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6 属性の差
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弓を作り直し、試し打ちをする。
弓のバランスが良くなり、曲線の滑らかさが違う。
鏃も形が揃い、鋭さも増した。
技術値に割り振った効果が、想像以上にあるようだ。
弓術の値を上げたおかげで弓を構えた時の違和感の正体が分かった。
俯いて歩く事が癖になっていたので、背筋が少し曲がっていたのだ。
腰を据えて背筋を伸ばして弓を構える、的に多く当てるのではなく、安定して射る形を身体に覚えさせることが重要だと、弓術のスキルが教えてくれる。
ただ腕力が増えそれに応じて弓を強くしたため、矢の速度が物凄く速くなった。
多分、感覚の調整にまた手間取るだろう。
物凄く獲物が見付け易くなって、面白い様に角兎が狩れる。
狩り過ぎると後処理が大変なので、適当なところで切り上げた。
ーーーーー
昼飯後、何時も通りに宿の女性達の訓練を始める。
魔法の訓練までは良かったが、弓の練習になったら、昨日までしたり顔で教えていた自分自身が物凄く恥ずかしくなった。
悪い癖が付く前に、急いで軌道修正することにした。
「皆集まって~」
『はーい』
「的に向かって射るのは暫く中止」
「え~、何で~」
「折角上手くなって来たのに」
「横暴だ~」
「はーい、文句言わない。みんな背筋伸ばして~。普段俯いて歩いているから、みんな背中が曲がっているよ。こうやって、背筋を伸ばして腰を据えて構える。この形を身体に覚え込ませれば、上達が早くなるよ」
「何か先生昨日より構えが格好良い」
「今日レベルアップしたから弓術のスキル伸ばしたんだよ」
「それじゃ、先生の言うとおり練習する、先生、レベルアップってどんな感じ」
「目の前の世界が突然変わるって感じだよ。悔しいけど羽化って言う言葉通りかな、きっとみんなも驚くと思うよ。だから頑張ってね」
『はーい』
ーーーーー
夕食後、今後の予定を考える為、ガイドブックを細かく読んで見る。
明日から暫くは、魔法の感覚調整が整うまで迷宮に潜らない予定だが、間隔調整が整ったら二層に挑戦する積もりだ。
ガイドブックによると、二層は角兎が出る迷路で経験値と魔石の買い取り価格が五倍になる。
角兎は狩り慣れた獲物だが、心臓や喉元などの急所を突かれると、一撃で死ぬので注意が必要と書いてある。
他属性の最初のレベルアップ後の変化もガイドブックに書かれている。
基礎能力の上昇や成長付与値は全く同じなのだが、魔力の変化が大きく異なる。
僕が新しい魔法を得たのに対し、他属性では魔法は増えず、それぞれの魔法に込められる魔力が一だったのが三まで増えるらしい。
これは僕も知らなかったことなのだが、二層から属性の差がはっきり出て来る。
ガイドブックには、氷矢の魔法なら魔力を一込めれば角兎を倒せるが、水矢、火矢、雷矢だと魔力二を込める必要があり、風矢、闇矢、光矢に至っては魔力三を込める必要があると書いてある。
魔力が不足するとダメージが通らず、何度攻撃を繰り返しても倒せないらしい。
魔力が二十二とすると、氷属性が一日で得られる経験値は百十で、光属性は三十五、三倍の差が生じている。
なのでガイドブックには、脚力に三を割り振って逃げ足を確保した後は、風、闇、光の属性については、成長付与値を全部魔力に振れと書いてある。
前例が無いから当たり前なのだが、土属性については何も書かれていない。
土属性は、他の属性の上なのか下なのか、そもそも迷宮の角兎に土属性の魔法が通用するのか。
存在しない情報を考えて見ても結論は出ない、自分で試して見るしか無いのだ。
明日に備えるため、少し早めに横になった。
翌朝、朝飯を食い終わったら町の外で新しい魔法を試す。
石弾は嬉しい魔法だった。
鏃そのものに魔法が宿り、感覚を調整して飛ばす必要もなく、矢の早さを後押しするように鏃が飛んで行った。
魔力は二消費する。
地質改変は、土を砂や石、石を砂や土に変える魔法だった。
地下水脈の近くや水分の土ならば、一瞬にして泥状に変えられる。
ただ暫くすると元の形状に戻ってしまうので、農作業などには向かない魔法の様だった。
土で食器や鍋を作ってみたら、普段使うのに十分な石の食器や鍋が出来上がった。
長距離移動の際に食器や鍋を持たずに済むし、食後の食器洗いの手間も省ける。
魔力を二消費するが、これはこれで使い様が有るかもしれない。
地質感知は、同じ魔力消費量で、探れる深さが増えていた。
土弾は魔法の感覚がはっきりと感じられる様になり、魔力を全て消費する前に感覚の調整が終わった。
魔力消費は一のままだった。
ーーーーー
何時も通りに角兎を狩って帰路に付くと、歓楽街の門内が騒がしい。
酔っ払いが、面白半分に宿の女性を門外に連れ出そうとしているらしい。
「止めて、止めて頂戴。そこを出たら、牢屋に入れられて折檻されて殺されちゃうよ~」
僕の泊まっている宿の女性だった、半裸状態になって必死になって門柱にしがみついている。
野次馬に囲まれているが、誰も助けようとしない。
女将さんや宿の女性達も追いかけて来たようだが、皆顔に青痣が有り、手出しが出来ないでいるようだ。
何故か門番の兵士は見て見ぬ振りをしている。
「面白れー、俺も折檻混ぜて貰うか。諦めの悪い尼だな、レベル四の俺様に土属性の売女が逆らうなんて百年早いぜ。勘違いしてる様だから教えてやるが、土属性ってのはゴミなんだぞ。今ここで叩き殺しても誰にも文句は言われないんだぜ」
我慢の限界だった。
「地質改変」
男の足下を泥に変え、首まで沈めてから土に戻す。
「ひー、何をしやがった」
山刀を取り出し、男の頬を刀の平で叩く。
「門番さん、ここは町の外だからこのまま首切っちゃっても良いよね」
男と門番の顔が真っ青になって震え出した。
「お願いだから止めてくれ。ここで殺された大事になる」
「それじゃ今回だけ多めに見るけど、今回だけだぞ。同じ事が起こったら、今度は本気で首をちょん切るよ」
「判った、こいつは詰め所に連行して、十分に言い聞かせよう」
僕は男に背を向けて、門柱にしがみついている女性の元に歩み寄る。
「もう大丈夫だよ」
「先生~!」
緊張の糸が切れたのか、僕にしがみついて号泣し始めた。
『先生~!』
女将さんも含め、宿の女性全員が飛び付いて来て泣き始めた。
「だからみんな、頑張ろうな」
弓のバランスが良くなり、曲線の滑らかさが違う。
鏃も形が揃い、鋭さも増した。
技術値に割り振った効果が、想像以上にあるようだ。
弓術の値を上げたおかげで弓を構えた時の違和感の正体が分かった。
俯いて歩く事が癖になっていたので、背筋が少し曲がっていたのだ。
腰を据えて背筋を伸ばして弓を構える、的に多く当てるのではなく、安定して射る形を身体に覚えさせることが重要だと、弓術のスキルが教えてくれる。
ただ腕力が増えそれに応じて弓を強くしたため、矢の速度が物凄く速くなった。
多分、感覚の調整にまた手間取るだろう。
物凄く獲物が見付け易くなって、面白い様に角兎が狩れる。
狩り過ぎると後処理が大変なので、適当なところで切り上げた。
ーーーーー
昼飯後、何時も通りに宿の女性達の訓練を始める。
魔法の訓練までは良かったが、弓の練習になったら、昨日までしたり顔で教えていた自分自身が物凄く恥ずかしくなった。
悪い癖が付く前に、急いで軌道修正することにした。
「皆集まって~」
『はーい』
「的に向かって射るのは暫く中止」
「え~、何で~」
「折角上手くなって来たのに」
「横暴だ~」
「はーい、文句言わない。みんな背筋伸ばして~。普段俯いて歩いているから、みんな背中が曲がっているよ。こうやって、背筋を伸ばして腰を据えて構える。この形を身体に覚え込ませれば、上達が早くなるよ」
「何か先生昨日より構えが格好良い」
「今日レベルアップしたから弓術のスキル伸ばしたんだよ」
「それじゃ、先生の言うとおり練習する、先生、レベルアップってどんな感じ」
「目の前の世界が突然変わるって感じだよ。悔しいけど羽化って言う言葉通りかな、きっとみんなも驚くと思うよ。だから頑張ってね」
『はーい』
ーーーーー
夕食後、今後の予定を考える為、ガイドブックを細かく読んで見る。
明日から暫くは、魔法の感覚調整が整うまで迷宮に潜らない予定だが、間隔調整が整ったら二層に挑戦する積もりだ。
ガイドブックによると、二層は角兎が出る迷路で経験値と魔石の買い取り価格が五倍になる。
角兎は狩り慣れた獲物だが、心臓や喉元などの急所を突かれると、一撃で死ぬので注意が必要と書いてある。
他属性の最初のレベルアップ後の変化もガイドブックに書かれている。
基礎能力の上昇や成長付与値は全く同じなのだが、魔力の変化が大きく異なる。
僕が新しい魔法を得たのに対し、他属性では魔法は増えず、それぞれの魔法に込められる魔力が一だったのが三まで増えるらしい。
これは僕も知らなかったことなのだが、二層から属性の差がはっきり出て来る。
ガイドブックには、氷矢の魔法なら魔力を一込めれば角兎を倒せるが、水矢、火矢、雷矢だと魔力二を込める必要があり、風矢、闇矢、光矢に至っては魔力三を込める必要があると書いてある。
魔力が不足するとダメージが通らず、何度攻撃を繰り返しても倒せないらしい。
魔力が二十二とすると、氷属性が一日で得られる経験値は百十で、光属性は三十五、三倍の差が生じている。
なのでガイドブックには、脚力に三を割り振って逃げ足を確保した後は、風、闇、光の属性については、成長付与値を全部魔力に振れと書いてある。
前例が無いから当たり前なのだが、土属性については何も書かれていない。
土属性は、他の属性の上なのか下なのか、そもそも迷宮の角兎に土属性の魔法が通用するのか。
存在しない情報を考えて見ても結論は出ない、自分で試して見るしか無いのだ。
明日に備えるため、少し早めに横になった。
翌朝、朝飯を食い終わったら町の外で新しい魔法を試す。
石弾は嬉しい魔法だった。
鏃そのものに魔法が宿り、感覚を調整して飛ばす必要もなく、矢の早さを後押しするように鏃が飛んで行った。
魔力は二消費する。
地質改変は、土を砂や石、石を砂や土に変える魔法だった。
地下水脈の近くや水分の土ならば、一瞬にして泥状に変えられる。
ただ暫くすると元の形状に戻ってしまうので、農作業などには向かない魔法の様だった。
土で食器や鍋を作ってみたら、普段使うのに十分な石の食器や鍋が出来上がった。
長距離移動の際に食器や鍋を持たずに済むし、食後の食器洗いの手間も省ける。
魔力を二消費するが、これはこれで使い様が有るかもしれない。
地質感知は、同じ魔力消費量で、探れる深さが増えていた。
土弾は魔法の感覚がはっきりと感じられる様になり、魔力を全て消費する前に感覚の調整が終わった。
魔力消費は一のままだった。
ーーーーー
何時も通りに角兎を狩って帰路に付くと、歓楽街の門内が騒がしい。
酔っ払いが、面白半分に宿の女性を門外に連れ出そうとしているらしい。
「止めて、止めて頂戴。そこを出たら、牢屋に入れられて折檻されて殺されちゃうよ~」
僕の泊まっている宿の女性だった、半裸状態になって必死になって門柱にしがみついている。
野次馬に囲まれているが、誰も助けようとしない。
女将さんや宿の女性達も追いかけて来たようだが、皆顔に青痣が有り、手出しが出来ないでいるようだ。
何故か門番の兵士は見て見ぬ振りをしている。
「面白れー、俺も折檻混ぜて貰うか。諦めの悪い尼だな、レベル四の俺様に土属性の売女が逆らうなんて百年早いぜ。勘違いしてる様だから教えてやるが、土属性ってのはゴミなんだぞ。今ここで叩き殺しても誰にも文句は言われないんだぜ」
我慢の限界だった。
「地質改変」
男の足下を泥に変え、首まで沈めてから土に戻す。
「ひー、何をしやがった」
山刀を取り出し、男の頬を刀の平で叩く。
「門番さん、ここは町の外だからこのまま首切っちゃっても良いよね」
男と門番の顔が真っ青になって震え出した。
「お願いだから止めてくれ。ここで殺された大事になる」
「それじゃ今回だけ多めに見るけど、今回だけだぞ。同じ事が起こったら、今度は本気で首をちょん切るよ」
「判った、こいつは詰め所に連行して、十分に言い聞かせよう」
僕は男に背を向けて、門柱にしがみついている女性の元に歩み寄る。
「もう大丈夫だよ」
「先生~!」
緊張の糸が切れたのか、僕にしがみついて号泣し始めた。
『先生~!』
女将さんも含め、宿の女性全員が飛び付いて来て泣き始めた。
「だからみんな、頑張ろうな」
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