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65 助っ人5

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 地上への出口近辺にいた魚は、地下実験場で遭遇した魚のレベルで言えば、後半に出て来た大物クラスなので確かに手強い相手なのだが、それでも、この国を代表する隊長クラスの戦闘能力としては物足りなかった。
 ただ、魔法の結界能力は予想以上に強力だったので、戦力としては予想よりプラスとして評価している。
 結界技術は日々洞窟の外の霊や魚と常に真剣勝負で対峙しているのに比べ、戦闘技術は洞窟の外へ出る事を諦めた時点で、人同士の優劣を比べる手段として頭打ちになってしまったのだろう。
 副長は更に実力が劣る、拠点作りの先発隊を任せるには、隊長も含めて半年以上の稽古が必要なレベルなので少々頭が痛い。

 洞窟の谷に面した結界も見せて貰った。
 この洞窟は、直径がおおよそ三百メートル、奥行きが十キロメートル程あり、大地溝と呼ばれる巨大な谷の中腹に作られている。
 霊と魚から逃げ惑っていた人々が偶然谷中で見付けた地竜の巣穴で、周辺の地層に含まれる聖白石が霊を阻み、また全然歯が立たない超大型の魚は谷に入り込んで来ない習性があったので、国として生き残った人々をこの谷へ集めたらしい。
 同様な洞窟は対岸も含めて何十ヶ所もあり、この星の生き残った人類は全てこの谷に集まっているとの事だった。

 直径三百メートにも及ぶ巨大な開口部に千を超す魔道具を一メートル間隔で並べて結界を張り、外を泳ぎ回っている、無数の電信柱程のウツボの様な魚の侵入を防いでいた。
 当初は一万を超す魔法師が人力で結界を張っていたそうなのだが、魔道具の技術が爆発的に進歩し、魔法師達を過酷な労働から解放したらしい。
 特に天井部分を担当した魔法師の労働は苛烈で、年間数百人が落下して死亡する状態だったと、結界を管理する事務所の年寄りが説明してくれた。
 今も、定期的なメンテナンス時には人力で結界を張るらしく、これが魔法師達の高い結界の能力を維持できている理由のようだった。

 結界の縁には野菜畑が広がっていた、一日に数時間太陽の光が洞窟に届く時間帯があり、その光を利用して野菜を育てているようだった。
 勿論洞窟の縁に作られている畑程度では数千万人の人々の胃袋は支えられないので、光石で栽培する野菜が主力なのだが、太陽の光で育てた野菜を混ぜないと体力が衰えてしまうらしい。
 
 また、縁沿いには魚の加工場が作られているのだが、ここで思わぬ発見があった。
 魚の加工場と言っても魚を何処からか運んで来る訳ではない。
 谷に面した壁に電信柱の太さ程の穴が開けてあり、そこから外を泳ぎ回っている魚が入って来るのだ。
 穴の前にエプロンを着たおばちゃんが大きな鉈を持って立っている。
 魚が穴から首を出したら、左手で魚の頭を押さえて右手の鉈を振り下ろす。
 頭がスパンと落ちて、胴体と一緒に脇の滑り台の上を滑り落ち、下に設けられている長くて大きいテーブルの上へと流れて行く。
 今度はそこで待構えていたおばちゃん達が、頭から魔石を取出し、胴体は刀の様な包丁で三枚に下して捌いて行く。
 穴は三メートル間隔で百個程空いており、おばちゃん達は、雑談しなが手馴れた様子で次々に魚を捌いていた。
 鉈を振り下ろす速さ、包丁を捌く速さ、たぶん隊長連中よりもこのおばちゃん達の方が強い。

「えー!兵隊さんにこの作業をやらせるんですか」
「ええ、頭を切り落とす作業だけでも良いんです。皆さんどれくらいで出来る様になるんですか」
「だいたい、頭の中でファンファーレが二十回位鳴れば一人前と言われています。早い人で半年くらいですかね」
「今この作業が出来る方は、何名くらいいらっしゃるんですか」
「ローテーションでやって貰っていますから、ほとんどの者が出来ますよ。ですから六百二十人位でしょうか」
「それと確認したことがあるので、十人程ベテランの方をお借りしたいのですが。勿論王室に手間賃は出させます」
「構いませんよ、それと兵隊さんの受け入れなんですが、ラインに支障が出ない様に、最初は補助でも宜しいでしょうか」
「ええ勿論です。御無理を言って申し訳ありません」

 思わぬところに思わぬ戦力がいた。

ーーーーー
チュルセンティア王国 赤獅子隊長 グレース

 品性が下劣で不細工な男がまた屈辱的なことを言い始めました。
 練武場での稽古を止めて、魚の加工場へ行けと言い出したのです。
 勿論全員が激怒し、猛烈な抗議を行いました。
 すると説明では無く、理由を見せると宣言したのです。

 向かった場所は地上への出口。
 何を始めるのか太い筒と巨大な滑り台と長いテーブルを兵士達に担がせています。
 それと、この危険な場所に相応しくない、恰幅の良い普通の中年女性を十人程、オークが引き連れているのです。

 女性達に結界の外を見せています。

「どうでしょうか」
「大丈夫だと思うよ」

 何が大丈夫なのか良く判りません。

 テーブルが設置され、滑り台が設置され、結界の前に筒が設置されました。
 女性達がエプロンを纏い、得物を持って配置に着きました。
 巨大な鉈や包丁を軽々と片手で扱っています。

 筒の前に立った女性が片手を上げると、筒が結界に突き入れられました。
 外を泳いでいた魚が筒に飛び込んで来ました。
 剣を抜いて思わず身構えましたが、その必要は有りませんでした。
 筒の脇に立った女性が魚の頭を押さえて、鉈でスパンと切り落としたのです。
 我々は何度も固い鱗に剣が弾き返され苦労したのに、柔らかい物でも切るように、その女性は一瞬でスパンと頭を切り落としたのです。
 さらに驚いた事に、流れ落ちて来た魚の胴体を、待ち構えていた女性達が一瞬で三枚に下してしまったのです。
 
 四匹程で次の女性に交代、全員が交代し終わると、筒が退かれて作業が終了しました。
 絶句です、あんなに倒すのが難しかった魚がこの短い時間で四十匹以上倒されたのです。

「どうでした」
「うーん、少し慣れが必要かね」
「そうよね、タイミングがワンテンポ外れるわよね」
「大きい分ちょっと暴れるしね」

 この女性達はあれでも不満なようです、私には全然判りませんでした。
 これはもう、恥ずかしくて何も言えません。

ーーーーー

 隊長連中は大人しく魚の加工場へ向かった。
 僕の前線基地作りのイメージも固まって来た。
 イメージは六方向に筒を伸ばした戦車、動く魚の加工場だ。
 人力で押すことになるが、結界の魔道具を人力で補えば、魔法師達の負担も減らせる。
 
 使い終わった魔石から生じるガラス状の粉が集められ、銅と聖白石とに混ぜ合わせて軽い合金作りが急ピッチに進められる。
 地上の出口前に結界を張り、その中で戦車の組み立てを進めた。
 三ヶ月後、隊長連中も一発で魚の頭が落せる様になり、六角形の戦車も完成した。

 そして一辺が三十メートルもある、百人乗りの巨大な六角形の戦車が、異世界の穴に向かって動き始めた。
  
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