努力と根性と運が少々

切粉立方体

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19 教会からの要望

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 泥沼で溺れている連中を縛り上げ、兵士達と協力して詰め所の牢へと放り込む。
 今後迷宮管理事務所が宿で匿っている女性達から陳述を取り、容疑を固めてから王都へ送るそうだ。
 迷宮法違反は国法違反なので、王都で裁くルールだそうだ。
 
 ラルクとその仲間には迷宮での悪業の履歴は無かった。
 女性を騙すことを専業とし、迷宮には殆ど立ち入らなかったらしい。
 多分魔獣と戦うのが怖かったのだろう、それで派手な防具を纏って虚勢を張っていたのだろう。
 僕を襲って来た時も、一番後ろで魔器を振り上げていた。
 町中での魔器や攻撃魔法による攻撃は、領法により禁止されている。
 なので、直ぐにでも領都へ送って裁くそうだ。
 小知恵が回るので魔器の使用を否定するだろうが、兵士達が記録していたので言い逃れは出来ないだろう。

 次の日迷宮に潜ると、皆、連中の捕縛の噂をしていた。
 皆薄々悪業の噂は知って居たようで、表情が明るい。
 連中に媚びていた奴らは、皆の視線を受けて隅で小さくなっている。

「迷宮には神の意志があると言われています。普段はその意志を示されませんが、事有る時にその意志を示されると言われています。神の僕であるべき者達を救って頂、感謝いたします」

 教会の司祭様だ。
 迷宮管理事務所と領兵が動いた今回の事件は、教会へも情報が回っている。
 本山に情報を送ったら、至急対処せよとの指示が、特急の隼便で送られて来たらしい。
 それで司祭自らが老体に鞭打って、僕の泊まっている宿へと出向き、僕と面談している。

 教会も噂は聞いていたので憂慮していたそうだが、破門にした手前、手を差し伸べられ無かったらしい。
 破門が解かれ、教会で彼女達を引き取って貰えることになった。
 マリアは自分のお財布が助かるので大喜びだが、僕は少々複雑だ。

 そして、予想通りに次の質問と要望が来た。
 多分こちらの方が本体だろう。
 情報が伝わった時、教会の本山での大騒ぎは想像できる。
 強い言葉で指示が出されたのだろう、司祭のお婆ちゃんの手が震えていた。

「光属性の者でも、四層で魔獣を討伐出来ると言うのは事実でしょうか」
「はい事実です。実際にマリアは草原狼と大鷲を倒して魔石と経験値を得ています」
「マリア、何でそんな大事なこと報告しなかったの!」
「ごめんなさい司祭様、まだ数回しか倒してないんで、報告が遅れました。本当にごめんなさい」
「これは常識が覆ることなのですよ、教会に帰ったらじっくり話を聞きます。ごほん、これはご相談なのですが、その方法を伝授して頂けないでしょうか」
「それは構いませんが、教わって直ぐに出来るような簡単な物じゃありませんよ。毎日教えて訓練しても、数ヶ月は掛ります。それに一度に教えられるのは、三十~四十人が限度です。本山から数千人、数万人の神官を送ってこられても、正直対処できません」
「そうなのですか」
「時間は掛りますが、彼女達に俺から方法を伝授し、迷宮で魔獣を倒せる技量に達したことを確認したら、彼女達に教師役を担って貰う案は如何でしょう。先の見える話になりますし、本山でも交通整理可能な人数が受け入れられる様になるでしょう。教会の管理下で訓練が行えますし、優秀な教師役の神官も鼠算式に増えるでしょうから、希望者が数千万人に達しても、教会主導で整理して頂ければ、受け入れら可能でしょう。俺個人にも無理な話ですし、この町で受け入れられる人数ではありません」
「数千万人ですか」
「ええ、教会としてもそれ位の規模は覚悟して置いた方が良いと思います」
「理解しました。至急本山に伝えます」

 その日の内に司祭のお婆ちゃんが、了承するとの本山の返事を持って再び訪れた。
 確か本山は国を三つ越えた向こうに有った筈だ、教会の情報網は侮れない。

 良く考えたら、土属性にも同じ事が言える。
 組織が何も無い土属性はより深刻だ。
 襤褸を纏った土属性の村人の長蛇の列が、この町に向かって延々伸びてくる未来が目に浮かぶ。
ーーーーー

 マリアを迷宮の入り口に待たせ、少し奥に入って見た。
 森狼は平原狼と同様石弾で倒せたが、山狼には重弾が必要だった。
 雪狼は重弾では少々不足し、オーバーキル気味ではあったが、貫弾が必要だった。
 一旦重弾を撃ち込み、追加攻撃してみたが、石弾でぎりぎり倒せた。
 単純に、魔力量が攻撃力に化ける訳でも無いらしい。

 草原狼と大鷲が魔力二で経験値百と大銀貨一枚、森狼が魔力二で経験値三百と大銀貨三枚、山狼が魔力三で経験値五百と大銀貨五枚、雪狼が魔力四で経験値千と大銀貨五十枚。
 魔力で割り返すと、草原狼と大鷲が経験値五十と銀貨五十枚、森狼が経験値百五十と大銀貨一枚と銀貨五十枚、山狼が経験値百六十七と大銀貨一枚と銀貨六十七枚、雪狼が経験値二百五十と大銀貨十枚と銀貨三枚。
 何だか雪狼が物凄く美味しい。

 高みから周囲を見回すと、彼方此方で雪狼と戦っている。
 集団で戦っているし、プレートアーマーが陽に光っているので良く見える。
 大盾を構えて牽制する者、背後から襲う者、連携は取れて居るようだが教導の技能で見る限り、剣や槍の技能が足りていない。
 これじゃ討伐に至るまで時間が掛るのは当たり前だ。
 技能のレベルを上げることで満足し、基礎を取得するための地道な努力と訓練を怠っているのだろう。

 迷宮の入り口へと走って戻る。
 マリアが甘味処のテントの前のテーブルで手を振っている。
 焦ることはない、マリアの上達をゆっくり待とうと思う、彼女は毎日の努力を怠っていないのだから。

 
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