努力と根性と運が少々

切粉立方体

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25 赤オーガ

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 重い足取りで彼らは迷宮を出て行った。
 あの様子からすると、何の収穫も無かったのだろう。
 
 僕らは様子見がてら、少し歩いて見る。
 赤いオーガは知能がそれなりに発達しているようで、小規模な集落を形成して赤い廃墟に住んでいた。
 石の竈に石の鍋、石の包丁で豪快に食材を切り刻み、石の鍋に放り込んでいる。
 薪は廃墟の所々に生えている真っ赤な木、葉も幹も煙も全部が鮮やかな赤だ。

 鍋を数匹で囲んで、談笑しながら食っている。
 食材は見ないことにした。
 彼らに取って、人は単なる獲物にしか過ぎないようだ。
 赤い煙を棚引かせながらも、集落に見張りは居ない。
 彼らを害する物がここには居ないのだろう。

 狩りに出た一匹の後を追い、集落から十分離れた場所で襲ってみる。
 近接戦の練習だ、マリアには離れた場所で周囲を見張って貰っている。

 だが戦いになると、のんびり歩いていたオーガの雰囲気がガラッと変わった。
 錯覚なのだろうが、オーガが膨れ上がった気がした。
 身体能力の高さと集中力の高さに驚いた。
 手足を使い瓦礫の山を縦横無尽に飛び回り、矢をギリギリで避けながら襲って来る。
 しかも棍棒に纏った炎が棍棒の三倍ほどの長さに伸びて来るので間合いが判り辛く、これが厄介だった。
 反応力と視力に成長付与値を割り振って置いて良かった、この微妙な差が僕の命を繋いでいる。
 オーガの炎が目の前を通り過ぎ、炎の熱が襲ってくる。
 贅沢を言えば、脚力にも成長付与値を割り振って置けば良かった、瓦礫の中での移動速度は僕とオーガはほぼ
一緒、つまり逃げ切れない。
 オーガに背を向け、瓦礫の山から思い切って飛び降りる。
 空中で矢を番えて振り向くと、目の前でオーガが棍棒を振り上げていた。

「重弾」

 間一髪、本当にギリギリだった。
 矢がオーガの胸に穴を穿ち、オーガが消えて魔石に変わった。
 そして僕は石畳に背中をしこたま打ち付けた。

「大丈夫、少し癒やすわね」
「ああ、頼む」

 マリアの歌声で、折れた背中の肋骨が繋がって行くのを感じる。

「ごめん、動きが速すぎて援護出来なかった」
「俺も油断した。のそのそ歩いているから楽勝と思ってたけど、戦いになったら力がブワッと上がった。多分、こいつ一匹で雪狼の群れにも楽勝だぞ。あいつら良く取り囲めたな」
「今のオーガの動きからすると、遊んでたんだと思う」
「近接戦は絶対無理だな。気づかれない距離を探ろう」
「うん」

 僕の射程なら、気づかれない内に倒すことが出来た。
 マリアの射程はギリギリで、しかも初矢でオーガが戦闘態勢に入り、二の矢を棍棒で叩き落とされることが多かった。

「弓を強くするのと、唱える呪文の時間短縮の訓練が必要だな」
「うん、あの距離からだと危ないね。少し焦っちゃた」
ーーーーー

「おめでとうございます。これであなた方は正式な迷宮探索者です。凄いですよ、四層を突破してからの最速ですし、赤魔石十個は新記録かもしれません。これから迷宮探索者証を発行しますので、中で少々お待ち下さい」

 僕はオーガを十匹狩り、マリアは三匹狩った。
 窓口の担当者は褒めてくれたが、油断した相手に騙し討ちして勝ったような結果なので胸を張れない。
 赤魔石の買い取り価格は一個金貨五枚だが、割り増しが適応されて金貨六枚。
 この階層の魔石からは軍需品なので、急に跳ね上がったのだろう。
 貧乏性のマリアは大喜びしている。
 経験値は一匹倒すと五千、雪狼の強さと赤オーガの強さを比較すると微妙だ。
 次のレベルアップまでに経験値百万が必要だが、今日既に五万の経験値を手に入れた。
 頑張れば十日以内にレベルアップできそうだが、レベルアップでこの階層を踏破できる程甘く無さそうだ。
 数回レベルアップしてその水準に達するのだろう。
 次の次のレベルアップには経験値が一千万必要だし、その次のレベルアップには経験値が一億必要だ。
 なんだか気が遠くなる、だが当面の目標は、覚醒した赤オーガに余裕で勝てることだ。
 多分この階層での最低限のレベルだと思う。

「おめでとう。君達はこの町での四年振りの迷宮探索者だよ、私もこの事務所の所長として誇らしい。この迷宮探索者証の持ち主には色々な特典が国から与えられる。この冊子がその内容を纏めたものだ。これからも精進して欲しい」

 所長から直接迷宮探索者証を受け取った。
 事務所の職員全員が拍手してくれて、僕の窓口担当者さんが誇らしげにしている。

 迷宮管理事務所を出ると、四層に残して来た神官達と土属性の女性達が歓声を上げながら輪になって踊っている。
 僕達が迷宮探索者証を得たことを伝え聞いて喜びを爆発させたらしい。

「先生おめでとう。一緒に踊ろう」
「マリア、さあこっちこっち」

 野次馬も踊りに加わり始めた様で、僕達も巻き込まれる。
 今日は素直に喜ぼう、僕達は一晩喧噪の輪のなかで踊り続けた。
ーーーーー

 翌日、ヴェルディ村から三人の客人が訪れた。
 寝不足の頭で会ってみると、顔見知りの狩人だった。
 何故か年配者が多い。

「クルト、俺の槍が完璧になったぞ」
「ああ、俺もだ」
「はは、俺も完璧だ」

 試しに穴を開けた的を突かせて見ると、百回続けて突くことが出来た。

「どうだ」
「あはは、緊張したぜ」
「苦労したんだぞ」

 腰が据わり、槍の軌跡が安定している。
 そう、基礎の形は出来ている。

「弓ならここで合格で迷宮に入って貰うんですが、槍だと近接戦になって相手も動くので、応用が必要になります。
違う軌跡でも対応出来るように少し練習しましょう」

 穴の高さが違う複数の的を並べ、練習させる。
 元漁師の女性達の訓練で使った的だ。
 この三人が真っ先に来た訳が判った。
 何の文句も言わず、愚直に同じ動作を繰り返している。
 何も言わなかったが、百回続けて突くことが出来るまで黙々と練習している。
 その夜、夜飯を振る舞い僕の鍜治小屋に泊めた。
 四層に歓楽街の女性達が到達した話をしたら、狩人として悔しがっていた。
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