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Ⅱ ネルトネッテ伯爵領
6 指揮天幕
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ーーーーー
ネルトネッテ伯爵
久々に見るマリアはマリアは、餓鬼の癖に女の顔になっていた。
癪に障るが、でもまあ、マリアはマリアのままで城に居た時分と大した変化は無いようだ。
だが、此奴、この馬鹿息子は違う。
隊長達と相対する姿は、自分が記憶する馬鹿息子とはまったく別人だ。
多少体格は良くなっているが、それが理由じゃない。
外見自体は大して変わっていない、だが、纏っている雰囲気、迫力が違うのだ。
おどおどと縮んでいた雰囲気が微塵も無い。
天幕内を彫像の様な子犬がうろうろと歩き回っているが、場の雰囲気を察するに、これは気に留めてはいけない事柄なのだろう。
「ネルトネッテ、参上いたしました」
「おお、ネルトネッテ伯。呼び立ててすまぬ」
「うむ、伯は優れた御子息をお持ちで羨ましい限りじゃ」
国軍の頂点に立つ赤竜隊長アミドスと黒竜隊長テトノールだ。
代々国軍の指揮官を務める武の家系で、赤竜将軍、黒竜将軍とも呼ばれている。
北部貴族は、北部を支配していた現王家のペテローネ家の配下に属していたという歴史的な経緯があり、王家直属の部隊である赤竜隊の配下に属している。
普段であれば、ケンノケロで産出される銅と銀の財力で伸上がった我家は、戦場の場においては軽んじられ、指揮天幕に招かれることは皆無である。
まあ、その分、評価されない戦後の雑務や費用負担を押し付けられるのが常なのだが。
「お褒めに与り光栄です」
「立ち話もなんだ、座ってくれ」
これもまた異例だ、両将軍と指揮天幕で対座したことが知れ渡れば、貴族間での我が家を見る目、地位が変わる。
当然大きなこれはチャンスだ。
「それでは失礼いたします」
将軍達の対席へ、馬鹿息子の上座に座る。
この馬鹿息子は、分をわきまえずに聖女であるマリアの上座に座っている。
「伯の家に聖女殿が居られるのは知っておったが、この様な強大な力をお持ちとは知らなかった。てっきり天使様が舞い降りてこられたと思いましたぞ。はっはっはっ」
「聖術を極めると空を飛翔する事ができるとは聞いておったが、今まで信じておらんかった。しかも斯様な戦闘力を有する術とは」
「しかも聖術だけじゃなくて、戦乙女のゴーレムを駆使できるほど土術も極められているとは。感服いたしましたぞ」
今聞いた話を総合すると、あの天使がマリアで戦乙女を手繰っていたのもマリアの聖女の力との理解で間違いは無いだろう。
「ありがとうございます。この子の日頃の修練の賜物です」
「うむ、それに聖女殿だけじゃなくて勇者殿も得られていたとは」
「有事に備えられていたのは判るが、秘匿されていたとは人が悪い。せめて我赤竜にだけは教えて欲しかったのう」
うー、これは情報不足で話の内容が良く解らない。
「申し訳ございません。我家は商に重きを置く家系ですので、過ぎたる武は家業に差し障りが生じると配慮いたしました」
「うーむ、成程のー。合点した」
「しかし良く隠し通せたのー」
「おお、そうじゃ、そうじゃ。竜を屠ったあの一太刀、見事じゃった。相当な研鑽を積んだ筈じゃ」
「それにな、儂等竜を屠ったことで安心して、後処理の事なぞ微塵も考えておらなかった」
「そうそう、勇者殿に今教えて貰っていたとこなんじゃが意外に大変での」
「うむ、伯の家では竜退治を相当調べておったらしいの。それに相当厳しい鍛錬を積んだだろうに」
話の流れからすると、この馬鹿息子が氷の戦士であり勇者であるらしい。
物凄く納得行かないが、我慢して受け入れるしかないだろう。
「はい、二人にアカクルカ荒地で暫く修行を積ませておりました」
「おー!アカクルカでか。それは相当厳しいの」
「成程、それで勇者の修行が外部に漏れんかったのか」
「なかなかの知恵者じゃの。そうじゃ、その知恵者を見込んで頼む。この後の作業の差配は伯に一任したい。構わんじゃろアミドス」
「おお、適任じゃ。勇者殿も居るし不満は出んじゃろ。慣習どおり、討伐者八、軍二の取り分で良いか」
「どうだ、ジョージ」
思い出した、この馬鹿息子はミレーネの子のジョージだ。
「差し出がましい様ですが、この後の作業にお力をお借りしなければならないので、五分五分で結構です。可能でしたら西部諸侯に手厚く配布して頂けたらありがたいです」
「ほう、勇者殿は武だけではなく、知も持っておられる様じゃ」
「うむ、儂等からの発案だと王家への批判に繋がりかねんので助かる。それではその差配も勇者殿の希望ということで伯に一任しよう」
「承りました」
「それとミノタウロスは、後で倒しに行って来ます」
「おー、それは助かる。うむ、竜を倒せる勇者殿なら造作ないか」
「西部諸侯も喜ぶじゃろう」
なぜ此奴がミノタウロスと西部の事情を知っている。
まあ良い、西部の経済が活性化すれば銅も銀も値上がって、我が家にプラスだ。
「二人に生まれる孫が楽しみじゃの、伯」
「勇者と聖女の子か、わくわくするのー」
「はい、誠に」
ーーーーー
この後の作業の段取りを話合うため、ネルトネッテ伯爵の陣幕に向かった。
そこで人払いを終えると、ネルトネッテ伯爵は俺に聞いた。
「ジョージ、お前本当は何者なんだ」
「父さん、お兄ちゃんなの。兄さんがお兄ちゃんと入れ替わったの」
「???????」
ネルトネッテ伯爵
久々に見るマリアはマリアは、餓鬼の癖に女の顔になっていた。
癪に障るが、でもまあ、マリアはマリアのままで城に居た時分と大した変化は無いようだ。
だが、此奴、この馬鹿息子は違う。
隊長達と相対する姿は、自分が記憶する馬鹿息子とはまったく別人だ。
多少体格は良くなっているが、それが理由じゃない。
外見自体は大して変わっていない、だが、纏っている雰囲気、迫力が違うのだ。
おどおどと縮んでいた雰囲気が微塵も無い。
天幕内を彫像の様な子犬がうろうろと歩き回っているが、場の雰囲気を察するに、これは気に留めてはいけない事柄なのだろう。
「ネルトネッテ、参上いたしました」
「おお、ネルトネッテ伯。呼び立ててすまぬ」
「うむ、伯は優れた御子息をお持ちで羨ましい限りじゃ」
国軍の頂点に立つ赤竜隊長アミドスと黒竜隊長テトノールだ。
代々国軍の指揮官を務める武の家系で、赤竜将軍、黒竜将軍とも呼ばれている。
北部貴族は、北部を支配していた現王家のペテローネ家の配下に属していたという歴史的な経緯があり、王家直属の部隊である赤竜隊の配下に属している。
普段であれば、ケンノケロで産出される銅と銀の財力で伸上がった我家は、戦場の場においては軽んじられ、指揮天幕に招かれることは皆無である。
まあ、その分、評価されない戦後の雑務や費用負担を押し付けられるのが常なのだが。
「お褒めに与り光栄です」
「立ち話もなんだ、座ってくれ」
これもまた異例だ、両将軍と指揮天幕で対座したことが知れ渡れば、貴族間での我が家を見る目、地位が変わる。
当然大きなこれはチャンスだ。
「それでは失礼いたします」
将軍達の対席へ、馬鹿息子の上座に座る。
この馬鹿息子は、分をわきまえずに聖女であるマリアの上座に座っている。
「伯の家に聖女殿が居られるのは知っておったが、この様な強大な力をお持ちとは知らなかった。てっきり天使様が舞い降りてこられたと思いましたぞ。はっはっはっ」
「聖術を極めると空を飛翔する事ができるとは聞いておったが、今まで信じておらんかった。しかも斯様な戦闘力を有する術とは」
「しかも聖術だけじゃなくて、戦乙女のゴーレムを駆使できるほど土術も極められているとは。感服いたしましたぞ」
今聞いた話を総合すると、あの天使がマリアで戦乙女を手繰っていたのもマリアの聖女の力との理解で間違いは無いだろう。
「ありがとうございます。この子の日頃の修練の賜物です」
「うむ、それに聖女殿だけじゃなくて勇者殿も得られていたとは」
「有事に備えられていたのは判るが、秘匿されていたとは人が悪い。せめて我赤竜にだけは教えて欲しかったのう」
うー、これは情報不足で話の内容が良く解らない。
「申し訳ございません。我家は商に重きを置く家系ですので、過ぎたる武は家業に差し障りが生じると配慮いたしました」
「うーむ、成程のー。合点した」
「しかし良く隠し通せたのー」
「おお、そうじゃ、そうじゃ。竜を屠ったあの一太刀、見事じゃった。相当な研鑽を積んだ筈じゃ」
「それにな、儂等竜を屠ったことで安心して、後処理の事なぞ微塵も考えておらなかった」
「そうそう、勇者殿に今教えて貰っていたとこなんじゃが意外に大変での」
「うむ、伯の家では竜退治を相当調べておったらしいの。それに相当厳しい鍛錬を積んだだろうに」
話の流れからすると、この馬鹿息子が氷の戦士であり勇者であるらしい。
物凄く納得行かないが、我慢して受け入れるしかないだろう。
「はい、二人にアカクルカ荒地で暫く修行を積ませておりました」
「おー!アカクルカでか。それは相当厳しいの」
「成程、それで勇者の修行が外部に漏れんかったのか」
「なかなかの知恵者じゃの。そうじゃ、その知恵者を見込んで頼む。この後の作業の差配は伯に一任したい。構わんじゃろアミドス」
「おお、適任じゃ。勇者殿も居るし不満は出んじゃろ。慣習どおり、討伐者八、軍二の取り分で良いか」
「どうだ、ジョージ」
思い出した、この馬鹿息子はミレーネの子のジョージだ。
「差し出がましい様ですが、この後の作業にお力をお借りしなければならないので、五分五分で結構です。可能でしたら西部諸侯に手厚く配布して頂けたらありがたいです」
「ほう、勇者殿は武だけではなく、知も持っておられる様じゃ」
「うむ、儂等からの発案だと王家への批判に繋がりかねんので助かる。それではその差配も勇者殿の希望ということで伯に一任しよう」
「承りました」
「それとミノタウロスは、後で倒しに行って来ます」
「おー、それは助かる。うむ、竜を倒せる勇者殿なら造作ないか」
「西部諸侯も喜ぶじゃろう」
なぜ此奴がミノタウロスと西部の事情を知っている。
まあ良い、西部の経済が活性化すれば銅も銀も値上がって、我が家にプラスだ。
「二人に生まれる孫が楽しみじゃの、伯」
「勇者と聖女の子か、わくわくするのー」
「はい、誠に」
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この後の作業の段取りを話合うため、ネルトネッテ伯爵の陣幕に向かった。
そこで人払いを終えると、ネルトネッテ伯爵は俺に聞いた。
「ジョージ、お前本当は何者なんだ」
「父さん、お兄ちゃんなの。兄さんがお兄ちゃんと入れ替わったの」
「???????」
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