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1 天職を貰った

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 十三歳の春、僕は村の教会で女神様から天職と特殊技能を授かった。
 天職は盗賊、特殊技能は覗き穴だった。
 僕は勇者になって正義の味方のなりたいと思っていた。
 でも授かった天職は悪役だし、しかも特殊技能はせこい小物が感満載だ。

 これは父ちゃんにも母ちゃんにも言えない。
 反社会的な犯罪者として、村から追い出されてしまう。
 最悪、村の広場の欅に吊るされてしまうかもしれない。
 幸、お告げは僕達の頭の中で聞こえるだけで、僕以外には解らない。
 僕が口を噤んでいれば、人に知られる事も無い。

「ファイ、どうだった」

 礼拝堂の椅子に座って呆けていたら、隣家に住む幼馴染のカミラから尋ねられた。

「狩人だった。特殊技能は弓だったよ」

 僕は嘘吐きとして、盗賊への第一歩を踏み出してしまった。
 狩人は盗賊と属性が一番近い、弓は昔から得意だったので、なんとか誤魔化せるだろう。
 それに、盗賊にも弓の武器適正は有る。

「まあ、勇者じゃなくて残念だったわね」
「あれは、子供の夢みたいなものだから、平気さ」

 正直、今の僕にそれを残念がる様な余裕は無い。

「ふふふふ、私は機織りだったの、特殊技能は糸繰りなんだけど少し良い糸が紡げるのかな。でもファイと一緒に村で暮らせるから良かったわ」

 嘘吐きの僕にとって、カミラの笑い顔は眩しすぎる。

ーーーーー
 夕食の時に、父さんと母さんに嘘の報告をし、僕は自分のベットの上で途方に暮れている。
 もう不安感に押し潰されそうだ。
 夕食の時、味が良く解らなかった。

 妹のミロは、小馬鹿にした様な口調で、

「うん、平凡でお兄ちゃんらしくて良かったじゃない。これでやっと、勇者になるなんて世迷言聞かないで済むわ。狩人なら家の畑仕事も手伝えるから丁度良かったじゃない」

 と、言っていた。
 盗賊は畑仕事が手伝えるのだろうか、不安だ。
 
 隣のミロの部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
 風呂から上がったのだろうか。

 特殊能力を使って、人差し指で壁に穴を開けてみる。
 こちらからは見えるが、向う側からは見えない、特殊な穴らしい。

 穴を覗いてみた、なんとバスタオルを巻いたミロが見えた。
 風呂場の脱衣所で着替えろと、母さんに何時も言われているのに守っていないらしい。
 三年前までは、風呂の後は素っ裸で家の中を走り回っていたが、バスタオルの分だけ成長したのだろうが、その時の癖がまだ抜けていないらしい。
 ミロがパサッとバスタオルを床に落とした。
 カシャ、その瞬間穴が閉じた。
 うわー、なんだこの生殺し状態は。
 時間にして僅か五セア(秒)、一日一回。
 うわー、この壁の向う側を裸のミロが歩き回っているのに、何なんだこれは。
 ふっ、ふっ、ふっ、人生の具体的な目標が初めて出来た気がする。
 盗賊だろうが狩人だろうがそんな物関係無い、僕はレベルアップしてこの能力を向上させる。

ーーーーー
 
 僕は物凄く頑張った、たぶん今までの人生でこんなに頑張ったことはない。
 朝早く森に入り、陽が暮れるまで獲物を狩り続ける。
 毎日タイミングを見計らってミロの部屋へ覗き穴を開けているのだが、悉く空振りが続いている。

「お兄ちゃん、最近私の事変な目付きで見てない」
「狩の所為で目付きが悪くなってるのかな」
「そうだぞ、ミロ、ファイは最近頑張っているって、革加工所で褒めてたぞ」
「そうよ、御肉屋さんのケフェルさんも助かるって言ってたわよ」
「ふーん、何か変な下心でもあるんじゃない」

 我が妹ながら、なかなか鋭い。

「駄目よミロ、そんなこと言っちゃ」
「そうだぞ、ファイは一生懸命狩人として頑張っているんだから」

 努力の甲斐有って、数週間後に僕はレベルアップした。
 穴の持続時間が倍になり、一日の回数も倍になった。
 しかも穴の深さが三十ナイ(センチ)となり、より近くからミロを拝める様になった。

 十セア(秒)でしかもやり直しが一回ある。
 確実にミロの裸が拝める様になった。
 でも十セアは短い、もっと長い時間眺めていたい。
 僕は増々頑張った。

「ファイ、頑張ってるわね。もう普通の大人並みに稼いでるんでしょ」

 プセル蛾の繭を森の中で大量に見付けたので、カミラにあげようと持って来たのだが、台所に招かれてケーキを御馳走になっている。

「カミラの織物も町の商人さんが買い上げてくれるようになったのよ」
「母さん、私の織物なんて、まだまだよ。恥かしいわ」
「そんなことはないわよ。ファイ、この子は良いお嫁さんになるわよ」
「母さんたら、恥ずかしいわ」
「あはははは、俺はまだまだ未熟者ですから」
 
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