努力と根性と運が少々

切粉立方体

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2 狩人の集落

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「小僧行くぞ」

 教会前で号泣していた僕の肩を叩く奴がいる。
 顔を上げると怖い顔の爺さんだった。
 何も言わず歩き出したので、僕は慌てて後を追う。
 畑の中の道を暫く歩くと、丸太小屋が密集して建っている場所に辿り着く。
 板に打ち付けられた野犬や角兎の革が陰干しされており、女性達が笑いながら革を叩いて伸ばしている。
 老人は、その中の古びた一軒、中心に近い丸太小屋へと入って行って行った。

 小屋の中に入ると、部屋の真ん中に囲炉裏があり、その脇に小さな井戸が掘ってある。
 壁には槍などの武器や防具がぶら下がっており、領都の店が思い出される。

「解体が出来るのは護衛の連中から聞いた。他に何が出来る」
「武器の手入れと防具の修繕が少し」
「ほう」
「うん、親は武具屋だった」
「それは助かる。弓は使えるか」
「弓の調整で射ったことはある」
「うむ、ここはヴェルディ村の狩人集落だ。ここでお前は狩人として生きて行く。農夫と違っておっ死ぬ確率も高いが、農夫より実入りが良いし、飢えることがない。お前は幸せ者だぞ。それじゃアーマーと武器を見繕うか」
「アーマーとナイフと山刀は親が持たせてくれた」
「どれ、ナイフを見せて見ろ。うむ、儂らの様な素人と違って、職人の作った物は見事だな。良い親を持ったな」
「うん」
「それじゃ昼まで弓で狩りの訓練だ。付いて来い」
「うん」

 そして僕はヴェルディ村の狩人になった。
ーーーーー

 爺さんの名前はボルグ、なんとこの狩人集落の長だった。
 普通、連れて来られた連中は農夫として訓練され、問題を起こす気の荒い連中をこの集落で引き取って狩人として訓練するそうだ。
 最初から教会に入ることを拒む迷惑な問題児は珍しかったらしく、揉めた末に長自ら僕を引き取ったそうだ。

 ここでの僕の役割は、武具の手入れと狩りの手伝い。
 武具の手入れが出来る者が少なかったらしく、それなりの報酬が貰えた。
 狩りの手伝いは、弓矢での牽制と破損した武器の手渡し。
 最も多いのが野犬狩りで、木柵へと追い込み槍で止めを刺す。
 馬車の中から見た、兵士達よりも手慣れている感じだった。
 解体は皆手慣れているので僕の出番は無い。

 集落での狩りや武具の依頼が無い日は、爺さんに弓や罠の扱いを教わりながら僕自身の食い扶持を狩る。
 爺さんと同居はしているが、個々が独存在で存在で互いの生活に干渉しないのが狩人の流儀らしく、爺さんも食事は自分で作るし、自分の居住スペースである一階の掃除は自分でする。
 僕も同様で、与えられた屋根裏の掃除と自分の食事は自分で作る。
 僕が狩る獲物は、一日で草鼠十匹に角兎が四匹。
 草鼠も五匹で僕が食う肉は十分なので、残りの肉や革は町の雑貨屋で売り払い、塩や麦粉や黒パンを買い求める。

 弓や罠の扱いに慣れた頃、土属性の魔法の使い方を教えてくれた。
 土弾は周囲の土を霧状の尖った穂先の形状に変え射出する魔法で、草鼠程度なら一発で屠れるが角兎だと怯ませる程度の威力だった。
 土質感知は、地面に手を着けて、地下の砂や粘土や砂礫などの土の性質を探る魔法だった。
 土ならば十歩分、岩ならば半歩分探れるそうなので、浅い水脈なら探せるそうだ。
 土魔法を爺さんから教わった帰り道、爺さんが呟くように教えてくれた。

「土属性には二種類の奴がいる、諦めの良い奴と諦めの悪い野郎だ。儂ら狩人は諦めの悪い野郎の典型で何時も足掻いておる。普段野犬や角兎、何なら狼すら狩っているから尚更じゃ、何故迷宮だと狩れないのかと試行錯誤する。昔、土を背負って迷宮に潜った奴がいる。迷宮に土が無ければ持ち込めば良いと考えたそうじゃ。だが、魔力を込めた土が土弾に変わる前に迷宮に吸い込まれてしまったそうだ。石を持ち込んだ奴もいる。辛うじて飛ばせるのが小指の先程度の石で一層の鼠すら屠れなかったと悔しがっておった。小僧もそんな時期が必ず来る。その時は遠慮無く言って気の済むまで試して来い。皆が一回潜る門だ」
ーーーーー

「クルト、私を嫁にしてよ。美味しいご飯作ってあげるからさ」

 何時も通り肉と革を売ってから麦粉を買い求めていたら、雑貨屋の売り子のケイトが突然言い出した。
 こいつは、僕と同じ馬車でこの村に連れて来られた、この村に一番近い町の出身者だ。
 宿屋の娘だったらしく、客扱いに慣れているという理由で雑貨屋に引き取られたそうだ。

「突然だな」
「だってクルトを狙ってる子が増えて来たんだもん。早めに唾付けておこうと思ってさ」
「お前なら言い寄って来る連中が一杯いるんじゃないか、俺みたいな半端者は止めておけ。羽化式前の連中を誑し込んで置けば、町に戻れるかも知れないぞ」
「それも考えたんだけどね、去年の話聞いて回ったら皆捨てられてるの。態度が豹変だってさ。蔑むような目で見られったて、皆怒ってた。それに比べればクルトは稼ぎも良いしこの村から出て行かないしね」
「それは判らないぞ、俺も一回迷宮に潜ってみる積もりだしな」
「ふーん、狩人って皆前向きだよね。農夫の連中なんて諦め切って萎れてるのに」
「ほらケイト、客が来たぞ」
「それじゃ返事は迷宮から帰るまで待ってあげる。いらっしゃませ」

 僕は本気で迷宮に潜る気でいる、試したいと考えている思い付きがあるのだ。
 爺さんから小指の先程度の石なら飛ばせると聞いた時に、真っ先に思い浮かべたのが石の鏃だった。
 早速さっそく石の鏃を作り試したが、成功しなかった。
 魔法が矢の早さに追いつけないで、鏃に纏わせた土弾が消えてしまうのだ。
 
 諦めないで、的から半歩の距離で練習を重ねた。
 最大のネックは魔力量が十二しかないことで、一日十二回試射すると魔力が尽きてしまうのだ。
 感覚を掴んだと思ったのに、翌日感覚が大きく外れていることもあった。
 寝る前に何百回もイメージを思い浮かべて、努力を重ねた。
 こんな無駄な苦労をしなくても、腹は十分に満たせていると何度も思い、折れそうになる心を悔しさと根性で支え、なんとか乗り切った。
 努力の甲斐があって、半年後に初めて半歩の距離で成功させた。
 歓喜の叫び声を上げて、村中を走り回った。
 そしてこの村に来てからほぼ一年、やっと二十歩の距離で魔法と鏃を重ねることが出来るようになった。
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