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24 出港の儀式
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港の甘味処、テーブル席が取れたため6人が座っている。
女性3人が砂糖と果実を入れて固めたゼリーに山牛の乳から作ったクリームを乗せて食べている。
浜煮のゼリーと呼ばれ、朝取りの新鮮な海草を煮出して作る。
海草の新鮮さが勝負で港限定の名物。
男性陣の前には何も無い。
お茶も無い。
サラが“男は指でも咥えてろ”と言って食べさせて貰えない。
「サラの最初の歌はどんな意味なの」
カヤがサラに聞く。
「アナ、解るんでしょ」
アナに振る、アナが頷いてカヤの耳に頭を寄せて小声で教える。
「そりゃ良いや」
カヤが大笑いする。
「で、船長の歌は」
「いや!、私説明できない」
恥かしさよりも、もっと真面目な真剣な表情で両手で頬を抑えてアナが答える。
サラがカヤの耳に口を寄せて小声で説明する。
最初笑って聞いていたカヤの顔が真剣になり、男性陣を嫌いな虫を見る様な目付きで睨み始めた。
「カム、どんな台詞だったんだ」
ダルがカムに聞く。カムが小声で説明しようとすると、カルも頭を寄せてきた。
「あのね」
ここで、カムが凍りつく。
ダルもカルも視線を上げて凍りつく。
女性陣が恐ろしい顔で男性陣を睨みつけていた。
「あんた達もあんな事考えてるんでしょ、ケダモノ」
結局、女性陣がゼリーに八つ当たりするのを、男性陣は指を咥えて眺めていた。
女性陣が食べ終わる頃、カムを呼びに港湾処の職員が捜しに来た。
サラに先に帰る様伝えるが、無理矢理付いて来る。
結局6人で港湾事務所に移動する。
呼び出し理由は、忌み払いの儀式の礼と午後から出航する南大陸船に対する儀式のお願い。
船員達の喜び様からサービスとして思い立ったらしい。
午後から、南大陸の港に向かう船が三便出航する。
カムが説明する。
先ほどの儀式は外洋船の儀式であって、内海での習慣では無い事、外海に近い港で行われることがあるが、内海船に対しては船長の度量を試す挑戦の意味合いが強くなることなどを。
会議室のドアが開き、お茶を配りに若い娘が緊張して入って来る。
港湾処事務見習いのマオは緊張していた、15歳の娘である。
女子職員の情報網は正確で早い。
ホグ役場の主、外見が子供に見える職員の噂は聞いている。
僅か二か月で全部処を配下に従えた書物処の化け物。
その化け物が如何いう訳か港町をうろつき、午前中は儀式を執り行っていた。
そして今、会議室に座り処長と会議をしている。
男性職員にお茶出しを頼まれ、同期のハナ、ナオとジャンケンして負ける。
ドアの前に立つ、スカートを確認し、上着も確認する、大丈夫。
笑いながら手を振るハナとナオに見送られ、ドアを叩いて中に入る。
若い職員の間での密かな呼び名は“ホグの女王陛下”
お茶を無事配り終わり、ほっと安堵する。
処長が残念そうな顔をして、男の子の説明を聞いている。
頭を下げ、一礼して退出しようとした瞬間、“女王陛下”に袖を掴まれる。
緊張に固まる、離してくれない。
カムの説明が終わるの待って、サラが話始める。
「処長さん、私は良い考えと思います。潮変わり後の海は不安定ですし、忌み払い自体は祝事ですから、嫌がる船長さんは居らっしゃらないと思います。それに皆さんあんなに喜んでいらっしゃいましたもの。幸い出航まで時間がありますから、教えて差し上げますわ」
子供に見える“女王陛下”が子供らしい無邪気な表情で何か喋っている。
処長が私を見てる。“え、どうしたの、何なの”
ハナとナオも呼び入れられ、南大陸語の歌の練習を強要される。
一刻、みっちりと丁寧に。
三人は、“女王陛下”と呼ばれる理由を、身を以て知ることになる。
カムも急いで楽師とホグナの弾き手の手配をする。
面倒とも思ったが、サラの機嫌が直った様なので協力する。
先ほど、歌を頼んだ負い目がある。
カムが弾き方を伝授する。
突如、港湾事務所、固い役場から陽気な南大陸の音楽と歌が流れ出す。
午後の南大陸行きの第1便、船長の嫌な予感は的中していた。
港湾事務所の脇を通った時に若しやと思ったが、鉦や銅鑼の楽隊と楽隊の前に立つ歌い手を見て覚悟を決めた。
南大陸の港で仕掛けられたことはあるが、北大陸の外れで遭遇するとは思って無かった。
午前の儀式は感心して聞いていたが、今、我が身に降りかかっている。
演奏が始まり、歌が始まる。
歌うは港湾事務所の制服を着たとても若い事務員の女の子。
身を仰け反らしそうな、男性にとって痛そうな、下品で恐ろしい歌が紡がれる。
歌い終わると、陸の他船の船員からは、“ほう”と感心する声、歌い手の後ろにいる午前に歌った子供が拳を振り上げている。
今度は自分の番、午前の外洋船の船長は船乗りの間でも有名人、負けん気が頭をもたげる。
“負けて堪るか”船長の歌が始まる。
午前中の歌に匹敵するようなサラが一歩引きたくなる様内容。
丁寧に、表現力豊かに、情感をたっぷりと。
船長の歌が終わると、甲板の船員が拳を振り上げ踊り出す、“今日の船長は切れが良い”。
陸の船員も大喜びで、サラが悔しそうな顔をしている。
次の便は半刻後、サラが改良バージョンを覚えさせ、リベンジに臨む。
今回は、船長にも事前に心構えをする余裕があり、工夫を加えたマニアックな内容を表現力豊かに歌われ、またしても判定負け。
次の便は半刻後、歌う順番はまたもじゃんけんで負けたマオが最初、次がハナ、最後が要領も良く、ジャンケンにも強いナオ。
そのナオがベソをかいている。
最初から怖かったが、今のサラは目が座っている、とても怖い。
改良バージョンが厳しく指導される姿を見て、ジャンケンが弱くて良かったと思うマオであった。
拳を振り上げて踊る甲板の船員、囃す陸の船員。
最後まで、南大陸の船長は手強かった。
その後南大陸便は一日から二日に一便。
拳を振り上げて喜ぶ船員の姿に対し、サラから送られてくる指示書が厚くなる。
この儀式が船乗りの間で話題になる。
本場では歌い手に酒場の海千山千の女将が呼ばれるが、ホグでは役所の制服を着た若い娘が歌う。
酒場の女将でも仰け反りそうな内容の歌を次々と。
しかも、儀式後の船が記録を更新する速さで南大陸に帰って来る、荒れる潮変り後の海では珍しいトラブルの発生無しで。
返って、儀式無しで出航した中、短航路船で事故が多発する。
本場の港でも、港湾事務所の若い女子職員が儀式に駆り出される様になり、迷惑を被る。
女性3人が砂糖と果実を入れて固めたゼリーに山牛の乳から作ったクリームを乗せて食べている。
浜煮のゼリーと呼ばれ、朝取りの新鮮な海草を煮出して作る。
海草の新鮮さが勝負で港限定の名物。
男性陣の前には何も無い。
お茶も無い。
サラが“男は指でも咥えてろ”と言って食べさせて貰えない。
「サラの最初の歌はどんな意味なの」
カヤがサラに聞く。
「アナ、解るんでしょ」
アナに振る、アナが頷いてカヤの耳に頭を寄せて小声で教える。
「そりゃ良いや」
カヤが大笑いする。
「で、船長の歌は」
「いや!、私説明できない」
恥かしさよりも、もっと真面目な真剣な表情で両手で頬を抑えてアナが答える。
サラがカヤの耳に口を寄せて小声で説明する。
最初笑って聞いていたカヤの顔が真剣になり、男性陣を嫌いな虫を見る様な目付きで睨み始めた。
「カム、どんな台詞だったんだ」
ダルがカムに聞く。カムが小声で説明しようとすると、カルも頭を寄せてきた。
「あのね」
ここで、カムが凍りつく。
ダルもカルも視線を上げて凍りつく。
女性陣が恐ろしい顔で男性陣を睨みつけていた。
「あんた達もあんな事考えてるんでしょ、ケダモノ」
結局、女性陣がゼリーに八つ当たりするのを、男性陣は指を咥えて眺めていた。
女性陣が食べ終わる頃、カムを呼びに港湾処の職員が捜しに来た。
サラに先に帰る様伝えるが、無理矢理付いて来る。
結局6人で港湾事務所に移動する。
呼び出し理由は、忌み払いの儀式の礼と午後から出航する南大陸船に対する儀式のお願い。
船員達の喜び様からサービスとして思い立ったらしい。
午後から、南大陸の港に向かう船が三便出航する。
カムが説明する。
先ほどの儀式は外洋船の儀式であって、内海での習慣では無い事、外海に近い港で行われることがあるが、内海船に対しては船長の度量を試す挑戦の意味合いが強くなることなどを。
会議室のドアが開き、お茶を配りに若い娘が緊張して入って来る。
港湾処事務見習いのマオは緊張していた、15歳の娘である。
女子職員の情報網は正確で早い。
ホグ役場の主、外見が子供に見える職員の噂は聞いている。
僅か二か月で全部処を配下に従えた書物処の化け物。
その化け物が如何いう訳か港町をうろつき、午前中は儀式を執り行っていた。
そして今、会議室に座り処長と会議をしている。
男性職員にお茶出しを頼まれ、同期のハナ、ナオとジャンケンして負ける。
ドアの前に立つ、スカートを確認し、上着も確認する、大丈夫。
笑いながら手を振るハナとナオに見送られ、ドアを叩いて中に入る。
若い職員の間での密かな呼び名は“ホグの女王陛下”
お茶を無事配り終わり、ほっと安堵する。
処長が残念そうな顔をして、男の子の説明を聞いている。
頭を下げ、一礼して退出しようとした瞬間、“女王陛下”に袖を掴まれる。
緊張に固まる、離してくれない。
カムの説明が終わるの待って、サラが話始める。
「処長さん、私は良い考えと思います。潮変わり後の海は不安定ですし、忌み払い自体は祝事ですから、嫌がる船長さんは居らっしゃらないと思います。それに皆さんあんなに喜んでいらっしゃいましたもの。幸い出航まで時間がありますから、教えて差し上げますわ」
子供に見える“女王陛下”が子供らしい無邪気な表情で何か喋っている。
処長が私を見てる。“え、どうしたの、何なの”
ハナとナオも呼び入れられ、南大陸語の歌の練習を強要される。
一刻、みっちりと丁寧に。
三人は、“女王陛下”と呼ばれる理由を、身を以て知ることになる。
カムも急いで楽師とホグナの弾き手の手配をする。
面倒とも思ったが、サラの機嫌が直った様なので協力する。
先ほど、歌を頼んだ負い目がある。
カムが弾き方を伝授する。
突如、港湾事務所、固い役場から陽気な南大陸の音楽と歌が流れ出す。
午後の南大陸行きの第1便、船長の嫌な予感は的中していた。
港湾事務所の脇を通った時に若しやと思ったが、鉦や銅鑼の楽隊と楽隊の前に立つ歌い手を見て覚悟を決めた。
南大陸の港で仕掛けられたことはあるが、北大陸の外れで遭遇するとは思って無かった。
午前の儀式は感心して聞いていたが、今、我が身に降りかかっている。
演奏が始まり、歌が始まる。
歌うは港湾事務所の制服を着たとても若い事務員の女の子。
身を仰け反らしそうな、男性にとって痛そうな、下品で恐ろしい歌が紡がれる。
歌い終わると、陸の他船の船員からは、“ほう”と感心する声、歌い手の後ろにいる午前に歌った子供が拳を振り上げている。
今度は自分の番、午前の外洋船の船長は船乗りの間でも有名人、負けん気が頭をもたげる。
“負けて堪るか”船長の歌が始まる。
午前中の歌に匹敵するようなサラが一歩引きたくなる様内容。
丁寧に、表現力豊かに、情感をたっぷりと。
船長の歌が終わると、甲板の船員が拳を振り上げ踊り出す、“今日の船長は切れが良い”。
陸の船員も大喜びで、サラが悔しそうな顔をしている。
次の便は半刻後、サラが改良バージョンを覚えさせ、リベンジに臨む。
今回は、船長にも事前に心構えをする余裕があり、工夫を加えたマニアックな内容を表現力豊かに歌われ、またしても判定負け。
次の便は半刻後、歌う順番はまたもじゃんけんで負けたマオが最初、次がハナ、最後が要領も良く、ジャンケンにも強いナオ。
そのナオがベソをかいている。
最初から怖かったが、今のサラは目が座っている、とても怖い。
改良バージョンが厳しく指導される姿を見て、ジャンケンが弱くて良かったと思うマオであった。
拳を振り上げて踊る甲板の船員、囃す陸の船員。
最後まで、南大陸の船長は手強かった。
その後南大陸便は一日から二日に一便。
拳を振り上げて喜ぶ船員の姿に対し、サラから送られてくる指示書が厚くなる。
この儀式が船乗りの間で話題になる。
本場では歌い手に酒場の海千山千の女将が呼ばれるが、ホグでは役所の制服を着た若い娘が歌う。
酒場の女将でも仰け反りそうな内容の歌を次々と。
しかも、儀式後の船が記録を更新する速さで南大陸に帰って来る、荒れる潮変り後の海では珍しいトラブルの発生無しで。
返って、儀式無しで出航した中、短航路船で事故が多発する。
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