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Ⅱ 王都にて

34 光平亭1 

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
ケビン・・・カルナの旅で一緒だった少年

マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
ファネル・・・元公爵の御婆ちゃん、翔の骨董仲間でこの国の実力者

カミーラ・・・クムの町の盗賊団の頭
ミリサ・・・カミーラの妹

東部下マナ原・・・王都の川向にある東部平原地帯

ーーーーー
(カケル)

仕立屋を出る時に、ケビンから折り畳んだ紙片をこっそり渡された。
彩音とファラとの距離が十分に離れてから紙片を開いてみた、メルも脇から興味深々で覗き込む。

これから四人で一緒に昼飯を食べる積りで、河岸の飲食店街に向かっている途中だ。
紙には酒場の名前と地図が描いてあり、店の名前は”光平亭”、うん懐かしい名だ、畜光草のイラストが店名の左右に描かれている。

「貧民街に近いから少し周りが怖いけど、上品で洒落た店だよ。可愛い男娘が集まって来るんだ。俺も行ったことあるぞ」
「おいメル、まさかとは思うが、その手の趣味に目覚めて女装して男漁りじゃないよな」
「当たり前だろ、撲に雌気めすっけは無いぞ、興味はあるけどさ。撲達ってあれだろ、そう、女神様に監視、いや、見守られているだろ」
「ああ」
「あれって酷いよな、美味しい料理を口に入れる直前で取り上げられるようでさ。僕は昨年四回経験した」

ファラの厳しい監視の目を掻い潜って四回も浮気するなんて、メルは良い根性をしている。

「カケルは何回だい」
「十九回」
「えっ!それは少しアヤちゃんが可哀そうなんじゃないか」
「出張先でアヤは居なかったし、俺って隊長だっただろ、部下のメンテナンスみたいな物だよ」
「なんか羨まし過ぎて納得できんが、まあそれは置いといて。でも、あれの時に突っ込んで最後まで行かないと、僕達も相手も納得行かないしすっきりしないだろ。まさか女性相手に口や尻に突っ込む訳には行かないしな」
「当たり前だろ、女性相手にそんな事する奴は人間として失格だ、人間の屑だ」
「うん、当たり前だ」

そーか、やっぱりそーなのか。

「だから僕は次善の策として男性の友人を探すことにした、浮気じゃないぞ相手は男だし単なる友人なんだから。それに高地と違ってマナ原じゃこの手の友情に対しては大らかだしな」

確かにこの王都でも男色に対しては大らかだ、日本の戦国時代の様な感覚かもしれない。
だからケビンは職場でも堂々と女装しているし、職場の主人も受け入れている。
だがそれを友情と言い包めるのは少々無理が有るような気がするが。

「それでその手の酒場を調べてたのか」
「ああ、でもまだ相手が見つかってないがな、どうだカケル、今夜一緒にその店へ行くか」
「ファラは大丈夫なのか」
「うん、カケルと夕飯食いに行くって言えば大丈夫だ、嘘じゃないしな。今夜アヤちゃんは仕事だろ」
「ああ、夕方から夜勤だ」
「じゃっ、丁度良いな」

「ねえ、あんた達、また何か悪巧みしてるんじゃないわよね」

ファラが立ち止まって、遅れ始めた俺達を疑いの眼差しで見つめている。

「ファラ、カケルと夕飯の相談をしてたんだよ。美味しい店が有りそうでさ」

うん、嘘じゃない、何が美味しいかが問題だが。

昼飯を食った後もアクセサリーやら小物やら靴やらとファラの案内で彩音の買物は続いた。
どの店も、祝賀舞踏会で使うと言うと大サービスしたり最優先で仕立てると約束してくれた。
街の人達の王室に対する関心は相当高い様だ、アクセサリー屋さんでは会場での客に傾向を教えて貰えれば代金はいらないとまで言われた。

早めに部屋へ帰って彩音に仮眠を取らせる、添い寝してやったら熟睡していた。
出勤の彩音を見送ってから戸締りしてメルとの待ち合わせの場所へ向かう。
貧民街に通じる通り沿いの小さなピクシーの彫像前だ、石灯籠に挟まれたこの彫像は良く目立つので待ち合わせ場所に良く使われる。
待ち人が若い可愛子ちゃんだったらもっと嬉しいのだが。

ーーーーー
(ミリサ)

やっと見つけた、クムの町を出てから半年以上、やっとあの危ない火の魔道士を見付けた。
少し太っていたが間違い無くあの魔道士だった。
半分諦め掛けていたが、これでやっとクムの姉ちゃんの所に帰れる、急いで大頭の所へ伝令を走らせた。

カルナの連中が町を出た後、入れ違いに大頭から首実検が出来る奴の派遣の指示が姉ちゃんの所へ届いた。
身近であいつ等に会っているあたいが送られる事になったので、急いで連中を追掛けようとしたのだが、カルナの連中を最後に河下りの船が無くなってしまった。

すごすごと家に戻ると今度は町中に水が溢れて来て大騒ぎになった。
町の通りを水がごうごうと流れてるから逃げられない。
二階の半ばまで水が上がった時は、もう時間の問題だと思った。
窓から外を見ると、屋根やら荷車やら家畜やら人やらが凄い勢いで流れて来る。

仲間と一緒に三階に籠って蓄えの食料をチビチビ食って耐え忍んだ。
水が少し下がり始めたら兵士達が来て筏で建物の中に取り残された町民達を助け始めた。
助かったと思った、だがそれは勘違いで、こいつ等兵士達が町の食料を食い潰し始めたのだ。
害虫と一緒だ、食い物を取り上げられ、あたい達は雑草と泥の中に取り残された魚を探して飢えを凌いだ。

あたいは町から最初に下る船に潜り込んで町を脱出したが、残った姉ちゃん達が凄く心配だった。
王都に着いたらここには食い物が一杯有った、なぜわざわざあの軍人達はクムの少ない食料を食い荒らしに来たんだろう。

大頭に挨拶したら、最初、人を三十人付けてくれた、なので直ぐに見つかると嵩を括っていたのだが、あのちんちくりんの尼も含めて気配すら無かった。
一月経つと二十人に減らされ、二月目には十人、三月目には五人に減らされ、今は三人で魔道士の行方を捜していた。
祭り明けにはあたい一人になると聞いて、クムに帰る積りでいた。

もう逃がさない、直ぐ脇に張り付いている、本当は首に縄でも着けたいくらいだ。
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