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40 後始末
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大后とアリサの二人に見送られて大后の居室から退出する。
トーラの案内で男性客用の部屋へ通される。
寝室と応接間が分かれた大きな部屋で、応接間には少人数の会議が可能な大きなテーブルまで付いている。
頑丈な太い木材で作られた大きな寝台は皺一つ無く寝具が整えられており、宿の従業員としてのカムの感覚では1人で乱すことが憚られる。
結局脇に置かれた従者用の狭い寝台に入り安心する。
従者用でもカムには大きく、久々に1人で寝床に横たわると違和感がある。
思えばすでに半年以上サラと離れて寝たことが無い。
自分の半身が無いような感覚で落ち着かない。
苦笑しながら闇を見詰めて大后とアリサのことを考える。
大后がアリサに添い寝してやるのは、将来への不安と悲しみを癒してやるためであったろうが、今日は喜びを分かち合っているだろう。
多分アリサが喜びを実感するのは明朝目覚めて心配事が無くなったことを自覚した時であろう。
ウルムの穏やかな笑い顔を思い出しながらカムは意識を手放して行った。
翌朝四点鐘で目を覚ます。
昨晩トーラに頼んだ修服が届いている。
昨日着ていた式服はすでに洗濯籠に入れてあり、洗濯をお願いするつもりである。
サラは今日から3日間泊まり込みでの研修に無理矢理参加させられる。
今年役所に採用された見習い達の行儀作法の研修であるが、侍女長の強い希望で参加が義務付けられた。
多分今朝に説教と共に宣言される筈である。
カムも幸い3日間会議が続いているので、このままサラに併せて3日間の逗留をお願いしてある。
修服に着替えて食堂へ向かう。
大后の客なので部屋に食事が運ばれるが昨晩断っている。
途中でミルヤとカイラに会い、一緒に談笑しながら歩く。
行きかう人々が二人に丁重に挨拶する。
食堂に入ると入り口近くで客に挨拶しながら侍女長が給仕の侍女を監視していた。
カムが挨拶する。
「おはようございますエリス様、昨日はありがとうございました。暫く宜しくお願いします。自分も3日程御厄介になっております」
「おはようございますカム様。ご丁寧にありがとうございます。奥様も非常にお喜びでした。ご不便がございましたらお声掛け下さい。急いで手配させて頂きます。ほんとうにありがとうございました」
昨晩大后から侍女長の名前を聞いて居る。
大后の嫁入りの時に従って来たアルス家の侍女で大后と長年苦楽を共にして来た。
主従よりも姉妹の感覚で大后と結ばれている。
引退すべき年齢であるが今も礼儀作法の教師として大后とタナス国を支えている。
一緒に歩いてきたミルヤとカイラの足が入り口で暫し止まっていた。
身形を確認して背筋を伸ばして侍女長の前に立つ。
緊張しながら優雅に一礼する。
「おはようございます先生。早朝からのお勤めありがとうございます」
「おはよう二人共、昨晩は良く眠れましたか。お酒は程々に召して下さいね」
二人が一瞬ぎくりとする。
「はい先生、御心配お掛けして申し訳ございません。では失礼いたします」
二人は逃げる様に侍女長から見え難い衝立の後ろのテーブルへ移動する。
椅子に座って胸を撫で下ろしている。
「お二人共、エリスさんは苦手なんですか」
二人が顔を見合わせる。
「まだ時々怒られるの。私たちが悪いのだけどね。子供の頃からの先生だから頭が上がらないの」
「でもお二人は宮廷魔術師と宮廷薬師ですよね。この国の頂点のお二人でも頭が上がらないですか」
「だって怖いのよ。睨みつけられると全身が震えちゃうの。サラさんなら若しかすると大丈夫かも」
「いえ、駄目でしょう。あそこで給仕してますから」
昨晩の話を二人に聞かせると二人して頬に手を当てて退く。
「なな、なんてことを。それでさっきお酒の話が、、、。いや、想像したくない。サラさんお気の毒」
見習いの給仕役の娘が料理を運んでくる。
緊張で強張っている。
知った顔の娘なので聞いて見る。
「サラ怒られたのか」
素早く何度も頷きながらカム達のテーブルから素早く離れる。
ミーヤとカイラが苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
二人は手早く食事を済ませるとカムを残して飛ぶように食堂から出ていった。
サラも恨めし気な視線をカムに向けながらも話しかけて来ることは無かった。
カムの三日間は充実していた。
キーロと情報処の責任者を助けて他国との打ち合わせを行った。
牡蠣事件で捕えた捕虜からの証言や証拠品を積極的に開示した。
示された物に各国にとって核心的な物が多く含まれ、また、その意味を理解したうえでの解説を聞かされため、協力の申し出が多くなった。
カムからもたらされる魔法国の戦略や行動パターンも各国の関心を引き、対処方法を懸命に筆記し本国に隼便で送る者も多かった。
三日目には全ての国で本国の了承が得られ、把握している情報の交換がなされる。
異例の速さである。
各国の関心の高さと問題の重要性が高いレベルで議論されていた証拠でもある。
切れていた情報が互いに結び付き、魔法国の動きが炙りだされて来る。
拠点や息の掛かった商人、国境を越えて結び付く貴族の名前。
拠点を潰すための連携も話合われ、巨大な計画が描かれて行く。
三日目の夕刻には全体の行動が申し合わされ、連携の大きな網が完成した。
タナス国の捕えている捕虜のカムラ国への引き渡しも順調に決まった。
普通各国の政治的な思惑で調整が難しくなる話であったが、情報交換によって自国に貼られた網を見せられ、しかも港での実際の脅威を目の前で示されているため、現実的な選択が優先された。
四日目の早朝、捕虜を伴ったタナス国の副将軍も含め、各国軍人と主要な役人が自国を目指して出発する。
毎日会議結果は国王に報告している。
夕食前に国王の居室に有るプライベートな小さな会議室を使用した。
知的な国王で疑問に思った事は必ず質問して確かめる。
目立たない様に発言を控えていたカムであったが、質問に答え説明することが多くなった。
国王の言外の思考や迷いが理解されたので、可能性と生じる選択肢を極力丁重に示すようにした。
他のメンバーへの説明も兼ねて正解が一つでは無い事や愚策が正解の表裏であること、過去の他国での成功例や失敗例、昼の会議で発言された他国の思惑も伝えた。
国王は良く理解し、報告を熱心に聞いていた。
大后への説明はカムに任された。
国王直々の依頼である。
カムは3日間大后の夕食に招かれ、アルス家と食事を共にしていた。
伯爵はカムに説明を聞いた翌日にはホグを起ってメル国へと向かっている。
メル国の軍人が同伴しており身の危険は減っている。
軍人同伴の意味を察して、ハイエナ達が大人しく身を引くこともカムは期待している。
大后がカムを食事に招く大きな理由はアリサとミルサの話相手で、小さな理由は食事後に昼の会議の結果を聞くことであった。
が、直ぐにこの比重が変わる。
大后は最初の説明で会議の内容の重要性に驚き、翌日にも情報処の責任者を呼び付けようと考えたが、質問に答えるカムの説明から、目の前の少年が核心を握る人物と気付く。
大后の質問に対し予想出来ない可能性や選択肢も示し、各国から得た情報やその情報の示す広がりも完璧に解説して見せる。
ひたすら淡々と力むことも感情に流されることなく食事をするような気軽さで解説する。
情報処の責任者やキーロは勿論、宰相や将軍にも無理な芸当である。
三日目の夕食後、カムから報告を聞き、強力な連携の包囲網が構築されたことを知り安堵する。
昨日までの報告で自国が抱えた危機は理解できていた。
「ご苦労様でしたカム。タナス国がこれで救われました。宰相にも各国との連絡手段の構築を命じておきます。ありがとう。ねえ、カム、貴方から見て私の息子はどう思える」
「優秀な国王です。部下の言葉を良く聞き、知らない事を恥ずかしがらない。部下の見ている光景を懸命に一緒に見ようと努める。極めて優秀な王様です」
「ありがとうカム、アルス家と同じ様に息子も助けてあげてね」
カムは気付く。カムは王をタナス国王として意識していたが、思えば王もウルムの末裔である。
王がカムの話を一生懸命に聞く姿はウルムそのものであった。
「はい、大后様。喜んでお手伝いいたします」
トーラの案内で男性客用の部屋へ通される。
寝室と応接間が分かれた大きな部屋で、応接間には少人数の会議が可能な大きなテーブルまで付いている。
頑丈な太い木材で作られた大きな寝台は皺一つ無く寝具が整えられており、宿の従業員としてのカムの感覚では1人で乱すことが憚られる。
結局脇に置かれた従者用の狭い寝台に入り安心する。
従者用でもカムには大きく、久々に1人で寝床に横たわると違和感がある。
思えばすでに半年以上サラと離れて寝たことが無い。
自分の半身が無いような感覚で落ち着かない。
苦笑しながら闇を見詰めて大后とアリサのことを考える。
大后がアリサに添い寝してやるのは、将来への不安と悲しみを癒してやるためであったろうが、今日は喜びを分かち合っているだろう。
多分アリサが喜びを実感するのは明朝目覚めて心配事が無くなったことを自覚した時であろう。
ウルムの穏やかな笑い顔を思い出しながらカムは意識を手放して行った。
翌朝四点鐘で目を覚ます。
昨晩トーラに頼んだ修服が届いている。
昨日着ていた式服はすでに洗濯籠に入れてあり、洗濯をお願いするつもりである。
サラは今日から3日間泊まり込みでの研修に無理矢理参加させられる。
今年役所に採用された見習い達の行儀作法の研修であるが、侍女長の強い希望で参加が義務付けられた。
多分今朝に説教と共に宣言される筈である。
カムも幸い3日間会議が続いているので、このままサラに併せて3日間の逗留をお願いしてある。
修服に着替えて食堂へ向かう。
大后の客なので部屋に食事が運ばれるが昨晩断っている。
途中でミルヤとカイラに会い、一緒に談笑しながら歩く。
行きかう人々が二人に丁重に挨拶する。
食堂に入ると入り口近くで客に挨拶しながら侍女長が給仕の侍女を監視していた。
カムが挨拶する。
「おはようございますエリス様、昨日はありがとうございました。暫く宜しくお願いします。自分も3日程御厄介になっております」
「おはようございますカム様。ご丁寧にありがとうございます。奥様も非常にお喜びでした。ご不便がございましたらお声掛け下さい。急いで手配させて頂きます。ほんとうにありがとうございました」
昨晩大后から侍女長の名前を聞いて居る。
大后の嫁入りの時に従って来たアルス家の侍女で大后と長年苦楽を共にして来た。
主従よりも姉妹の感覚で大后と結ばれている。
引退すべき年齢であるが今も礼儀作法の教師として大后とタナス国を支えている。
一緒に歩いてきたミルヤとカイラの足が入り口で暫し止まっていた。
身形を確認して背筋を伸ばして侍女長の前に立つ。
緊張しながら優雅に一礼する。
「おはようございます先生。早朝からのお勤めありがとうございます」
「おはよう二人共、昨晩は良く眠れましたか。お酒は程々に召して下さいね」
二人が一瞬ぎくりとする。
「はい先生、御心配お掛けして申し訳ございません。では失礼いたします」
二人は逃げる様に侍女長から見え難い衝立の後ろのテーブルへ移動する。
椅子に座って胸を撫で下ろしている。
「お二人共、エリスさんは苦手なんですか」
二人が顔を見合わせる。
「まだ時々怒られるの。私たちが悪いのだけどね。子供の頃からの先生だから頭が上がらないの」
「でもお二人は宮廷魔術師と宮廷薬師ですよね。この国の頂点のお二人でも頭が上がらないですか」
「だって怖いのよ。睨みつけられると全身が震えちゃうの。サラさんなら若しかすると大丈夫かも」
「いえ、駄目でしょう。あそこで給仕してますから」
昨晩の話を二人に聞かせると二人して頬に手を当てて退く。
「なな、なんてことを。それでさっきお酒の話が、、、。いや、想像したくない。サラさんお気の毒」
見習いの給仕役の娘が料理を運んでくる。
緊張で強張っている。
知った顔の娘なので聞いて見る。
「サラ怒られたのか」
素早く何度も頷きながらカム達のテーブルから素早く離れる。
ミーヤとカイラが苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
二人は手早く食事を済ませるとカムを残して飛ぶように食堂から出ていった。
サラも恨めし気な視線をカムに向けながらも話しかけて来ることは無かった。
カムの三日間は充実していた。
キーロと情報処の責任者を助けて他国との打ち合わせを行った。
牡蠣事件で捕えた捕虜からの証言や証拠品を積極的に開示した。
示された物に各国にとって核心的な物が多く含まれ、また、その意味を理解したうえでの解説を聞かされため、協力の申し出が多くなった。
カムからもたらされる魔法国の戦略や行動パターンも各国の関心を引き、対処方法を懸命に筆記し本国に隼便で送る者も多かった。
三日目には全ての国で本国の了承が得られ、把握している情報の交換がなされる。
異例の速さである。
各国の関心の高さと問題の重要性が高いレベルで議論されていた証拠でもある。
切れていた情報が互いに結び付き、魔法国の動きが炙りだされて来る。
拠点や息の掛かった商人、国境を越えて結び付く貴族の名前。
拠点を潰すための連携も話合われ、巨大な計画が描かれて行く。
三日目の夕刻には全体の行動が申し合わされ、連携の大きな網が完成した。
タナス国の捕えている捕虜のカムラ国への引き渡しも順調に決まった。
普通各国の政治的な思惑で調整が難しくなる話であったが、情報交換によって自国に貼られた網を見せられ、しかも港での実際の脅威を目の前で示されているため、現実的な選択が優先された。
四日目の早朝、捕虜を伴ったタナス国の副将軍も含め、各国軍人と主要な役人が自国を目指して出発する。
毎日会議結果は国王に報告している。
夕食前に国王の居室に有るプライベートな小さな会議室を使用した。
知的な国王で疑問に思った事は必ず質問して確かめる。
目立たない様に発言を控えていたカムであったが、質問に答え説明することが多くなった。
国王の言外の思考や迷いが理解されたので、可能性と生じる選択肢を極力丁重に示すようにした。
他のメンバーへの説明も兼ねて正解が一つでは無い事や愚策が正解の表裏であること、過去の他国での成功例や失敗例、昼の会議で発言された他国の思惑も伝えた。
国王は良く理解し、報告を熱心に聞いていた。
大后への説明はカムに任された。
国王直々の依頼である。
カムは3日間大后の夕食に招かれ、アルス家と食事を共にしていた。
伯爵はカムに説明を聞いた翌日にはホグを起ってメル国へと向かっている。
メル国の軍人が同伴しており身の危険は減っている。
軍人同伴の意味を察して、ハイエナ達が大人しく身を引くこともカムは期待している。
大后がカムを食事に招く大きな理由はアリサとミルサの話相手で、小さな理由は食事後に昼の会議の結果を聞くことであった。
が、直ぐにこの比重が変わる。
大后は最初の説明で会議の内容の重要性に驚き、翌日にも情報処の責任者を呼び付けようと考えたが、質問に答えるカムの説明から、目の前の少年が核心を握る人物と気付く。
大后の質問に対し予想出来ない可能性や選択肢も示し、各国から得た情報やその情報の示す広がりも完璧に解説して見せる。
ひたすら淡々と力むことも感情に流されることなく食事をするような気軽さで解説する。
情報処の責任者やキーロは勿論、宰相や将軍にも無理な芸当である。
三日目の夕食後、カムから報告を聞き、強力な連携の包囲網が構築されたことを知り安堵する。
昨日までの報告で自国が抱えた危機は理解できていた。
「ご苦労様でしたカム。タナス国がこれで救われました。宰相にも各国との連絡手段の構築を命じておきます。ありがとう。ねえ、カム、貴方から見て私の息子はどう思える」
「優秀な国王です。部下の言葉を良く聞き、知らない事を恥ずかしがらない。部下の見ている光景を懸命に一緒に見ようと努める。極めて優秀な王様です」
「ありがとうカム、アルス家と同じ様に息子も助けてあげてね」
カムは気付く。カムは王をタナス国王として意識していたが、思えば王もウルムの末裔である。
王がカムの話を一生懸命に聞く姿はウルムそのものであった。
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