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70 潜伏

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 クリスタルの山で囲まれた盆地にある聖都へは、四方の山腹に掘られたトンネルを通り抜けなければ、入ることができない。
 クリスタルの山を登ってみたのだが、険しく切り立っている上に、蔓を使っても、水晶がぽろぽろと抜け落ちて来て手掛かりが無い。

 聖都に到るトンネルは全て、重装備した兵士達で検問が張られ、一人一人認識票を魔道具でチェックされていた。
 理由は判らないのだが、僕達は指名手配されている。
 酒場や宿、町の広場には、凶悪な顔をした僕達の似顔絵が一杯張り付けてある。
 罪状の欄には、人の魂を喰らう悪魔と書かれており、既に人間を卒業している。
 何故か僕の似顔絵の注意欄には、”この悪魔、特に幼女を好んで襲い、犯して弄んだ後、魂を喰らうもの也”なんて、とんでもないことが書いてある。
 小さな女の子を持つ母親達が、似顔絵の注意欄を読んで震え上がっている。

「アキを相手にしている時点で、そうじゃないかと思ってたのよね。ロリコン」
「それは誤解だぞ」
「そうだよ、僕だってそれなりに有るよ、ほら」
「へー、何処、何処にあるの。そこって背中なの」
「むむむむ」
「父ちゃん、あたいとしたい」
「ツル、良い子はそんな事言っちゃ駄目だぞ」
「あーい」

 ここは聖都へのトンネルに一番近い町クリスタ、水晶細工で有名な町だ。
 僕達はこの町を拠点にして、聖都へ向かうトンネルの様子を窺っている。
 光魔法で擬装しているので、町の中を出歩くのは何の支障も無い。
 だが、何故こんな事態になっているのか、何故指名手配されているのかが判らないので困っている。
 強行突破しても良いのだが、場合によっては、北大陸相手に戦争を仕掛けることになる。
 話し合いが成立するならば、なるべく穏便に済ませたいと思っている。
 でも、町の駐屯所に蔓を伸ばして貰って盗み聞きしても、この町の責任者はあまり詳しい話を知らないようなのだ。

ーーーーー
聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊大隊長 キャリア

 五千人体制で竜殺を追っているのに、未だ足取りが掴めません。
 特にトナントスの町で逃がしたのが、物凄く大きかったのです。
 こちらが追っていることを知られてしまったうえに、良い様に捕縛隊が竜殺に振り回らされて逃してしまいました。
 二重の失態です、竜殺は悪知恵が働く、前回の手配でそれが判っていたのに、焦って検問を敷いてしまったのが最大の失敗でした。
 大きな網を張り直して、泳がせて追い詰めることが当然の判断でした。
 マリオス長官はお怒りだとの噂が聞こえてきます、折角同期のトップで大隊長まで上り詰めたのに、こんなことでライバル達に足を引っ張られたくありません。

 死んだと思っていた竜殺から、ハルへ手紙が届いたと、勇女付きの昔の部下から知らされた時は驚きました。
 他所に渡される前に手紙を入手し、直接自分で中身を確認しました。
 手紙の文字は、確かに何度も見て知っている竜殺の筆記でした。
 アキも生きていると知った時は小躍りしました。
 勇女達の斡旋先が確定した段階で、新たに一枠増えることは、国家連合にとって凄く重要なことなのです。
 まだ誰もこの事をしりません、局長に報告すれば、私の評価が上がることが判っていたのです。

 でも手紙を読み進め、竜殺が異世界に帰る方法を見付け、勇者や勇女達を連れ帰ろうとしている事を知り驚愕しました。
 今、斡旋先の決まっている魔花の木や子種が持ち去られたら、国家連合が崩壊し、再び戦乱の時代に逆戻りしてしまいます。
 それにこれが異世界人達に知れ渡ったら、異世界人達は一斉に中央大陸へ逃げ出してしまうでしょう。
 魔石が高騰して、今の社会システムが崩壊します。
 これは北大陸を崩壊させるテロ行為なのです、私は足の震えが止まりませんでした。

ーーーーー

 兵士達が慌ただしく動き回っている。
 不審に思い、駐屯所の会話を盗み聞きしたら、軍のお偉いさんが巡視に来るとのことだった。
 拉致して尋問する為に、野次馬に混じって顔を見に行ったらキャリアさんだった。

 深夜ツルを背負い、屋根を伝って駐屯所に忍び込む。
 キャリアさんの居場所は、蔓を一本絡めてあるので把握出来ている。
 宿所の屋根に登り、窓を静かに枠ごと外す。
 部屋の中へ侵入し、パジャマ姿のキャリアさんを蔓で縛り上げ、担いで宿へと連れ帰った。

「この悪魔め、私はどんな責めにも決して屈しないぞ」
「何故俺達を捕えようとする」
「ふん、誰が貴様になんぞに教えるか」
「身体に聞く事になるが後悔するぞ」
「見くびるな、死んでも貴様には教えん」

 裸に剥いて縛り上げ、人目に付かない裏庭へ連れ出す。
 羞恥心でキャリアさんは膝に力が入らない様だ。
 光魔法で周囲から見えない様にしてから、遮音の結界で覆う。

「ツル、やれ」
「わーい」
「キャハハハ、貴様、ヒヒヒヒ、卑怯、キャハハハハ、助け、ヒーヒーヒー、お願い、キャハハハハ、苦し、ハハハハハ」

 蔓でくすぐられて悶え苦しんでいる。
 思ったとおり失禁した、裸に剥いて裏庭に連れ出して正解だった。
 部屋の中で漏らされたら、宿に迷惑が掛かってしまう。

 白目を剥いて三回程失神して、案外素直に白状した。
 勝手に召喚しておいて北大陸文化の崩壊と言われても、僕達にとっては迷惑この上ない身勝手な話だ。
 少なくとも、話し合いの余地がないことは判った。

「父ちゃん、まだくすぐって良い」
「ああ、構わないよ。好きなだけくすぐりな」
「えっ、喋ったのに酷い。約束が、キャハハハ、鬼、ヒーヒー、もう止めて、キャハハハハ、お願い、キャハハハハ、ヒー死ぬ」

 キャリアさんとは何の約束もしていない、ただ一方的聞いているだけだ。
 悶えるキャリアさんを見ていたら、なんか欲情してきた。

「駄目よタケちゃん、私達がいるんだから」
「そうだよ兄ちゃん、無駄使いしちゃ駄目」
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