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23 遺跡 その3

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 壁から湧き出るゴーストを倒しながら進む。
 壁沿いを進むウィルとタナスが初級聖符で牽制して、真ん中に立つ僕が攻撃する。
 ウイルとタナスの武器も吸収陣で強化できないかと考えたのだが、壊れそうなのでやめた。

 ウィルの腹時計によると、僕らがここに落ちてから五日が経過しているらしい。
 スケルトンが待ち伏せしている部屋には十二回遭遇したが、宝箱があった部屋は、最初の部屋も入れて二部屋だけだった。
 二部屋目の宝箱には、魔法陣が染め抜かれた襤褸布一枚、素材不明の革の籠手が二組、小さな宝石が嵌められた指輪が三つだった。
 ジャンケンで再び僕が勝ち、二番目は同じくウィルだった。
 僕は襤褸布を選んだ。
 知らない魔法陣だったのでファラ師匠に見て貰おうと思ったからだ。

「ねえ、本当に良いの。それ売れないよ。ゴミだよ」
「ユーリ、二度続けてじゃ悪いから、俺が引き取っても良いぜ」
「ええ、私達も申し訳ないわ」

 ウィルもタナスも、籠手を見て目を輝かせていたのに気を使ってくれた。
 二人の籠手は、アーマー以上の廃品級と言うか、雑巾と判別不能だ。

「この魔法陣が気になるんで調べたいんだ。気にしないでくれ」
「ふーん、単なる模様かと思っていましたが、確かに良く見ると珍しい魔法陣ですわね」
「ええ、確かに魔法陣の様式として成立してますわ」
「でもここの文様は、見慣れない文字ですわね。古代文様に少し似てますわ」

 単なる問題児のお嬢様と思っていたが、意外に勉強家らしい。
 僕は、ファラ師匠の魔道具の文様と似ていたので気が付いた。

「何か判ったら教えるよ。それじゃ俺がこれを貰うよ」
ーーーーー

「そんな卑怯な真似は出来ませんわ。正々堂々と正面から戦いましょう」
「そうですわ。貴族としての沽券に関わります」
「背後から襲うなんて、そんな発想が出来ること自体が信じられませんわ」
「相手は魔物なんだぞ、卑怯もへったくれもあるか」
「そうだよ、勝てる可能性が高い方法を選ぼうよ」

 僕達はやっと登り階段を見付けた。
 階段を上ると少し広い真っ暗な部屋になっており、真ん中にハーフアーマーと大きな盾を装備したスケルトン一体、魔法師の恰好をしたゴーストが二人立っていた。
 正面の扉を見詰めているようで、僕らには背中を向けている。
 ウィルによると、正面の扉が開くと眠りから覚めるらしく、今なら背後から攻撃できるので大変お得らしい。
 勿論攻撃を受けたら目覚めるので、最初の一発限定らしいが。

 ウィルが背後から襲うことを前提に作戦を説明したら、ルイーズ達に反発されたのだ。
 僕は勿論ウィルに賛成だ。
 問題は魔法師の恰好をしたゴーストだと思う。
 スケルトンが魔法師を相手の攻撃から護り、魔法師が相手を魔法で弱らせるパターンなのだろう。
 ルイーズ達はスケールアーマーに守られているが、僕は結界すら張れていない。
 鞭を持った相手の前に、全裸で立っているようなものだ。
 僕は、薄い本に描かれている主人公のような変態じゃない。

「俺もウィルに賛成だ。三対三だからジャンケンにしよう」
「うっ、卑怯ですわ」

 僕とウィルは、何故か彼女達相手に負け知らずだ。

「絶対に可笑しいですわ」
「あなた達、何かズルしてるでしょ」
「なんだ、負けるのが怖いのか」
「そんな事ないですわ」
「たまたま、あなた達が勝っていただけですわ」
「好い気にならないことね」
「じゃあ、ジャンケンにしよう」
『うっ』
「やっぱり負けるのが怖いのか」
「そんなことありませんわよ」
「ルイーズ、クロエ。受けて立ちましょう」
「ええ、吠え面をかかせてやるわ」

 懲りない連中だ、僕とウィルはまた勝った。
 彼女達は、気合が入ると、必ずグーを出すのだ。

 僕とクロエがゴーストを叩く。
 剣術は、彼女達の中でクロエが一番上手なのでお願いした。
 残り四人は、露出しているスケルトンの上腕の骨と腿の骨を背後から叩き切る。、

「行くぞ、せーのっ!」

 背後に立ち、十分に腰を据えて武器を振り下ろす。
 ゴーストは一瞬で消え去り、手足を失ったスケルトンは床に音を立てて転がった。
 全員でスケルトンの鎧を剥ぎ、クロエが、嬉しそうに無抵抗となったスケルトンの肋骨に剣を突き立てる。

「無抵抗な相手を蹂躙するのは、何かゾクゾクしますわ」

”からん”

 乾いた音を立てて魔石が弾き出され、スケルトンが装備諸共灰になって崩れ落ちた。
 床から宝箱がせり上がって来た。
 中身は、鉄の剣が二本、大きな宝石のペンダント三個、そして銀の裁縫セットだった。
 ウィルとタナスは鉄剣を持って狂喜乱舞しているが、ソフィアが銀の裁縫セットを取り上げ、僕に差し出した。
 そう、僕も何となく察しが付いてきた。

「ユーリは裁縫が出来ますの」
「うん、結構得意」

 うん、ファラ師匠に仕込まれ、衣装作りを手伝わされている。
ーーーーー

 一層上がっただけで、急に魔物が弱くなった。
 ゴーストは出ないし、スケルトンは通路をうろついているので、団体で待ち伏せされることもない。
 五、六体程度なら余裕で倒せるので、全員でひたすら突き進んで、二日で登り階段を見付けた。
 階段を上り、閉ざされていた石扉を抉じ開けると、そこは木々に囲まれた地上だった。

 外から見ると、遺跡の入り口は苔むした石の祠のような感じだった。
 入り口前は、低草に覆われた小さな空き地になっており、正面に巨大な木が聳え立っている。
 
「上から見てみるか」

 ウィルが器用にその木に登り始めた。
 木登りは始めてだったが、面白そうなので付いて行った。
 レベルアップの効果か、身体が軽い。
 右手一本で身体を持ちあげられるし、小さな足場でも、余裕で飛び移れる。

 梢近くになって、急に視界が開けた。
 眼下に見渡す限り緑の絨毯が広がっており、その上に、朱に染まり始めたアルテライオス山脈が聳え立っている。
 反対側に目を移すと、沈む夕日と、赤く染まるステロドス川、そして川港ラナスが見えた。

「不味いな、だいぶ森の奥に入ってるぜ」
「戻るのに何日くらい掛かるかな」
「そうだな、上手く枝伝いに戻れれば、五日くらい。地上なら十五日から二十日くらいかな」
「枝伝いって、俺達猿じゃないぞ」
「慣れれば大丈夫さ、案外簡単だぜ。地上を歩いても良いが、道なんか無いんだぜ。森の中の藪漕ぎは辛いぞ、蛭がべったり着くし」
「・・・それは勘弁だな」

 木々の間から微かに見えるアルテライオス山脈を頼りに、方向を確認しながら木を降りる。
 枝から枝へと結構な高さを一気に飛び降りると、何か気分が高揚する。
 もう少しで地上という段になって、下からルイーズ達の怒号が聞こえて来た。
 覗き込むと、四人が一匹のオークと対峙していた。

 ファラ師匠の薄い本で良く出てくる魔獣なので良く知っているが、本物は迫力が違う。
 豚よりも猪の顔に近く、獰猛な顔付だ。
 身の丈は人の二倍、肩幅は三倍くらい有りそうだ。
 恐ろしいことに、股間のそれは薄い本の描写どおり、人の腕くらいある。

 ルイーズ達の攻撃は、丸太の様な棍棒で軽くあしらわられている。
 攻撃する意思は無さそうで、薄い本そのままに、隙を見てルイーズ達の鎧を剥がしている。
 もう少し見学したいところなのだが、一番狙われているのがタナスらしく、可哀想に、ほぼ全裸で逃げ回っている。
 薄い本のパターン通りならば、タナスが次に捕まったら痔になってしまうので猶予は無い。

 全身のオーラに力を籠め、木の枝からオーク目掛けて一気飛び降りる。
 落ちる勢いを剣に乗せ、背後から一気に振り下ろす。
 肩に入った刃は、すんなり肩の骨を断ち、そのままめり込んで背骨を断ってから、身体を抜けてしまった。
 一刀両断という奴だが、自分でもびっくりだ。
 オークが前のめりになって倒れ、動かなくなった。

「おー、すげーな。オークの革って、結構硬いんだぜ」
 
 ウィルも遅れて飛び降りたのだが、僕の一刀で終わってしまった。

「あーん、ユーリ、ウィル、怖かったよー」

 タナスが俺達に抱き着いて来た。
 ルイーズ達三人は、そんな僕らを生暖かい視線で見つめている。

「納得いきませんわ」

 一番無傷だったクロエが、何故か憤慨している。
 
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