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Ⅰ 王都へ

19 別れ

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルメナ・・・翔達の荷車の同乗者、一番大人びた少女。
ユーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カルロ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少年

マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
グルコス・・・翔達の荷車の護衛
アケミ・・・荷車隊の護衛の一人
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。二人はスノートの少女達のリーダー的存在で、キャルよりやや思慮深い。
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、武官の家系で普段から兵士達との交流が有り、口調が荒い。
グリス・・・クムの町の守備隊の小隊長

カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草

タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位

1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位

ーーーーーーーーーー

翌朝の夜明け前、翔は近づいて来る地響きの音に目を覚ました。
交代で監視役を務めていた翔は慌てて蜘蛛の上に攀じ登る。
荒野の中を土煙が近づいてきている。
方向はクムの町の方からで、騎馬隊のようだ。
マッフルの所へ報告に向かう。

「来たか、クムの町の守備中隊だろう。嬢ちゃん達の確認を命じられたんだろよ。カケル、お前が居て助かったよ。蜘蛛はな、普通小隊規模で討伐する化け物なんだよ。全員無事なんて奇跡みたいな話も、岩登りの道具で倒したなんて話も信じて貰えるか解らんぞ」

護衛達全員が整列して軍を出迎える。
赤く彩色した軽鎧を身に纏い、ユニコの三倍程の大きさのユニコーンに乗っている兵士が大勢近づいて来る。

「多いですね」
「ああ、ご丁寧に小隊を送って来たようだから千騎はいるな」

隊列が目前で止まり、大きなユニコーンに乗った煌びやかな鎧を纏った指揮官らしき男が前に出てきた。

「隊の責任者は前に出ろ」
「責任者は俺だ。グリス」

指揮官らしき男が慌ててユニコーンから降りる。

「これは失礼いたしましたマッフル大隊長殿」
「グリス、大隊長は止めてくれ。俺は一介の冒険者だ。全員無事だ、勿論嬢ちゃん達もだ」

グリス隊長が安堵の息を漏らしている。
キャル達は貴族の娘と聞いてはいたが、本当にビップ扱いらしい。
水浴びの時勢いで押し倒さなくて良かったと翔は胸を撫で下ろした。

「それにしてもこんな大物、良くこの人数で仕留められましたね」
「ああ、此奴の機転のおかげで岩登りの道具で倒せた。今後の討伐の参考になると思うぞ」
「は、それでは後程申述を取らせて頂きます。それとスノートのご令嬢方をこちらに保護させて頂いて宜しいでしょうか」
「ああ、助かる。ご令嬢方を孕ませ兼ねん奴も居るしな」
「まさか信じられません。万が一、その様な不届き者が居たら遠慮無く打ち首にして下さい。後の手続きは此方で承ります」
「いや、まだ突っ込んどらんと思うから大丈夫だ、なっ、カケル」
「はっ、大丈夫であります」

翔の背中を冷たい汗が滴り落ちる。

「それでは、さっそく保護させて頂きます」

豪華な馬車が何台か用意されていた。
キャル達スノートの少女達が呼び集められ、順次乗り込んで行く。
出発間際、キャルとアミに抱き付かれて翔は固まってしまった。
グリス隊長の目と、剣の柄を素早く握った手が物凄く怖かった。

数人の兵士と書記官を残し、部隊がキャル達を乗せた馬車を囲んで去っていった。
マッフルに頼まれて書記官に蜘蛛を倒した顛末を申述する。
書記官は、外骨格の生き物だから可動部に弱点があると考えたと説明した時には、兵士達と一緒に感心しながら聞いていた。
だが、説明が終わって気持ち良く翔が席を立とうとしたとき、呼び止められた。

「申し訳ない、隊長からあなたとスノートのご令嬢方の関係を詳しくお聞きする様にとの命令ですので、もう少しお付き合い下さい」

言葉付きは丁寧なのだが、兵士に退路を塞がれ囲まれている。
キャルとの水浴びの話については、確実に命に係わると判断して翔は秘匿することにした。
そして長い長い取り調べが終わると昼近くになっていた。

書記官達が帰ると、入れ替わりに補充のユニコを伴った商人と役人がやってきた。
そしてその場で討伐確認と蜘蛛の遺骸の入札が行われ、全額その場で支払われた。
全部で金貨七百七十枚。
第一功労者として翔が全体の一割を受け取り、残りの七割を護衛達で山分け、そして残りの三割をカルナの少年少女達九十九人に分配することになった。
勿論、翔を除く九十九人の内訳にはスノートの少女達も含まれている。
一人金貨二枚と大銀貨一枚、生まれて初めて手にした大金にカルナの少年少女達は全員大喜びだった。

御者達がユニコに引き綱を結んで荷車を点検している間、翔は荷車で横になって寛いでいた。
朝から緊張が続いたので少々疲れている。
口を滑らせれば胴と頭がさよならする綱渡りだった。

目を閉じるとキャルの裸と恍惚とした表情が翔の脳裏に浮かんで来る。
理性の部分ではトラブルの種が去ったことに安堵しつつ、煩悩の部分では悔しさが残って仕方が無い。
皿に残って居た好物を遠慮して眺めていたら、人の箸が伸びて来て目の前から消えてしまった気分だった。
あんな美少女を裏にしたり表にしたり、○○したり××する機会なんて、もう一生訪れないかも知れないと翔は思った。

「お兄ちゃん」

彩音が急に覗き込んで来た。

「なっ、なんだ彩」

声が裏返りそうになってしまった。

「あのね、水浴びの話まだ詳しく説明して貰ってないの。お・に・い・ちゃ・ん」

忘れていた、彩音が拳を握って睨んでいる。
これは、書記官よりも手強いかもしれない。
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