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Ⅰ 王都へ
5 報酬
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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位
1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位
ーーーーーーーーーー
朝食が終わると三台の荷車が連なって出発した。
怪我人が真ん中の荷車に集められ、子供達が最後尾である俺達の荷車に集められた。
荷車は速度を緩め、周囲を男達が交代で警戒しながら進んで行く。
大人達は、最後尾の荷車に乗る少年少女も庇護対象として扱っているようであったが、何故か俺は完全に交代要員として組み込まれ、彩音も真ん中の荷車に呼ばれて交代で怪我人の治療を手伝う大人扱いになっていた。
結局四日間、森を抜けるまで犬の襲撃が間欠的続いた、俺達は獲物としてあの群れに認識されていたのだろう。
俺は最初、最後尾の比較的安全な場所を乗客の男達と一緒に担当していたのだが、次第に完全な護衛の男達の一人として見なされ始め、危険な場所の担当に変って行った。
慣れとは恐ろしい、肉が食べられる様になり、犬の捌き方も少しずつ覚えた。
犬が美味そうに見え始めたから不思議だ。
森を抜けると見晴らしの良い草原が広がっていた。
犬の群れのテリトリーは森までの様で、俺達は長閑な光景の中、警戒を解いて順調に進んだ。
少女達が子供達に歌を教えている、素朴な旋律が風に乗って草原に流れて行く。
俺には、その歌詞の意味は皆目判らなかったが、明るく力強い曲調が求愛の歌の様に聞こえた。
土の色が濃くなり湿気を帯び始めると、道は木道に変わり沼地に差し掛かっかた。
再び速度を緩めて交代で警戒しながら進む様になる。
乗客の男達は荷車に乗せ、山刀をハンマーに持ち替えた護衛達が周囲を警戒した。
泥の中から木道の欄干を越えて現れたのは二足歩行の蜥蜴だった。
背丈は人の子供くらいなのだが、鋭い爪と尖った歯を持ち、硬い鱗で全身が覆われている。
幸い動きが鈍かったので、十分に踏み込んでから腰を据えてから木刀を振り降ろせば一発で退治できた。
頭骨が割れる手応えが有り、蜥蜴はゆっくりと眠る様に昏倒した。
腰が引けて苦戦している若い護衛の手助けに回る余裕も有った。
打ち下ろすハンマーの面がぶれて鱗の上を滑っている。
横合いから一撃で蜥蜴を倒すと、若い護衛は右肩を押えて座り込んでいた。
重い武器は威力が増す分、筋肉に掛る負荷が増加する。
ベテランの護衛は確実に脳天を一撃で打ち抜いている。
荷車の空いているスペースに倒した蜥蜴を放り込む度に、荷車から女性の悲鳴が聞こえて来た。
欄干を登ろうとする蜥蜴を叩き落しながら、急いで沼地の木道を抜ける。
道が緩やかな登りとなり、小高い丘に向かって行く。
そしてその丘の上に塀で囲まれた町が見えてきた。
俺達にとって、この世界で初めての町だ。
町を囲む塀は干し煉瓦、二メートル程の高さである。
門には頑強な木の扉が設けられていたが、検問は無かった。
門を抜けると広場になっており、そこで一行は荷車を止める。
護衛達が荷車から犬の毛皮と先ほどの蜥蜴の死体を広場の一隅に並べ始めた。
この数日、護衛達と行動を共にしている俺も何となく手伝う。
「お兄ちゃん、討伐報酬が貰えるらしいよ。これってゲームと一緒だね」
気が付くと脇に彩音が座っていた。
蜥蜴の鱗を指で突っついている。
「ふーん、彩は言葉が判る様になったのか」
「えっ!お兄ちゃんまだ喋れないの」
「うっ、すまん」
彩音が並べてある犬の皮を見渡し、俺の手を引く。
「お兄ちゃんの分はあそこだよ。役人の確認が終わったら商人が買い取ってくれるんだって」
周囲に比べて一際高く積まれている犬毛皮の前に彩音が立ち止まった。
勿論蜥蜴も二匹一緒に並んでいる。
「お兄ちゃん、犬に呪われちゃうんじゃないの」
衣の様な服を着た役人らしき男が数を確認し、書付を毛皮の上に置いて行く。
彩音が書付け手に取って眺めている。
「彩は字も読める様になったのか」
「当たり前じゃない」
「すまん」
彩音が書付けから顔を上げる。
「犬が四十三匹で、四ツト三テト。蜥蜴が二匹で六テトだって、大きいくせに蜥蜴って安いんだね。お兄ちゃん、大きい銀貨がツトで小さい銀貨がテトって知ってるよね」
「すまん」
「もー、この紙をギルドに持って行けば換金してくれるんだって。ふっ、ふっ、ふっ、冒険者ギルドだよお兄ちゃん」
役人の確認が終わると周囲で見守っていた男達が寄って来た。
犬の皮は特に丁寧に確認している。
「●×▽□○、#$%、△▲□○」
何か聞かれている。
「#○○□$▲、■×○▲□」
彩音が、翔の木刀を指差しながら説明している。
俺は何か取り残された気分になって来た。
「お兄ちゃん、毛皮に傷が無いんで不思議だったらしいの。だから木刀で撲殺って答えておいたよ。価値が三倍違うんだって」
結局、彩音が男達と交渉して毛皮と蜥蜴を売り払った。
「お兄ちゃん、毛皮は一匹一テト五トトで六ツト四テトと五トトになったよ。蜥蜴は一匹二トトだから役立たずだったけど、これで今日は安心して宿に泊まれるよ」
犬の毛皮の引き取り価格は通常五トト、五百円だ。
平均的な賃料は解らないが、俺は労働単価として日本と大差が無い様に感じた。
ーーーーー
背後から同乗している少女三人組が翔の背中を熱い眼差しで見つめていた。
彼女達はまだ半人前である。
村に居た時には働いても手に出来た報酬は小遣い程度、大銀貨など手に取ったこともない。
なのにこの同い年くらいの少年は、この数日で大人に混じって大人以上に稼ぎ、大銀貨どころか金貨を叩き出している。
毛色の変わった少年なので、彼女達は興味本位で少し世話を焼いていた。
だが、目の色が変わる。
王都に着くまでが勝負、カルナ達の中からより良い人生の伴侶を捕まえる、早い者勝ち、カルナとして村を出る時に母や姉から言い聞かされた心得だ。
自分の父親より何倍も稼ぎの良い少年、容姿も悪く無いし、何よりも優しくて強い。
目を皿の様にしてこの数日少年を観察していたので判る。
幸い連れはちんちくりんの小便臭い餓鬼だ、拳を小さく握り締める。
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位
1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位
ーーーーーーーーーー
朝食が終わると三台の荷車が連なって出発した。
怪我人が真ん中の荷車に集められ、子供達が最後尾である俺達の荷車に集められた。
荷車は速度を緩め、周囲を男達が交代で警戒しながら進んで行く。
大人達は、最後尾の荷車に乗る少年少女も庇護対象として扱っているようであったが、何故か俺は完全に交代要員として組み込まれ、彩音も真ん中の荷車に呼ばれて交代で怪我人の治療を手伝う大人扱いになっていた。
結局四日間、森を抜けるまで犬の襲撃が間欠的続いた、俺達は獲物としてあの群れに認識されていたのだろう。
俺は最初、最後尾の比較的安全な場所を乗客の男達と一緒に担当していたのだが、次第に完全な護衛の男達の一人として見なされ始め、危険な場所の担当に変って行った。
慣れとは恐ろしい、肉が食べられる様になり、犬の捌き方も少しずつ覚えた。
犬が美味そうに見え始めたから不思議だ。
森を抜けると見晴らしの良い草原が広がっていた。
犬の群れのテリトリーは森までの様で、俺達は長閑な光景の中、警戒を解いて順調に進んだ。
少女達が子供達に歌を教えている、素朴な旋律が風に乗って草原に流れて行く。
俺には、その歌詞の意味は皆目判らなかったが、明るく力強い曲調が求愛の歌の様に聞こえた。
土の色が濃くなり湿気を帯び始めると、道は木道に変わり沼地に差し掛かっかた。
再び速度を緩めて交代で警戒しながら進む様になる。
乗客の男達は荷車に乗せ、山刀をハンマーに持ち替えた護衛達が周囲を警戒した。
泥の中から木道の欄干を越えて現れたのは二足歩行の蜥蜴だった。
背丈は人の子供くらいなのだが、鋭い爪と尖った歯を持ち、硬い鱗で全身が覆われている。
幸い動きが鈍かったので、十分に踏み込んでから腰を据えてから木刀を振り降ろせば一発で退治できた。
頭骨が割れる手応えが有り、蜥蜴はゆっくりと眠る様に昏倒した。
腰が引けて苦戦している若い護衛の手助けに回る余裕も有った。
打ち下ろすハンマーの面がぶれて鱗の上を滑っている。
横合いから一撃で蜥蜴を倒すと、若い護衛は右肩を押えて座り込んでいた。
重い武器は威力が増す分、筋肉に掛る負荷が増加する。
ベテランの護衛は確実に脳天を一撃で打ち抜いている。
荷車の空いているスペースに倒した蜥蜴を放り込む度に、荷車から女性の悲鳴が聞こえて来た。
欄干を登ろうとする蜥蜴を叩き落しながら、急いで沼地の木道を抜ける。
道が緩やかな登りとなり、小高い丘に向かって行く。
そしてその丘の上に塀で囲まれた町が見えてきた。
俺達にとって、この世界で初めての町だ。
町を囲む塀は干し煉瓦、二メートル程の高さである。
門には頑強な木の扉が設けられていたが、検問は無かった。
門を抜けると広場になっており、そこで一行は荷車を止める。
護衛達が荷車から犬の毛皮と先ほどの蜥蜴の死体を広場の一隅に並べ始めた。
この数日、護衛達と行動を共にしている俺も何となく手伝う。
「お兄ちゃん、討伐報酬が貰えるらしいよ。これってゲームと一緒だね」
気が付くと脇に彩音が座っていた。
蜥蜴の鱗を指で突っついている。
「ふーん、彩は言葉が判る様になったのか」
「えっ!お兄ちゃんまだ喋れないの」
「うっ、すまん」
彩音が並べてある犬の皮を見渡し、俺の手を引く。
「お兄ちゃんの分はあそこだよ。役人の確認が終わったら商人が買い取ってくれるんだって」
周囲に比べて一際高く積まれている犬毛皮の前に彩音が立ち止まった。
勿論蜥蜴も二匹一緒に並んでいる。
「お兄ちゃん、犬に呪われちゃうんじゃないの」
衣の様な服を着た役人らしき男が数を確認し、書付を毛皮の上に置いて行く。
彩音が書付け手に取って眺めている。
「彩は字も読める様になったのか」
「当たり前じゃない」
「すまん」
彩音が書付けから顔を上げる。
「犬が四十三匹で、四ツト三テト。蜥蜴が二匹で六テトだって、大きいくせに蜥蜴って安いんだね。お兄ちゃん、大きい銀貨がツトで小さい銀貨がテトって知ってるよね」
「すまん」
「もー、この紙をギルドに持って行けば換金してくれるんだって。ふっ、ふっ、ふっ、冒険者ギルドだよお兄ちゃん」
役人の確認が終わると周囲で見守っていた男達が寄って来た。
犬の皮は特に丁寧に確認している。
「●×▽□○、#$%、△▲□○」
何か聞かれている。
「#○○□$▲、■×○▲□」
彩音が、翔の木刀を指差しながら説明している。
俺は何か取り残された気分になって来た。
「お兄ちゃん、毛皮に傷が無いんで不思議だったらしいの。だから木刀で撲殺って答えておいたよ。価値が三倍違うんだって」
結局、彩音が男達と交渉して毛皮と蜥蜴を売り払った。
「お兄ちゃん、毛皮は一匹一テト五トトで六ツト四テトと五トトになったよ。蜥蜴は一匹二トトだから役立たずだったけど、これで今日は安心して宿に泊まれるよ」
犬の毛皮の引き取り価格は通常五トト、五百円だ。
平均的な賃料は解らないが、俺は労働単価として日本と大差が無い様に感じた。
ーーーーー
背後から同乗している少女三人組が翔の背中を熱い眼差しで見つめていた。
彼女達はまだ半人前である。
村に居た時には働いても手に出来た報酬は小遣い程度、大銀貨など手に取ったこともない。
なのにこの同い年くらいの少年は、この数日で大人に混じって大人以上に稼ぎ、大銀貨どころか金貨を叩き出している。
毛色の変わった少年なので、彼女達は興味本位で少し世話を焼いていた。
だが、目の色が変わる。
王都に着くまでが勝負、カルナ達の中からより良い人生の伴侶を捕まえる、早い者勝ち、カルナとして村を出る時に母や姉から言い聞かされた心得だ。
自分の父親より何倍も稼ぎの良い少年、容姿も悪く無いし、何よりも優しくて強い。
目を皿の様にしてこの数日少年を観察していたので判る。
幸い連れはちんちくりんの小便臭い餓鬼だ、拳を小さく握り締める。
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