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59 大迷宮8
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夜叉は本来美人さんなのだと聞いたことがある。
それを実際に体験できるとは思ってもいなかった。
僕は今、ファンテの町の砂船組合の事務所にいる。
皆と合流してほっとする間もなく、他の町の砂船組合事務所からも目印ブイの設置を手伝って欲しいとの依頼があった。
ミトの町の砂船組合は義理堅く、食料や酒を格安で余分に送り届けてくれていた。
余った分を宿に渡してあげたら、喜ばれてVIP待遇にしてくれている。
大部屋での雑魚寝料金で、二人~四人部屋を割り振って貰っていのだ。
皆大喜びで、特にカップルで参加している連中は、抱き合って喜んでいた。
「兄ちゃん、良かったね」
だから今の状態は維持するため、砂船組合と良好な関係持続させようと依頼を了承したのだ。
ファトの町とルンテの町の依頼はそれぞれ三日でこなし、最後の町、大迷宮で一番北側に位置する町ファンテに来ている。
所長さんは典型的なエルフの姿をした超美人さんで、ファンタジー世界を体現している人間離れした妖精の女神様のような人だった。
だが、にこやかに微笑んでいた顔が、僕の不用意な一言で魔神の様な顔に変わったのだ。
「この町には、北大陸の方もいらっしゃるんですか」
この町の仕入れ航路は北方、一番北大陸に近い場所の沿縁の都市へ伸びている。
だから当然人も、北大陸の人達が流れて来ていると思ったのだ。
「北大陸の人間!あんな害虫がこの町にいてたまるか、町が腐る。もし居たら、一寸刻みにしてなぶってから、クソ漬けにして砂虫の餌にしてやる。はー、はー、はー」
エルフ所長の剣幕に、慌てて逃げようとする明美を押え付け、こんな状況下で何故か、エルフ所長の尻を撫でようとする蔓を意思の力で抑え込む。
「あははははは、北大陸人が嫌いなんですね」
「そもそもご先祖様達が、善意であんなクソ虫共に魔法を教えたのが間違いだったのだ。北大陸なんて、全部焼き払えば良かったのだ。みろ、あいつらが魔法世界の魔力を垂れ流すから、我が帝国は砂に沈んでしまったではないか。特に異世界人がガンだ、この世界に災いの木を持ち込みおって。国を再興したら、北大陸に攻め込んで、あいつ等嬲り殺しにしてやる。いひひひひ」
船頭さん達に聞いてみたら、所長さんは、この大陸にあった帝国の末裔で、世が世であったなら、この大陸を支配していた血筋の人らしい。
国は二百年前に砂に埋もれて滅亡し、細々と使い続けた財産は、遂に彼女のお爺さんの代で使い果たし、貧乏な幼少期を過ごしたらしいのだ。
生活力の無かったお爺さんから、貧乏なのは北大陸民の所為だと刷り込まれ、国を再興して、北大陸を滅ぼすことが使命だと教わってきたらしい。
幸、彼女には強い魔法の才があったので、貧乏から脱して砂船組合の事務所長まで上り詰めたのだそうだ。
「所長は本気なんだろうけどね、北大陸からの穀物が途絶えたら、先にこっちが飢え死にだろうさ。北大陸民?結構町に住んでるよ」
所長の剣幕は完全に本物だったので、目印ブイの設置作業の合間に、自分の命に係わる問題なので、船頭さん達に町の状況を聞いてみた。
そしたら、意外な答えが返って来た。
「・・・・大丈夫なんですか」
「ああ、所長は北大陸人が悪魔みたいな連中って思い込んでるからな。目が四つで、腕が四本有って、牛の角を生やしてるって言っても信じるんじゃないか」
「えっ」
「あんた、北大陸人が普通の人間なんて言ったら、所長に怒られるぜ」
なんか心配して損した気分だ。
「あんた、この仕事の礼品は何が欲しいんだ」
「うーん、特に考えてませんね」
「あんたら大迷宮へ潜りに来たんだろ」
「ええ」
「だったら、所長の家は大迷宮の秘密を代々言い伝えてるらしいから、大迷宮の情報を聞いてみると良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
三日後、完了の報告をしたら希望する礼品を聞かれた。
「物はいりません。過去に戻れる扉の話を聞かせてください」
「・・・・・まあ良かろう。岩礁地帯の砂下地図まで作って貰ったからのう。何が聞きたい」
「まず場所です。扉の有る場所が知りたいです」
「扉は人が潜ると直ぐに消滅する。そして一年後に違う場所へ現れる。だから、確実に言えることは、前回発見された場所には無いと言う事じゃ」
「うーん、参考になったような、ならなかったような」
「ふふふふ、それじゃもう一つ教えてやろう。過去に戻ると言うことは、今の自分が過去に戻れるのではない。その時間軸に存在する自分に戻るだけじゃ。過去を変えようと思っても、同じ過ちを再び繰り返すだけじゃ。多くの者が同じ過去と未来を繰り返し、その無限の時間回廊の中で彷徨っているとも言われておる」
「それじゃ、扉を潜る事は、その亡者の行列に加わるだけなんですか」
「ふふふふ、今回の仕事の礼じゃ。潜る瞬間に唱えた魔法は、時空を越えて術者に付いてくるそうじゃ。時の流れは固定された物ではなく、もっと曖昧でいい加減な物なのじゃろうな」
宿に戻ってから、ハンゾーさんとユリエさんにこの話を聞かせた。
「ありがとう、タケ、物凄く貴重な情報だ。亡者にならずに済んだ。あの瞬間を変える魔法をユリエと二人で考えてみる」
それを実際に体験できるとは思ってもいなかった。
僕は今、ファンテの町の砂船組合の事務所にいる。
皆と合流してほっとする間もなく、他の町の砂船組合事務所からも目印ブイの設置を手伝って欲しいとの依頼があった。
ミトの町の砂船組合は義理堅く、食料や酒を格安で余分に送り届けてくれていた。
余った分を宿に渡してあげたら、喜ばれてVIP待遇にしてくれている。
大部屋での雑魚寝料金で、二人~四人部屋を割り振って貰っていのだ。
皆大喜びで、特にカップルで参加している連中は、抱き合って喜んでいた。
「兄ちゃん、良かったね」
だから今の状態は維持するため、砂船組合と良好な関係持続させようと依頼を了承したのだ。
ファトの町とルンテの町の依頼はそれぞれ三日でこなし、最後の町、大迷宮で一番北側に位置する町ファンテに来ている。
所長さんは典型的なエルフの姿をした超美人さんで、ファンタジー世界を体現している人間離れした妖精の女神様のような人だった。
だが、にこやかに微笑んでいた顔が、僕の不用意な一言で魔神の様な顔に変わったのだ。
「この町には、北大陸の方もいらっしゃるんですか」
この町の仕入れ航路は北方、一番北大陸に近い場所の沿縁の都市へ伸びている。
だから当然人も、北大陸の人達が流れて来ていると思ったのだ。
「北大陸の人間!あんな害虫がこの町にいてたまるか、町が腐る。もし居たら、一寸刻みにしてなぶってから、クソ漬けにして砂虫の餌にしてやる。はー、はー、はー」
エルフ所長の剣幕に、慌てて逃げようとする明美を押え付け、こんな状況下で何故か、エルフ所長の尻を撫でようとする蔓を意思の力で抑え込む。
「あははははは、北大陸人が嫌いなんですね」
「そもそもご先祖様達が、善意であんなクソ虫共に魔法を教えたのが間違いだったのだ。北大陸なんて、全部焼き払えば良かったのだ。みろ、あいつらが魔法世界の魔力を垂れ流すから、我が帝国は砂に沈んでしまったではないか。特に異世界人がガンだ、この世界に災いの木を持ち込みおって。国を再興したら、北大陸に攻め込んで、あいつ等嬲り殺しにしてやる。いひひひひ」
船頭さん達に聞いてみたら、所長さんは、この大陸にあった帝国の末裔で、世が世であったなら、この大陸を支配していた血筋の人らしい。
国は二百年前に砂に埋もれて滅亡し、細々と使い続けた財産は、遂に彼女のお爺さんの代で使い果たし、貧乏な幼少期を過ごしたらしいのだ。
生活力の無かったお爺さんから、貧乏なのは北大陸民の所為だと刷り込まれ、国を再興して、北大陸を滅ぼすことが使命だと教わってきたらしい。
幸、彼女には強い魔法の才があったので、貧乏から脱して砂船組合の事務所長まで上り詰めたのだそうだ。
「所長は本気なんだろうけどね、北大陸からの穀物が途絶えたら、先にこっちが飢え死にだろうさ。北大陸民?結構町に住んでるよ」
所長の剣幕は完全に本物だったので、目印ブイの設置作業の合間に、自分の命に係わる問題なので、船頭さん達に町の状況を聞いてみた。
そしたら、意外な答えが返って来た。
「・・・・大丈夫なんですか」
「ああ、所長は北大陸人が悪魔みたいな連中って思い込んでるからな。目が四つで、腕が四本有って、牛の角を生やしてるって言っても信じるんじゃないか」
「えっ」
「あんた、北大陸人が普通の人間なんて言ったら、所長に怒られるぜ」
なんか心配して損した気分だ。
「あんた、この仕事の礼品は何が欲しいんだ」
「うーん、特に考えてませんね」
「あんたら大迷宮へ潜りに来たんだろ」
「ええ」
「だったら、所長の家は大迷宮の秘密を代々言い伝えてるらしいから、大迷宮の情報を聞いてみると良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
三日後、完了の報告をしたら希望する礼品を聞かれた。
「物はいりません。過去に戻れる扉の話を聞かせてください」
「・・・・・まあ良かろう。岩礁地帯の砂下地図まで作って貰ったからのう。何が聞きたい」
「まず場所です。扉の有る場所が知りたいです」
「扉は人が潜ると直ぐに消滅する。そして一年後に違う場所へ現れる。だから、確実に言えることは、前回発見された場所には無いと言う事じゃ」
「うーん、参考になったような、ならなかったような」
「ふふふふ、それじゃもう一つ教えてやろう。過去に戻ると言うことは、今の自分が過去に戻れるのではない。その時間軸に存在する自分に戻るだけじゃ。過去を変えようと思っても、同じ過ちを再び繰り返すだけじゃ。多くの者が同じ過去と未来を繰り返し、その無限の時間回廊の中で彷徨っているとも言われておる」
「それじゃ、扉を潜る事は、その亡者の行列に加わるだけなんですか」
「ふふふふ、今回の仕事の礼じゃ。潜る瞬間に唱えた魔法は、時空を越えて術者に付いてくるそうじゃ。時の流れは固定された物ではなく、もっと曖昧でいい加減な物なのじゃろうな」
宿に戻ってから、ハンゾーさんとユリエさんにこの話を聞かせた。
「ありがとう、タケ、物凄く貴重な情報だ。亡者にならずに済んだ。あの瞬間を変える魔法をユリエと二人で考えてみる」
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