努力と根性と運が少々

切粉立方体

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14 漁師の実力

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 町民権票を得た三人に刺激を受けて気持ちが入れ替わったのか、宿の女性達から続々と迷宮で狩れる技量に達する者が出始めた。
 自主練には来ているので、聞かれればアドバイスするが、基本的には独り立ちが出来ているので僕の手を離れている。
 余裕が大分出来たので、女将会から託された経験者の訓練を始める。
 狩人経験者は、猫背にならないで胸を張ることから始め、基本の形を教え込んで身体に覚え込ませてる。
 僕の説明を良く聞き、理解も早いので手間が掛らない。

 元漁師達、仕方が無いので銛の使い方を彼女達から教わることにした。
 銛は槍とほぼ同じ構造だが、異なる点は、刺した魚を引き戻して回収するための細紐と伸び縄と呼ばれる柔らかくてよく伸びる縄が柄尻に着けてあることだ。
 伸び縄を柄の中程まで引き延ばし、その勢いで魚を捕るとの説明だった。
 そして実際に堀の魚を捕って貰って物凄く驚いた。

 柄の中程を持って構えたら、石像の様に動かなくなったのだ。
 待つこと暫し、突然銛が音も無く堀の水の中に飛んで行った。
 波紋も殆ど立っていない。
 細紐を引き戻すと、銛に魚が刺さっていた。

「七十点かな」
「いやー、六十点だろ」
「仕方無いだろ、久々なんだから」

 基本の形を覚え、獲物を追うんじゃなくて、基本の形に構えた射線に入る獲物を射ろ。
 これは僕が宿の女性達に口酸っぱく指導している弓の基本だ。
 元漁師達は、これを完璧に取得している。
 銛の技術だけ見れば、すでに迷宮で狩れる技量に達している。

「それじゃ土弾を使った事が有る人」

 し~ん
 
「あたいら水が相手だったから、魔法なんて使ったこと無かったな~」
ーーーーー

 毎回魔力を残し、あれやこれやと手を出していたので少々時間が掛ったが、やっとレベルアップした。
 成長付与値は今回も二十、何かついている。
 
 氏名:クルト
 性別:雄
 種族:人
 年齢:13
 付与属性:土
 獲得魔法:土弾、石弾、重弾、貫弾、地質感知、地質改変、土盾、土壁
 属性レベル:4
 
 腕力:42
 脚力:45
 知力:42
 魔力:50
 生命力:42
 体力:42
 器用度:44
 反応力:44
 視力:17
 聴力:13
 臭力:12
 魔力値: 10/50
 生命値:30/42
 体力値:28/42

 鍛冶:1
 革工:2
 木工:5
 石工:5
 陶工:1
 土工:1
 弓術:7 
 短剣術:1
 刀術:1
 罠術:1
 調理:2
 清掃:1
 教導:2
 魔力感知:2
 
 経験値:13/100000
 成長付与値:20

 取敢えず生命線で有る弓術へ成長付与値三を振る。
 訓練を頼まれているので教導へ一、良い仕事してくれるので魔力感知へ三を割り振る。
 これからは防具も大事になって来るので、鍛冶と革工に二づつ割り振る。
 残りの成長付与値が九になった。
 次の階層の魔獣は狼で動きが速く手強いと聞いているので、視力に成長付与値三を割り振り、残りは魔力へと回した。

 氏名:クルト
 性別:雄
 種族:人
 年齢:13
 付与属性:土
 獲得魔法:土弾、石弾、重弾、貫弾、地質感知、地質改変、土盾、土壁
 属性レベル:4
 
 腕力:42
 脚力:45
 知力:42
 魔力:56
 生命力:42
 体力:42
 器用度:44
 反応力:44
 視力:20
 聴力:13
 臭力:12
 魔力値: 10/56
 生命値:30/42
 体力値:28/42

 鍛冶:3
 革工:4
 木工:5
 石工:5
 陶工:1
 土工:1
 弓術:7 
 短剣術:1
 刀術:1
 罠術:1
 調理:2
 清掃:1
 教導:3
 魔力感知:5
 
 経験値:13/100000

 まだ魔力が余っているので、貫弾の魔法と土壁の魔法を試してみた。
 土壁の魔法は、町の外壁に匹敵する高さの壁を三十歩程の幅作る魔法だった。
 厚さは人の背丈程ある。
 物凄く目立つので、慌てて魔法を解除した。

 貫弾は凄まじい魔法だった。
 木に向かって放ったら、木を貫くのでは無く、木の幹を抉ってなぎ倒して飛んで行った。
 矢を拾うときに数えたら、十本程の木をなぎ倒していた。
 この魔法も迷宮限定だ。
 獲物に放ったら、肉も革も消し飛んでしまう。
ーーーーー

 今回は次層へ潜るのは急がない。
 もう直ぐマリアもレベルアップしそうなので、それを待つことにしているのだ。
 出来れば次層にマリアも付いて来て欲しいと思っている。
 マリアの治癒能力は、いざという時の為に凄く魅力的なのだ。
 それに僕の見立てでは、マリアの今の光矢の魔法なら次層でも通用し、効率良くレベルアップできると思っている。

 確かに急がないが、油断もしない。
 取敢えず四層の内容をガイドブックで調べておくことにした。
 最初の各属性のレベルアップについて書かれているのは前回と同じ。
 ただ、風属性、光属性、闇属性については何も書かれていない。
 四層では通用しないと思って省かれているのだろう。

 氷属性には氷槍の魔法が増え、魔力付与に四の魔力を割り振れるようになる。
 最初に割り振れる魔力は一だけだが、魔力を四込めた氷矢の戦闘力に匹敵するらしい。
 見方を変えれば、魔力を四分の一に節約できる美味しい魔法だ。
 水属性と火属性と雷属性については、魔力付与の魔法が増えるらしい。

 次に魔力付与について書かれていた。
 魔力付与とは魔器と呼ばれる特別な武器に自分の属性魔法を付与する魔法で、魔器に属性魔法を付与すれば、武器による攻撃が魔獣に通用するらしい。
 武器が魔獣の魔法防御膜を貫いている間は魔獣の再生能力を阻害するので、パーティーでタイミング良く攻撃を行えば、ダメージを蓄積させ魔法で倒せない魔獣も討伐できると書いてある。
 僕が想定していたとおりだ。
 それ故、氷属性と火属性と雷属性は、成長付与値を得意な武器の技術能力や攻撃能力に関与する能力にバランス良く振れと書いてある。
 水属性については魔力に全振り。
 魔器に水属性を付与しても表面が水に覆われるだけで、四層の魔獣を傷付けることは出来ないそうだ。

 パーティーを組んで武器で魔獣を討伐する、探索者らしくてわくわくしそうだが現実はもっと厳しい。
 魔器は父さんの工房で扱っていたので良く知っている。
 魔器は柄にミスリル糸で刻印を施し、刻印から刃や穂先にミスリル糸伸ばし、刃や穂先を包むように均等に巻いてから一月程叩き鍛えて刃や穂先に馴染むようにする。
 巻いたミスリル糸の密度が高い程攻撃力が高くなるのだが、ミスリル糸の値段が物凄く高い。
 荒巻と呼ばれる安物でも金貨二十枚、高級品に至っては、白金貨(白金貨一枚は金貨百枚)百枚程の値段になる。
 それに魔獣との殴り合いになるので防御面での強化も必要で、最低でも鉄製のチェインメイルやチェインヘルムを買う必要がある。
 鉄製のチェインメイルやチェインヘルムは、中古品でも金貨一枚で売られている。

「武器や防具は消耗品だからな、魔石が高く売れても火の車だったよ。無理して半分位仲間が死んじまったよ」

 と、父さんが遠い目で昔話を語ってくれた。
   
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