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73 カザノリア4

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 館の隠し通路には、湯の噴出口へ通じる点検路のマンホールがある。
 爺さんが隠し通路として使う為に不可視結界を入り口に施したらしいのだが、元々は温泉のメンテナンススペースだったらしい。
 僕は湯の噴出口を調べてみることにした。

 この館を作ったのは爺さんの前々の領主で、その頃はまだナトチウス国からの侵攻も無く、果樹畑が広がる実りの豊かな領地で、館の直ぐ下には大きな都市が形成されていたそうなのだ。
 人口十万と爺さんは言っていたが、たぶんこれはホラで、精々二万人規模の町だったのだろう。
 館の山側は切り立った崖で、その反対側には大きな森が広がっているのだが、そこに町があったらしいのだ。
 最初に館を作った人は偉い人だったらしく、館の造成に合せて、都市計画を作って町の整備も進めたらしいのだ。
 碁盤の目のように区画を整理し、水道と下水道を敷設して、公衆浴場まで作ってやったらしいのだ。
 さらに主要な道の下に公衆浴場からの排水路を作り、雪深いこの地方の冬の間でも、荷車が走れる環境を整えたそうなのだ。
 街道の復旧をしていた時も所々大きく陥没している箇所があり、不思議に思っていたのだがこれが理由だったらしい。
 
 僕は自分の子供達の為にも、安定した領地経営のための収入源が必要だと色々考えていた。
 そして辿り着いた結論は、突発的な長続きしないアイデアは不要で、地道に領内の環境を整え、多くの人が豊かに暮らせる領地経営を目指すことだった。
 そしてこれはおそらく、爺さんを除く代々の領主達も同様に考えたことだと想い到り、爺さんを除く領主達の意思を引き継ぎながら、領内の復旧から始めてみることにしたのだ。
 そして手初めてとして、冬でも雪の積もらない道路の復旧から始めてみる積もりになったのだ。

 マンホールの中に入ると下に向かって延びている直径五十センチくらいの石の管があり、その周りに螺旋状の階段が設けてあった。
 石の管には所々補修跡があり、染み出ているお湯の暖かさからすると、館の浴場から出ているお湯よりもずいぶん温い感じがした。
 しばらく階段を下りると、急に階段の螺旋が広くなり、直径二メートルくらいのぬるま湯が噴き出ている管が立ち上がっている場所に出た。
 上から伸びて来ているお湯の配管は、その管の中を通って、そのまま更に下まで伸びている。
 噴き出ているお湯は、今はそのまま階段を流下っているが、壁に空いた穴から想像するに、おそらくここから館の城下へお湯を供給する管が分岐していたのだろう。
 壁に穴の奥には昔の管が残っており、直径二メートルの管の中心に一メートルくらいの管を通した二重管構造になっている。
 ぬるま湯が流れ落ちる階段を更に下ると、再び更に階段の螺旋が大きくなり、直径五メートル位の石で囲まれた円形の池から水が湧き出ている部屋に辿り着いた。
 階段は此処で行き止まりとなっており、上から伸びて来ている管は、更に池の中心に潜り込んで下まで伸びている様子だった。
 池から溢れ出た水は部屋の中の水路を通って、壁に開いているアーチ状の開口部から外へ勢い良く流れ落ちていた。
 開口部から外を覗くと、三メートルぐらい下に川が流れており、上を見上げたら、屋敷の裏にある絶壁だった。
 
 僕は湯気が濛々と舞い上がるお湯の噴き出ている噴出口を想像していたのだが、そこには滔々と水が流れ出ている
泉だった。
 僕は何かに化かされた様な気分で部屋へ戻ることにした。
 途中、材質を見ようと下に落ちていた管の破片を調べたら、不思議な手触りだったので部屋に持ち帰った。
 表面が汚れていたので、しばらく水に浸してから洗ってみることにした。

 夕食後、管の破片を浸けてあった木の桶に手を入れたら、水が暖かくなっていた。
 不思議に思い、管の破片の表面を丁寧に洗ってみたら、細かい刻印がびっしりと刻まれていた。

「この刻印は古代文明の遺物だね」
「ええ、妾も宝物庫で同じ刻印を見たことが有りますわ」

 この辺の知識が有りそうなファーレとアメジスタに見てもらった。

「何の道具なんだ」
「冷水を作る道具ですわ。壺の中にこの刻印を刻んだ筒を通し、筒に水を通して熱を吸わせ、壺の中の水を冷やす仕組みでした」
「へー、暑い時には便利そうだね」
「オークさん、これまだ一杯落ちてるの」
「ああ、結構落ちてた」
「これから暑くなるでしょ。部屋を涼しくする道具作れないかしら」
「作れよオーク、生まれて来る子にも必要なんだから」

 呼んだのはファーレとアメジスタなのだが、その他大勢も一緒に付いて来ている。
 銅の細管に冷水を通し、送風機で風を送ってやれば難しいことではない。

「ああ、作ってやるよ」
「わー、流石お師匠様」
「良かったね。これで涼しい夏を過ごせるよ。カシスさん、ミントさん」
「オーク、私達の部屋にも作ってよ」
「一部屋だけな」
「うーん、仕方がないか」
「勿論僕の寝室だぞ」
「ぶー、反対」

「爺さん、何でこんな貴重品がこの館では無造作に使われているんだ」
「本当に貴重品なのかの、工事の手間を考えたら、魔石の湯沸かし器の方が簡単だと思うぞ。井戸を掘ったら大量に出て来たそうじゃ」
「館の下に古代遺跡が眠ってるのか」
「ここの地下水位は高い。だから水没じゃなくて湯没しておるから遺跡が有ったとしても入れんぞ。それにスケルトンが跋扈しておる。儂なら大丈夫じゃがのう、かっかっかっ。若い女子の胸を触らせてくれたら手伝ってやらんこともないぞ」

 翌朝、テオ、ミューア、ファーレ、ピー、ミューの五人と一緒に地下の泉を潜って見る事にした。
 勿論、爺さんの隠し通路もばれたので、覗き穴を全て潰された。

「貴様ら、年寄の唯一の楽しみを」
「馬糞に一月埋もれてみる」
「ごめんなさい、もうしません」

 古代遺跡の刻印は要するに熱交換器、原理は解らないが、管の外側の刻印が熱を吸収し、管の内側の刻印がその熱を放出する仕組みらしい。
 内管と外管の有る管を予め作っておけば、温水と冷水の配管工事が一回で済む。
 必要とする水温は、管の長さで自在に調整可能である、案外便利かもしれない。

 なので地下の泉は、潜るに連れて暖かくなってきた。

「オーク、儂はミューちゃんに抱っこして欲しい」
「師匠、そのガラクタその辺に埋めましょうか」

 急に広い洞窟へと出た。
 手に持った光石の灯りが壁に届かない程広い。
 泉の掘削穴は、天井に取り付けられた何かの配管がびっしりと並んだ場所を打ち抜く様に掘られており、それでたぶん様々な配管が工事の時に吸い上げられたのだろう。
 そこは大きな洞窟の中に作られた、コンビナートの様な施設なのだろう。
 壁にも、天井にも、床にも、灯りが届く範囲内は、複雑に入り組んだ配管がびっしりと並んでいる。
 魚の群が泳ぎ回っており、灯りに照らされて、配管の間にスケルトンがこそこそと隠れ込むのが見える。

「オーク、この字は複雑な構成がまだ残っているから、相当古いわよ」
「かなり高度な文明だなこれは」
「へー、オーク解るの」
「ああ、このレールの上をな、あそこに落ちている箱が走ってたんだぞ。ここは何かを作っていた工場だ」
「工場?」
「ああ、魔道具の力を応用して、物を大量に作っていた場所だ」
「ふーん」

 洞窟の中をお湯が結構速く流れており、下流に向かって泳いでみることにした。
 理由は周囲を泳ぎ回っている魚に目が有ったので、どこかへ通じていると思ったのだ。
 案の定、周囲のお湯に塩が混じり始め、前方に光が見え始めた。

 抜けた先は絶壁に囲まれた入り江だった。
 流れの影響なのだろうか、崖は海面から下が抉れる様に削られており、海上からは洞窟の入り口が見えない。
 流れ出ているお湯の所為なのだろう、洞窟の周辺には海草が生い茂り、牡蠣のような貝がびっしりとくっ付いている。
 館からおおよそ三時間、僕の領の南端は海に面しているので、おそらくここは僕の領内だろう。
 伊勢海老の様な海老と、牡蠣の様な貝を一杯採ってから、館に戻ることにした。
 洞窟の中には魚が一杯泳いでいるので、魚料理も気軽に食べられそうだ。

 帰りは、逆流になるので、テオ、ミューア、ファーレ、ピーの四人は僕が抱えて泳いだ。
 ミューはもちろん修行の為に一人で泳がせた。
 体表の魔力を効率良く推進力に替えるコツを直ぐに覚え、僕に遅れることもなく無事に後を追って来た。
 持ち帰った食材に、コック長が目を丸くして喜んでくれた。

 まだ地下の遺跡の事は秘密にして置きたかったので、探索隊用に奴隷を買い求めることにした。
 水に潜る才能は女性の方が優れているので、女性の兵士二十人を奴隷商人に発注した。

「旦那、打って付け人材がおりますぜ。しかも一人金貨一枚」
「相場の十分の一って随分安いな。何か訳ありか」
「へへへ、旦那、アマゾフって国はご存知ですか」
「ああ、女性だけの国家だろ。男の子が生まれたら奴隷商に売っちゃう」
「へへ、良くご存知で。そのアマゾフって国とナトチウスとの戦争が先月ございまして、アマゾフの兵士が結構捕虜になったんでさ」
「ふーん、ヒキガエルみたいな連中なんで十分の一なのか」
「いいえ、いいえ。ヒキガエルだろうがアマガエルだろうが優れた兵士なら普通に売れまさ」
「じゃっ、なんで十分の一なんだよ」
「言う事聞かないんでさ」
「えっ」
「美人揃いでしかも優れた戦士なんですぜ。普通だったら通常価格の五倍六倍の値が付いても不思議じゃないんですが、自分より弱い男の言う事なんか死んでも聞かないって言って、首輪で脅かしても駄目なんでさ。すでに買った奴が三人程切り殺されてるんでこのお値段なんでさ。もし大丈夫な様でしたら、あと百八十人ほど居りますんで勉強しますぜ」
「うーん、取敢えず二十人でいいよ」

 奴隷商のテントで契約を済ませ、拘束の首輪を付けてから手枷足枷を外し、一緒にテントから出ようとしたら、後ろから呼び止められた。

「待ちな、私らの主人を名乗るんなら、実力を試させて貰うよ」

 何時の間にやら、手に剣と盾を持っている。
 奴隷商の護衛が脇に転がっているので、あっと言う間に奪い取ったらしい。
 うん、金髪碧眼の外人系のグラマーな物凄い美人さんだ。
 細い胸帯と褌姿が、腹筋の浮いた引き締まった肢体に、これまた良くマッチしている。

「得物は何が良い。剣か槍か、私はなんでも良いぞ」

 奴隷商の倉庫から勝手に武器を持ち出している。
 倉庫の前の護衛も、地面に転がっている。

「素手でいい」
「はっ、はっ、はっ。良い度胸だ。嘗めるなよ、ちんこ切り落として犬に食わせてやる。それっ」

 美人さんが切り掛かって来た。
 残りの十九人は周りを取り囲んで僕を逃がさないようにしているらしい。
 僕としては、全員一緒でも構わなかったのだが。

 怪我をさせるといけないので、剣は奪いとっておく。
 抱き寄せて、胸帯と褌を外し、地面に押し倒す。
 このところ、夜の相手が五人しかいなかったので、遠慮してたから少し溜まってたんだよねー。

「きゃー、貴様何をする。あっ、こらやめろ。助けてー」
「この野郎、隊長を放せ」

 周囲の十九人が一斉に襲い掛かって来た。

”チチチチチ”

 テントの外で小鳥が鳴いている。
 少し明るくなったから、夜が明けたのだろう。
 あー、すっきりした。

「旦那、終わりやしたか」
「ああ、一人三十回づつくらい、言う事聞くって約束させたからもう大丈夫だと思うよ」
「・・・・・・。旦那、残りの百八十人も引き取って頂けませんか」
「うーん、一度に百八十人は少し大変だから、六回に分けて貰えないかな」
「・・・・・へい、まいど」
「それじゃこの人達そっちのテントで寝かせようか。運ぶの手伝ってくれる。運び終わったら、次の三十人を連れて来てね。護衛の人が殴られるといけないから、最初から武器渡しておいてね」
「・・・・へい」

「我々の主人を名乗るのなら、相応の実力があるか試させて貰う」

 うん、今度は紫の髪に緑色の目の冷たい感じの美人さんだ。
 胸は小さ目のスレンダーさんだが、感度は良さそうだ、うん楽しみ楽しみ。

「こら、聞いてるのか貴様」
「うん聞いてるよ。優しくするから大丈夫だよ」
「うっ・・・・・。全員で切り刻め」
「おー」

「旦那、終わりやしたか」
「ちょっと待ってて、隊長さんと後三回くらいやりたいから」
「ひっ、あっ、もう勘弁、うっ、して下さい。あっ、もう、ひっ、何でも、いっ、いっ、いっ、言う事、あー、くー」
「旦那、終わったら呼んで下さいね」
 
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