努力と根性と運が少々

切粉立方体

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11 神官見習い

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 今日はこのままここで自分で飯を作り、宿の女性達を待つ。
 穀粉を練って平らに伸ばし、石窯の表面に貼り付け、木を切った時に捕まえた夜鳴き鳥の羽を毟り、石窯の入り口にぶら下げて遠火で焼く。
 匂いを嗅ぎつけて餓鬼共が寄ってきたので、適当に食わせる。
 食いながら木材を細断し、脛当てを作り始めた。

「今日は堀の外で狩るよ。今日は餌を使わないけど、基本は昨日と同じ。町に背を向け互いの距離を取って並び、射程に入った獲物を狩る。そして皆が矢を射終ったのを確認してから矢と獲物を回収する。それとさっき脛当て配ったけど、それは角兎対策だからね。昨日は草鼠だったけど、今日は角兎も混じると思う。草鼠に噛まれても致命傷にはならないけど、角兎は足を最初に攻撃して、痛くて屈んだ瞬間に喉元の急所を狙って来る。本当に一発で殺されるからね、気を付けてね。それじゃ訓練開始」
『はい』

 皆狩人の顔になっている。
 僕も迷宮の野犬を一発で倒せる様に、射の一連の動作を細かく確認しながら、感覚を研ぎ澄まして角兎を狩る。
ーーーーー

 同じ様な日々が続く。
 朝起きて迷宮に潜り、狩りのついでに見回りも兼ねて壺を焼き、昼飯後は宿の女性達の訓練を見る。
 多少の違いは、日々土弾一発で野犬が倒せる確率が高くなっていることで、野犬が二匹現れた程度なら、土弾のみで対応出来るようになった。
 一日に狩れる獲物の数が増え、魔力を六残しても、三十一~三十二匹の獲物を狩れるように成って来た。
 それと経験値確認の為にステータスを確認したら、土工と陶工の技能が増えていた。
 堀作りと便壺作りのお陰だろう。
 便壺はほぼスラムに行き渡り、スラムの糞尿臭も消えている。
 皆が便壺をすんなり受け取ってくれたのは、自分達でも今の状況が宜しくないのは判っていたのだろう。
 畑も広がっている、元々農作のプロなのだから当たり前だ。
 皆早生で栄養価の高い芋を作っている、来週には収穫が始まる筈だ。

 そんなある日、三層での狩りを終えて外に出ようと思ったら、スラムに良く来る明るくて印象の良い神官見習いの女の子が、三層の入り口の隅で黄昏れていた。
 教会の技能実習のようで、数人の子が敷布の上に並んで、迷宮の探索者に治癒魔法を施している。
 治癒魔法(小)銅貨十枚、治癒魔法(中)銅貨三十枚、治癒魔法(大)銀貨一枚と書いた大きな看板が立っているので、有料のようだ。

「よう、元気無いな」
「あら、用心棒さん。治療魔法の中は如何」
「生憎怪我と縁が無くてな」
「ふーん、優秀な属性様らしい発言ね」
「なあ、何でこっちには客が来ないんだ」
「痛いこと聞くわね。こっちには治癒魔法の大が使える子が居ないからよ。レベル四に上がって、魔力が十込められる様にならないと駄目なのよ」
「ふーん、それじゃ向こうの人達はレベル四なんだ」
「そうよ」
「それじゃ何で下の階層に潜らないだよ」
「・・・・・・、優秀な属性の用心棒さんは他の属性に無関心な世間知らずなんだ。それじゃ優しい私が、蜜の亭で常識を教えて上げましょう。勿論あなたの奢りね」

 彼女は徐に立ち上がると、僕の手を引いて歩き始めた。

「あー!先輩狡い」

 脇に座っていた女の子達が声を上げている。
 
「相変わらず凄いですね、銀貨三十二枚お渡しします」
「一日で魔獣を三十二匹!あんた何か可笑しいんじゃないの。私なんか頑張っても一日二、三匹よ。一番高い蜂蜜ケーキ、お腹一杯奢って貰うからね」
ーーーーー

 中央広場に面して建つ、透かし彫りの彫刻を施した石造りの洒落たお店。

「一度入って見たかったんだ~♪」

 彼女の目の前には、一個銀貨三枚の蜂蜜ケーキと銅貨五十枚の紅茶が並んでいる。
 朝の早い時間帯なので入れたらしい、昼や昼過ぎの時間帯は、長蛇の列が出来るらしい。

「レベル四に成ると、魔法に十の魔力を振れるようになるんだけど、これじゃ下の階層の魔獣は倒せないの。しかも振れる魔力は十以上増えないから、光と闇と風の属性は三層が終着点なのよ。三層には年配者が一杯いたでしょ、皆光か闇か風の属性よ」
「だから兵士もあそこでレベルアップを目指しているんだな」
「私達神官見習いもね。レベルアップを目指すにしても、レベル四で経験値が一万必要でしょ。なのに私一年近く三層に潜ってるけど、まだ七千よ。神官認証基準がレベル五以上だからで経験値が十万必要なんだけど十年以上掛るわ、司祭認証基準がレベル六だから必要な経験値が百万、私だと百年、百年掛るのよ。司祭様が少ない理由が判るわ~、余っ程才能が有るんでしょうね。今年羽化式を受けた子がどんどん三層に入って来るし、同期でまだレベル三なのは私だけなのよ~、そりゃ焦るわよ。今日なんか意地悪されて末席だったし」
「狩りが苦手なんだ」
「狩りじゃないわよ。神意による魔獣討伐よ」
「ふーん、神意に反して討伐が苦手なんだ」
「意地悪言わないでよ。ねえ、急に討伐が上手くなる裏技って知らない。あなた優秀なんでしょ」
「急にじゃないし裏技で無いけど、方法なら判るよ」
「えっ!」
「弓を射ったことある」
「狩人じゃないんだから、有るわけないでしょ」
「そうだよね、当たり前だよね。だから君達は矢のイメージが曖昧なんだよ」
「えっ!」
「だから当たらない。練習が必要だけど、矢を射るイメージが出来れば、当たる確率が物凄くアップするよ」

 これは僕の教導の技能が教えてくれている。

「ねえ、これから町の外で狩りをするけど見てみるかい」
「うんお願い。私の名前はマリア、あなたは」
「クルトだ。宜しく」

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