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Ⅱ 王都にて

1 婚姻手続き

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルロ・・・翔達と同じ荷車の少年
カルメラ・・・翔達と同じ荷車の少女

マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
カエデ・・・荷車隊の護衛の一人
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠

カミーラ・・・盗賊団の頭
ミリサ・・・カミーラの妹

カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草
グラシオ・・・小型のギター

タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位

1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位

ーーーーーーーーーー

雑草の茂った狭い田舎道を五千人少年少女が楽しげに喋りながら歩いている。
焦げ茶色の王都を囲む蔦の茂った高い塀が見え始め、王都の裏門なのだろうか、裏寂れた小さな門に一行は辿り着いた。
門は無人で、門前の小さな広場には、年輩の女性達がのんびりと魚や海老、蟹や海草を木箱に並べて商っている。広場では裸足の子供達が走り回り、歩いている人達の身形も貧しかった。

大人達の目に力が無く、スラム街と言う単語が翔の頭を過ぎった。
突然現れた行列に子供達は大喜びで付いて来るが、大人達は連れ添う護衛達に警戒と敵意の混じった視線を投げかけている。
それまでののんびりした雰囲気から打って変わり、護衛達の間に緊張が走る。
先頭の護衛達は山刀で住民を乱暴に下がらせ、比較的太い路地へとカルナ達を導いて行く。
その長い行列を窓から見下ろしている人相の悪い男達がいた。

「頭、奴ら魚の糞みたいに繋がってますぜ。護衛も若い連中が多いし、少し千切ってから路地に追い込んで剥いどきますか」
「止めとけ、魔導士が何奴どいつか解らねえだぞ。カミーラの姉御からの連絡じゃ底が見えない危ない奴らしいからな。持ち物から判断すると王室魔導士並って見立てだ。五年前の疫病の時に、ここを焼き払った奴らのやり方を忘れたのか。彼奴等人の皮被った化け物だぞ」
「へい、そうですよね。奴等に容赦なんてこれっぽちもねーですからね。女も子供も見境無しでしたもんね」
「おめーらも解ったら若い衆押さえておけよ」
「へい」

本人の知らない大貢献により行列は粛々と無事貧民街を通過した。
行列は堀を渡って商店の立ち並ぶ大通りを進み、やがて大きな白亜の建物が中心に立ち並ぶ大きな広場に到着して停止した。
待っていた役人が机を並べ初め、受付が始まった。

「お兄ちゃん、ここが中央広場であれが六神神殿だよ」

二人も受付前の列に加わり、並んで順番を待つ。
後ろから眺めていると、ペアで次の手続きに向かう者も結構多い。
中には並びながら揉めているカップルもいる。

カルロは意を遂げた様で、カルメラと手を繋いで次の手続き窓口に案内されていた。
二人の番になった、水神の交差点で受け取った木札を首から外して係員に渡す。

「山の民でカケルとアヤネだな、遠路ご苦労。この都には山の者は少ない、ケナとして都に住む道を選ぶか」

ケナとは正式に婚姻を交わした夫婦の呼び名である。
彩音がキラキラした目で翔を見上げている。

「はい、お願いします」

彩音が翔の腕を強く握りしめた。

「男はこう言っとるが、娘よ如何する」
「はい、勿論お願いします」
「良し、ではこの書類を持って七番窓口に回れ」
「はい」

書類を受け取って指定された机に向かう。

「お兄ちゃん、ケナになるって私達夫婦なるって事だよね」
「いいか、彩、これは二人が離れない為の方便で、形式的な手続きに過ぎないんだぞ。だから本当に夫婦になる訳じゃない、今までと何も変わらないんだからな」
「ふーん、お兄ちゃんって照れ屋さんなんだね」
「おい、彩。俺はまだ母さんに殺されたくないからな、変なこと考えるなよ」
「なによ、お兄ちゃんがエッチな事した癖に、私ずっと此処でお兄ちゃんと住んでも良いよ」
「彩、諦めるなよ、父さんと母さんが心配してるんだぞ。だから絶対に戻るからな」
「ごめんね、私も諦めないよお兄ちゃん。二人で一緒に帰ろうよ、私達離れないでずっと一緒に居ようね」
「ああ、一緒に帰る方法を探そう」
「うん、だから私達ずっと一緒なんだよね」
「当たり前だろ、はぐれたら困るだろ、だからずっと一緒だ」
「うん、約束だよお兄ちゃん。何時までも一緒だよ」
「ああ、約束だ、何時も一緒にいる」
「ありがとう、お兄ちゃんの気持ちは良く判った。私も大好きだよ」

 んん?、一抹に不安が頭を過ぎったが、次の手続きの机に着いてしまった。

「すいません、お願いします」
「ほう、山の民か、珍しいな。字は書けるか」
「はい、書けます」
「なら最初にここに名前を書け」

渡された羽ペンで名前を書く、”アオゾラ・カケル””アオゾラ・アヤネ”。

「族名持ちの子か、山の民も本気で従う気になったか。次に歳と住所をここに書け」

俺が”十五”、彩音が”十三”。住所は猫毛海岸三丁目二十四番地、山の民は移動民なので住所は適当だ。

「良し、ナイフを貸すからここに血判を押せ」

血判とは、呆れたが仕方がない、二人で血判を押した。
傷は彩音がグルノ草で擦ったら簡単に消えた。

「彩、何か効きが凄く良くないか」
「うん、マナが濃いから利きが良いみたいよ」

 マナとは命の力の事で、時々話に出てくる。

「ほう、お前は治療師候補か、それはありがたい。良し、真実の名で間違い無い事は確認した。字の色は金だからこの書類を持ってここの裏側に有る契約の神殿へ向かえ。入口に金竜の像が有るから直ぐに解る」

金の字?返して貰った書類を確かめると、黒いインクで書いた字と赤茶の血判が金色に変わっている。
魔法?翔は何か嫌な予感がした。
  
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