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Ⅲ キャノーラ国
9 聖女神殿2
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俺達にだって多少の協調性はある。
昼間の治療は神殿と競合しない様に、貧乏人限定という妙な制限を設けた。
他の治癒師と違ってマリアの魔力はほぼ無尽蔵だ。
薬草の力を頼ることも無く、出費は俺のトイレ掃除の道具程度なので、時々銅貨一枚程度貰えればそれで十分なのだ。
普通の治癒師にとっては迷惑な存在だとは思っている。
売春酒場は相変わらず儲かっているようだ。
マリアは商売と思っているので忌避感は示していない。
彼女達にも養うべき兄弟や身体の弱い親がいるのだ。
俺の店に夕飯を食いに来る彼女達の会話は逞しい。
天使の様な顔をして、如何に多く助平親父達から金を搾り取るか議論しているのだ。
「初心な顔して嫌がると、結構積んで来るぜ」
「最初態度が悪い方が嬉しいみたいだぞ、少し嫌がるとほいほい積んで来るしさ」
「痛がるふりをして、途中で止めるの手だぜ。必死に頼み込んできやがるからさ」
「昼の治療から物色してるおっさんもいるよな。私違いますからって言ったら、結構積んだぜ」
「生姜焼き出来たぞ、ミケ」
「あんがと、兄さん」
勿論金は貰っていない、何となく食いに来て食わせている状態が続いている。
妹や弟を連れて来る子は、仕事が終わるまで預かっている。
食堂兼託児所の様な雰囲気になっている。
もっとも子供らはワンコ達が面倒を見てくれるので世話はいらない。
ーーーーー
子供達も帰って、深夜、マリアとワンコ達と風呂に入って寛いでいた時だった。
風呂桶は二人でゆったり入れる大きさの物を買って運び込んである、定番通りマリアを俺の膝の上に乗せて背後から胸をモミモミしていた。
すると急に、洗い場で遊んでいたワンコ達がトコトコ風呂場から出て行き、入口で首を並べて俺達を眺めだした。
そしてミシリと音がして洗い場のタイルに亀裂が入り、風呂桶がその亀裂の中に吸い込まれた。
闇のトンネルを疾走する、捕まる所の無いジェットコースター、物凄く怖かった。
なにせ、目的地も判らないで、安全も保障されていないのだ。
突然薄明るい放り出された、マリアは聖術で光の翼を広げ、俺は熱術で氷の翼を広げる。
やれやれ、これで一安心だ。
降り立った場所はドーム型の建物の中だった、天井の一画が崩れており、そこに俺達が滑り落ちて来た穴が開いている。
膝まで水が溜まっており、動く度に足元に溜まっている泥が舞い上がる。
神殿の様な感じで、中央部分が少し高くなっており、そこに祠らしき建物が立っている。
取り合えず座る場所を求めて、その祠へ移動することにした。
祠の中に入る。
「えっ!お兄ちゃん、ここって。わっ、お兄ちゃん、私の頭が変」
マリアにも古代の記憶が戻ったようだ、頭を抱えてアタフタしていたのでハグしてやる。
外見は石の祠だったのだが、内側は軽金属製の簡易テントになっていた。
壁に大型のディスプレイが嵌め込まれ、空中の元素を変換する調理器や身体再生の風呂も揃っている。
物質転送装置も置いてあるので、北大陸探索隊のベースキャンプに使用されたものだろう。
探索隊が時空変動後放棄した施設を、北大陸の原住民が神物として崇めていたのかもしれない。
だから保存状態は良好だ。
引き出しを探ったら、未使用の魔石とICカードも保管されていた。
暗号は0000、まあ古代人のセキュリティー意識はこんなもんだろう。
調理器でコーヒーを作り、当時の記録を閲覧させて貰う。
この隊の目的は飛行船の外壁タイル素材の代替品を捜すことだったようで、そのために河の中州にキャンプを設けたらしい。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん宛の分析依頼書があったわよ」
日付を見ると、俺への発注前にここを放棄せざるを得なかったようだ。
通信記録を読むと、出先では何が起こったのか判らなかったようで、中には、母船が自分達を置き去りにして出航したという通信もあり、相当混乱していたようだ。
たぶん、狩猟社会の原住民に囲まれて相当不安だったのだろう。
御主人を置いて先に逃げ出した薄情なワンコ達が、祠の中に入って来た。
心配して追っかけて来たのだろう。
心苦しいのだろうか、俺の目を見ようとしない。
「お兄ちゃん、このゲート生きてるかな」
物質転送装置だ、物質の情報を読み取りデータとして送信する装置だ。
物質そのものは送れないが、送信先の物質で再構築すれば、魂も含めて転送されると言われている。
”ウィン”
沈黙していたが、リセットボタンを押したら生き返った。
「あっ!ミーちゃん」
ゲートの前でじゃれ合っていたワンコが一匹、転んでゲートに転がり込んでしまった。
慌てて追いかけようとしたマリアが一緒にゲートの中に消えてしまった。
残りのワンコ達もワラワラゲートの中に消えて行く。
仕方が無い、俺もICカードと魔石を握り締めてゲートに飛び込んだ。
送られた先は、薄暗い熱帯の樹木が生い茂る森の中だった。
受けのゲートは生きていたのだが、送りのゲートが樹木に突き破られてボロボロになっている。
うん、これじゃICカードは持っていても帰れない。
しかも困った事に、俺達は全裸で何も持っていない。
昼間の治療は神殿と競合しない様に、貧乏人限定という妙な制限を設けた。
他の治癒師と違ってマリアの魔力はほぼ無尽蔵だ。
薬草の力を頼ることも無く、出費は俺のトイレ掃除の道具程度なので、時々銅貨一枚程度貰えればそれで十分なのだ。
普通の治癒師にとっては迷惑な存在だとは思っている。
売春酒場は相変わらず儲かっているようだ。
マリアは商売と思っているので忌避感は示していない。
彼女達にも養うべき兄弟や身体の弱い親がいるのだ。
俺の店に夕飯を食いに来る彼女達の会話は逞しい。
天使の様な顔をして、如何に多く助平親父達から金を搾り取るか議論しているのだ。
「初心な顔して嫌がると、結構積んで来るぜ」
「最初態度が悪い方が嬉しいみたいだぞ、少し嫌がるとほいほい積んで来るしさ」
「痛がるふりをして、途中で止めるの手だぜ。必死に頼み込んできやがるからさ」
「昼の治療から物色してるおっさんもいるよな。私違いますからって言ったら、結構積んだぜ」
「生姜焼き出来たぞ、ミケ」
「あんがと、兄さん」
勿論金は貰っていない、何となく食いに来て食わせている状態が続いている。
妹や弟を連れて来る子は、仕事が終わるまで預かっている。
食堂兼託児所の様な雰囲気になっている。
もっとも子供らはワンコ達が面倒を見てくれるので世話はいらない。
ーーーーー
子供達も帰って、深夜、マリアとワンコ達と風呂に入って寛いでいた時だった。
風呂桶は二人でゆったり入れる大きさの物を買って運び込んである、定番通りマリアを俺の膝の上に乗せて背後から胸をモミモミしていた。
すると急に、洗い場で遊んでいたワンコ達がトコトコ風呂場から出て行き、入口で首を並べて俺達を眺めだした。
そしてミシリと音がして洗い場のタイルに亀裂が入り、風呂桶がその亀裂の中に吸い込まれた。
闇のトンネルを疾走する、捕まる所の無いジェットコースター、物凄く怖かった。
なにせ、目的地も判らないで、安全も保障されていないのだ。
突然薄明るい放り出された、マリアは聖術で光の翼を広げ、俺は熱術で氷の翼を広げる。
やれやれ、これで一安心だ。
降り立った場所はドーム型の建物の中だった、天井の一画が崩れており、そこに俺達が滑り落ちて来た穴が開いている。
膝まで水が溜まっており、動く度に足元に溜まっている泥が舞い上がる。
神殿の様な感じで、中央部分が少し高くなっており、そこに祠らしき建物が立っている。
取り合えず座る場所を求めて、その祠へ移動することにした。
祠の中に入る。
「えっ!お兄ちゃん、ここって。わっ、お兄ちゃん、私の頭が変」
マリアにも古代の記憶が戻ったようだ、頭を抱えてアタフタしていたのでハグしてやる。
外見は石の祠だったのだが、内側は軽金属製の簡易テントになっていた。
壁に大型のディスプレイが嵌め込まれ、空中の元素を変換する調理器や身体再生の風呂も揃っている。
物質転送装置も置いてあるので、北大陸探索隊のベースキャンプに使用されたものだろう。
探索隊が時空変動後放棄した施設を、北大陸の原住民が神物として崇めていたのかもしれない。
だから保存状態は良好だ。
引き出しを探ったら、未使用の魔石とICカードも保管されていた。
暗号は0000、まあ古代人のセキュリティー意識はこんなもんだろう。
調理器でコーヒーを作り、当時の記録を閲覧させて貰う。
この隊の目的は飛行船の外壁タイル素材の代替品を捜すことだったようで、そのために河の中州にキャンプを設けたらしい。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん宛の分析依頼書があったわよ」
日付を見ると、俺への発注前にここを放棄せざるを得なかったようだ。
通信記録を読むと、出先では何が起こったのか判らなかったようで、中には、母船が自分達を置き去りにして出航したという通信もあり、相当混乱していたようだ。
たぶん、狩猟社会の原住民に囲まれて相当不安だったのだろう。
御主人を置いて先に逃げ出した薄情なワンコ達が、祠の中に入って来た。
心配して追っかけて来たのだろう。
心苦しいのだろうか、俺の目を見ようとしない。
「お兄ちゃん、このゲート生きてるかな」
物質転送装置だ、物質の情報を読み取りデータとして送信する装置だ。
物質そのものは送れないが、送信先の物質で再構築すれば、魂も含めて転送されると言われている。
”ウィン”
沈黙していたが、リセットボタンを押したら生き返った。
「あっ!ミーちゃん」
ゲートの前でじゃれ合っていたワンコが一匹、転んでゲートに転がり込んでしまった。
慌てて追いかけようとしたマリアが一緒にゲートの中に消えてしまった。
残りのワンコ達もワラワラゲートの中に消えて行く。
仕方が無い、俺もICカードと魔石を握り締めてゲートに飛び込んだ。
送られた先は、薄暗い熱帯の樹木が生い茂る森の中だった。
受けのゲートは生きていたのだが、送りのゲートが樹木に突き破られてボロボロになっている。
うん、これじゃICカードは持っていても帰れない。
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