努力と根性と運が少々

切粉立方体

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23 宿の改修

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 地質改変で作った石の炉の中へ、町で買い求めた炭と鉄を投げ込む。
 父さんの工房にある炉の構造を思い出しながら手作りした。
 鞴は革工と木工のスキルがあるので自信作だ。
 金床やハンマーなどの鍛冶道具一式は町で購入した。
 騒音と煤煙の心配が有ったので、森の中に土壁の魔法と地質改変で小屋を作った。
 属性レベルが上がったので、一週間位形を保っている。
 直径二百歩位の丸い窪地の中央に作ってある。
 この場所は探したのでは無く、出来てしまったのだ。
 そう、爆弾の魔法を試したら、森の木々が吹っ飛んで出来てしまったのだ。

 懸命に鞴を踏みながら、鉄が輝くのを待つ。
 炎を見ていると何故か心が落ち着く。
 鉄が十分に輝いたら炉から取り出し、ひたすら叩いて引き延ばし、人の背程の細長い薄い板に成形する。
 薄板が数枚完成したら、重ね合わせて再び熱し、再びひたすら叩いて弓の形を作って行く。
 地質改変で鋳型を作って流し込んでも良かったのだが、弓の強度を均等するのは難しいと判断してこの手法にした。
 夜明け前から作業を始め、気が付いたら周囲が真っ暗になっていた。
 お陰で自信作が出来た、鉄に粘りが加わり強度も均等になったので長持ちしそうだ。
 ただ困った事に何故か弓が金色になってしまった。
 目立ちそうで恥ずかしいので、表面に煤を塗って磨き上げ、黒い弓にした。
 弦も鉄線にした、コツコツと叩いて均等な太さの鉄の糸を作り上げ、その鉄糸を縒り合わせてある。
ーーーーー

「昨日の朝、森の奥で物凄い音がして一日中煙が上がってたらしいよ。教会に協力要請が来てたから、隊長さんが心配して今日調べに行くらしいよ」
「えっ、それ俺だ」
「仕様が無いわね、直ぐに説明して来なさいよ。もうみんな出発の準備してるわよ」
「済まん、説明して来る」

 出だしで躓いたが、今日も迷宮に潜る。
 今日は昨日作った弓の試し打ちだ。
 弓術も弓道に上がったし、少し楽しみだ。
 今まで以上に腰が安定し、射の形が整った気がする。

 案の定、矢の早さが全然変わり、空気を切り裂いて飛んで行く。
 草原狼と森狼を土弾で倒せるようになり、山狼は石弾、雪狼は重弾で倒せるようになっていた。
 出口で屯って居る雪狼の群れに爆弾をお見舞いしたくなったが、雪崩が起きそうなので止めておいた。
 マリアも弓術の技量が上がったので、爽快に雪狼を狩って行く。
 魔石拾いの速度が上がった様なので、脚力に成長付与値を少し振ったのだろう。
 少し離れた尾根の上では、野次馬が鈴生りになっており、微かな感嘆の息が聞こえる。
 自分達が徒党を組んでやっと倒せる雪狼を次々に一人倒しているのだ、目を疑う光景だろう。
 天使の御業とも言いたくなる気持ちも判る。

 迷宮を出て魔石を換金する。
 最近余り驚かれなくなったが、草原狼、森狼、山狼の魔石各一個と雪狼の魔石二十四個を差し出すと、流石に驚かれた。
 今日の迷宮での収入は大銀貨九枚と金貨十二枚、贅沢する気が全然無いので宿の箪笥には金貨が山積みになっている。
 商人ギルドの売店へ向かう。
 値段は少し高めだが、ここでは何でも売っている。
 野犬の革を十枚、成形した鉄塊を三個、綿二袋、炭の中箱を三箱を買った。
 鉄塊が一個銀貨五十枚、野犬の革が一枚銀貨五枚、綿一袋が銀貨二枚、炭の中箱が一箱銀貨二枚。
 
 本当は、炭を後二箱欲しかったが背負子に積めそうも無いので諦めた。

 鍜治小屋はまだそのままにしてある、勿論石の炉もそのままだ。
 大荷物を背負い、森の中の鍜治小屋へ向かった。

 次層での近接戦に備えて、防具を作る積もりだ。
 炉に火を入れ鉄を溶かし、細い鉄棒を作って行く。
 まだ鉄が赤い内に喰切りで均等な長さに切り、ヤットコとトングで楕円形に曲げる。
 ある程度楕円の鉄輪が貯まったら、縦方向に同じ楕円形の鉄輪で繋ぎ鎖状にする。
 長さの異なる鎖を何十本も造り、横方向を円形の鉄の輪で繋げ、服とズボンの形状にする。
 重量を抑える為、鉄輪を細くて小さくしたの心許ないが、一応チェインメイルだ。
 このままでは歩く時に音がする、先制攻撃が得意な弓に取ってこれは致命的だ。
 なので、綿で鎖を覆い、裏表に野犬の革を縫い付けて音を防ぐことにした。

 外を覗くと陽が丁度天頂に達している。
 昨日は訓練をさぼってしまったが、今日は間に合ったようだ。
 技能を伸ばした教導と弓道と魔力感知のお陰で、教えるべき要所がはっきりと判るように成って来た。
 日に日に進歩して行く彼女達の射を見ることが、僕の楽しみになって来ている。
ーーーーー

 宿の改修の日時が決まった。
 女将会と相談した結果、皆にスラムへ移動して貰い、家を建てて住んで貰うことになった。
 本山の神官達が帰った後のことも心配したが、司祭のお婆ちゃんに相談したところ、この国の神官達が順番待ちしているとのことで安心した。

 樵の技能を伸ばした女性達が木を刈って堀へ放り込み、元漁師の女性達が筏にして製材所へ運び込む。
 運び込まれた丸太は、大工と木工の技能を伸ばした女性達によって、次々に製材されて行く。
 予定地を整え、川の岩を石材に変えて基礎をつくる、レベル2で得られる魔法の割に、地質改変は案外万能だ。
 皮を剥いて切り込みを入れた丸太を基礎の上に積み上げて行くと、次々に小屋の形が出来上がっていく。
 板材で床と天井を張り、板戸と扉も作る。
 そして僕が作った銅板を屋根に張って完成だ。
 木工の技能を持つ女性が多いので、透かし彫りが掘られた家具もどんどん揃って行く。
 一週間で九百軒の家がほぼ完成してしまった。
 彼女達の馬力には脱帽だ。
 作った場所は最初の弓の練習場近く。
 スラムに住民に弓を教えている彼女達の多くがこの場所を希望した、彼女達も修練は常に怠っていない、日没まで弓を射っている。
 町に移動の完了を伝え、改修の予定を早めて貰った。

 僕と同じ宿の女性達は、もう直ぐレベル四に達して四層へと入って来る。
 最初の三人は既にレベル四に達しているが、全員で示し合わせて同時に入ることにしたらしい。
 僕の経験を伝えているので、僕よりも効率よく技能を伸ばせている。
 彼女達については、僕は何の心配していない。
 そして偶然とは恐ろしい物で、神官達が光石の魔法を取得するのと、彼女達が四層に入って来たのが同時だった。

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