1 / 9
1 天職を貰った
しおりを挟む
十三歳の春、僕は村の教会で女神様から天職と特殊技能を授かった。
天職は盗賊、特殊技能は覗き穴だった。
僕は勇者になって正義の味方のなりたいと思っていた。
でも授かった天職は悪役だし、しかも特殊技能はせこい小物が感満載だ。
これは父ちゃんにも母ちゃんにも言えない。
反社会的な犯罪者として、村から追い出されてしまう。
最悪、村の広場の欅に吊るされてしまうかもしれない。
幸、お告げは僕達の頭の中で聞こえるだけで、僕以外には解らない。
僕が口を噤んでいれば、人に知られる事も無い。
「ファイ、どうだった」
礼拝堂の椅子に座って呆けていたら、隣家に住む幼馴染のカミラから尋ねられた。
「狩人だった。特殊技能は弓だったよ」
僕は嘘吐きとして、盗賊への第一歩を踏み出してしまった。
狩人は盗賊と属性が一番近い、弓は昔から得意だったので、なんとか誤魔化せるだろう。
それに、盗賊にも弓の武器適正は有る。
「まあ、勇者じゃなくて残念だったわね」
「あれは、子供の夢みたいなものだから、平気さ」
正直、今の僕にそれを残念がる様な余裕は無い。
「ふふふふ、私は機織りだったの、特殊技能は糸繰りなんだけど少し良い糸が紡げるのかな。でもファイと一緒に村で暮らせるから良かったわ」
嘘吐きの僕にとって、カミラの笑い顔は眩しすぎる。
ーーーーー
夕食の時に、父さんと母さんに嘘の報告をし、僕は自分のベットの上で途方に暮れている。
もう不安感に押し潰されそうだ。
夕食の時、味が良く解らなかった。
妹のミロは、小馬鹿にした様な口調で、
「うん、平凡でお兄ちゃんらしくて良かったじゃない。これでやっと、勇者になるなんて世迷言聞かないで済むわ。狩人なら家の畑仕事も手伝えるから丁度良かったじゃない」
と、言っていた。
盗賊は畑仕事が手伝えるのだろうか、不安だ。
隣のミロの部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
風呂から上がったのだろうか。
特殊能力を使って、人差し指で壁に穴を開けてみる。
こちらからは見えるが、向う側からは見えない、特殊な穴らしい。
穴を覗いてみた、なんとバスタオルを巻いたミロが見えた。
風呂場の脱衣所で着替えろと、母さんに何時も言われているのに守っていないらしい。
三年前までは、風呂の後は素っ裸で家の中を走り回っていたが、バスタオルの分だけ成長したのだろうが、その時の癖がまだ抜けていないらしい。
ミロがパサッとバスタオルを床に落とした。
カシャ、その瞬間穴が閉じた。
うわー、なんだこの生殺し状態は。
時間にして僅か五セア(秒)、一日一回。
うわー、この壁の向う側を裸のミロが歩き回っているのに、何なんだこれは。
ふっ、ふっ、ふっ、人生の具体的な目標が初めて出来た気がする。
盗賊だろうが狩人だろうがそんな物関係無い、僕はレベルアップしてこの能力を向上させる。
ーーーーー
僕は物凄く頑張った、たぶん今までの人生でこんなに頑張ったことはない。
朝早く森に入り、陽が暮れるまで獲物を狩り続ける。
毎日タイミングを見計らってミロの部屋へ覗き穴を開けているのだが、悉く空振りが続いている。
「お兄ちゃん、最近私の事変な目付きで見てない」
「狩の所為で目付きが悪くなってるのかな」
「そうだぞ、ミロ、ファイは最近頑張っているって、革加工所で褒めてたぞ」
「そうよ、御肉屋さんのケフェルさんも助かるって言ってたわよ」
「ふーん、何か変な下心でもあるんじゃない」
我が妹ながら、なかなか鋭い。
「駄目よミロ、そんなこと言っちゃ」
「そうだぞ、ファイは一生懸命狩人として頑張っているんだから」
努力の甲斐有って、数週間後に僕はレベルアップした。
穴の持続時間が倍になり、一日の回数も倍になった。
しかも穴の深さが三十ナイ(センチ)となり、より近くからミロを拝める様になった。
十セア(秒)でしかもやり直しが一回ある。
確実にミロの裸が拝める様になった。
でも十セアは短い、もっと長い時間眺めていたい。
僕は増々頑張った。
「ファイ、頑張ってるわね。もう普通の大人並みに稼いでるんでしょ」
プセル蛾の繭を森の中で大量に見付けたので、カミラにあげようと持って来たのだが、台所に招かれてケーキを御馳走になっている。
「カミラの織物も町の商人さんが買い上げてくれるようになったのよ」
「母さん、私の織物なんて、まだまだよ。恥かしいわ」
「そんなことはないわよ。ファイ、この子は良いお嫁さんになるわよ」
「母さんたら、恥ずかしいわ」
「あはははは、俺はまだまだ未熟者ですから」
天職は盗賊、特殊技能は覗き穴だった。
僕は勇者になって正義の味方のなりたいと思っていた。
でも授かった天職は悪役だし、しかも特殊技能はせこい小物が感満載だ。
これは父ちゃんにも母ちゃんにも言えない。
反社会的な犯罪者として、村から追い出されてしまう。
最悪、村の広場の欅に吊るされてしまうかもしれない。
幸、お告げは僕達の頭の中で聞こえるだけで、僕以外には解らない。
僕が口を噤んでいれば、人に知られる事も無い。
「ファイ、どうだった」
礼拝堂の椅子に座って呆けていたら、隣家に住む幼馴染のカミラから尋ねられた。
「狩人だった。特殊技能は弓だったよ」
僕は嘘吐きとして、盗賊への第一歩を踏み出してしまった。
狩人は盗賊と属性が一番近い、弓は昔から得意だったので、なんとか誤魔化せるだろう。
それに、盗賊にも弓の武器適正は有る。
「まあ、勇者じゃなくて残念だったわね」
「あれは、子供の夢みたいなものだから、平気さ」
正直、今の僕にそれを残念がる様な余裕は無い。
「ふふふふ、私は機織りだったの、特殊技能は糸繰りなんだけど少し良い糸が紡げるのかな。でもファイと一緒に村で暮らせるから良かったわ」
嘘吐きの僕にとって、カミラの笑い顔は眩しすぎる。
ーーーーー
夕食の時に、父さんと母さんに嘘の報告をし、僕は自分のベットの上で途方に暮れている。
もう不安感に押し潰されそうだ。
夕食の時、味が良く解らなかった。
妹のミロは、小馬鹿にした様な口調で、
「うん、平凡でお兄ちゃんらしくて良かったじゃない。これでやっと、勇者になるなんて世迷言聞かないで済むわ。狩人なら家の畑仕事も手伝えるから丁度良かったじゃない」
と、言っていた。
盗賊は畑仕事が手伝えるのだろうか、不安だ。
隣のミロの部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
風呂から上がったのだろうか。
特殊能力を使って、人差し指で壁に穴を開けてみる。
こちらからは見えるが、向う側からは見えない、特殊な穴らしい。
穴を覗いてみた、なんとバスタオルを巻いたミロが見えた。
風呂場の脱衣所で着替えろと、母さんに何時も言われているのに守っていないらしい。
三年前までは、風呂の後は素っ裸で家の中を走り回っていたが、バスタオルの分だけ成長したのだろうが、その時の癖がまだ抜けていないらしい。
ミロがパサッとバスタオルを床に落とした。
カシャ、その瞬間穴が閉じた。
うわー、なんだこの生殺し状態は。
時間にして僅か五セア(秒)、一日一回。
うわー、この壁の向う側を裸のミロが歩き回っているのに、何なんだこれは。
ふっ、ふっ、ふっ、人生の具体的な目標が初めて出来た気がする。
盗賊だろうが狩人だろうがそんな物関係無い、僕はレベルアップしてこの能力を向上させる。
ーーーーー
僕は物凄く頑張った、たぶん今までの人生でこんなに頑張ったことはない。
朝早く森に入り、陽が暮れるまで獲物を狩り続ける。
毎日タイミングを見計らってミロの部屋へ覗き穴を開けているのだが、悉く空振りが続いている。
「お兄ちゃん、最近私の事変な目付きで見てない」
「狩の所為で目付きが悪くなってるのかな」
「そうだぞ、ミロ、ファイは最近頑張っているって、革加工所で褒めてたぞ」
「そうよ、御肉屋さんのケフェルさんも助かるって言ってたわよ」
「ふーん、何か変な下心でもあるんじゃない」
我が妹ながら、なかなか鋭い。
「駄目よミロ、そんなこと言っちゃ」
「そうだぞ、ファイは一生懸命狩人として頑張っているんだから」
努力の甲斐有って、数週間後に僕はレベルアップした。
穴の持続時間が倍になり、一日の回数も倍になった。
しかも穴の深さが三十ナイ(センチ)となり、より近くからミロを拝める様になった。
十セア(秒)でしかもやり直しが一回ある。
確実にミロの裸が拝める様になった。
でも十セアは短い、もっと長い時間眺めていたい。
僕は増々頑張った。
「ファイ、頑張ってるわね。もう普通の大人並みに稼いでるんでしょ」
プセル蛾の繭を森の中で大量に見付けたので、カミラにあげようと持って来たのだが、台所に招かれてケーキを御馳走になっている。
「カミラの織物も町の商人さんが買い上げてくれるようになったのよ」
「母さん、私の織物なんて、まだまだよ。恥かしいわ」
「そんなことはないわよ。ファイ、この子は良いお嫁さんになるわよ」
「母さんたら、恥ずかしいわ」
「あはははは、俺はまだまだ未熟者ですから」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
その悪役令嬢はなぜ死んだのか
キシバマユ
ファンタジー
前世で死を迎えた菊池奈緒は異世界で転生した。
奈緒は満身創痍の体で目覚め、助けてもらった先生の元で治療魔法の見習いとして新たな人生を歩み始める。
しかし、自分が今宿っている体の前の持ち主が「重大な悪事」を繰り返していたらしいことを知り、次第に運命の謎に巻き込まれていく。
奈緒は自身の過去と向き合い今の体の秘密を探る中で、この異世界でどのように生き延びるかを模索していく。
奈緒は「悪役令嬢」としての運命をどう回避するのか__
表紙はillustACのものを使わせていただきました
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
網野ホウ
ファンタジー
異世界で危機に陥ったある国にまつわる物語。
生まれながらにして嫌われ者となったギュールス=ボールド。
魔物の大軍と皇国の戦乱。冒険者となった彼もまた、その戦に駆り出される。
捨て石として扱われ続けるうちに、皇族の一人と戦場で知り合いいいように扱われていくが、戦功も上げ続けていく。
その大戦の行く末に彼に待ち受けたものは……。
どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】
満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
鍵を手に入れる…………それは獲得候補者の使命である。
これは、自身の未来と世界の未来を知り、信じる道を進んでいく男の物語。
そして、これはあらゆる時の中で行われた、付喪人と呼ばれる“付喪神の能力を操り戦う者”達の戦いの記録の1つである……。
★女神によって異世界?へ送られた主人公。
着いた先は異世界要素と現実世界要素の入り交じり、ついでに付喪神もいる世界であった!!
この物語は彼が憑依することになった明山平死郎(あきやまへいしろう)がお贈りする。
個性豊かなバイト仲間や市民と共に送る、異世界?付喪人ライフ。
そして、さらに個性のある魔王軍との闘い。
今、付喪人のシリーズの第1弾が幕を開ける!!!
なろうノベプラ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる