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39 土人形
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「ひっく、おじちゃんだーれ、お姉ちゃんとお母さんは何処」
五歳位の小さな女の子だった。
これじゃ殴って成仏させることも、ちんちん突っ込んで成仏させることも出来ない。
「おじちゃんじゃなくて、お兄さんだよ。オークお兄さんだよ。お嬢ちゃんは何でここに居るのかな」
「お姉ちゃんと隠れんぼしてたの。そしたらドーンって音がして、ここから出られなくなっちゃったの。なのにお姉ちゃんもお母さんも来てくれないの」
自分が死んでいるという自覚が無いらしい。
ギャアギャアと泣き出される事を覚悟していたのだが、何故か僕をじっと見ている。
「おじちゃん、何でお日様みたいにピカピカ光ってるの。触って良い」
珍しく小さな子供に泣き出されなかった。
刻印札の炎がこの子には明るく見えるらしく、好奇心に目を輝かせている。
「オークお兄ちゃんだよ。触っても良いよ」
幼女の霊はおずおずと僕の足に手を伸ばして来て、嬉しそうにぺたぺたと足を触っている。
「おじちゃん、触れるよ」
「オークお兄ちゃんだよ。良かったね」
不思議な色をしている。
オレンジ色の魔霊を想像していたのだが、この子は緑色に輝いている。
多くの霊を見てきたが、この色は初めてだ。
「抱っこしてあげようか」
「うん」
抱き上げてやったら、キャッキャッと大喜びしている。
そのまま馬車の外に出ようとしたが、空間の境目でつかえて、馬車の外には連れ出せなかった。
仕方が無いので、境界から頭だけを外に出す。
「テオ、聞こえるか」
「何んだよ、今みんなでプルの実の砂糖漬け食べてるんだから後にしてよ」
「すまん、ファーレに車鍛冶まで来て欲しいんだ」
「何なの、オーク」
テオがファーレの声を送ってくれた。
「新しい馬車を買った?いや貰ったんだが宿まで運んで欲しいんだ」
「あんたが自分でやりなさいよ」
「すまん、今手が離せないんだ」
「仕方が無いわね、今から行くわ。後でプルの実とクスの実のクリーム和えを奢ってよ」
「了解だ。ケムケムのジュースも付けてやるよ」
「神官の気が狂ったぞ、何か叫んでるぞ。おい、誰か治療師呼んで来い」
うっ、しまった、馬車から顔を出して、相手もいないのに急に大声で喋り始めれば変に思うのも当然だ。
「あっ、大丈夫です、撲正気ですから。遠くの仲間に連絡しただけですから。すいませんが、グルジュをこの馬車に付け替えて貰えます。今ちょっと手が離せないもんで」
「・・・・・・・・・本当ですかい。・・・・それなら構わないけどよ」
ーーーーー
「えっ、何なのこの馬車」
ファーレが馬車の中を見て驚いている。
「魔法で空間が広げてあるんだそうだ」
「ふーん、私への断わりも無しにこんな高級品買うなんて、良い度胸してるわねオーク」
「買って無いよ、処分を頼まれたんだよ。ほらこの子がここに住み付いていたから」
ファーレに経緯を説明した。
前の馬車を金貨百枚で引き取って貰い、この馬車と交換したあたりの話を聞いた時には、満面の笑みを浮かべていた。
取り敢えず、馬車を宿の車庫に運び入れ、霊の相手をファーレ達四人に頼んで、ミントとカシスと相談することにした。
「緑色の霊体ですか・・・・、除霊方法として異空間に悪霊を封じる方法があると習った事があります。その際、閉じ込めた空間によって霊の色が変わることがあると聞いたことがあります」
「その子自分が死んでる意識が無いのよね。そんな状態だと生前の魔法能力を失わないで持っていて、魔法の色が魂の色に残るって聞いた事があるわ。不用意に死んでる事を悟らせると、パニックになって保持していた意識が崩壊して、強力で危険な魔怨霊に変わるから注意が必用らしいわ」
「それじゃ、あのままの状態だと爆弾抱えてるのと一緒か」
「ええ、誰かの無意識な発言でバランスを崩す恐れが高いわね」
「異空間に封じる方法ってどうやるの」
「ゲート作る方法も有りますがリスクが大き過ぎますので、あの拡張空間みたいに出入り可能な隣接空間へ実体を持たせて放り込むのが一般的です。放り込んだ後実体を奪うと霊はその空間から出られなくなります」
「昔は奴隷に霊を憑依させて、奴隷を別空間で焼き殺してらしいけど、残酷だって禁止になってるわ。だから今は土人形が主流ってことになってるわ」
「ええ、土人形の場合、生前の姿を正確に再現しないと霊は憑依しないそうなんです。なので表向きは土人形を使ったと称して、密かに罪人を使っている神殿も多いと聞いています」
土人形の造り方は、魔粘土と呼ばれる特殊な粘土を使う。
魔力を込めると固まる粘土で、固まった後も弾力性がある。
神殿の飾り付けなどに使われる材料で比較的簡単に手に入る、二人に買いに行って貰った。
「それじゃ、レムちゃん裸になって」
女の子の霊は生前レムと呼ばれていた。
これはファーレ達が遊びながら聞き出してくれた。
「あー、おじさん、お姉ちゃん達が言ってたとおりエッチな人だ」
「オークおにいちゃんだよ。違うよ、レムちゃん、外に出るためにはこの粘土を身体に塗る必要があるんだ」
「本当に?お姉ちゃん達が、おじさん子供の身体を触ったり嘗めたりするのが好きな人って言ってたよ」
うー、あいつら何をこの子に吹き込んだんだ。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんはレムちゃんくらいの子には変な事しないから」
「ちんちん突っ込まない?」
・・・・・あいつら~~。
「突っ込まない、突っ込まない。神様に誓って」
「うん、解った」
脱ぐと言っても、この子の持ってるイメージにしか過ぎないのだが、それでも薄ら見える霊体が服を脱いでゆき裸になった。
「それじゃ手を出して」
「うん」
レムちゃんに手で魔粘土を塗って行く、僕の手はレムちゃんの手の表面を感じているのだが、粘土はそのまま表面を通り抜けて行く。
裏に添えた手で粘土を受け止め、ゆっくりと魔力を注いで行くと、粘土もゆっくりと固まって行き、空中に小さな女の子の手が現れる。
丁寧に手に感じるレムちゃんの手の表面を擦って行けば、完璧なレムちゃんの手の形が再現される。
腕、足、身体、頭。
髪も丁寧に一本一本を梳いて行けば、流れる様な髪まで再現された、完璧なレムちゃんの土人形が出来上がった。
「おじちゃん、エッチなところもゴシゴシしてる。エッチなことするの?」
「しない、しない」
「レムちゃん動けるかい」
「ごわごわしてるけど、大丈夫」
「それじゃ、お洋服着たら、外に出ようか」
「うん」
ーーーーー
聖神殿主任神官 ミント
オークさんが髪の毛一本一本までも正確に作られた土人形を抱えて馬車から降りて来ました。
凄いです、単なる憑代では無くて、服を着た土人形が動いて喋っています。
「レムちゃん、お姉さんにレムちゃんのフルネームを教えて貰えるかな」
「レムノリア・リ・テノンだよ。おばちゃん」
「おばちゃんじゃなくて、ミントお姉さんだよ」
驚きました、この子はテノン伯爵家の子、私の遠い親戚です。
幼い頃、祖母の本家で亡くなった女の子の話を聞いた記憶があります。
五歳位の小さな女の子だった。
これじゃ殴って成仏させることも、ちんちん突っ込んで成仏させることも出来ない。
「おじちゃんじゃなくて、お兄さんだよ。オークお兄さんだよ。お嬢ちゃんは何でここに居るのかな」
「お姉ちゃんと隠れんぼしてたの。そしたらドーンって音がして、ここから出られなくなっちゃったの。なのにお姉ちゃんもお母さんも来てくれないの」
自分が死んでいるという自覚が無いらしい。
ギャアギャアと泣き出される事を覚悟していたのだが、何故か僕をじっと見ている。
「おじちゃん、何でお日様みたいにピカピカ光ってるの。触って良い」
珍しく小さな子供に泣き出されなかった。
刻印札の炎がこの子には明るく見えるらしく、好奇心に目を輝かせている。
「オークお兄ちゃんだよ。触っても良いよ」
幼女の霊はおずおずと僕の足に手を伸ばして来て、嬉しそうにぺたぺたと足を触っている。
「おじちゃん、触れるよ」
「オークお兄ちゃんだよ。良かったね」
不思議な色をしている。
オレンジ色の魔霊を想像していたのだが、この子は緑色に輝いている。
多くの霊を見てきたが、この色は初めてだ。
「抱っこしてあげようか」
「うん」
抱き上げてやったら、キャッキャッと大喜びしている。
そのまま馬車の外に出ようとしたが、空間の境目でつかえて、馬車の外には連れ出せなかった。
仕方が無いので、境界から頭だけを外に出す。
「テオ、聞こえるか」
「何んだよ、今みんなでプルの実の砂糖漬け食べてるんだから後にしてよ」
「すまん、ファーレに車鍛冶まで来て欲しいんだ」
「何なの、オーク」
テオがファーレの声を送ってくれた。
「新しい馬車を買った?いや貰ったんだが宿まで運んで欲しいんだ」
「あんたが自分でやりなさいよ」
「すまん、今手が離せないんだ」
「仕方が無いわね、今から行くわ。後でプルの実とクスの実のクリーム和えを奢ってよ」
「了解だ。ケムケムのジュースも付けてやるよ」
「神官の気が狂ったぞ、何か叫んでるぞ。おい、誰か治療師呼んで来い」
うっ、しまった、馬車から顔を出して、相手もいないのに急に大声で喋り始めれば変に思うのも当然だ。
「あっ、大丈夫です、撲正気ですから。遠くの仲間に連絡しただけですから。すいませんが、グルジュをこの馬車に付け替えて貰えます。今ちょっと手が離せないもんで」
「・・・・・・・・・本当ですかい。・・・・それなら構わないけどよ」
ーーーーー
「えっ、何なのこの馬車」
ファーレが馬車の中を見て驚いている。
「魔法で空間が広げてあるんだそうだ」
「ふーん、私への断わりも無しにこんな高級品買うなんて、良い度胸してるわねオーク」
「買って無いよ、処分を頼まれたんだよ。ほらこの子がここに住み付いていたから」
ファーレに経緯を説明した。
前の馬車を金貨百枚で引き取って貰い、この馬車と交換したあたりの話を聞いた時には、満面の笑みを浮かべていた。
取り敢えず、馬車を宿の車庫に運び入れ、霊の相手をファーレ達四人に頼んで、ミントとカシスと相談することにした。
「緑色の霊体ですか・・・・、除霊方法として異空間に悪霊を封じる方法があると習った事があります。その際、閉じ込めた空間によって霊の色が変わることがあると聞いたことがあります」
「その子自分が死んでる意識が無いのよね。そんな状態だと生前の魔法能力を失わないで持っていて、魔法の色が魂の色に残るって聞いた事があるわ。不用意に死んでる事を悟らせると、パニックになって保持していた意識が崩壊して、強力で危険な魔怨霊に変わるから注意が必用らしいわ」
「それじゃ、あのままの状態だと爆弾抱えてるのと一緒か」
「ええ、誰かの無意識な発言でバランスを崩す恐れが高いわね」
「異空間に封じる方法ってどうやるの」
「ゲート作る方法も有りますがリスクが大き過ぎますので、あの拡張空間みたいに出入り可能な隣接空間へ実体を持たせて放り込むのが一般的です。放り込んだ後実体を奪うと霊はその空間から出られなくなります」
「昔は奴隷に霊を憑依させて、奴隷を別空間で焼き殺してらしいけど、残酷だって禁止になってるわ。だから今は土人形が主流ってことになってるわ」
「ええ、土人形の場合、生前の姿を正確に再現しないと霊は憑依しないそうなんです。なので表向きは土人形を使ったと称して、密かに罪人を使っている神殿も多いと聞いています」
土人形の造り方は、魔粘土と呼ばれる特殊な粘土を使う。
魔力を込めると固まる粘土で、固まった後も弾力性がある。
神殿の飾り付けなどに使われる材料で比較的簡単に手に入る、二人に買いに行って貰った。
「それじゃ、レムちゃん裸になって」
女の子の霊は生前レムと呼ばれていた。
これはファーレ達が遊びながら聞き出してくれた。
「あー、おじさん、お姉ちゃん達が言ってたとおりエッチな人だ」
「オークおにいちゃんだよ。違うよ、レムちゃん、外に出るためにはこの粘土を身体に塗る必要があるんだ」
「本当に?お姉ちゃん達が、おじさん子供の身体を触ったり嘗めたりするのが好きな人って言ってたよ」
うー、あいつら何をこの子に吹き込んだんだ。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんはレムちゃんくらいの子には変な事しないから」
「ちんちん突っ込まない?」
・・・・・あいつら~~。
「突っ込まない、突っ込まない。神様に誓って」
「うん、解った」
脱ぐと言っても、この子の持ってるイメージにしか過ぎないのだが、それでも薄ら見える霊体が服を脱いでゆき裸になった。
「それじゃ手を出して」
「うん」
レムちゃんに手で魔粘土を塗って行く、僕の手はレムちゃんの手の表面を感じているのだが、粘土はそのまま表面を通り抜けて行く。
裏に添えた手で粘土を受け止め、ゆっくりと魔力を注いで行くと、粘土もゆっくりと固まって行き、空中に小さな女の子の手が現れる。
丁寧に手に感じるレムちゃんの手の表面を擦って行けば、完璧なレムちゃんの手の形が再現される。
腕、足、身体、頭。
髪も丁寧に一本一本を梳いて行けば、流れる様な髪まで再現された、完璧なレムちゃんの土人形が出来上がった。
「おじちゃん、エッチなところもゴシゴシしてる。エッチなことするの?」
「しない、しない」
「レムちゃん動けるかい」
「ごわごわしてるけど、大丈夫」
「それじゃ、お洋服着たら、外に出ようか」
「うん」
ーーーーー
聖神殿主任神官 ミント
オークさんが髪の毛一本一本までも正確に作られた土人形を抱えて馬車から降りて来ました。
凄いです、単なる憑代では無くて、服を着た土人形が動いて喋っています。
「レムちゃん、お姉さんにレムちゃんのフルネームを教えて貰えるかな」
「レムノリア・リ・テノンだよ。おばちゃん」
「おばちゃんじゃなくて、ミントお姉さんだよ」
驚きました、この子はテノン伯爵家の子、私の遠い親戚です。
幼い頃、祖母の本家で亡くなった女の子の話を聞いた記憶があります。
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