上 下
43 / 75

43 大好き

しおりを挟む
 王女達が開催する舞踏会や晩餐会へ出席しない丁度良い言い訳ができた。
 メトロノ国聖都城での惨状は、広く知れ渡っている。
 ”勇女達との関係が思わしくなく、命の危険がある”と言って断るのだ。
 カリオペとかランディーニとか触手の動く王女は結構いるのだが、後腐れが有りそうなので、最後の一線は超えない様に我慢していた。
 やっぱり、グリグリと押し込んで、朝まで徹底的に堪能しないと面白くない。
 なんだか妙に危ない黒いストレスが溜まってしまう。

 なので、国家連合に申し入れて、第四群の学院へ再び移して貰った。
 最初は渋っていた国家連合だったが、”命の危険”というフレーズを切り札にしたら、諦めて認めてくれた。
 元に戻すという要求だったのだが、中等部への復帰ではなく、高等部への編入だった。

 一学年四百人、その半分が女子だ。
 四学年では八百人も居る。
 クラスメートだけでも百人だ。
 その全員が僕に興味を持って近付いて来る。
 僕との結婚は最初から考えていないようで、手を付けても問題が無さそうだった。

 店から毎週一日の休みが貰えるようになったので、一から仕込んでみるのも面白いかもしれない。

ーーーーー
第一群魔法学院中等部二年 勇女ハル
 
 カリオペさんとランディーニさんが寮に来て、タケさんと和解して欲しいと泣いて頼まれました。
 物凄く心外なのですが、私達は、勇者を敵視する偏執的で危険な存在と見られているようです。

 確かに最初は腐りきった男への憎悪でした、でもタケさんの顔を見た途端、何かがクルリと剥けて、裏と表が入れ替わった気がしました。
 後から考えると、たぶん嫉妬だったと思います。
 凄まじい嫉妬、殺意を伴った頭が真っ白になる程の凄まじい嫉妬。

「少し考えさせて下さい」

 二人が肩を落として帰って行きました。
 あの二人には、私の心は解らないでしょう。
 私は勇女という立場に置かれて、誰かに頼りたかったのでしょう。
 タケさんはやっぱりタケさんでした。
 私の理不尽な暴力を、全て淡々と受け入れてくれました。
 そして思い知らされました、私が物凄くタケさんを愛していたと言う事を。
 そして独占しようとした私から、タケさんが逃げ出してしまいました。
 タケさんに会いたいです、物凄くタケさんに会いたいです、涙が止まりません。

ーーーーー
 闇曜日の夕刻、部屋に戻ろうとしたら、二階の階段で明美が待っていた。
 僕の服の裾を掴んで離そうとしない。

「ハルさんには黙ってろよ」
「うん」

 物凄く嬉しそうな顔をして抱き付いて来た。

「おー、凄い」

 三階に上がった時に物凄く驚いていた。
 こうも驚いて貰えるとなんか嬉しい。
 三階の通路でも、首をブンブンと振って左右を見回していた。

「兄ちゃん、あれ何」
「水晶に封じ込めた悪霊だ、あそこは呪術屋だ」
「兄ちゃん、あれは」
「怨念を蒸留して邪念を取り除く装置だ」
「兄ちゃん、犬が剣で刺されてるよ」
「呪いの剣の手入れをしてるんだ、ああやって定期的に命を吸わせるんだ」
「へー、兄ちゃん何でも知ってるね」

 本当に明美は変わらない、好奇心旺盛で目をキラキラさせている。
 四階へ上がった。

「へー、眺めが良いんだ」

 部屋の中を、両手を広げて走り回っている。
 昔家族旅行で、ホテルの部屋に着いた時と一緒だ。

「わー、綺麗な庭」
「ここが俺の職場だよ。あそこのコテージでエッチなことをしてるんだ」
「ぶー」

 なんか明美には隠したく無かった、鼻の上に皺を寄せて僕を睨んでいる。

「飯を食いに行くか」
「うん」

 良かった、あんまり怒っていない様だ。
 外は暗くなっていたので、明美を脇に抱えて窓から屋根の上を飛ぶ。

「キャッホー」

 こじんまりとして落ち着いた雰囲気の店へ連れて行った。
 明日が休みの職場も多く、店はカップルで溢れていた。

「へへへへへ、兄ちゃん、デートだね」

 明美は嬉しそうにずっと喋っていた。
 僕はそれをうんうんと言って聞いていた。

「俺はこれから仕事だけど、帰るか」
「明日休みだから、兄ちゃんのところに泊まる」

 屋根へ飛び移って、明美を部屋へ運んだ。

「兄ちゃん、恰好いい」

 今日の夜の客はキャンセルになった。
 国で謀反が起きたらしく、弟が旦那を刺殺したらしいのだ。
 将軍と一緒に弟を殺すか、弟を王にして夫婦になるか選ばなければならないのだそうだ。

「今日は歌までで帰って良いよ。それとも私とずっぽり良い事するかい」
「はははは、店長のさえずり声も聞きたいけど、部屋で妹が待ってるんです」
「それじゃ仕方がないね。兄妹は一味違うらしいから、たっぷり可愛がってあげな」

 貴族や王族が多い所為か、聖都では姉弟、兄妹の仕切りは低く、けっこう夫婦として暮らしている。
 だから勘違いするのも仕方がない。

「ええ、たっぷりと可愛がってやりますよ」

 部屋に戻ったら、明美は庭園を眺めて何かを考え込んでいた。

「ただいま」
「えっ、兄ちゃん仕事は」
「キャンセルが入った。だから酒場へ歌いに行くか」
「うん、いくいく」

 明美と二人、リュトルを背負って夜の街へと繰り出した。
 合奏も合唱も、踊りながらの合奏も大いに受けた。
 ついつい飲み過ぎて、部屋へ戻ったのは、夜半もだいぶ過ぎていた。
 料理店は明かりが消えて真っ暗で、無人の店へ入り、探検するように歩くのは面白かった。
 魔素の目で見ても、肉眼で見ても、真っ暗な三階で薄く光る怪しげな品々は幻想的で美しかった。

「あー、面白かった。うーん」

 明美が、僕のベットの上で大の字になって伸びをしている。

「明美、先に風呂入るか」
「兄ちゃんと一緒に入りたい」

 うーん、明美はまだまだ子供だ。
 背中を洗って、髪も洗ってやる。
 何時もどおり浴槽の中で、明美は僕の腿の上に腰掛けた。

「兄ちゃん、僕兄ちゃんが大好きなんだ」
「ああ、俺も明美のことは大好きだぞ」
「うーん、そんなんじゃなくて、この間、兄ちゃんが他の人といちゃいちゃしてるの見て物凄く腹が立ったんだ。だから兄ちゃんのことボコッたんだけど、その後、兄ちゃんが居なくなったら悲しくて悲しくて泣いちゃったんだ。そしたらね、僕は前から兄ちゃんの恋人になりたいって思ってたことに気が付いたんだ」

 明美がクルリと振り向いた。

「だからね、僕の大好きは愛してるの大好きなんだ。恋人としての大好きなんだ、兄ちゃんキスして」

 明美が目の前で目を閉じた、酔いが回っていた所為か、急に明美が愛おしくなって、抱き寄せて唇を重ねた。
 そしてうんと大人用のキスをしてあげた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

処理中です...