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41 ゲートの魔道具
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奥方様が居なくなったことを確認してから、公爵は兵士に守られ部屋から逃げ出した。
兵士達の顔が引き攣っていたので、何度か怖い思いをしているのだろう。
マキシマムさんは、慣れているようで、弟子達を引き連れて、魔法陣を写し取った紙を眺めながら足早に立ち去った。
一人寂しく部屋に残された僕は、奥方様に見付って生皮でも剥がされたら大変なので、急いで着替えた。
忙しく走り回っているメイドさん達に道を聞きながら、屋敷の使用人口へ向かう。
使用人口では、兵士を威圧するようにメイドさん達が出入りを監視しており、屋敷内での序列を垣間見た気がする。
裏門から出て、暮れなずむ屋敷街の茜に染まり始めた瓦屋根を見上げながら表通りへ向かう。
屋敷街と平民街を隔てる外堀に架かる橋を渡り、商店街で今夜の宿を探す。
ちゃんと当てはある、研究室に来る商人が、表通りに店があると言っていたので、お勧めの宿を紹介して貰う積りだ。
・・・確かに店はあった、聞いた通り、エチナヤ商会という看板が掛かっている。
魔道具を扱うこじんまりとした店だと思っていたのに、何か矢鱈にでかい。
透かし彫りの装飾が施された立派な店の入口前では、立派な馬車が次から次へと横付けされ、その度に豪華な身形の男女が降りて来て、出迎えの店員に案内されて店の中へ入って行く。
庶民には縁の無い高級店だ。
足が震えたが、ここで宿を紹介して貰わないと、路頭に迷ってしまう。
意を決して店の中に入った。
フカフカの毛足の長い青い絨毯が敷き詰められており、店の周囲に置かれた黒い台の上に、魔道具が並べられている。
店員は、その魔道具を眺める豪華な身形の男女に魔道具の説明をしたり、絨毯の上に置かれた豪華な応接セットで値段の交渉をしている。
雑然と積まれた魔道具の奥で、帳場に座っている爺さんがウトウトしている向こうの世界の魔道具屋と大違いだ。
周囲をキョロキョロと見回していたら、客の見送りを終えた、仕事の出来そうな美人のお姉さんに声を掛けられた。
「お客様、何か御用でしょうか」
「ええと、宿を紹介してもらおうかと思って」
「・・・・・・当店は、宿の斡旋所ではございません」
・・・うわー、怒ってる、怒ってる。
表情はあまり変わらないで微笑んでいるが、こめかみに青筋が出来ている。
これは不味い、蹴りが飛んできそうだ。
「あはは、冗談です、冗談。仕事をお願い出来る職人さんが居たんで、契約をお願いしに来たんです」
目がさらに座って、胸倉を掴まれ睨まれた。
「へー、どこの職人さんかしら」
「メニアス公爵家のマキシマムさんです」
「へー、メニアス公爵家様のマキシマム様なの。法螺吹くんじゃねーぞ、この餓鬼。堀に沈めたろーか!」
「うわー」
「こら待て、この餓鬼」
異変を察した周囲の店員さん達が、恐ろしい女店員を取り押さえてくれた。
そして偉そうな人と強そうな人が出て来て、店の奥へ連れて行かれた。
「ミーリア君、何が有ったのかね」
「この餓鬼が法螺吹いたんで懲らしめてやろうと思ったんです」
「・・・ミーリア君、君は子供嫌いだし、アキュア様のお相手でストレスが溜まったのは判る。だが、店の中でする事じゃないな」
「申し訳ありません」
「それと僕、ここは君の様な子供の来る場所じゃないよ。それに嘘を吐くのは感心しないな」
「・・・・、嘘じゃありません。マキシマムさんに収納の魔法陣を描いて貰えるようになったんです」
「・・・・・、君、名前は」
「ユーリです。聖都魔法学院のユーリです」
「!!、至急会長室へお通ししろ」
経緯を説明して、公爵家との契約をお願いした。
王子様と宰相様への説明も引き受けてくれたので、大助かりだ。
それに、豪華な宿を無料で紹介して貰えたし、帰りの馬車も手配して貰えた。
ミーリアさんを宿に持ち帰るかと聞かれたが、迷ったうえ、遠慮しておいた。
ーーーーー
無事聖都に戻って来た。
キーケルさんが教務部と交渉してくれて、授業は公欠扱いにして貰った。
久々に向こうの世界へ行った。
僕は久々でも、ファラ師匠にとっては全然久々じゃないので、少々ギャップがある。
「さっき頼んだ洗濯物はどうなってる」
一週間前の行動を思い出す。
「あっ、忘れてました」
「なら、さっさと洗ってくれ」
夜中に学院を抜け出して参道に来るのは面倒だし、王都や遺跡に居る時は、ここへ来られない。
何処でも簡単に通路が開ける魔道具が無いかファラ師匠に聞いてみた。
「違う世界に渡るのは、時間軸調整が難しいのよ。外の世界から人を招き入れるゲートは、この家の百倍くらいある装置で作ってるのよ。この世界でもこれが限界なのよ」
うん、そんな都合の良い話なんて、ある訳ないと思っていた。
「でも、良い道具が有るわよ」
「えっ」
「同じ次元でのゲートなら時間調整が必要無いし、空間を結ぶだけだからそんなに難しくないのよ。繋げたい空間の座標さえ分かっていれば、自分の居る空間の座標を測定して入力するだけでゲートが作れる魔道具が売ってるわよ。通路が開いている間なら、通路の空間を入力しておけば、疑似ゲートが作れるわよ」
早速、魔道具屋へ行ってみる。
「ええと、確かこの辺りに有ったんだがなー」
ゴミだか、売り物だか良く判らない山を、狸の爺さんが掘り起こしている。
向こうの世界なら、物凄い高値で売れる物ばかりなのに、扱いが雑だ。
「おお、あった、あった。説明書が欠品だけど、一万ギルでどうだ」
「五千ギル」
「仕方ないか、それで良いよ」
「えっ」
値段は、有っても無いような物だったらしい。
「それじゃ、使い方を説明するよ」
ーーーーー
自分の部屋と参道の通路の座標を測ってから、三連休を利用して王都へ向かう。
王都で小さな部屋を借り、自分の部屋と繋げてみる。
馬車で三日掛かる距離を一瞬で移動できた。
これで、また王都に連行された時の逃走ルートが確保できた。
逃げるんじゃなくて、逆に攻めに使えば、軍隊が相手の城へ一瞬で突入できる。
うん、この世界では、秘匿しなければならない品物だ。
念のため、ミロの部屋の座標も調べておいた。
これで、ミロの可愛い寝顔が見放題だ。
兵士達の顔が引き攣っていたので、何度か怖い思いをしているのだろう。
マキシマムさんは、慣れているようで、弟子達を引き連れて、魔法陣を写し取った紙を眺めながら足早に立ち去った。
一人寂しく部屋に残された僕は、奥方様に見付って生皮でも剥がされたら大変なので、急いで着替えた。
忙しく走り回っているメイドさん達に道を聞きながら、屋敷の使用人口へ向かう。
使用人口では、兵士を威圧するようにメイドさん達が出入りを監視しており、屋敷内での序列を垣間見た気がする。
裏門から出て、暮れなずむ屋敷街の茜に染まり始めた瓦屋根を見上げながら表通りへ向かう。
屋敷街と平民街を隔てる外堀に架かる橋を渡り、商店街で今夜の宿を探す。
ちゃんと当てはある、研究室に来る商人が、表通りに店があると言っていたので、お勧めの宿を紹介して貰う積りだ。
・・・確かに店はあった、聞いた通り、エチナヤ商会という看板が掛かっている。
魔道具を扱うこじんまりとした店だと思っていたのに、何か矢鱈にでかい。
透かし彫りの装飾が施された立派な店の入口前では、立派な馬車が次から次へと横付けされ、その度に豪華な身形の男女が降りて来て、出迎えの店員に案内されて店の中へ入って行く。
庶民には縁の無い高級店だ。
足が震えたが、ここで宿を紹介して貰わないと、路頭に迷ってしまう。
意を決して店の中に入った。
フカフカの毛足の長い青い絨毯が敷き詰められており、店の周囲に置かれた黒い台の上に、魔道具が並べられている。
店員は、その魔道具を眺める豪華な身形の男女に魔道具の説明をしたり、絨毯の上に置かれた豪華な応接セットで値段の交渉をしている。
雑然と積まれた魔道具の奥で、帳場に座っている爺さんがウトウトしている向こうの世界の魔道具屋と大違いだ。
周囲をキョロキョロと見回していたら、客の見送りを終えた、仕事の出来そうな美人のお姉さんに声を掛けられた。
「お客様、何か御用でしょうか」
「ええと、宿を紹介してもらおうかと思って」
「・・・・・・当店は、宿の斡旋所ではございません」
・・・うわー、怒ってる、怒ってる。
表情はあまり変わらないで微笑んでいるが、こめかみに青筋が出来ている。
これは不味い、蹴りが飛んできそうだ。
「あはは、冗談です、冗談。仕事をお願い出来る職人さんが居たんで、契約をお願いしに来たんです」
目がさらに座って、胸倉を掴まれ睨まれた。
「へー、どこの職人さんかしら」
「メニアス公爵家のマキシマムさんです」
「へー、メニアス公爵家様のマキシマム様なの。法螺吹くんじゃねーぞ、この餓鬼。堀に沈めたろーか!」
「うわー」
「こら待て、この餓鬼」
異変を察した周囲の店員さん達が、恐ろしい女店員を取り押さえてくれた。
そして偉そうな人と強そうな人が出て来て、店の奥へ連れて行かれた。
「ミーリア君、何が有ったのかね」
「この餓鬼が法螺吹いたんで懲らしめてやろうと思ったんです」
「・・・ミーリア君、君は子供嫌いだし、アキュア様のお相手でストレスが溜まったのは判る。だが、店の中でする事じゃないな」
「申し訳ありません」
「それと僕、ここは君の様な子供の来る場所じゃないよ。それに嘘を吐くのは感心しないな」
「・・・・、嘘じゃありません。マキシマムさんに収納の魔法陣を描いて貰えるようになったんです」
「・・・・・、君、名前は」
「ユーリです。聖都魔法学院のユーリです」
「!!、至急会長室へお通ししろ」
経緯を説明して、公爵家との契約をお願いした。
王子様と宰相様への説明も引き受けてくれたので、大助かりだ。
それに、豪華な宿を無料で紹介して貰えたし、帰りの馬車も手配して貰えた。
ミーリアさんを宿に持ち帰るかと聞かれたが、迷ったうえ、遠慮しておいた。
ーーーーー
無事聖都に戻って来た。
キーケルさんが教務部と交渉してくれて、授業は公欠扱いにして貰った。
久々に向こうの世界へ行った。
僕は久々でも、ファラ師匠にとっては全然久々じゃないので、少々ギャップがある。
「さっき頼んだ洗濯物はどうなってる」
一週間前の行動を思い出す。
「あっ、忘れてました」
「なら、さっさと洗ってくれ」
夜中に学院を抜け出して参道に来るのは面倒だし、王都や遺跡に居る時は、ここへ来られない。
何処でも簡単に通路が開ける魔道具が無いかファラ師匠に聞いてみた。
「違う世界に渡るのは、時間軸調整が難しいのよ。外の世界から人を招き入れるゲートは、この家の百倍くらいある装置で作ってるのよ。この世界でもこれが限界なのよ」
うん、そんな都合の良い話なんて、ある訳ないと思っていた。
「でも、良い道具が有るわよ」
「えっ」
「同じ次元でのゲートなら時間調整が必要無いし、空間を結ぶだけだからそんなに難しくないのよ。繋げたい空間の座標さえ分かっていれば、自分の居る空間の座標を測定して入力するだけでゲートが作れる魔道具が売ってるわよ。通路が開いている間なら、通路の空間を入力しておけば、疑似ゲートが作れるわよ」
早速、魔道具屋へ行ってみる。
「ええと、確かこの辺りに有ったんだがなー」
ゴミだか、売り物だか良く判らない山を、狸の爺さんが掘り起こしている。
向こうの世界なら、物凄い高値で売れる物ばかりなのに、扱いが雑だ。
「おお、あった、あった。説明書が欠品だけど、一万ギルでどうだ」
「五千ギル」
「仕方ないか、それで良いよ」
「えっ」
値段は、有っても無いような物だったらしい。
「それじゃ、使い方を説明するよ」
ーーーーー
自分の部屋と参道の通路の座標を測ってから、三連休を利用して王都へ向かう。
王都で小さな部屋を借り、自分の部屋と繋げてみる。
馬車で三日掛かる距離を一瞬で移動できた。
これで、また王都に連行された時の逃走ルートが確保できた。
逃げるんじゃなくて、逆に攻めに使えば、軍隊が相手の城へ一瞬で突入できる。
うん、この世界では、秘匿しなければならない品物だ。
念のため、ミロの部屋の座標も調べておいた。
これで、ミロの可愛い寝顔が見放題だ。
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