と屋根が取り付けられており、柱には茶の漆の様な塗料が塗られている。
梁から下がっている紫色の絹の様なカーテンには、星を象った金糸の星が刺繍されており、夕暮れの夜空をモチーフにしている様だった。

最初に呪いの構築のベースとなっている木の釘の解呪から始める。
柱の上下には各三本づつ、計二十四本木釘が目立たない様に打ち込まれており、場の設定の構築の役目を果している。
鉄釘を手足に打ち込まれて戸板に貼り付けにされている人間の身体に一月間打ち込まれ、苦痛と命を吸い取った木釘だ。
丹念に打ち込んだ順番を探って一本づつ火の能力でゆっくりと炭化して苦痛の思念を消し去って行く。

四本の柱に塗られている塗料にも、柱毎に別人の恐怖の思念が染み込ませてある。
魔油と呼ばれる油の中に、失神寸前まで被害者を何度も漬け込んで、死への恐怖を何回も吸い取った油だ。
この油が塗料を溶かす溶剤に使われている、これも塗られた順番を探って染み込んだ油を燃やして恐怖の思念を焼き消して行く。

柱に嵌め込まれた螺鈿、螺鈿を削り出す時に使われた型紙に人の皮が使われており、皮を切り取られた時の被害者の絶望の思いが螺鈿に深く染み込んでいる。
これも嵌め込まれた順番を探り、螺鈿を一つ一つ丁寧に焙って絶望の思いを丁寧に焼き消して行く。

そして最後にこれらの思いを四本の柱の間に留め、人を害する為の呪いに変換していた触媒である生贄の皿の破片を正面の梁板の裏側から取り外す。
この破片の中には、高位の魔法が封じ込められており、五百年前に生贄となった無垢な少女の魂が魔法の動力として使われていた。
慎重に取り外して、封印の小箱へ丁寧に移し替える、素早くそして厳重に封をして作業が終了する。
息の詰まる様な作業が終了した、呪いの暴走を警戒して結界を張って貰っていた魔道士達も含め、全員で大きな安堵の息を吐いてその場にへたり込んだ。
部屋に籠っていた邪気が綺麗さっぱりと取り払われ、除呪が終了した。
もう夕暮れが近い、全員に王妃から感謝の食事が提供された。

大広間に食事が用意され、久々に食欲が回復した王妃様を見て、食事を運んできた料理人達や給仕のメイド達は嬉しそうな表情を浮かべている。
ファネルさんと話しながら、王妃様は良く笑っていた。
王妃様の息子、この国の第一王子もも同席した、俺と同い年で俺より細身で小柄、優しそうな美少年だった。
治療師さんや女性魔道士さん達がキラキラした目で見詰めている。

「カケルさんは凄いですね、貫禄があって僕と同い年とは思えない。僕は気が弱くて争い事が嫌いなんで、母から軟弱だと叱られて剣を習わされるのですが、性に合わないのでしょうか、毎回長続きしません。何かこつでも有るのでしょうか」
「うーん、自分の場合習慣みたいな感じで続けていましたからね、こつと言われましても。どの様な稽古をされてるんですか」
「はい、素振りと型稽古ですね、皆さん何故あれが面白いと思われるか僕には解りません。先生に聞いたら剣のみちとは我慢と忍耐だと諭されましたが」
「試合は?」
「試合?ああ、立合いですか。勿論そんな危ない事しません」
「うん、それじゃ面白く無いのは当然ですね」
「えっ、本当ですか、そんなこと言われたのはカケルさんが初めてです。皆さん血飛沫でも想像されて楽しまれているのかと思ってました」

うーん、周囲の男達は皆殺人狂とか戦闘狂だとか思っていたのだろうか。

「自分だって争い事は嫌いですよ、勿論王子の周囲の方々だって同様だと思いますよ」
「えっ、強いのにですか」
「強いから戦闘が好きとは限りませんよ、力の強弱で物事を決していたら社会が不安定になります。そのために法が有り、身分があるんでしょ」
「言われてみればそのとおりなのですが、何か実感が伴わないんですよね」
「ふーん、彩、このケーキ俺が食って良いか」
「駄目、最後の一個だから私が食べるの」

無視してホークを延ばす。

”ピシッ”
「お兄ちゃん駄目って言ったでしょ」

「これが良い例です。力なら自分の方が上ですが、常にそれ以外の要因が存在してその枠組み、互いの関係を崩さないように生活してるんですよ。だから力の強弱なんて小さな要因に過ぎません」
「お兄ちゃん、何か文句有るの」

「成る程、良く判りました。難しい話じゃないんですね」
「まあ、まあ、まあ、カケルちゃんって説明が上手なのね、判り易いわ」
「ええ、ウルの先生をお願いしたいくらい」
「それならカケルちゃん、ウルの剣術の先生やって貰える」
「母さん、それは少し荷が重たいんじゃ」
「大丈夫よセーラ、この子こう見えても剣術の腕はナンノと同じくらいなのよ」
「あらまあ、それならばお願いしても周囲から文句は出ませんね。それじゃお願いしちゃいましょうか」

こうして、流されるように俺は王子に剣術を教えることになってしまった。
そして食事会がお開きとなり、最後に王妃様から挨拶が有った。

「皆さんありがとうございました。私自身、何か気分も身体も軽くなった気分です。今回の事を仕掛けて来た相手は想像が付きます。ぎゃふんと言わせたい思いもありますが、あえて私はこの件についてこれ以上追及する積りはありません。ですが皆さんはここで今日見聞きした事を自由に口外して頂いて構いません、むしろ多少盛っても結構ですからどんどん広めちゃって下さい。お願いします。おほほほほ」

うん、確かにこれはファネルさんの娘さんだ、何か妙に納得した。
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