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Ⅰ 王都へ
1 草原にて
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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ーーーーーーーーーーー
「お兄ちゃん」
階段から落ちてしまった。
最近少し軽薄になったけど、いざと言う時、やっぱりお兄ちゃんは頼りになる。
階段を踏み外した私を抱き留めてくれたのだ。
久々のお兄ちゃんの広い胸で、お兄ちゃんに護られて落ちるのは気持ちが良かった。
そのままずっと、お兄ちゃんの胸に抱き付いていたかった。
何の衝撃も無かった、お兄ちゃんが全部受け止めてくれたのだろうか。
心配になってお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。
大丈夫そうだった、けど目を見開いて私の背後を見詰めている。
何を見てるだろう、その視線の先を追って私も釣られる様に背後を振り向いた。
物凄く驚いた、家の天井が無くなって、青空が広がっていたのだ。
空間の狭間、東京に居た人が北海道に飛ばされた話をお母さんの雑誌で読んだことがある。
エッチな漫画の次のページに載っていた。
お兄ちゃんが私を抱っこしたまま立ち上がって周囲を見回している。
一面の草原、遮る物は何も無い。
腰高の細長い、菖蒲の様な草が一面に広がっている。
遠くに小さな木が所々に茂っている。
その背後には雪を被った山が在って、更にその上空には覆い被さる様に尖がった白い峰が浮いている。
長野のお爺ちゃんの家から見た戸隠の山に似ている。
風が冷たくて身体が震えて来た、タンクトップに短いジーンズじゃ凄く寒い。
お兄ちゃんがスポーツバックからジャージの上衣とハーフパンツを取り出して、私に着せてくれた。
そして自分の靴下を脱いで、裸足だった私に履かせくれた。
お兄ちゃんがなんか優しい。
ーーーーー
「お兄ちゃんは」
「俺は裸足には慣れてるから大丈夫だ」
足元の泥濘の中を、天空に浮かぶ峰々に背を向けて俺達は歩み出した。
彩音が俺のベルトを背後からしっかりと掴んで、俺の作った踏み跡を黙々とトレースしている。
「お兄ちゃん、ここ何処だろう」
「何処だろ、スマホのアンテナが全然立たないからなー」
「戸隠のお爺ちゃんの家の近くに似てないかな。さっきの山の感じがさ」
「ああ、なんか似ていたな」
「長野から急に連絡したら父さんと母さん驚くだろうね。このままお爺ちゃんの家に泊めて貰おうか。ふふふ」
「ああ、お爺ちゃんも喜ぶぞ」
だが俺は何か違和感を感じており、背負った木刀が直ぐ抜ける様に緩めてある。
闖入者に驚いて足元を飛び跳ねるバッタの足が、何故か皆、二本多かったのだ。
彩音を護らなければならない。
不思議なもので責任感と愛おしさが急に込み上げて来た。
草原の中に細い水の流を見付け、その細流の流れる先に向かって移動する。
水を辿れば、水が里まで案内してくれる。
細流が徐々に水を集め、草原が灌木混じりの湿地に変る。
湿地に石や岩が混じり始め、細流が沢に変った時には、天頂にあった陽が傾き、茜色に染まった世界が青に変わろうとしていた。
彩音はずいぶん前から俺が背負っている。
濡れた靴下で歩いて疲れたらしい。
俺の背中にしがみ付いて安心しきった寝息を立てている。
何かその温もりが愛おしい。
足元が見えなくなり始めたので、彩音を平らな場所に降ろしてから枯れ枝を拾い集めた。
岩の間の狭い空間に入り込み、枯れ枝を積んで火を着ける。
浜辺での花火用に買った使い捨てライターが役に立った。
コーヒー缶のコーヒーを飲み干し、丁寧に洗う。
水を満たして火の中に入れ、缶でお湯を沸かす。
彩音を揺り起こして、半分に分けたクリームパンを食べさせる。
沸騰したお湯を飲み掛けのスポーツ飲料のペットボトルに注ぎ入れ、彩音に手渡す。
暖かさを慈しむ様に両手でペットボトルを抱えて飲み始めた。
「お兄ちゃん、スポーツドリンクって甘いんだね」
彩音が脇で寝息を立て始め、俺は火明かりを頼りに所持品の確認を始めた。
空に昇った月は、星屑を纏った双子星だった。
俺はその月を見上げて暫く呆けていた。
嘘みたいな話だが、ここはどう考えても地球じゃない。
俺は所持品が俺達の命を左右すると思った。
スポーツバックの中に入っていたのは、先ほどのライターとコーヒー缶、今彩音に着せているジャージの上衣とハーフパンツ、スマホと小銭入れ、面白半分で買ったソーラー充電器、今岩の上に洗って広げてある剣道着の上衣、飲み掛けのスポーツドリンクとまだ飲んでないスポーツドリンクが各一本、今二人で分けあって食べたクリームパンと残してあるジャムパンとアンパンが各一個、ボールペンが二本にピンクのラインマーカーが一本、そしてこの事態の発端となったスポーツタオル一本だ。
竹刀袋には竹刀が二本に木刀が一本、そして袋のポケットには小さなラジオペンチ一本と百均で買った裁縫道具一式、竹刀の弦が一本と中結びが一本入っていた。
彩音は部屋から出て来たままなので所持品はない。
価値の有りそうな物も無く、サバイバルの道具になるような物も無い。
前途の多難さを思い、俺は吸い込まれそうな満天の星空を見上げて白い息を吐いた。
寒いのか彩音が寝返りを打って身体を寄せて来た。
頭を振って、俺の脇の下に頭の位置を確保すると、足を絡めて再び寝息を立て始めた。こいつは護ってやらなきゃならない、横顔を眺めながら、火を絶やさぬ様に半分眠りながら枝を火に放り込んだ、今日は寝ずの番だ。
ーーーーー
翌朝、お湯で割った暖かいスポーツドリンクを飲んでから、二人は再び沢を下り始めた。
下るに従い沢は水量を増し、周囲の木々もその高さを増して来る。
沢に瀬や淵が現れ、崖や滝に幾度となく行く手を遮られるようになりながらも、なんとか沢を下って行く。
川の中にも魚影が見え始め、逃げ去る鹿や栗鼠の姿も多くなる。
手頃な天然の室屋を見付けて、二人は少し早めに二日目の行程を終えた。
翔が竹刀を分解し、弦と中結びを使って細長い魚篭を組み立てる。
瀬の中に石の堤を作り、中央に魚籠を寝かせて固定する。
落ちていた長い枝で、二人で協力して二方から水面を叩いて魚籠へと魚を追い込む。
魚籠を持ち上げると中で小魚や川海老が一杯飛び跳ねていた。
翔は自慢げに胸を張り、彩音は目を輝かせて大喜びしている。
空缶のニップルで翔が丁寧に小魚の鱗を落し、腹を裂いて内臓を指で掻き出す。
その小魚を彩音が焼けた石の上に並べて行く。
周囲は既に夕闇に包まれている。
夢中で魚を追っていたので、全身がびしょ濡れになっていた。
彩音はジャージの上衣一枚、翔は剣道着の上衣一枚の姿になっている。
パンツも含めて濡れた服は岩の上に並べて乾かしている。
素肌に当たる焚火の熱は、二人の身体と心の芯を暖めて行く。
味の無い小魚や川海老であったが、菓子パンで空腹を凌いでいた彼らにはこれで十分満足だった。
骨を埋め、お湯で割ったスポーツ飲料を飲み終わると、疲れと満腹感で彩音は倒れる様に翔にもたれ掛って眠ってしまう。
彩音は、昨夜同様に翔の脇の下に頭を差し入れ、縋り付く様に足を絡めると深い安堵の息を吐いてから安らかな寝息を立て始めている。
ジャージの裾が捲れ上がり、彩音の下半身が焚火の灯りに浮き上がっている。
触ると壊れそうな、陶器の細い人形の様だ。
翔は二人のパンツを火で根気よく乾かしてから彩音に履かせる。
毛はまだ無かったし、尻も小ぶりで心地よい弾力を翔の手の平に残した。
そして自身もパンツを身に着け、危険物を収納した。
暖かいパンツは身体の芯を暖める様で気持ちが落ち着いた。
この日も翔は眠気と戦いながら、火を絶やさぬ様に枝を火に加え続けた。
翌朝、前日残した小魚で朝食を済ませ、翔が焚火に当りながらお湯で割ったスポーツドリンクを飲んでいると、彩音がじっと翔の顔を見詰めていることに気が付いた。
「お兄ちゃん、昨日寝てる間に私にパンツ履かせたでしょ」
「ああ、寒そうだったからな」
「見たの」
「暗かったから見て無いぞ」
「ふーん、ふーん、絶対嘘だ。お兄ちゃんのエッチ」
谷が深くなり、勾配のきつい岩場が谷底のガレ場へと変って行く。
途中、翔は崖を伝う細蔦を見付けて二人分の草鞋を編み上げた。
鳥が啄んでいた実を拾い集めて焼き、蕗に似た野草を煮たり、山芋に似た根を潰して焼いたりと、崖に生えている食材は意外に多く、二人の食卓の品目は日々進化した。
彩音はこのサバイバルを楽しんでいるようで、寝る時にも、最初から遠慮無く翔に抱き付いて眠る様になった。
そして今度は徐々に谷が浅くなり、遂に七日目の陽が中天に差し掛かった頃、二人は広い川原の中に焚火後と沢を横切る杣道を発見した。
右岸を行く道は沢沿いに山へ分け入る道、左岸は川から離れて林の中に消えて行く道である。
翔は安堵の溜息を吐いた。人が居る世界の様だ。
「お兄ちゃん、どっちに行くの」
「左だろうな、だけど川から離れる前に水を汲んでおこう」
二人は左岸の林の中の杣道へと分け入って行った。
樹上を警戒しながら二時間程歩くと、二人は呆気なく林を抜けて見晴の良い開けた石畳の広い道に付き当たった。
道はほぼ真っ直ぐで、左手の遥か彼方に背の低い建物らしき物が見える。
ある程度の文明レベルは有りそうだと翔は思った。
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ーーーーーーーーーーー
「お兄ちゃん」
階段から落ちてしまった。
最近少し軽薄になったけど、いざと言う時、やっぱりお兄ちゃんは頼りになる。
階段を踏み外した私を抱き留めてくれたのだ。
久々のお兄ちゃんの広い胸で、お兄ちゃんに護られて落ちるのは気持ちが良かった。
そのままずっと、お兄ちゃんの胸に抱き付いていたかった。
何の衝撃も無かった、お兄ちゃんが全部受け止めてくれたのだろうか。
心配になってお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。
大丈夫そうだった、けど目を見開いて私の背後を見詰めている。
何を見てるだろう、その視線の先を追って私も釣られる様に背後を振り向いた。
物凄く驚いた、家の天井が無くなって、青空が広がっていたのだ。
空間の狭間、東京に居た人が北海道に飛ばされた話をお母さんの雑誌で読んだことがある。
エッチな漫画の次のページに載っていた。
お兄ちゃんが私を抱っこしたまま立ち上がって周囲を見回している。
一面の草原、遮る物は何も無い。
腰高の細長い、菖蒲の様な草が一面に広がっている。
遠くに小さな木が所々に茂っている。
その背後には雪を被った山が在って、更にその上空には覆い被さる様に尖がった白い峰が浮いている。
長野のお爺ちゃんの家から見た戸隠の山に似ている。
風が冷たくて身体が震えて来た、タンクトップに短いジーンズじゃ凄く寒い。
お兄ちゃんがスポーツバックからジャージの上衣とハーフパンツを取り出して、私に着せてくれた。
そして自分の靴下を脱いで、裸足だった私に履かせくれた。
お兄ちゃんがなんか優しい。
ーーーーー
「お兄ちゃんは」
「俺は裸足には慣れてるから大丈夫だ」
足元の泥濘の中を、天空に浮かぶ峰々に背を向けて俺達は歩み出した。
彩音が俺のベルトを背後からしっかりと掴んで、俺の作った踏み跡を黙々とトレースしている。
「お兄ちゃん、ここ何処だろう」
「何処だろ、スマホのアンテナが全然立たないからなー」
「戸隠のお爺ちゃんの家の近くに似てないかな。さっきの山の感じがさ」
「ああ、なんか似ていたな」
「長野から急に連絡したら父さんと母さん驚くだろうね。このままお爺ちゃんの家に泊めて貰おうか。ふふふ」
「ああ、お爺ちゃんも喜ぶぞ」
だが俺は何か違和感を感じており、背負った木刀が直ぐ抜ける様に緩めてある。
闖入者に驚いて足元を飛び跳ねるバッタの足が、何故か皆、二本多かったのだ。
彩音を護らなければならない。
不思議なもので責任感と愛おしさが急に込み上げて来た。
草原の中に細い水の流を見付け、その細流の流れる先に向かって移動する。
水を辿れば、水が里まで案内してくれる。
細流が徐々に水を集め、草原が灌木混じりの湿地に変る。
湿地に石や岩が混じり始め、細流が沢に変った時には、天頂にあった陽が傾き、茜色に染まった世界が青に変わろうとしていた。
彩音はずいぶん前から俺が背負っている。
濡れた靴下で歩いて疲れたらしい。
俺の背中にしがみ付いて安心しきった寝息を立てている。
何かその温もりが愛おしい。
足元が見えなくなり始めたので、彩音を平らな場所に降ろしてから枯れ枝を拾い集めた。
岩の間の狭い空間に入り込み、枯れ枝を積んで火を着ける。
浜辺での花火用に買った使い捨てライターが役に立った。
コーヒー缶のコーヒーを飲み干し、丁寧に洗う。
水を満たして火の中に入れ、缶でお湯を沸かす。
彩音を揺り起こして、半分に分けたクリームパンを食べさせる。
沸騰したお湯を飲み掛けのスポーツ飲料のペットボトルに注ぎ入れ、彩音に手渡す。
暖かさを慈しむ様に両手でペットボトルを抱えて飲み始めた。
「お兄ちゃん、スポーツドリンクって甘いんだね」
彩音が脇で寝息を立て始め、俺は火明かりを頼りに所持品の確認を始めた。
空に昇った月は、星屑を纏った双子星だった。
俺はその月を見上げて暫く呆けていた。
嘘みたいな話だが、ここはどう考えても地球じゃない。
俺は所持品が俺達の命を左右すると思った。
スポーツバックの中に入っていたのは、先ほどのライターとコーヒー缶、今彩音に着せているジャージの上衣とハーフパンツ、スマホと小銭入れ、面白半分で買ったソーラー充電器、今岩の上に洗って広げてある剣道着の上衣、飲み掛けのスポーツドリンクとまだ飲んでないスポーツドリンクが各一本、今二人で分けあって食べたクリームパンと残してあるジャムパンとアンパンが各一個、ボールペンが二本にピンクのラインマーカーが一本、そしてこの事態の発端となったスポーツタオル一本だ。
竹刀袋には竹刀が二本に木刀が一本、そして袋のポケットには小さなラジオペンチ一本と百均で買った裁縫道具一式、竹刀の弦が一本と中結びが一本入っていた。
彩音は部屋から出て来たままなので所持品はない。
価値の有りそうな物も無く、サバイバルの道具になるような物も無い。
前途の多難さを思い、俺は吸い込まれそうな満天の星空を見上げて白い息を吐いた。
寒いのか彩音が寝返りを打って身体を寄せて来た。
頭を振って、俺の脇の下に頭の位置を確保すると、足を絡めて再び寝息を立て始めた。こいつは護ってやらなきゃならない、横顔を眺めながら、火を絶やさぬ様に半分眠りながら枝を火に放り込んだ、今日は寝ずの番だ。
ーーーーー
翌朝、お湯で割った暖かいスポーツドリンクを飲んでから、二人は再び沢を下り始めた。
下るに従い沢は水量を増し、周囲の木々もその高さを増して来る。
沢に瀬や淵が現れ、崖や滝に幾度となく行く手を遮られるようになりながらも、なんとか沢を下って行く。
川の中にも魚影が見え始め、逃げ去る鹿や栗鼠の姿も多くなる。
手頃な天然の室屋を見付けて、二人は少し早めに二日目の行程を終えた。
翔が竹刀を分解し、弦と中結びを使って細長い魚篭を組み立てる。
瀬の中に石の堤を作り、中央に魚籠を寝かせて固定する。
落ちていた長い枝で、二人で協力して二方から水面を叩いて魚籠へと魚を追い込む。
魚籠を持ち上げると中で小魚や川海老が一杯飛び跳ねていた。
翔は自慢げに胸を張り、彩音は目を輝かせて大喜びしている。
空缶のニップルで翔が丁寧に小魚の鱗を落し、腹を裂いて内臓を指で掻き出す。
その小魚を彩音が焼けた石の上に並べて行く。
周囲は既に夕闇に包まれている。
夢中で魚を追っていたので、全身がびしょ濡れになっていた。
彩音はジャージの上衣一枚、翔は剣道着の上衣一枚の姿になっている。
パンツも含めて濡れた服は岩の上に並べて乾かしている。
素肌に当たる焚火の熱は、二人の身体と心の芯を暖めて行く。
味の無い小魚や川海老であったが、菓子パンで空腹を凌いでいた彼らにはこれで十分満足だった。
骨を埋め、お湯で割ったスポーツ飲料を飲み終わると、疲れと満腹感で彩音は倒れる様に翔にもたれ掛って眠ってしまう。
彩音は、昨夜同様に翔の脇の下に頭を差し入れ、縋り付く様に足を絡めると深い安堵の息を吐いてから安らかな寝息を立て始めている。
ジャージの裾が捲れ上がり、彩音の下半身が焚火の灯りに浮き上がっている。
触ると壊れそうな、陶器の細い人形の様だ。
翔は二人のパンツを火で根気よく乾かしてから彩音に履かせる。
毛はまだ無かったし、尻も小ぶりで心地よい弾力を翔の手の平に残した。
そして自身もパンツを身に着け、危険物を収納した。
暖かいパンツは身体の芯を暖める様で気持ちが落ち着いた。
この日も翔は眠気と戦いながら、火を絶やさぬ様に枝を火に加え続けた。
翌朝、前日残した小魚で朝食を済ませ、翔が焚火に当りながらお湯で割ったスポーツドリンクを飲んでいると、彩音がじっと翔の顔を見詰めていることに気が付いた。
「お兄ちゃん、昨日寝てる間に私にパンツ履かせたでしょ」
「ああ、寒そうだったからな」
「見たの」
「暗かったから見て無いぞ」
「ふーん、ふーん、絶対嘘だ。お兄ちゃんのエッチ」
谷が深くなり、勾配のきつい岩場が谷底のガレ場へと変って行く。
途中、翔は崖を伝う細蔦を見付けて二人分の草鞋を編み上げた。
鳥が啄んでいた実を拾い集めて焼き、蕗に似た野草を煮たり、山芋に似た根を潰して焼いたりと、崖に生えている食材は意外に多く、二人の食卓の品目は日々進化した。
彩音はこのサバイバルを楽しんでいるようで、寝る時にも、最初から遠慮無く翔に抱き付いて眠る様になった。
そして今度は徐々に谷が浅くなり、遂に七日目の陽が中天に差し掛かった頃、二人は広い川原の中に焚火後と沢を横切る杣道を発見した。
右岸を行く道は沢沿いに山へ分け入る道、左岸は川から離れて林の中に消えて行く道である。
翔は安堵の溜息を吐いた。人が居る世界の様だ。
「お兄ちゃん、どっちに行くの」
「左だろうな、だけど川から離れる前に水を汲んでおこう」
二人は左岸の林の中の杣道へと分け入って行った。
樹上を警戒しながら二時間程歩くと、二人は呆気なく林を抜けて見晴の良い開けた石畳の広い道に付き当たった。
道はほぼ真っ直ぐで、左手の遥か彼方に背の低い建物らしき物が見える。
ある程度の文明レベルは有りそうだと翔は思った。
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