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Ⅱ 王都にて

24 ギルドでのお仕事

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳

マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
ケスラ・・・彩音の治療魔法の師匠、王都で治療院を経営している

ナラス・・・東部下マナ原の中心都市
クス・・・東部下マナ原のストロノス大河の河口にある港
ヘス・・・東部下マナ原の港

ーーーーー

やっと遅ればせながら俺達の王都での生活が始まった。
でも大きく変化した事と言えば、飯を自分で作らなきゃいけないこと、独り寝の夜が多くなったことぐらいだ。

朝、夜明け前に起きて、彩音が居ても居なくても二人分の朝飯を用意して定時に家を出る。
冒険者ギルドへ出向いて、夕刻まで机の前に座って仕事をして、日暮れと共に家に帰って夕飯の準備をする。
家に彩音が居る時は飯を食わせて送り出し、居ないときは飯を作って彩音の帰りを待つ生活だった。

うん、俺は商人ギルドに属している訳じゃない、確かに所属は冒険者ギルドの筈だ。
だが、マッフルさんが俺に無理矢理押し付けたのは役所に出す書類の作成だった。

国宝級の魔道具や遺物は流通や移動が制限されており、国の許可制になっている。
国への申請が必要なのだが、理由や目的は勿論のこと、運搬に必要な員数の計算や経路、魔獣や蟲、盗賊に襲われた場合の対処方法や保管場所の平面図、警備体制等、山程書類を要求されるのだ。
しかも知見を有する専門家として、Cランク以上の冒険者が作成することが義務付けられているのだ。
この国に属するCランク冒険者の約七割、六十九人がこの王都の冒険者ギルドに所属している。
だが申請書作成を頼まれるくらいなら、ドラゴンに食われた方がましと考える冒険者が殆どで、年間千五百件の依頼に対してこの依頼が受けられるのはほんの僅かしか居なかった。
しかも担当者全員が、何時あの世からお呼びが掛かっても不思議がない爺さん婆さんだった。
お茶を飲んで世間話の合間に昔の書類を書き写していた。

依頼者は貴族や大金持ちが多く、報酬は桁外れに高いのだが、こればかりは金で解決する話でも無いらしい。
当然滞る、殆どが諦める様なのだが、我慢強い人も多い様で、今手続きを進められているのは十年前に依頼を受けた案件だそうだ。
マッフルさんに無理矢理連れて行かれた部屋では、爺さん婆さんが三人、お茶を飲みながらのんびりと書類を作っていた。
本当は九人担当が居るそうなのだが、皆さん体調が優れないようで冒険者ギルドに辿り着けないようだった。

郷に入れば郷に従う、最初は俺も皆さんとお茶を飲んで世間話に興じていたのだが、様子を見に来たマッフルさんの拳骨を食らい、マッフルさんの監視下、馬車馬の如く働かされた。
監視する暇が有ったら手伝って欲しいと喉元まで出掛かったのだが、追加の拳骨を貰うだけと思い諦めた。

溜まっている依頼は一万件を超えている、頑張っても一件に付き三日は掛かる、書かなきゃいけない書類が五十枚くらい有るのだ。
筆で細かい字を一枚二千字くらい書いていく、三日で十万字だ。

朝六時から夕方六時まで、一日十二時間細かい字を書き続ける作業を三日続けたら、寝てても夢に細かい字が蟻の様に行列を組んで出てくるようになり、ベットの上で腕を組んで、これは不味いと考え込んだ。

そこで俺は一計を案じた、印刷所、この世界の印刷技術はまだ木版なのだが、に見本を持ち込んで定型部分の版を彫って貰ったのだ。
刷り上がった書類へ、俺は空欄にその案件毎の文章を書き込むだけ、図面にしたってその図面に従って警備や運搬や保管をしてもらえれば、同じ物で用が足りるのだ。
効率が劇的に変化し、一日十五件くらいこなせる様になった。

書類を書き上げる速度だけならこの倍はこなせるのだが、実際の品物の確認が求められているのでこの作業に手間取った。
爺さん婆さんは商館や貴族の館で飲み食い出来る機会なので、この確認だけは律儀にこなしている。
一日十五件の確認となると飲み食いしている暇が無い、それでも慣れてくると、この国宝級の品物を見るのが面白くなった。
偽物も一目で判る様になり、添付されて来る由来書も興味を持って目を通せるようになった。
勿論訪問先では大歓迎された。

申請書は王室文化財保護室に持って行く、ここでもやっと真面な書類が出て来たと歓迎された。
爺さん婆さんの仕事なので間違いが多い、だが間違いを指摘しようものなら、申請者から王室を通じた物凄い圧力があり、本物の首が飛ぶ可能性もあって指摘すら出来ないで目を瞑っていたそうなのだ。

勿論ギルドにも圧力はある、基本は依頼順なのだが、ギルド長の指示で偉い者順的な扱いになっている。
俺には異存は無い、一回の訪問で数品確認できるから、ありがたいくらいだ。

「お兄ちゃん、お腹プヨプヨしてきたよ」

王都に戻ってから数ヶ月が経過した、冒険者としてのスキルは一切上がっておらず、身体は一回り大きくなっている、勿論贅肉でだ。

彩音も少し背が伸びたが、胸とあそこは相変わらずだ。
仕事は順調進んでいるので、久々に二日間休みが貰えた。
彩音も四十八時間連続勤務なんて日本じゃ信じられない勤務を終えて二日間の休みに入ったのでそれに合わせたのだ。

久々に二人で早朝の浴場へやってきた、うん、王都の浴場は個室タイプだ。
一緒に寝る時は何時も裸で抱き合ってるので、互いの裸にどきどきする事は無くなった、ちょっと残念だ。
彩音は俺の横腹を摘んでいる。
朝の浴場は人が少なく静かだ。
思えば、王都に帰ってから、二人で真面に過ごすのは初めてかもしれない。

二人で湯船に入った、彩音は俺の腿の上に座って背中を俺の胸に預けている。
空が透き通る様に青い、来週から新年を祝う春祭りが始まる。
良い機会だ、今日は思い切って聞いてみよう。

「彩、ヘスの港で二人が酔い潰れた日が有っただろ」
「うん」
「あの時の記憶がないんだけど、どうだったんだろ」
「うん、私も記憶が無いんだけど、でもね」
「うん」
「たぶんだよ、たぶんだけどしちゃったと思う」

双方の見解が一致した、黒だ、真っ黒だ。
この世界に飛ばされて既に一年近い、向こうの世界には俺達の居場所はもう無くなっているかも知れない。
彩音と静かに唇を重ねる、彩音の目から涙が零れた、彩音も同じ事を感じているのだろう。
この広い世界に、たった二人で漂っているような気持ちになって来る。
互いの唇を強く求め合い、再び唇を重ねた。
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