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Ⅰ 王都へ
15 大断層帯2
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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルメナ・・・翔達の荷車の同乗者、一番大人びた少女。
ユーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カルロ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少年
マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
グルコス・・・翔達の荷車の護衛
アケミ・・・荷車隊の護衛の一人
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。二人はスノートの少女達のリーダー的存在で、キャルよりやや思慮深い。
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草
タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位
1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位
ーーーーーーーーーー
途中、人を背負ったカルナ組の護衛達と何度か擦れ違ったが、彼らは安定した足取りで安心して見ていられた。
だが荷物組が混じり始めると目を逸らしたくなる連中が増え始める。
そして更に登ると手を押さえて岩棚に蹲っている護衛が増えて来る。
「カケル、上に登ったら、ケスラさんにグルノ草を余分に摘んで来るように言ってくれ」
途中の岩棚で荷物組の掌を見ていたマッフルに翔は頼まれた。
ケスラとは治療師の女性の名前である。
怖くてロープを必死で握り締めて、手の皮を剥いてしまった連中が続出した様である。
無事崖の上に到着。
荷物も人もあまり捗っていない様子だった。
「お兄ちゃん、お帰り。なんか恰好良かったよ」
彩音が駆け寄って来た、上機嫌である。
「彩、ケスラさん何処に居る」
「これじゃ時間が掛るから厩でお茶飲んで来るって言ってた」
二人で厩を訪れると、ケスラは包帯を短く切り揃えていた。
「丁度良かった。これを手の皮剥いた連中に渡しておいておくれ」
「はい、隊長がグルノ草を余分に摘んで来るよう伝えてくれと言ってました」
「あいよ、アヤ、手伝っとくれ」
「はい、先生」
崖に戻って途中の状況をガロンに報告する。
カルナ達を降ろす組に加わる様に指示されて、背負子を頑丈な人降ろし用に替える。
カルナ達の順番待ちの列の先頭に近づいたら何か揉めていた。
「私達は氷の戦士の末裔だぞ。人に背負われて崖を降りるなんて見っとも無い真似ができるか。自力で降りるから、やり方を教えろ」
キャルだった。
荷物組の惨状を見て無ければ、翔は彼女達に降り方を教えて自力で降りさせただろう。
だが、翔の予想以上にぶっつけ本番で底の見えない崖を下る恐怖心は強い様だ。
荷物組の大半が頭で理解したことに身体が追いて行かない様子だった。
自尊心の強い彼女達はより無理をする可能性が高い。
なので、翔は後ろから近寄ってふん縛り、背負子に括り付けた。
貴族のお嬢様相手にこんな無茶をするのは翔ぐらいだろう。
周囲で彼女達を持て余していた護衛達が唖然として見ている。
「この野郎、何をする」
「キャル、落とすといけねーから暴れんなよ。それっ」
一気に崖から空に飛び出した。
「あっ、ギャー」
途中の岩棚で手の皮を剥いて蹲っている荷物組に包帯とグルノ草を配って行く。
「ほれ、キャル。素人が半端な事すると荷物になるだけなんだよ。解ったか」
「馬鹿野郎、私の手はあんな柔じゃないぞ」
説得は無駄と思っていたのだが、翔の予想通りの答えが返ってきた。
「あっ、滑った」
少し大き目に跳んで見る。
「ギャー」
また、キャルから予想どおりの返事が返って来た。
途中、何度も悲鳴を上げて魂が抜けたように脱力するキャルを登って来たカルナ組の護衛に引き渡し、再び崖上に登る。
崖から翔が顔を覗かせると、キャルの盛大な悲鳴が聞こえていた様で、アミ達スノートの少女達に引かれてしまった。
「さあ、縛って降ろされたく無かったら、黙って背負子に乗れ」
そして途中の岩棚で引き継いだ時に、ベテラン護衛の人に言われた。
「おい、カケル。お前さっきから美人の子だけ背負って降りて来てるが、依怙贔屓はいかんぞ」
背負って降りたカルト達を登って来たカルナ組の護衛に途中の岩棚で何度か引き渡す。
翔が再び崖の上までよじ登ると、荷物も片付き、ガロンがロープの回収を始めているところだった。
「後は治療の婆さんと手伝いの嬢ちゃんだけだ」
「誰が婆さんだって、ガロン。あんたの目はチンチロの遣り過ぎで腐ってるだろ。メメ草の煮込み汁で拭いたげようか」
メメ草の煮込み汁は大怪我の時に使う消毒薬で物凄く滲みる。
チンチロは茶碗に賽子を投げ入れる賭博だ。
ちょうど二人が薬草の採取を終えて戻って来た。
頭の上にグルノ草で作った大玉を乗せている。
「遠慮しとくよ。随分と欲張ったな」
「下じゃあまり生えて無いからね、少し余分に持って来たのさ」
「でもそんな嵩張る物持てないぜ」
「ぶら下げりゃいいだろが、男なんだから。祖チンのあんたじゃ無理だけど、そっちの若いあんちゃんなら大丈夫だよ」
「そーか、なら仕方ないか。でも無理だったら途中で捨てるぜ」
「何馬鹿なこと言ってんのさ、私達の苦労の結晶を粗末に扱うんじゃないよ」
「へいへい。じゃ、嬢ちゃん、俺の背負子に乗りな」
「嫌」
「へっ?」
「私お兄ちゃんと一緒が良い、はい」
彩音が二抱えほどの大玉を頭から下ろし、翔に差し出す。
細い蔦で頑丈に縛ってあり、中心にロープを通す穴まで作ってある。
「馬鹿だね、この子はこいつの連れ合いだよ。あんたは、お袋さんだと思って私を背負って孝行しな」
ーーーーー
多少邪魔だったが、俺は大玉二個をぶら下げ彩音を背に崖を下る。
ロープを回収しながらの下りなので時間が掛かり、洞窟に辿り着いた時には、雲海が茜色に染まり、雲の上に崖の影が黒く長く延びていた。
洞窟の奥に小さな湧き水があり、簡単な夕飯の準備が始まった。
厩で調達した薪は生木が多く混じっており、担当した護衛はマッフルから拳骨をくらっていた。
火打ち石から火花を飛ばして懸命に吹いているのだが、なかなか火が着かないで手間取っている。
面白そうなので、俺も加わって吹いてみる。
今まで手間取っていたのが嘘のように簡単に燃え上がった。
火の着いた薪が配られ、洞窟の中に柔らかいオレンジ色の灯りが広がって行く。
焚き火から立ち上った白煙が、洞窟の天井を伝って崖を昇って行く。
飯を食い終わると昼間続いた緊張で疲れたのか、俺に文句を言い続けていたキャル達も含めて、皆、静かに寝入ってしまった。
彩音は何時も通り、俺の右腕の中に収まって抱き付いている。
焚き火が消された洞窟の中の灯りは、洞窟の入り口から差し込む双子の月の月明かりと満天の星々の星明かりのみである。
洞窟の奥から眺める月が浮かぶ夜空は、黒い額縁で飾られた繊細な幻想絵画の様に見える。
「お兄ちゃん、なんか異世界ぽいよね、ここ」
「ああ、日本じゃ洞窟で寝るなんて無いからな」
「私ね、治癒魔法の能力が有るんだって。先生が言ってた」
「そりゃ凄いな。格好良いんじゃないか」
「でもね、手がピカーって光って傷が治るんじゃなくて、薬の効きが少し良くなるだけらしいよ。なんか夢が無いよね、異世界なのにさ」
「ああ、俺も火魔法の才能が有るって言われたぞ」
「へー、それってファイヤーボールとか出せるの」
「火力の調整が少し出来るだけらしいぞ。鍛冶屋とか陶芸家とか料理人に向いてるらしい」
「うーん、私の魔法より地味だね。魔法なのに生活感満載なんてなんかがっかりだね」
「彩、ファイヤー」
俺は左手を添えながら、右手を広げて見せる。
掌に一瞬だけ炎が立ち上り、闇に彩音の驚いた顔が浮かび上がる。
俺はその炎を握り潰す。
「うわー、お兄ちゃん、魔法がちゃんと使えるんじゃない。すごーい」
彩音が目を輝かして興奮しているので、俺は悪戯とは言えなくなってしまった。
火魔法の才能が有ると言われてから、彩音を驚かせようと考えた手品だ。
単に、右手に握った枯れ草に、左手に隠し持ったライターから火花を飛ばして燃え上がらせただけなのだ。
念のため釘を差しておく。
「彩、これは秘密だから人に言っちゃ駄目だぞ」
「うん、二人だけの秘密だよね、お兄ちゃん」
彩音が俺に顔を近づける。
一瞬戸惑ったが、もう何度も唇を交わしたし、欧米じゃ単なる挨拶だと考え直す。
唇を離した後、俺の胸に顔を擦り付け、彩音は静かな寝息を立て始めた。
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルメナ・・・翔達の荷車の同乗者、一番大人びた少女。
ユーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カルロ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少年
マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
グルコス・・・翔達の荷車の護衛
アケミ・・・荷車隊の護衛の一人
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。二人はスノートの少女達のリーダー的存在で、キャルよりやや思慮深い。
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草
タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位
1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位
ーーーーーーーーーー
途中、人を背負ったカルナ組の護衛達と何度か擦れ違ったが、彼らは安定した足取りで安心して見ていられた。
だが荷物組が混じり始めると目を逸らしたくなる連中が増え始める。
そして更に登ると手を押さえて岩棚に蹲っている護衛が増えて来る。
「カケル、上に登ったら、ケスラさんにグルノ草を余分に摘んで来るように言ってくれ」
途中の岩棚で荷物組の掌を見ていたマッフルに翔は頼まれた。
ケスラとは治療師の女性の名前である。
怖くてロープを必死で握り締めて、手の皮を剥いてしまった連中が続出した様である。
無事崖の上に到着。
荷物も人もあまり捗っていない様子だった。
「お兄ちゃん、お帰り。なんか恰好良かったよ」
彩音が駆け寄って来た、上機嫌である。
「彩、ケスラさん何処に居る」
「これじゃ時間が掛るから厩でお茶飲んで来るって言ってた」
二人で厩を訪れると、ケスラは包帯を短く切り揃えていた。
「丁度良かった。これを手の皮剥いた連中に渡しておいておくれ」
「はい、隊長がグルノ草を余分に摘んで来るよう伝えてくれと言ってました」
「あいよ、アヤ、手伝っとくれ」
「はい、先生」
崖に戻って途中の状況をガロンに報告する。
カルナ達を降ろす組に加わる様に指示されて、背負子を頑丈な人降ろし用に替える。
カルナ達の順番待ちの列の先頭に近づいたら何か揉めていた。
「私達は氷の戦士の末裔だぞ。人に背負われて崖を降りるなんて見っとも無い真似ができるか。自力で降りるから、やり方を教えろ」
キャルだった。
荷物組の惨状を見て無ければ、翔は彼女達に降り方を教えて自力で降りさせただろう。
だが、翔の予想以上にぶっつけ本番で底の見えない崖を下る恐怖心は強い様だ。
荷物組の大半が頭で理解したことに身体が追いて行かない様子だった。
自尊心の強い彼女達はより無理をする可能性が高い。
なので、翔は後ろから近寄ってふん縛り、背負子に括り付けた。
貴族のお嬢様相手にこんな無茶をするのは翔ぐらいだろう。
周囲で彼女達を持て余していた護衛達が唖然として見ている。
「この野郎、何をする」
「キャル、落とすといけねーから暴れんなよ。それっ」
一気に崖から空に飛び出した。
「あっ、ギャー」
途中の岩棚で手の皮を剥いて蹲っている荷物組に包帯とグルノ草を配って行く。
「ほれ、キャル。素人が半端な事すると荷物になるだけなんだよ。解ったか」
「馬鹿野郎、私の手はあんな柔じゃないぞ」
説得は無駄と思っていたのだが、翔の予想通りの答えが返ってきた。
「あっ、滑った」
少し大き目に跳んで見る。
「ギャー」
また、キャルから予想どおりの返事が返って来た。
途中、何度も悲鳴を上げて魂が抜けたように脱力するキャルを登って来たカルナ組の護衛に引き渡し、再び崖上に登る。
崖から翔が顔を覗かせると、キャルの盛大な悲鳴が聞こえていた様で、アミ達スノートの少女達に引かれてしまった。
「さあ、縛って降ろされたく無かったら、黙って背負子に乗れ」
そして途中の岩棚で引き継いだ時に、ベテラン護衛の人に言われた。
「おい、カケル。お前さっきから美人の子だけ背負って降りて来てるが、依怙贔屓はいかんぞ」
背負って降りたカルト達を登って来たカルナ組の護衛に途中の岩棚で何度か引き渡す。
翔が再び崖の上までよじ登ると、荷物も片付き、ガロンがロープの回収を始めているところだった。
「後は治療の婆さんと手伝いの嬢ちゃんだけだ」
「誰が婆さんだって、ガロン。あんたの目はチンチロの遣り過ぎで腐ってるだろ。メメ草の煮込み汁で拭いたげようか」
メメ草の煮込み汁は大怪我の時に使う消毒薬で物凄く滲みる。
チンチロは茶碗に賽子を投げ入れる賭博だ。
ちょうど二人が薬草の採取を終えて戻って来た。
頭の上にグルノ草で作った大玉を乗せている。
「遠慮しとくよ。随分と欲張ったな」
「下じゃあまり生えて無いからね、少し余分に持って来たのさ」
「でもそんな嵩張る物持てないぜ」
「ぶら下げりゃいいだろが、男なんだから。祖チンのあんたじゃ無理だけど、そっちの若いあんちゃんなら大丈夫だよ」
「そーか、なら仕方ないか。でも無理だったら途中で捨てるぜ」
「何馬鹿なこと言ってんのさ、私達の苦労の結晶を粗末に扱うんじゃないよ」
「へいへい。じゃ、嬢ちゃん、俺の背負子に乗りな」
「嫌」
「へっ?」
「私お兄ちゃんと一緒が良い、はい」
彩音が二抱えほどの大玉を頭から下ろし、翔に差し出す。
細い蔦で頑丈に縛ってあり、中心にロープを通す穴まで作ってある。
「馬鹿だね、この子はこいつの連れ合いだよ。あんたは、お袋さんだと思って私を背負って孝行しな」
ーーーーー
多少邪魔だったが、俺は大玉二個をぶら下げ彩音を背に崖を下る。
ロープを回収しながらの下りなので時間が掛かり、洞窟に辿り着いた時には、雲海が茜色に染まり、雲の上に崖の影が黒く長く延びていた。
洞窟の奥に小さな湧き水があり、簡単な夕飯の準備が始まった。
厩で調達した薪は生木が多く混じっており、担当した護衛はマッフルから拳骨をくらっていた。
火打ち石から火花を飛ばして懸命に吹いているのだが、なかなか火が着かないで手間取っている。
面白そうなので、俺も加わって吹いてみる。
今まで手間取っていたのが嘘のように簡単に燃え上がった。
火の着いた薪が配られ、洞窟の中に柔らかいオレンジ色の灯りが広がって行く。
焚き火から立ち上った白煙が、洞窟の天井を伝って崖を昇って行く。
飯を食い終わると昼間続いた緊張で疲れたのか、俺に文句を言い続けていたキャル達も含めて、皆、静かに寝入ってしまった。
彩音は何時も通り、俺の右腕の中に収まって抱き付いている。
焚き火が消された洞窟の中の灯りは、洞窟の入り口から差し込む双子の月の月明かりと満天の星々の星明かりのみである。
洞窟の奥から眺める月が浮かぶ夜空は、黒い額縁で飾られた繊細な幻想絵画の様に見える。
「お兄ちゃん、なんか異世界ぽいよね、ここ」
「ああ、日本じゃ洞窟で寝るなんて無いからな」
「私ね、治癒魔法の能力が有るんだって。先生が言ってた」
「そりゃ凄いな。格好良いんじゃないか」
「でもね、手がピカーって光って傷が治るんじゃなくて、薬の効きが少し良くなるだけらしいよ。なんか夢が無いよね、異世界なのにさ」
「ああ、俺も火魔法の才能が有るって言われたぞ」
「へー、それってファイヤーボールとか出せるの」
「火力の調整が少し出来るだけらしいぞ。鍛冶屋とか陶芸家とか料理人に向いてるらしい」
「うーん、私の魔法より地味だね。魔法なのに生活感満載なんてなんかがっかりだね」
「彩、ファイヤー」
俺は左手を添えながら、右手を広げて見せる。
掌に一瞬だけ炎が立ち上り、闇に彩音の驚いた顔が浮かび上がる。
俺はその炎を握り潰す。
「うわー、お兄ちゃん、魔法がちゃんと使えるんじゃない。すごーい」
彩音が目を輝かして興奮しているので、俺は悪戯とは言えなくなってしまった。
火魔法の才能が有ると言われてから、彩音を驚かせようと考えた手品だ。
単に、右手に握った枯れ草に、左手に隠し持ったライターから火花を飛ばして燃え上がらせただけなのだ。
念のため釘を差しておく。
「彩、これは秘密だから人に言っちゃ駄目だぞ」
「うん、二人だけの秘密だよね、お兄ちゃん」
彩音が俺に顔を近づける。
一瞬戸惑ったが、もう何度も唇を交わしたし、欧米じゃ単なる挨拶だと考え直す。
唇を離した後、俺の胸に顔を擦り付け、彩音は静かな寝息を立て始めた。
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