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8 悪夢草を採りに行ったら

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 先手必勝、森の中にトラップを仕掛け、ゴブリンを向かい討った。
 落とし穴や落下してくる尖った杭でパニックになった所へ、風上から悪夢草を焚いて、幻想が見えるようにした。
 精神力が弱いゴブリンには効果的な手法で、恐慌状態となって、直ぐに同士討ちを始める。

 千のゴブリンが七十を切ったところを見計らって、一斉に襲い掛かる。
 パニック状態で完全に周囲への注意力が途切れており、それぞれが完全に孤立している。
 枝の上から飛び降りて、人形相手に練習しているような感じで、丁寧に喉を掻き切って息の根を止めて行く。
 ゴブリンナイト三匹を含めて、僕は十七匹を仕留めた。

 殺すのは簡単だったのだが、後始末が大変だった。
 屍骸を放置すると疫病の原因や強い魔獣を引き寄せることになるので、屍骸を広い集めて燃やさなければならない。
 それでも、屍骸を全て埋める作業に比べればまだ楽な作業だ。
 用心深かったネノルさんから、屍骸を燃やす許可が出たのだ。
 
 ネノルさんによると、ゴブリンの群は主力を倒されると、個体数が増えるまで巣の守りに徹するらしいのだ。
 こんな状況になったら、こちらの存在を知らせて、相手を威圧しながら群を削った方が、逆襲を喰らう確率が減って安全なのだそうだ。
 前日までは煮炊きの煙にすら細心の注意を払い、調理師の女の人達が文句を言っていたのだが、今日からは遠慮しないで火が使える。
 ポンテさん達が張り切って食事の準備をしているので、楽しみだ。

「ファイ、悪夢草が少ないから採って来るわよ」
「リリナ、悪夢草は危ない草だから俺が採ってくるよ」
「ファイ、私の言う事聞くって約束したよね」
「・・・・・うん」
「だったら、四の五の言わないで私も連れて行く」
「でも危ないよ、リリナ」
「ファイ、私パンツ見られて凄く恥ずかしかったのよ、判ってる」
「・・・うん」
「しかもファイ、あんた私の足触り捲ったのよ、顔押し付けて。酷いと思わない」
「・・・うん、ごめん」
「だったら私も連れて行く」
「・・・・・うん」
「ファイ、あんたのズボン貸してね。またスカート脱がされると困るから」
「・・・うん、良いけど。ウエスト入るの?」
「・・・・・・・・失礼なこと言わないで!」

 夕食前、リリナを背負子に乗せる。

「行って来るね」
「リリナばっかり狡い。ファイ、今度私も連れて行ってね」
「うんキリカ、今度ね。アントさん、夕食前には戻れると思いますが、遅くなっても残しておいて下さい」
「大丈夫よ、パスラに頼んでおくから。気を付けてね。大丈夫と思うけど、フェアリーに化かされないでよ」
「はい、気付けの丸薬は持っていきます」
「避妊薬は持った」
「・・・・・・フローラさん、変なこと言わないで下さい。それじゃ行ってきます」
「襲っちゃっても良いのよ、頑張って」

 寄り道が多すぎて大変だった。
 しかも危ない場所ばかりで、その度に説得が大変だった。
 物凄く怒っていたが、腰縄はしっかりと結んである。

「縛って自由を奪うなんて最低よ、ファイ」
「駄目、絶対に駄目」

 悪夢草の群生地に辿り着いた。
 別名フェアリーの花園と呼ばれており、ピンク色の花が絨毯の様に咲き乱れている。
 でもその花の絨毯の下には、動物の骨が一杯転がっている。

「リリナ息を止めて(「きゃー、綺麗」)、リリナ駄目・・・・」

 リリナが悪夢草の花園に走り寄ってしまった。
 悪夢草の花の香りは、近寄った動物や人に幻想を見せて花園の中へ引き入れる。
 そして毒素を含んだ香りを吸わせて殺し、養分にする恐ろしい植物なのだ。
 幻想の中にしばしばフェアリーが現れ、豪華な食事の幻想へ誘ったり、酒池肉林の世界へと誘ったりするらしい。

「わー、フェアリーが一杯。綺麗だわ」

 リリナの目が虚ろになっている、完全に幻想の世界に引き込まれているらしい。
 こうなると押えようと思っても、物凄い力を発揮して花園へ入って行こうとする。
 事実、僕が腰縄を引こうと思っても、逆に引き攣られてしまう。

「待って、私も行くわ」

 げげ、服を脱ぎ始めてしまった、花園が温泉の様に見えているのだろうか。
 不味い、毒素は皮膚からも吸収される、獲物を効率よく捕えるための幻想なのだろう。
 急いで息を止めてリリナに歩み寄り、物凄い力で抵抗されたが、何とか手足を縛って担ぎ上げる。
 花園から離れた場所に連れて行き、草の上に転がした。
 物凄く嬉しい光景ではあるのだが、物凄く頭が痛い。
 スカートを脱がせただけであれだけ大騒ぎしたのに、今はパンティーも無い一糸纏わぬ真っ裸だ。
 口移しで気付けの丸薬を飲ませれば正気付くのだが、その後が恐ろしくて想像したくない。
 取り敢えず服を拾い集め、悪夢草を採取することにした。

 うー、現実と向き合うのが嫌で、悪夢草を予定量の五倍も採取してしまった。
 それでも現実は何も改善されておらず、真っ裸のリリナが相変わらず横たわっており、花園へ行こうともがいている。
 今更だが、せめて下着を着せてから縛れば良かったと後悔している。
 今縄を解いたら、僕の力じゃ抑えられないだろう。

 どんな言い訳をしようが、リリナから嫌われて変質者として村から追放されるだろう。
 せめてもの思い出と思い、リリナの胸を揉ませて貰い、あそこを少し?触らせてもらった。
 思い残す事は無い、意を決して丸薬を口に含み、口移しでリリナに飲ませた。
 丸薬を吐き出さない様に、口を重ねて抑え続けた。

ーーーーー
リリナ

 大勢のフェアリーの仲間達が楽しそうに花園を飛び回っています。
 私も一緒に仲間と行動しなければならないのに、身体が動きません。
 必死にもがいていたら、口の中へ苦い物を突っ込まれました。
 吐き出そうとしても、誰かが邪魔をしています。
 嫌なのに、苦い物を飲み込んでしまいました。

 深い水の底から浮かび上がる様な感覚がしました。
 気が付くと誰かが私の口を塞いでいました。
 どうやら、激しく長いキスをされている様です。
 急いで跳ね除けようと思いましたが、手と足が自由になりません。
 指で探ってみると、縄で縛られているようです。

 あの厭らしい冒険者達の顔が頭に浮かびました。
 必死に逃れようとしても、吸盤の様に口を離して貰えません。
 諦めて力を抜いたら、急に解放されました。

「リリナ気が付いた」

 目の前にファイの顔がありました。
 安堵感と安心感で、泣き出してしまいました。

「リリナごめん、泣かないでよ。今縄を解くからさ」
「ファイが縛ったの」
「うん、ごめん。花の中に入って行っちゃうからさ」

 必死に直前の出来事を思い出しました。
 綺麗なお花畑があって、そこへ近付いたら仲間のフェアリーが一杯居て・・・・・、えっ。
 私は人間です、幻想の世界で錯乱していた様です。
 幻想の世界から、キスでファイが現実世界に引き戻してくれたのです。

「ファイ、ありがとう」

 縄を解いて貰った後、思わず抱き付いて唇を重ねてしまいました。
 さっきのキスもファイと判っていれば・・・、うん、勿体ないことをしました。

「リリナ、先に服着ようよ」

 えっ、私裸だ。

ーーーーー

 幻想の中で、リリナは自分がフェアリーと思い込んでいたらしい。
 うん、リリナならフェアリー姿が似合いそうだ。
 フェアリー達は皆裸だったので、自分も裸じゃなきゃ駄目と思い込んで服を脱いだそうだ。

「ねえファイ、あそこが少し変な感じなんだけど。したの」

 うっ不味い、少しだけ触った、うーん、少しと言うにはだいぶ長かった気もするし・・・。
 確かに追い詰められていた僕は、しちゃおうかとも少し思ったので、ちょっとおさわりが長くなった気がする。
 結局息子君が立ってくれなかったので諦めたのだが、これは恥ずかしくて言えない。
 でも何か言わないと不味い気がする。

「俺はリリナが大好きだから大切にしたいんだ。正気じゃないリリナにそんなことしないよ」
「私もファイが大好きよ。ありがとう」

 なんとか誤魔化せたらしい、リリナが飛び付いて来て唇を重ねた。

ーーーーー

「気付けの丸薬が一粒減ってるけど誰が使ったんだい。副作用のある薬だから正直に答えてね」
「リリナに使いました、フローラさん」
「ふーん、で、やったのかい」
「何をですか」
「子作りだよ子作り」
「そんな事しません」
「屁たれだねあんた」
「ほっといてください。副作用ってなんですか」
「人の記憶は階層があるんだよ。表面的な記憶と身体で覚えた忘れ難い記憶みたいにさ。裸で唇奪われた記憶が結構深い階層に残るんだよ」
「・・・・新薬ですか」
「ああ、自信作さ」
「なんで裸って判るんですか」
「悪夢草の花って採取が禁じられてるって、知ってるかい」
「えっ」
「十輪花瓶に入れて飾っておけば、女を裸にできるからさ。粉にして使う方法もあるから、闇じゃ結構高値で取引されてるんだよ」
 
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